其の五十 新種のサイヤ人

老界王神に名指しされたのは悟飯だった。悟空達は老界王神の意外な人選に驚いた。

「爺ちゃん。悟飯は以前に潜在能力を限界以上に引き出してもらったじゃねえか。もう悟飯に隠された力は無いはずだろ?」
「普通の人間ならばな。あの時、わしは悟飯の潜在能力を限界以上に引き出した。じゃが、今の悟飯の体には凄まじい力が眠っておる。全く信じられん事じゃ」

人間の隠された力、すなわち潜在能力は本来一つしか備わっておらず、それを限界以上に引き出せば、その人間には隠された力は無いはずである。しかし、今の悟飯は、その常識を根本から覆す驚異的な存在となっていた。悟飯の潜在能力の高さは、彼が小さい時から周りの大人達の注目の的となっていたが、改めて彼の能力に周囲が着目した。

「おい、悟飯。お前、わし以外からも以前に何者かによって潜在能力を引き出してもらった事は無かったか?」
「あ、はい。昔ナメック星の最長老様に能力を最大限に引き出してもらいました。確か五歳の時だったと思います」

悟飯は潜在能力を引き出してもらった事が過去に二度あった。一度目はナメック星の最長老から潜在能力を最大限に引き出してもらい、二度目は老界王神によって限界以上に能力を引き出してもらった。悟飯本人も余り意識していなかったが、この事実が彼の潜在能力は一つではない事を物語っていた。

「やはりそうか。お前が五歳の時というと、およそ三十年前。わしがお前の能力を限界以上に引き出したのが約二十年前。そして、現在お前の体には大きな潜在能力がある。お前の体には十年おきに新たな、より強力な潜在能力が宿るようじゃのう。今のお前の体には二つの潜在能力が融合し、一つの巨大な力となって眠っておる。お前は過去に例を見ない新しいサイヤ人のようじゃ。あるいはサイヤ人の突然変異と言うべきか」

悟空は悟飯について考えてみた。悟飯は小さい時から怒りによって真の力が開放され、信じられない力を発揮してきた。当時の悟空は、これをサイヤ人と地球人の間に生まれたハーフだけが持つ特性と推測したが、同じサイヤ人のハーフであるトランクスや悟天に、この現象は見られない。悟飯だけが持つ異質な力は、ハーフとは関係なく彼独自のものであった。

老界王神の推測では、悟飯の体内には十年おきに新たな潜在能力が宿るとの事だが、悟空の考えは違った。悟空の考えは、悟飯の体内には実は老界王神でも測りきれない能力が眠っており、それが少しずつ表に現れ、最長老や老界王神は表面化した一部の力を引き出したに過ぎないというものだった。真相は依然として藪の中だが、少なくとも悟飯は以後のジュオウ親衛隊との戦いにおいて重要な役割を担う事は間違いなかった。

「わしは今から悟飯の中にある潜在能力を引き出そうと思う。そうすれば、悟飯の力はジュオウ親衛隊を超えるじゃろう。悟飯、お前にも異存は無いな?」
「はい!是非お願いします」
「よろしい。言っておくが、かつてない巨大な潜在能力を引き出すんじゃ。儀式もパワーアップも掛かる時間は通常の二倍以上と想定しろ」

それを聞いた途端、悟飯の顔は真っ青になった。老界王神は悟飯の心情など構わず、儀式に取り掛かった。例の如く、両腕を前面に出して交互に上下に振りながら、「フンフーン」と鼻歌を歌いながら悟飯の周囲を歩いた。

「ねえ、お爺ちゃん。界王神様は何やってるの?」
「パワーアップのための大切な儀式らしい。よく分かんねえけど」
「ふ、ふーん、そうなんだ。ちなみにどれくらい時間が掛かるの?」
「本来なら儀式に五時間、パワーアップに二十時間だけど、今回は倍の時間が掛かるから、それぞれ十時間と四十時間の計五十時間だな」

悟空達は悟飯を不憫に思いつつも、この場から早く離れたかった。老界王神の訳の分からない儀式を延々と見続けるのは、さすがにしんどいと思ったからである。

「悟飯、オラは腹が減ったから、家に帰って飯を食ってくるわ」
「私、やらなきゃいけない宿題があったんだっけ!じゃ、じゃあね、パパ。頑張って」
「俺も帰って修行しよう。兄ちゃんに負けてらんないや」
「悟天、俺も一緒に行くよ。一人より二人の方が修行がはかどるからな」
「ファイトです、悟飯さん。俺も頑張って修行してきます」
「おい、悟飯。俺より強くなったら許さんからな」

悟空達は足早に天界から飛び去った。後に残されたのはデンデ、ミスター・ポポ、ピッコロ、キビト界王神だった。

「パワーアップするなら界王神界ですればいいのに、何でここで・・・」
「神様、文句言う駄目」
「悟飯、出来るなら代わってやりたい」
「わ、私は今回も寝ないで見届けなければならないのか・・・」

こうして悟飯にとっても、見ている側にとっても、長く退屈な儀式が続けられた。これ以降、悟飯は二日以上も天界で缶詰状態となった。

一方、悟飯と別れた悟空達は各人の家に帰宅していた。悟空にとっては久方振りの我が家であるが、ドアには鍵が掛けられており、人の気配が無かった。チチもビーデルもまだ惑星レードから帰って来ていなかった。

「そういえば宇宙一武道会が終わってから、そんなに日が経ってなかったっけ。あちゃー、困ったぞ。チチがいねえと飯が食えねえ」
「だったら瞬間移動で連れてくればいいじゃない」
「あ!その手があったか」

悟空は瞬間移動でブルマ達がいる宇宙船に移動しようとしたが、彼女達が乗っている宇宙船が地球から余りにも遠過ぎて、彼女達の気を見つけられなかった。しかし、悟空は制限無く、どんな場所にも瞬間移動出来るキビト界王神に頼み、ブルマ達を宇宙船ごと地球に連れて来てもらった。ブルマ達は悟空達が一人も欠けず、無事に再会が果たせた事を心から喜んだ。

その夜、ブルマ、チチ、ビーデルは悟空達のために料理の準備をし、天界で全員が集まって宴会が開かれた。悟飯は動く事が許されないので、ビーデルが彼のすぐ側まで行って食べさせてあげた。

「チチが作った料理は、やっぱり上手いなー」
「どんどん食べてけれ。腕によりをかけて作ったんだからな」

「聞いてよ、ママ!私一人でジュオウ親衛隊の一人を倒したのよ!」
「パン、嘘をつくんじゃありません。あなた一人の力で倒せるはずがないでしょう」
「ビーデルさん、パンちゃんの言ってる事は本当ですよ。俺達、パンちゃんがいなければ皆やられてました」
「たまには良い事を言うね、トランクス」

「それじゃあ、ベジータはまだあのジフ-ミを倒していないのね」
「ああ。魔界では一度も会わなかった。だが、いつか必ず俺の手で倒してやる」
「その意気よ、パパ。あいつには私達も随分むかついているんだから。どうせだったら、あのジフ-ミが地球にやって来て、私達の目の前で倒されればいいのに。もちろんパパの手でね」

「ねえ、サタンさん。お小遣い下さいよ」
「またおねだりかね、悟天君。悟空さんといい悟天君といい、君達親子は私の事を金づるとしか思ってないんじゃないか?」
「駄目なの?折角パンちゃんが活躍した話を聞かせてあげようと思ってたのになー」
「えっ!?・・・おほん、悟天君。いくら欲しいんだね?」

「どうだ、ウーブ。パンは大活躍したみたいだけど、お前は活躍出来たのか?」
「いえ、クリリンさん。それ程には」
「おいおい頑張ってくれよ。お前は俺達地球人の希望の星なんだからな。ぼやぼやしてると、俺みたいにパッとしない戦士になっちまうぞ」
「ヤ、ヤムチャさんみたいに・・・。それだけは絶対に嫌です」

「一惑星の神でしかない私が、全宇宙を統べる界王神様と一緒に食事なんて光栄です」
「そう言ってもらえると有難い。悟空さんからは敬意の念が一切感じられないのでね」
「界王神様、悟空は昔から、あんな調子じゃ。あいつは師匠であるわしに対しても、一度も敬語を使った事が無いのですぞ」

「いいな、楽しそうで」
「悟飯。気持ちは分かるが今は我慢しろ。お前がジュオウ親衛隊を全員倒せば、この様なパーティはいくらでも開けるさ」

悟空達にとって長く苦しい戦いの合い間の僅かな休息の一時。この時ばかりは戦いの事を忘れ、皆で大いに楽しんだ。こうして夜は更けていった。

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