悟空は依然として元気玉を作り続けていた。しかし、その作業は余りにも時間が掛かった。最初の内は余裕の表情を浮かべていたジフーミも、時間が経つに連れて段々と苛立ってきた。
「一体、何時まで待たせる気だ!あんな物で本気で俺を倒せると思っているのか!?」
「まあ、待てよ。もうじき物凄い事が起こるからさ」
「ずっとそればっかりじゃねえか!あんなの最終砲を使わずとも、ただのエネルギー波で消せるぞ!」
作り始めてから時間が大分経っているにも拘らず、悟空の元気玉は小さいままだった。我慢の限界に達したジフーミは、頭上の元気玉に向けてエネルギー波を放ち、それを爆発させた。
「見ろ!こんなに簡単に壊せたじゃねえか!何が『物凄い事が起こる』だ!」
悟空の無駄に終わった元気玉作りに散々待たされ、ジフーミは苛立っていた。そして、目の前に立つ悟空に詰め寄ろうとした時、ジフーミの体に異変が起こった。急にフュージョンが解け、元の二人のジフーミに戻ったのである。
「な!?こ、これは・・・。まさか、お前は俺達の合体が解けるのを、ずっと待っていたのか?」
「まあな。フュージョンされたままでは勝てそうもなかったからな。フュージョンが解けるまで大人しくしてもらう必要があった。だから元気玉を作って時間を潰したんだ」
「くっ、一杯食わされた。だがな、まだこちら側が優勢だ。今のお前に俺達二人を同時に相手にする力が残っているとは思えんからな。お前達を倒すのに、もうフュージョンなんて必要ない」
戦い続けた悟空の体力は、ジフーミの指摘通りに消耗していた。ベジータも倒れたままなので、ピンチに変わりはなかった。しかし、観戦していたピッコロ達が、いきなり両者の間に割って入ってきた。
「お、お前達。どうしてここに?」
「ジフーミを倒せるのはお前とベジータしかいないからだ。ジフーミを倒すまで、お前達を死なせるわけにはいかない。お前達二人の体力が回復するまで、俺達がジフーミを食い止めてやる」
ピッコロ達は二人のジフーミと向き合った。真剣な眼差しのピッコロ達に対し、ジフーミ達は二人同時に笑い始めた。
「何が可笑しい?」
「これが笑わずにいられるか。あの二人ならともかく、お前等如きが俺達の相手になるとでも思っているのか?時間稼ぎにすらなりゃしない」
ピッコロ達を軽んじるジフーミ達だが、ここでトランクスが一歩前に出た。
「お前の相手が出来るのも、お前に恨みがあるのも、父さん達だけじゃない。俺だって、その一人だ。武道会で受けた屈辱を今ここで晴らしてやるぞ」
トランクスの発言には、ジフーミ達ばかりでなく、悟空達も啞然とした。しかし、すぐにジフーミ達は再び笑い始めた。
「冗談だろ?お前一人で俺達二人の相手をするとでも言うのか?」
「さすがに二人を同時を相手にするのはきついかもしれないが、一人だったら問題ない。どちらでもいいから早く掛かって来い」
トランクスには一切気後れが無かった。トランクスの自信となる根拠が何なのかは悟空達でも分からなかったが、ここは彼に託す事にした。
「トランクス。任せてもいいんだな?」
「はい。でも悟天だけは、この場に残ってくれ」
「よくは分からないけど、そうするよ」
取り敢えず悟空達は、ベジータを連れて先程ピッコロ達がいた観戦場所に、トランクスと悟天を除いて移動した。ジフーミ達は悟空達が遠くに移動しない事を確認してから、トランクスと向き合った。
「何のつもりか知らんが、お前なんぞ五秒で片付けてやる」
「やれるものなら、やってみろ」
二人のジフーミの内、一人だけがトランクスに向かっていった。一撃で仕留めるつもりでトランクスに拳を突き出したが、トランクスは余裕で避けた。続けてジフーミは蹴りを出したが、これもトランクスに避けられた。「それならば」と言って、ジフーミは更にスピードを上げ、次々と攻撃を繰り出したが、何故か全ての攻撃がトランクスには当たらなかった。
「ば、馬鹿な。何故お前が俺の攻撃を避けられるんだ?俺の方がスピードが上のはずなのに・・・」
「さあな。それぐらい自分で考えたらどうだ」
悟空達ならともかく、格下と思っていたトランクスにまで馬鹿にされたジフーミは、烈火の如く怒った。そして、本気となってトランクスに連続攻撃を繰り出したが、やはり攻撃は一つも当たらなかった。ジフーミは怒りの余り、我を忘れた。
一方、トランクスがジフーミの攻撃を凌いでいる間に、ベジータが目を覚ました。悟空は興奮気味にベジータに話し掛けた。
「気が付いたか、ベジータ?凄いぞ、お前の息子。あのジフーミの攻撃を全て避けている。おそらくジフーミは生まれたばかりで、オラ達と出会うまで強敵とは巡り会わなかったはずだ。そのため戦闘経験に乏しいジフーミの攻撃パターンは単純で、動きを読み易い。だからジフーミの方がスピードが速くても、攻撃が当たらないんだ」
トランクスの戦いを観戦しながら悟空の話を聞いていたベジータは、笑みを浮かべて話し始めた。
「なるほど。トランクスはジフーミの動きを把握し、回避に徹している。あれならエネルギーの消費を抑えられ、長時間の攻撃を避け続けられるだろう。それに気付かない限り、ジフーミはトランクスに攻撃を当てられないだろうな」
トランクスは回避にのみ意識を集中させ、一度もジフーミに反撃しなかった。どうせ攻撃しても通じないのが分かっていたからである。止めは悟空達に任せ、自分は裏方に徹するつもりでいた。
何時まで経っても攻撃を当てられないジフーミに、もう一人のジフーミまでが苛立ってきた。一人で駄目ならば、二人が同時に戦い、トランクスを倒そうと画策した。そして、もう一人のジフーミがトランクスに向かっていったが、その動きを察知した悟天が、その前に立ちはだかった。
「お前の相手は俺がしてやる」
「邪魔だ!どけ!」
もう一人のジフーミは悟天に攻撃を仕掛けたが、悟天もトランクス同様に攻撃を避けた。実はトランクスが悟天を残した理由が、ここにあった。自分の戦いを悟天に間近で見せる事で、ジフーミの動きの特徴を悟天に覚えさせ、もう一人のジフーミに対処出来る様に仕向けたのである。悟天はトランクスの期待に応え、トランクスと同じやり方でジフーミの攻撃を避け続けた。
「す、凄い。悟天さんもジフーミの攻撃を全て回避している。ジフーミとの対戦経験のあるトランクスさんならまだしも、悟天さんは観戦していただけなのに。何て格闘センスだ。俺には真似出来ない」
「気にするな、ウーブ。お前にはお前にしか出来ない事がある」
トランクスと悟天が、ジフーミ達と対戦してから数十分が過ぎた。さすがにトランクス達にも疲労の色が見え始めた時、たっぷり休んで体力が回復した悟空とベジータが、フュージョンしてから戦場に舞い戻ってきた。
「二人とも。よく持ちこたえてくれた。礼を言うぞ。お陰で再びフュージョンする事が出来た」
悟空達がフュージョンしている事に気付いた二人のジフーミは、自分達もフュージョンしてゴジータに対抗しようとしたが、ポーズを取っても合体が出来なかった。
「一度フュージョンが解けてしまうと、その後一時間は合体出来ない。貴様のフュージョンは解けてから、まだ一時間が経っていないから合体出来ないんだ。貴様の負けだ!ジフーミ!最後に貴様の敗因を教えてやろう。俺が先程フュージョンした時の貴様の戦い方は良かった。だが、その後が良くなかった。貴様は俺のフュージョンが解けた時点で、すぐに俺達全員を倒すべきだったんだ。自分の力に自惚れ、俺達一人一人の力を見くびった事が貴様の敗因だ。じゃあな」
ゴジータは両手から、それぞれ巨大なエネルギー波を放った。各エネルギー波はジフーミ達を捉え、二人のジフーミを細胞一つ残さず完全消滅した。悟空達の復讐は、こうして果たされた。
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