テキームが右手を上げると、手の平の少し上の空間に四方から黒い気が集まり、その黒い気は直径10センチぐらいの球形に凝縮された。テキームはその黒い気の固まりを悟空達に投げつけた。実際にテキームが握って投げたのではなく、投げる仕草をしただけだが、黒い気の固まりは一直線に悟空達に迫ってきた。
その黒い気の固まりは猛スピードで向かってきたが、危険を察知した悟空達は慌てて避けたので、誰一人当たらずにやり過ごせた。悟空達に避けられた黒い気の固まりは、そのまま後方へ進み、岩山に激突して爆発した。その爆発は星の一部を消滅させた。その威力は、これまでのテキームの攻撃とは一線を画していた。
「な、何だ今のは?まともに喰らったら大ダメージは避けらんねえ。下手すりゃ一発で死んじまうかも。あいつ、あんな凄い技を持ってたのか・・・」
テキームの技の凄さに、悟空達は驚きを隠せなかった。もし黒い気の固まりが岩山ではなく、地面にぶつかっていれば、星全体を消失させていたかもしれない。この技だったら魔王ルーエを倒したといっても何ら不思議ではなかった。
『魔界は古来より争いの絶えぬ世界。弱き者は滅ぼされ、強き者しか生き残れない修羅の世界。死者の肉体は滅びても、死者の気は消えずに魔界に留まる。そんな気を集め、凝縮して作られたのが、今の邪気玉だ』
得意気にテレパシーで自らの技を自慢するテキーム。テレパシーゆえに自慢話を聞きたくなくても聞こえてしまうのだが、ある事に悟空は気付いた。
「似ている・・・。元気玉と・・・」
悟空の言葉通り、邪気玉は元気玉と似た点が多々あった。ただし破壊力や大きさは本家元気玉の方が大幅に上回っていたが、効率性の面ではテキームの邪気玉の方が断然勝っていた。作るのに長い時間を要する元気玉に対し、邪気玉はせいぜい十秒という短い時間で作れるからである。
テキームは続けて邪気玉を作った。ただし、今度は一個だけではなく、両手の平に各一個ずつの計二個を同時に作成した。そして、出来上がった邪気玉を二個同時に悟空達に向けて放ったが、今度も彼等は上手く避けた。
二個だけでは足りないと判断したテキームは、もっと数を増やすため、再び二個の邪気玉を作ると、それ等をすぐに悟空達にぶつけようとせず、そのまま空中に漂わせ、更に二個の邪気玉を追加で作り出した。こうした作業を繰り返して最終的に十個の邪気玉を作り、テキームの超能力で全部の邪気玉を一斉に悟空達に向けて放った。
悟空を筆頭とする地球の戦士達は何とか避けられたが、セモークの三兄弟は回避出来ずに喰らってしまった。三人とも何とか生きていたが、大ダメージを受けた彼等は気を失っていた。次に邪気玉を喰らえば、三人とも間違いなく死ぬ事は誰の目にも明らかだった。悟空達は邪気玉の恐ろしさを痛感した。
『中々しぶとい奴等だ。だが何時まで避けられるかな?私は邪気玉を無限に作れるが、お前達は永遠に逃げ続ける事は出来まい。動き続ければ疲れて動きが鈍り、最終的に邪気玉を喰らう事になる』
テキームの指摘通り、逃げ回っているだけでも悟空達は体力を消耗し、いずれ邪気玉に当たってしまう事は容易に予想出来た。しかしながら、テキームが邪気玉を作り始めてから完成するまでの間、悟空達は指をくわえて黙って見ている他は何も出来なかった。邪気玉の作成を妨害しようにもテキームには攻撃が通じないし、作成途中の邪気玉を破壊しようと気功波等を発射すれば、至近距離で大爆発しそうで却って危険だった。
もはや悟空達には戦闘開始時の余裕は無かった。そんな彼等をキビト界王神が諭した。
「もう充分に理解出来たでしょう!私がジュオウ親衛隊には絶対に勝てないと言った意味が!さあ、逃げましょう!早くしないと本当に殺されてしまいますよ!」
事ここに至っては、悟空もベジータも反論出来なかった。今や悟空ですら逃げるしかないと考えていた。この場は一先ず退いて何らかの対策を立て、再度テキームに挑戦する以外に道は無いと思った。
『逃げたければ逃げるがいい。ただし、その前にドラゴンボールは置いていけ。そうすれば今回だけは見逃してやる』
「その言葉、信じていいんだな?」
このピンチを切り抜けるため、悟空はドラゴンボールをテキームに渡して引き下がる決心をした。そして、ドラゴンボールの入った鞄に手をかけた時、ピッコロが「待て悟空!」と叫んで彼の行動を制止し、キビト界王神に向けて叫んだ。
「界王神様!俺を今すぐ地球に連れて行って下さい!」
「ピッコロさん。いきなりどうしたんですか?もしかしてテキームに勝つ方法でも見つけたんですか?」
「ええ。俺が考えた方法なら上手くいくと思います」
「・・・分かりました。すぐにお連れしましょう」
キビト界王神はピッコロを連れて地球へ瞬間移動するために彼に向けて右手を差し出したが、ピッコロはそれを握る前に悟空達に振り向いた。
「みんな、すまんが後少しだけテキームの攻撃に耐えてくれ。必ず奴を倒せる機会は生まれるから」
「おめえが何をしようとしているのか分からねえが、ここはオラ達に任せて早く行ってくれ。頼んだぞ、ピッコロ」
悟空達は誰一人としてピッコロの考えている事が分からなかったが、彼がここまで言い張る以上は彼を信じて待つ事にした。こうしてピッコロはキビト界王神と共にこの場を後にした。
テキームとの対戦では、悟空達は勝利の糸口を見出せない絶望的な状況を強いられてきたが、ようやくわずかな望みが出てきた。そのお陰で、テキームの攻撃に何とか耐えられそうな気になった。しかし、そんな淡い希望すらも、テキームは一笑に付した。
『今のピッコロとかいう奴は、かなり賢いな。上手い事を言ってお前達を盾にし、自分一人だけが助かる方法を選んだのだからな』
「違う!ピッコロさんは、そんな人じゃない!見つけたんだ。お前を倒す方法をな」
テキームの揶揄に、悟飯が反論した。ピッコロと最も親しい悟飯ですら、ピッコロの考えている事が分からなかったが、ピッコロが自分達を見捨てたと見なしたテキームに反論せずにはいられなかった。
『まあいい。お前達がそう信じているのなら、それはそれで構わない。お前達が何をしようが私を倒せはしない』
テキームはピッコロに全く危惧していなかった。自分が敗れるはずがないと固く信じていたからである。
結局、ピッコロの考えは謎のままで戦闘が再開された。テキームは相変わらず邪気玉を作って悟空達にぶつけようとし、悟空達はそれを避けるという展開が続いた。しかし、テキームの勢いは一向に衰えないのに対し、悟空達は疲れて動きが徐々に鈍ってきた。邪気玉の軌道を見極めれば、当初は比較的余裕で避けられたが、今では全員が必死で避けていた。
スピードの落ちた悟空に対して放たれた邪気玉が、彼の持つ鞄を突き破った。悟空の体には当たらなかったが、鞄が破れて中にあった二個のドラゴンボールが飛び出して地面に落ち、それを見たテキームが仰天した。
『ドラゴンボールが二個だと!?一個は洞窟内にあった物として、もう一個は一体?』
テキームとその兵士達は、この星に来て魔族達が隠れ住む洞窟内にドラゴンボールがある事を突き止めた後、一度もレーダーを見ていなかった。そのため、ドラゴンボールが現在この星に二個ある事を全く知らなかった。
『どういう事だ?何故、お前達が二個もドラゴンボールを持っているのだ?お前達はここ以外のもう一個のボールを見つけた際、私以外の他の親衛隊とは出会わなかったのか?ボールのある場所に一人向かったはずだ。もしかして親衛隊が到着する前にボールを見つけ、その場から素早く立ち去ったのか?』
「ドラゴンボールを発見した後でカイブが来て戦闘になった。そんでもって倒した」
カイブを除く六人のジュオウ親衛隊は、カイブの身に何が起こったのか、この時点では知らなかった。黙っていればいいものを、悟空は話してしまった。それを聞いたテキームが驚いたのは言うまでもなかった。
『カイブを倒しただと!?信じられん・・・。だが、お前達が二個のドラゴンボールを持っている以上、嘘と断定出来んな。先程まではボールを差し出せば見逃してやろうと思っていたが、気が変わった。お前達を全員殺す。最強のジュオウ親衛隊を倒した者など、この世に存在してはならないのだ』
悟空の不用意な発言が、テキームを本気にさせてしまった。悟空達はピッコロの作戦が実行されるまで、更に激しくなるテキームの猛攻に耐えねばならなくなった。
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