其の四十八 怒りのジュオウ

キビト界王神の瞬間移動で、悟空達は魔界から天界へ一瞬で移動した。そこではデンデとミスター・ポポ、そしてピッコロが待っていた。ピッコロがデンデと融合し、もうこの世には存在しないと思っていた悟空達は、ピッコロの姿を見るや否や、安心して一気に力が抜けてしまい、その場に座り込んでしまった。

「随分手酷くやられたな。だが、何とかテキームを倒せたようだな」

ピッコロは悟空達に近付き、労いの言葉を掛けた。それからデンデに悟空達を回復させた。すっかり元気になった悟空は、立ち上がってピッコロに尋ねた。

「神龍に頼んで、テキームを実体化させたんだろ?悟飯がドラゴンボールをパワーアップさせるため、お前とデンデが融合したなんて言うもんだから、お前の事が気になって戻って来たんだけど、お前がここにいるという事は、融合なんてしなくても神龍が願いを叶えられたって事だろ?」

一度融合すれば、二度と分離は出来ない。しかし、ピッコロが今こうして実在している以上、デンデとピッコロは融合しておらず、悟飯の心配は杞憂だったと悟空は判断した。ところが、ピッコロからの返答は意外なものだった。

「ほう、よく俺とデンデが融合したと分かったな。流石は悟飯だ。悟飯の言う通り、ドラゴンボールをパワーアップさせてテキームを実体化させるため、基本をデンデにして俺とデンデは融合した」
「えっ!?じゃあ何でピッコロがいるんだ?合体したら二度と元に戻れないはずだぞ」
「自力ではな」

ピッコロは笑みを浮かべた。

「確かにナメック星人は一度合体してしまうと、二度と元の二人には戻れない。しかし、ドラゴンボールを使えば話は別だ。つまり今回ドラゴンボールで叶えた願いは二つ。一つはテキームの実体化。もう一つは俺とデンデの再分離。どちらも絶対に上手くいくという保証は無かったが、どうにか成功した」

話を聞いていた悟空達は、ピッコロの機転に舌を巻いた。テキームと遭遇してから僅かな時間で、合体や分離する方法まで考慮に入れながら、テキーム打倒の作戦を一人で立てたピッコロの利発さに今更ながら感服した。口々にピッコロを褒め称えた悟空達だったが、パンは少々不服だった。

「ま、私がいなければテキームは倒せなかったけどね。ピッコロさんだけじゃなく、私も褒めてもらいたいぐらいだわ」

テキームを実際に倒した自分よりも、そのためのお膳立てをしたピッコロばかり賞賛されている事が、パンは気に入らなかった。そこで自分の手柄をアピールし、自分も賞賛される様に画策したが、横で話を聞いていた悟天は、笑いながら茶化した。

「よく言うよ。俺達がやられて泣いていたのは、どこの誰だったっけ?」

悟天の冷やかしに、パンは膨れっ面になった。それを見て悟空達は大笑いした。パンもつられて笑ってしまった。一通り笑いが収まった後、キビト界王神が口を開いた。

「ピッコロさんに限らず、皆さん本当に良くやってくれました。私やご先祖様はテキームへの対処法が分からず、皆さんにはジュオウ親衛隊とは戦うなと言いましたが、まさかそのテキームを倒してしまうとは。ジュオウ親衛隊には他にも手強いのはいますが、一番厄介な敵を倒したわけですから、これでかなり希望が持てました。もうジュオウ親衛隊と戦うなとは言いません。思う存分戦って下さい」

キビト界王神は更に語気を強めて話を続けた。

「実は皆さんに一つ良い知らせがあります。ご先祖様が遂に魔界のドラゴンボールの事が記述された古文書を発見したのです。今からご先祖様をここに連れて来て、古文書を朗読してもらいますから、少し待っていて下さい」

言うべき事を言ったキビト界王神は、足早に界王神界へと瞬間移動した。ジュオウ親衛隊の事で頭が一杯だった悟空達だが、魔界のドラゴンボールが決して気にならないわけではなかった。とりあえず二人の界王神の到来を待つ事にした。

勝利して歓喜する側があれば、負けて不快になる側もある。喜びに湧く悟空達とは対照的に、自称魔王であるジュオウの気分は晴れなかった。逃げ帰ってきた兵士達の報告で、大事な手駒であるカイブとテキームを失った事を知ったからである。

そのジュオウの元に、ジフーミがドラゴンボールを持って凱旋した。何も知らないジフーミは意気揚々とジュオウと面会し、探し当てた四神球をジュオウに手渡した。そのジュオウの側には傷が癒えたヒサッツが立っていた。

「他の連中は、まだ戻って来ていないのか。全く頼りにならない奴等だ」

一番乗りでドラゴンボールを持って戻ってきただけに、ジフーミは鼻が高かった。しかし、ジュオウとヒサッツの表情は暗かった。黙り込んでいるジュオウに代わり、ヒサッツが口を開いた。

「一番頼りにならないのは、どこの誰だ?」
「ヒサッツ、どういう意味だ?」
「分からんのか?レーダーを見てみろ」

ジフーミは二人の様子が只事ではないと察した。取り敢えずジフーミは持っているドラゴンレーダーを確認すると、七個あるはずの光の点滅が五個しかなかった。

「あれ?故障かな?何で五個しか反応ないんだ?ジュオウ様、これは一体・・・」
「故障ではない!二個のドラゴンボールが魔界より持ち去られたのだ!おそらく向こうの世界へな」
「向こうの世界へ持ち去られた!?誰がそんな事を?もしかしてジュオウ親衛隊に裏切り者が出たんですか?」

ジフーミは二人が不機嫌な理由を、まだ分かっていなかった。ジュオウに代わり、ヒサッツが事情を説明した。

「そうではない。何者かがドラゴンボールを持ち去ったのだ。ボール集めに来ていたカイブとテキームを倒した後でな。お前より実力が上のカイブと、絶対に負けるはずがないテキームがやられたんだぞ!」
「あの二人が!?そんな馬鹿な!?一体誰がそんな真似を!?何かの間違いでは?」

同じジュオウ親衛隊のメンバーだけに、ジフーミはカイブ達をよく知っていた。そのため、その二人が倒された事実を即座に信じる事が出来なかった。

「逃げ帰ってきたテキームの兵士達の報告によると、テキームを倒したのは複数の得体の知れない戦士達だったそうだ。そいつ等の特徴を聞いてみると、俺達が宇宙一武道会で出会った孫悟空とかいう奴等の特徴と共通する部分が多々あった。孫悟空達の仕業と見て間違いあるまい。しかも奴等は先にカイブを倒したと言っていたそうだ。現にジュオウ様は、カイブとテキームの二人とテレパシーで連絡が取れない」

すぐには兵士達の報告を信じられなかったジュオウは、カイブとテキームに各々テレパシーで連絡を取り、生存確認をしようとした。テレパシーなら魔界の何処にいても連絡が取れるからである。そして、二人とも応答が無かったので、兵士達の報告は本当だったと認識した。

「あいつ等がカイブとテキームを?俺に負けるような連中が、あの二人を倒せるはずがない。他の奴の仕業だろ?」
「他の奴?俺達に対抗するだけの力を持ち、尚且つドラゴンボールを探し当てる事が出来る奴が、他にもいるというのか?そんなのいるわけないだろ!第一お前が孫悟空達に勝てたのは、一対一での話だ。全員を一度に敵に回しても、お前は勝てたのか?」

ヒサッツの突っ込みに、ジフーミは反論出来なかった。ヒサッツの追及は更に続いた。

「俺は孫悟空達が只者ではないと思っていた。だからレーダーを奪った時、お前に奴等を殺すように言ったのだ。あの時の奴等は疲れていたようだから、簡単に殺せたはずだ。だが、お前はそれを無視した。お前が俺の言う通りにしていれば、カイブ達が死ぬ事もなかった。お前の慢心が二人を殺したのだ」

ジフーミは言い返す事が出来なかった。そのジフーミに対し、ジュオウが脇を向いたまま話し掛けた。

「ジフーミ。お前がこれからすべき事は分かっているな?」
「それは・・・向こうの世界に行って孫悟空達を皆殺しにし、ドラゴンボールを取り返してくる事ですか?」
「分かっているなら、さっさと行け!」

ジュオウは親衛隊を叱る時、相手の目を見てガミガミと怒鳴り散らすのが常であった。しかし、今回はジフーミの目を一切見ず、言葉も少なかった。ジュオウはこれまでにないほど激怒していた。ジフーミはそれを察知して慌てて退室した。ジフーミが城を飛び出した後、ジュオウは傍らのヒサッツに声を掛けた。

「ヒサッツ。ジフーミだけでは不安だ。お前も行って来い」
「かしこまりました」

こうして悟空達とは浅からぬ因縁があるジフーミとヒサッツが、それぞれ悟空達のいる地球に向けて旅立った。

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