老界王神の儀式が開始されてから一日が過ぎた。既に儀式は終了し、次のパワーアップの段階に入っていた。老界王神と悟飯は腰を降ろし、老界王神は悟飯に向けて両手を翳し、ひたすら念を送っていた。そして、その老界王神のパワーアップが完了するのを待ち続ける悟飯の側には、パンが悟飯の様子を見に来ていた。パンは悟飯と長く会話を続けていたが、お昼時になったので家に帰る事にした。
「じゃあね、パパ。頑張って」
「ああ」
悟飯は優しげな目で飛び去っていくパンを見つめていたが、老界王神は違う目でパンを見ていた。パンが完全に見えなくなった後、老界王神は正面に座っている悟飯に唐突に話し掛けた。
「のう、悟飯。物は相談じゃが、わしがパワーアップさせてやってるんじゃから、お礼として、あのパンとか申すお前の娘が大人になったら、おっぱいや尻を少し触らせてもらえるよう取り計らってくれんかの?ほんの少しでええんじゃが・・・」
悟飯は返答せず、物凄い形相で老界王神を睨みつけた。
「そ、そう睨むなって。冗談じゃよ。冗談」
「いい加減にして下さい!界王神様!あの時だって界王神様達のせいで、俺は大変な目に遭ったんですからね!」
悟飯の言う「大変な目」とは、およそ二十年前に起こった珍事件の事であった。
悟空が地球人から集めた元気で作った元気玉で魔人ブウを倒し、宇宙の危機が去った。その後、天界で一同に会し、平和再来と悟空復活を祝って盛大なパーティを催そうと話し合っていた時、キビト界王神が天界に舞い戻ってきた。
「あれ?界王神様、ひょっとして界王神様もパーティに参加してえのか?」
キビト界王神は界王神界で魔人ブウと戦っていた悟空達を天界に連れて来た後、界王神界に引き返した。ところが、すぐにまた天界に来たので、悟空達はキビト界王神がパーティに参加したいのだろうと気軽に考えた。しかし、キビト界王神の表情に笑顔は無く、どこか気まずそうだった。
「そうではありません。ちょっと悟空さん来て下さい。悟飯さんも」
キビト界王神は悟空と悟飯を神殿の裏へ強引に連れて来た。そこには老界王神が少し怒った様子で待っていた。
「おい、悟空。例の約束を忘れたわけじゃあるまいの?わしが悟飯をパワーアップさせてやったら、女子のおっぱいや尻を触らせてくれるという約束だったではないか!お前が話しておったプリプリの年増女は向こうにおるんじゃろ?早くその女子を連れてこんかい!その女子の生写真も忘れずにな」
悟空も悟飯も忘れていた。思い出したくもなかったが、悟飯のパワーアップとドラゴンボールの使用との引き換えに、悟空はプリプリの年増女、すなわちブルマに無断で老界王神と約束していた。
「生写真?お父さん、そんな約束までしたんですか?」
「そういや、そうだった・・・。仕方ねえ。悟飯、取り敢えずブルマを連れて来てくれ。ベジータには内緒でな」
「ブ、ブルマさんを!?嫌ですよ。お父さんが約束したんですから、お父さんが連れて来て下さいよ」
老界王神と約束した時、後の事なんて考える余裕は無かったから大して気にしていなかったが、平和になった今になって改めて考えると、とんでもない約束をしたもんだと悟飯は感じていた。
「でも、パワーアップしてもらったのは、お前だろ?それに元々は、お前がブルマに頼む予定だったじぇねえか」
「それはお父さんが『もう下界に行けない』なんて言ったからですよ。今はもう生き返ったんですから、お父さんが頼んで下さい。お父さんの方がブルマさんとの付き合いも長いし、頼み易いでしょう」
悟空も悟飯も、そんな事をブルマに頼みたくなかった。しかし、二人が気配を感じて後ろを振り向くと、そこにはブルマの夫であるベジータが立っていた。二人は親子揃って顔面蒼白になった。
「裏で何を話しているかと思えば、やはりそんな事か・・・」
「べ、ベジータ!?何時からそこに?」
キビト界王神の行動を不審に思ったベジータは、悟空達の後をつけて話を聞いていた。
「き、貴様等!人の妻をよくも・・・」
「落ち着けよ、ベジータ。だって仕方ねえじゃねえか。こんな事を頼めるのは、ブルマぐらいだしよ」
「貴様の妻のを触らせれば良いだろ!チチの乳を!あんな乳でも乳は乳だ!」
「あいつに頼んだら殺されちまうよ。ベジータだって分かるだろ?あいつの性格を」
ベジータはチチとの関わりが余り無いが、どういう性格かは周囲の反応を見て知っていた。ブルマ以上に気が強く、周りは腫れ物に触るような感じで接しており、あの亀仙人がチチに一度もセクハラした事がない点から見ても、その狂犬ぶりを窺えた。
「ちっ。だったら、あのビーデルとかいう女のを触らせればいいだろ!若いから問題無いだろ!」
「い、いやベジータさん。ビーデルさんは全然胸が無いし、格闘技やってるから筋肉が付き過ぎて体に弾力性が無いし・・・」
ベジータも交えて醜い言い争いを続ける悟空達三人。その時、彼等の背後から「何ですって?」と低い声が聞こえてきた。悟空達が恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはブルマ、チチ、ビーデルが眉間に皺を寄せて立っていた。その彼女達の手には、チチがピッコロに言って作らせた特性のハリセンが握られていた。そして、ブルマ達の背後には、残りの仲間達が立っていた。要するに彼等の会話は全員に筒抜けだった。
実はキビト界王神の行動を不審に思っていたのは、ベジータだけではなかった。ベジータの行動が一番早かったが、ブルマ達も後をつけて話を聞いていた。悟空達は議論に夢中になっていて、ブルマ達が傍にいる事に全然気付いていなかった。しかめっ面の女性陣は男性陣の前に立った。
「ちょっと孫君!あんた私の事を何だと思っているわけ!?」
「お、落ち着けブルマ。オラだって本当はこんな事したくなかったんだけど、宇宙の平和を守るために仕方なく・・・」
「ベジータ!おめえ人の奥さん捕まえて乳々って、なんつー破廉恥な事を!」
「ま、待て。あれはついカッとなって言っただけで、決して本心では・・・」
「悟飯君!私の胸が無いなんて、まさか私の事を、そんな目で見てたなんて・・・」
「ち、違うんですよ、ビーデルさん。あれはビーデルさんを守るためであって、その・・・」
三人の女傑が「問答無用!」と声を合わせ、それぞれ目の前で萎縮していた男共の横っ面を手に持ったハリセンで思いっきり叩いた。ピッコロ特性のハリセンだけに、その威力は強烈で、悟空達は床に倒れて痙攣していた。
そのブルマ達の背後で悟空達の無様な様子を目撃し、飽きれていた当時少年のトランクスと悟天の頭に18号が手を置いた。
「お前達は、あんな大人になるんじゃないぞ」
結局、老界王神は「色気があって触れるなら、どんな女でも構わん」と言うので、ブルマが老界王神を、お触りバーに連れて行った。更にチチが亀仙人の秘蔵の生写真コレクションを没収し、自分達のが含まれていないか入念に確認してから、それを老界王神にプレゼントした。こうして老界王神はホクホク顔で界王神界に帰っていったが、計画していたパーティは取り止めになった。
この後も悲惨だったのは悟飯であった。ブルマやチチは一晩もすれば機嫌を直していたが、純情だったビーデルは悟飯に裏切られたという思いが強く、なかなか悟飯の事を許してくれなかった。学校で悟飯が話し掛けても口を利いてもらえず、思い悩んだ悟飯はブルマに頼んでグレートサイヤマン二号の変身装置を作ってもらい、それをビーデルにプレゼントする事で、ようやく元通りの関係に戻った。
その後、悟飯とビーデルは更に仲を深めていき、最終的に結婚して現在に至るが、あの出来事は悟飯にとって忘れたくても忘れられない苦い思い出となった。
「あの後、ビーデルの機嫌を取るのが本当に大変だったんですからね!」
「何を申すか!あの娘を怒らせる事を言ったのは、他ならぬお前じゃろうが!」
「でも、元はと言えば、界王神様が見返りを求めずに俺をパワーアップしてくれれば、あんな面倒な事にならなかったんじゃありませんか!今回はそういう見返りは絶対に無しですからね!」
悟飯が老界王神と、こうした仕様もない会話が出来るのも、現在地球に危機が訪れていないからであった。この二人を含め、地球にジフーミ達が迫っている事など、この時は誰一人として気付いていなかった。
そして、更に一日が過ぎた。そろそろ悟飯のパワーアップが終了する時間というので、悟空達全員が天界に集まっていた。その時、悟空達は地球に邪悪で強大な、しかも身に覚えのある気が猛スピードで接近している事を察知した。
「この気は!?間違いねえ。あいつの気だ」
「遂に来たか。この時が。今度こそ片付けてやる!」
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