其の四十九 古代のドラゴンボール

キビト界王神は老界王神を連れて天界へと舞い戻ってきた。そして、連れて来られた老界王神の手には古い巻物があった。

「おっ、久しぶりだな爺ちゃん。元気だったか?」
「うむ。お前達も壮健そうで何よりじゃ。全くお前達には毎度の事ながら驚かされるわい。打つ手無しと思うておったテキームを倒してしまうとはな。だからといって、敵を甘く見るでないぞ。ジュオウ親衛隊には、まだまだ強敵が残されておる」
「分かってるさ。それより早く魔界のドラゴンボールの話を聞かせてくれ」

老界王神は頷き、持っていた古文書を紐解いた。

「魔界のドラゴンボールに関しては、わしの何代か前の界王神が作った古文書に書かれていた。あのボールは、わしが生まれるよりも遥か前に作られた物だったわけじゃ。このわしが、その存在を最近まで知らなかったのも当然じゃ。聞いたらぶったまげるぞ。何と三億年も前じゃ」
「さ、三億年!?」

悟空達は素っ頓狂な声を上げて驚いた。そこまで古い物だったとは、流石に想像すらしていなかった。

「わしもこれを知った時は、小便が漏れそうになるほど驚いたわい。ドラゴンボールが昔から存在していたのは知っておったが、まさかここまで古い時代から存在していたとは思わんかった。これより前にドラゴンボールが存在していたとは考え難い。おそらく一番最初に作られたドラゴンボールで間違いあるまい。さて、前置きは終わりにして、いよいよ本題に入るぞい」

老界王神は持っている古文書に目を向けた。そして、古文書の中身を確認しつつも、自分の言葉で語り始めた。

「当時の魔界は一番強い者が魔王になるというルールは無く、力のある者が魔界の覇権を賭けて戦いに明け暮れる群雄割拠の時代じゃった。そんな折、ある魔族が魔界の王となるため、『カイ』という化け物を造った。カイは食べた物からエネルギーを吸収し、大きく強くなる生き物じゃった。カイは最初は小さな生き物じゃったが、食べ続ける内に大きくなり、最終的には星をも食らう巨大な化け物にまで成長したそうじゃ」

星を食べる化け物など、悟空達ですら想像出来ない。流石の悟空も、カイと戦ってみたかったとは言わなかった。

「カイは自らを造った魔族まで食らい、魔界を縦横無尽に暴れ回った。そうなると、もう魔界は戦争どころではなくなった。これまで争ってきた魔族達は協力してカイに立ち向かったが、全てカイに食われてしまった。魔界は滅亡の危機を迎え、魔界に住む大勢の者達は、カイの脅威から逃れるため、この世界に避難してきた」

老界王神は一旦話を止め、ミスター・ポポが差し出した茶を啜った。話の続きが気になる悟空達だったが、老界王神が茶を飲み終えるの大人しく待った。そして、老界王神は茶を飲み干すと話を再開した。

「じゃが魔界に残った者達は、決して諦めてはいなかった。ある人物がカイを退治するため、ある生き物を造った。それはどんな願いも叶えられる生き物で、その生き物は瞬く間にカイを消滅させた。その後、その生き物は七個の珠に封印され、珠は魔界中に飛び散った。その珠こそが今お前達が集めておるドラゴンボールじゃ。以上がこの古文書に書かれておった事の大まかな流れじゃ。何か質問はあるか?」

話し終えた老界王神はデンデが魔法で出した椅子に腰掛け、キビト界王神に肩を揉ませながら悟空達の反応を待った。

「界王神様。そのドラゴンボールを作った人物に関しては、その古文書に記述されていないのですか?ナメック星人、もしくは別の種族だとか」

ピッコロが一番最初に質問した。

「それは載っておらんが、ナメック星人の先祖で間違いないじゃろう。ドラゴンボールを作れるのはナメック星人だけじゃからな。じゃが、ナメック星人の先祖が魔界に住んでいたという理由だけで、ナメック星人は元は魔族だったと断定するのは早計じゃぞ。昔から大勢の者が、この世界と魔界の往来をしておった。元はこの世界に住んでいたナメック星人の先祖が魔界に移り住んだケースも十分ありうる。その逆も然りじゃ」

過去の魔界にナメック星人の先祖がいたという事は、現在の魔界にナメック星人の遠い親戚がいる可能性がある。ピッコロは魔界のナメック星人と会えるかもしれないと胸に期待を膨らませた。

「界王神様。大昔に作られたドラゴンボールが、どうして現在に至るまで存在出来るのか、その古文書に書かれていないのですか?ドラゴンボールは作り手が死ねば消滅するはずなのに」

続いて悟飯が質問した。

「ここには載っておらんが、他の古文書によると、遥か昔に存在した超魔力という力によって作られた物は、作成者が死んでも消えずに存在し続けるそうじゃ。魔界のドラゴンボールも、超魔力によって作られたのは間違いあるまい。作成者の超魔力によって作成物が存在していられる年数は異なるが、ドラゴンボールを作った者の超魔力は群を抜いておるようじゃな。カイを消滅する力を持つわけだから、それも当然じゃが」

悟空達は改めてジュオウにドラゴンボールを集めさせてはならないと思った。こんなに強大な力を有するドラゴンボールがジュオウの手に渡れば、魔界だけでなく全世界が彼に支配される事は明白だった。

「その超魔力というのは一体何なんですか?」

今度はトランクスが質問した。

「簡単に言うと、超魔力とは魔力を超えた魔力じゃ。通常の魔力では出来ない高度な魔法なり魔術を、超魔力なら出来る。かつての魔界は超魔力で随分発展したそうじゃ」

気の遠くなるような長い年月を経ても消えない魔界のドラゴンボールを見れば、その類の知識が無いトランクスでも、超魔力の凄さが容易に理解出来た。もしそんな力を使える者が敵として自分達の前に立ちはだかったら、絶対に勝てないとまでは言わないが、苦戦を強いられるのは想像に難くなかった。

「さっき界王神様は『どんな願いも叶えられる生き物』って言ってましたよね?このドラゴンボールの中にいるのは神龍じゃないんですか?」

次に悟天が質問した。

「この古文書には龍と記述されておるが、何せ大昔の話じゃ。当時の龍の概念が現代のと一致しているとは限らん。お前達の知っておる龍とは似ても似つかぬ龍が、魔界のドラゴンボールの中で眠っておるかもしれんぞ。じゃからわしは敢えて『生き物』と言ったのじゃ。何が飛び出すか分からんのでな」

悟空に似て好奇心が旺盛な悟天は、魔界の神龍が、どんな姿をしているのか早く見たかった。悟空やパンも同様の思いだった。

「他に質問も無いようじゃし、話を現代に戻すぞ。当面の問題はドラゴンボールよりもジュオウ親衛隊じゃ。お前達は二人倒したとはいえ、まだ五人も残っておる。フュージョンを使っても勝ち目がない敵というのは、何もテキームだけに限った話ではない。奴等の中には超魔力の使い手がおる。そ奴は頭も良さそうじゃから、テキームの時の様な奇策は通用せんじゃろう」

ジュオウ親衛隊の中に超魔力を使える者がいると知り、悟空達は愕然とした。一番の難敵であるテキームを撃破したので、後のジュオウ親衛隊との戦いは、油断さえしなければ問題なく勝てるだろうと高を括っていたからである。

「それでは俺達に一体どうしろと言うんだ?またジュオウ親衛隊とは戦うなとでも言うつもりか?」

ベジータが不機嫌そうな顔で不平を言ったが、老界王神は首を横に振って笑った。

「そうではない。ちゃんと打つ手はある。わしの能力を忘れたのか?」
「そうか!潜在能力を限界以上に引き出すんだな?」
「そうじゃ。とはいえ、時間が掛かり過ぎてしまうと、奴等が攻めてくる可能性があるから、せいぜい一人しか強くしてやれんな。今後の戦いを大きく左右するわけじゃから、誰を強くするかは慎重に決めねばならぬ。さて、誰にするか・・・」

老界王神は悟空達を一人ずつ見定めた。そして、その中の一人を指差した。

「お前じゃ!お前ならジュオウ親衛隊を超える力を身に付けられるぞい!」

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