苦労の末に宿敵ジフーミを打ち破った悟空達。ピッコロは胸を撫で下ろし、パンは諸手を上げて喜んだ。肩の荷が下りたゴジータは、すぐ側にいたトランクスや悟天と共にピッコロ達がいる場所に向かって飛行した。ジフーミが死んだので、地球の危機は去ったはずだった。
ところが、いきなりゴジータ目掛けてエネルギー波が飛んで来た。戦闘終了後という事もあって油断していたゴジータは、突然の出来事に対処出来ずにエネルギー波を受け、右腕に大きな傷を負ってしまった。ゴジータは左手で右腕を押さえながら、エネルギー波が飛んで来た方向を凝視した。そこには何とヒサッツが立っていた。ヒサッツはゴジータが負傷したのを確認してから、彼の目の前に飛来した。
「ヒサッツ!?き、貴様、何時地球に来た?」
「昨日だ。お前達に気付かれない様に、この星に密かに訪れていた」
「昨日だと!?もしかして今までの俺達とジフーミとの戦いを、ずっと観ていたのか?」
「ああ。最初から最後まで観戦していた」
「最初からいたのなら、どうしてジフーミを助けず見殺しにした?貴様等は仲間だろ?」
悟空達とジフーミとの戦いは、正に一進一退だった。ジフーミが優勢だった時ならまだしも、劣勢だった時にヒサッツが加勢していれば、敗れていたのは悟空達の方かもしれなかった。
「仲間?俺達は仲間じゃない。俺達はジュオウ様から同時期に生み出されただけだ。俺達ジュオウ親衛隊同士の仲は、非常に悪い。俺はジフーミを手助けするために来たのではない。お前達を皆殺しにし、お前達が魔界から持ち去ったドラゴンボールを持ち帰るために来た」
ヒサッツにとってジフーミは、仲間ではなく捨て駒に過ぎなかった。
「貴様等の仲が悪かったのは以前から知っていたが、それでも貴様とジフーミが二人掛かりで戦った方が、貴様にとっても有利だろう。それなのに共に戦う事を拒むとは・・・。何故ジュオウ親衛隊は、そんなに仲が悪いんだ?」
仲間がいれば連携が出来るし、助け合える。仲間の大事さを知る悟空達には、平気でジフーミを見捨てたヒサッツの考え方を理解出来なかった。
「一人一人のプライドが高過ぎるからだ。誰もが自分こそがナンバーワンでなければ気が済まないと思っている。そのため親衛隊同士で反目し合う。俺にとってはジフーミを助けるよりも、お前達がカイブ達を倒せた理由を、お前達と戦う前に知る必要があった。単独とはいえジフーミにも勝てなかったくせに、どういう手段を使ってジフーミ以上の力を持つカイブや、どんな攻撃も受け付けないテキームに勝ったのかをな。そして、今の戦いを観て、その答えが少しだけ分かった」
ヒサッツは宇宙一武道会の全試合を観戦し、悟空達一人一人の力を把握していたつもりだった。その上で悟空達が徒党を組めば、ジフーミには勝つ事が出来ても、カイブやテキームには勝てないだろうと予想していた。しかし、現実はヒサッツの予想に反し、カイブ達が悟空達に倒されたので、ヒサッツは悟空達が力を合わせた時の戦い方を、彼等と戦う前に知っておきたかった。
「もしかして貴様は俺達の力を探るために、ジフーミを捨て駒にしたのか?ジフーミは貴様の命を救った事もあったのに・・・」
宇宙一武道会の準決勝第二試合では、重傷のヒサッツが囮となり、そこにジフーミが乱入し、悟空達からドラゴンボールの探し方を聞き出す事に成功した。この作戦を立てたのはヒサッツだが、ヒサッツの指示通りに動く事に、ジフーミには面白くない面もあっただろう。しかし、ジフーミは個人的な感情を押し殺し、言われた通りに行動した。本来ならヒサッツはジフーミに感謝すべきだが、冷酷無比なヒサッツには、そうした思いが欠片も無かった。
「ジフーミには臆病な面があった。お前達がカイブを倒した事を奴に伝えれば、臆病風に吹かれていたかもしれない。だから説明する際、わざと怒らせる様に話した。案の定、奴は怒り狂い、お前達に正面から戦いを挑んだ。そして、俺は事前に隠れて戦いの行方を見守っていた。俺としては、ジフーミが勝てば、それで良し。ジフーミが敗れても、お前達の強さの秘密が分かれば、それはそれで良しと思っていた。結果としてジフーミは敗れたが、俺の役に立った。後は俺が、お前達を倒すだけだ」
普段は無口なヒサッツにしては珍しく、この時は饒舌だった。それはヒサッツ本人も気付いていないが、悟空達の戦いに触発され、軽い興奮状態になっていたからである。
「これまで共に戦ってきた奴を捨て駒にし、それで勝ったとして、そんな勝ち方して満足か?」
「生憎だが俺は勝つつもりはない。殺すつもりだ。そのためなら何でも利用する」
ゴジータは敵であったジフーミが、気の毒に思えてきた。復讐を果たした以上、もはや悟空達にはジフーミに対する恨みはない。今は同僚を捨て駒に使ったヒサッツに激しい怒りを覚えていた。
「貴様を倒す!俺達や地球のためだけじゃなく、貴様に利用されて死んだジフーミのためにもな」
「下らん。俺に利用された事を、ジフーミは喜ぶべきだ。お前達の合体が解けるまで、もう少し会話を続けたかったが、これ以上は無理のようだな」
こうしてゴジータはジフーミを倒した後、続けてヒサッツと戦う羽目になった。それも万全な状態ではなく、片腕が使えないハンデを背負っての戦いだった。戦闘力はゴジータが上でも、その力の半分も使えない状況での戦いなので、開始直後はヒサッツが優勢だった。そして、開始後すぐにゴジータや、観戦していたピッコロ達は、ある事実に気付いた。ヒサッツが武道会の時よりも強くなっていた。
「以前よりも強くなっている。武道会が終わってから、それほど日数が過ぎたわけでもないのに」
「俺は日々の鍛錬を欠かさない。以前に比べて強くなるのが、お前達だけだと思うな」
「努力家の敵か・・・。どうりで技を多く持ってるわけだ。厄介な敵だ」
突然変異か何かで生まれつき強い戦士はいるが、そういう戦士は自分の強さに慢心し、自己の修行を怠りがちである。そのために技の種類が少ないものだが、ヒサッツは違った。ヒサッツも類稀な力を持って生み出されたが、周りには自分より強い戦士が何人もいた。ヒサッツは自分と彼等を比べて劣等感を感じ、その差を補うために修行に勤しんでいた。修行の過程で、次々と新技を編み出していた。
ヒサッツの凄い所は、強くなった事だけではなく、戦い方が変幻自在だった。ヒサッツが優勢だった時は一気呵成に攻めていたが、途中からゴジータが持ち直してくると、一転して距離を置いた。また、パンチをすると見せかけてキックを出したり、ゴジータがガードを固めると、攻撃する箇所をガードしていない所に変えたりし、その度にゴジータは戦い難さを感じていた。
一方、側にいたトランクスや悟天は、再び自分達の出番が回ってくる時に備えてヒサッツの戦い方を観察していたが、変幻自在の動きを見切れそうになかった。
「あいつ、本当に生まれたばかりなのか?まるで長年戦ってきたベテランの戦士の動きだ・・・。ジフーミとは全然違う」
「それだけじゃない。ヒサッツは先のジフーミ戦でダメージを受けた箇所を集中的に攻撃している。攻撃が的確で無駄が無い。色んな意味で、あいつは武道会の時よりも強くなっている。本当の天才とは、ああいう奴の事を言うのかもな」
二人が思わず唸ってしまうほど、ヒサッツの戦い方は巧みだった。しかし、ゴジータにも意地があった。最初こそ劣勢だったが、徐々に持ち直し、戦闘力が上な事もあって、遂に優勢へと転じた。ヒサッツは不利と見るや否や、ゴジータから更に離れた。ゴジータも無理には追わなかった。
「さすがだな。しかし、これまでは様子見だ。俺が得意とするのは、肉弾戦よりも技の応酬だ」
「そういえば貴様、武道会でも色んな技を使っていたな。俺達の技も使っていたようだけど」
「大抵の技は、一目見れば覚える。そして、ただ技をコピーするだけではなく、改良して自分独自の技にする事もある。見せてやろう。俺の新必殺技をな。次の一撃で戦いを終わらせてやる」
ヒサッツは右手を強く握り締め、そこに気を集中させた。次の瞬間、ヒサッツは一瞬でゴジータの懐近くにまで移動すると、ゴジータの腹部目掛けて技を放った。
「喰らえ!蛇拳!」
ヒサッツの右腕から放たれた蛇の形をした気が、ゴジータの腹部に激突した。突然の出来事に対応出来なかったゴジータは、まともに受けて倒れた。貫通こそされなかったものの、腹部に大ダメージを負ったゴジータは合体が解け、悟空とベジータが並んで倒れた。
「い、今のは悟空さんの龍拳にそっくりだった・・・。そして、その前に使ったのは瞬間移動だ」
「ヒサッツは武道会での悟空とジフーミとの戦いを観ていたはずだ。あの時、悟空は瞬間移動や龍拳を使っていた。それ等を観て、ヒサッツは今の技を習得したんだ。ヒサッツがジフーミより早く地球に来れたのも、瞬間移動を使ったからだろう。ゴジータはヒサッツが瞬間移動を使うと知らなかったからこそ、ヒサッツの突然の瞬間移動に反応が遅れ、まともに技を喰らったんだ」
ウーブやピッコロも、敵であるヒサッツの凄さに思わず驚嘆してしまった。ピッコロ達の話が耳に入ってきたヒサッツは、ピッコロ達の方を見て話し掛けた。
「ご名答。お前は確か、ピッコロとかいったな。そこそこ頭が切れるようだ」
蛇拳を受けた悟空とベジータは、ダメージが大き過ぎて立ち上がる事さえ出来なかった。悪魔の頭脳と、サイヤ人を上回る格闘センスを持つヒサッツを前にして、悟空達は窮地に追いやられた。
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