其の四十六 ピッコロの覚悟

テキームは次々と邪気玉を作り、それ等を悟空達に投げつけてきた。対する悟空達は何の抵抗も出来ず、逃げ回っていた。

パンが逃げ回っている最中にバランスを崩し、よろけた時に邪気玉が襲ってきた。パンは避けられずに邪気玉を喰らうかと思われた丁度その時、トランクスがパンの前に立って身代わりとなって邪気玉を喰らった。激しい爆発が起き、爆発による煙が晴れた後、大怪我を負ったトランクスが倒れていた。パンはトランクスの元に駆け寄った。

「トランクス!しっかりして!死なないで!」
「に、逃げるんだパンちゃん・・・。早く・・・。このままじゃ君の命が危ない」

話し終えたトランクスは気を失った。動揺したパンは、トランクスを揺さぶって起こそうとしたが、そんなパンに向けてテキームは再び邪気玉を放った。しかし、今度は悟天が身代わりとなった。そして、悟天はトランクスに覆い被さって倒れた。

「な、何してるんだ・・・。は、早く逃げろ。お、俺達の犠牲を無駄にするな」

トランクスに続き、悟天も気を失った。パンは仲間が次々と倒れていく中、自分一人だけ逃げるのは非常に悔しかった。そして、人に守ってもらわなければ生き残れない自分の未熟さを呪った。しかし、トランクスや悟天ですら一発で意識を失う程の大ダメージを喰らう邪気玉にパンが当たれば、間違いなく死ぬ。パンは口惜しさを覚えながらも、この場を泣き叫びながら走り去った。

『馬鹿め。逃がすか』

逃げるパンの背に向けて、テキームが邪気玉を放った。しかし、超サイヤ人4に変身した悟空がテキームの前に立ち塞がり、パンの代わりに邪気玉を喰らった。その間にパンの姿は見えなくなった。

悟空はダメージを最小限に食い止めるため、全力で防御していた。それでもダメージは甚大だったが、何とか立っていられた。

「まだかピッコロ。早くしてくれ」

悟空は祈るような思いで、ピッコロの作戦が早く実行される事を願った。

そのピッコロは現在、地球の天界にいた。そこでデンデやミスター・ポポと久し振りに対面していた。とはいっても再会を喜んでいる時間的余裕は無かった。事が急を要するため、ピッコロはポポに地球のドラゴンボールを全部集め、天界に持ってくるよう指示した。ポポは魔法の絨毯に乗って何処かに消え去った。一方、ピッコロは魔界で起こっている事をデンデに伝えた。

「実体のない敵。そ、そんな恐ろしい敵が存在するんですか!?」

話を聞いたデンデは、信じられないといった様子だった。

「テキームに攻撃を当てられないのは、奴が実体化していないからだ。だが、奴が実体化すれば、攻撃を当てられるようになる。そうすれば悟空達なら間違いなく勝てる。そして、ドラゴンボールを使えば、奴を実体化出来るはずだ」

横で話を聞いていたキビト界王神は、「なるほど!その手がありましたか!」と喜んだが、デンデは難色を示した。

「ピッコロさん。残念ですが、それは不可能です。確かにドラゴンボールは以前に比べてパワーアップしましたが、それでもテキームを実体化するだけの力はありません。何故ならドラゴンボールの作り手である私の力が、テキームの力より劣っているからです。テキームの実力は正確には分かりませんが、少なくとも私より遥かに上のはずです。私の力を大きく超えている者の体に関して、神龍は手出しが出来ません」

デンデの言葉を聞き、キビト界王神は「やはり駄目か」と項垂れたが、ピッコロは一向に動じなかった。

「そんな事は分かっている。神龍が奴を実体化させるためには、お前の力がテキームの力を超えればいい。そのために俺はここに来た。俺ならお前を強くする事が出来る」
「ま、まさか・・・」

ピッコロの意図を理解したデンデは、震え出した。頭で把握していながらも、口に出すのを躊躇った。代わりにピッコロが言った。

「俺と融合しろ。テキームは気を感じないので、真の実力は俺でも正確には分からん。だが、テキームの攻撃から判断すると、余り大した事はない。邪気玉は他からエネルギーを借りているから、奴の力とは無関係だ。だから俺と融合すれば、お前は間違いなくテキームを超えられるはずだ」

頭の回転が速いデンデでも、「はい、分かりました」と言って、直ちに実行に移せるはずがなかった。デンデはピッコロが悩みに悩んで、この解決法に至った事は予想出来たが、それでも他に選択肢が無いかピッコロに再検討を促した。しかし、ピッコロは頑として応じなかった。ピッコロは他に方法が無い事を分かっていた。

「早くしろ!急がねば手遅れになるぞ!」
「ピッコロさん。出来ません。そ、そんな事をすれば、悟飯さんが悲しみます」
「このままでは、その悟飯すらも殺されてしまうんだぞ!大丈夫だ!俺に考えがある」

場面を再び魔界にいる悟空達に戻すと、事態は更に深刻化していた。ウーブが倒れ、悟飯も倒れ、立っているのは悟空とベジータだけになっていた。二人とも当初は超サイヤ人4になって耐久力を増し、これまで邪気玉にも耐えてこられたが、邪気玉を喰らい過ぎて、今では超サイヤ人の状態すら維持出来なくなっていた。

『カイブを倒したと言うだけあって、流石にしぶといな。だが、これ以上は耐えられまい。これから特大の邪気玉を作り、それで全員まとめて殺してやる。ジュオウ親衛隊に歯向かった愚かさを悔やんで死ね』

テキームは今までのような小型の邪気玉ではなく、両手を使って倍の大きさの邪気玉を作り始めた。それを喰らえば倒れている者も含め、悟空達が全滅するのは火を見るより明らかだった。

ところが、突然テキームの体に異変が起こった。テキームが眩しい光に包まれ、その光が消えると、テキームの体を覆っていた白い光も消えていた。そして、テキームの体から気が感じられるようになっていた。

「い、一体、何が起こった?はっ!私が喋れている!?こ、これは・・・」

テキームの様相が一変した。これまで悟空達はテキームの側にいながら彼の気配を感じられなかったが、今では明確に感じ取れた。テキームは邪気玉の作成を中止して恐る恐る自分の体に触れてみると、何と感触があった。今までと勝手が違う事で、テキームは少し混乱したが、自分の体を抓ったり走り回ったりして、ようやく自分の体が他の人達と同じになった事を理解した。

「お、お前等・・・。私の体に何をした?」
「さあな。お前が逃げたと見なしたピッコロが何かしたんだろう。どうやら普通の体になったようだな。ようやくお前を倒せるぞ」
「倒すだと!?お前が私を?ふっ、そんなボロボロの体で何が出来る?」

テキームは徐々に冷静さを取り戻していた。こんな体になっても、今の傷ついた悟空達に自分が倒されるはずがないと高を括っていた

「お前を倒すのはオラじゃねえ。一人忘れてっぞ」

悟空はテキームから目線をずらして辺りを見回した。

「パン!その辺にいるんだろ?出て来い!」

悟空が大声を上げると、近くの木立からパンが現れた。パンは逃げ出してはいなかった。途中で気を消して引き返し、ずっと様子を窺っていた。そして、いざとなれば自分が盾となって皆を守るつもりでいた。そんなパンの考えを悟空は見抜いていた。

「パン。見ての通り、今テキームと戦えるのはお前だけだ。お前が負ければ、オラ達は殺されちまう。勝てるな?」
「うん!任せて!」

図らずもパンに活躍の機会が訪れた。皆の命はパンの双肩に掛かっている。パンは張り切りだした。

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