其の五十八 悟飯参戦

ヒサッツは足元で倒れている悟空達を見て、止めを刺そうと右手を上げた。しかし、ヒサッツが右手を振り下ろす前に、複数のドーナツ状の気がヒサッツに降り注いでヒサッツの体を締め付け、ヒサッツの体の自由を奪った。ヒサッツが首から上だけ動かして上空を見上げると、そこには超サイヤ人4になったゴテンクスがいた。

「あれは・・・。そうか!フュージョンが出来るのは、一組だけではなかったのか」

ヒサッツが悟空とベジータに気を取られている間に、トランクスと悟天はフュージョンを完成させ、素早く上空に移動していた。トランクス達はヒサッツの戦いを見て、ヒサッツに対抗するにはフュージョンしかないと思っていた。

「今だ!ヒサッツが動けない間に悟空達を天界に連れて行き、デンデに回復してもらうんだ!フュージョンは出来なくても、この二人が万全の状態なら、ヒサッツと互角に渡り合える」

ピッコロとウーブが傷ついた悟空とベジータを抱え上げ、彼等をデンデに回復してもらうために天界に飛んで行こうとした。しかし、その様子を見ていたヒサッツが、彼等に話し掛けた。

「その二人を何処に連れて行くつもりか知らないが、無駄な事はよせ。何故なら、その二人は蛇拳を喰らったからだ。蛇には龍ほどの力は無いが、毒がある。蛇拳には呪いという名の毒が込められている。蛇拳を喰らった者は、例え生き延びたとしても、呪いによって間もなく死ぬ。だから、その二人を何らかの方法で回復させたとしても、意味が無い。その二人を助ける方法は一つだけ。それは呪いの元である俺を殺す事だ。それも、その二人が呪い殺されるまでにな」

その話を聞いたウーブは、抱えていたベジータを地面に降ろし、身動き出来ないヒサッツに飛び掛かった。ヒサッツの話が本当なら、悟空達を助けるにはヒサッツを倒す以外に方法が無く、今のヒサッツなら自分の力でも勝てると踏んだからである。

「よ、よせ、ウーブ!早まるな!」

ウーブはピッコロの制止を振り切り、ヒサッツに次々と攻撃を浴びせた。ウーブの攻撃は面白いようにヒサッツに決まったが、ヒサッツは倒れずに耐えていた。止むを得ずピッコロも悟空を地面に降ろし、攻撃に加わった。しかし、二人掛かりの攻撃を受けても、ヒサッツは倒れなかった。

「調子に乗るな!」

ヒサッツは自分の体を拘束していたドーナツ状の気を、力任せに破った。その時の衝撃で、ピッコロとウーブ、倒れている悟空とベジータまでもが後方に吹き飛ばされた。ヒサッツが自由になったので、ピッコロ達がピンチになったと判断したゴテンクスは、口の中からお化けの軍団を出し、それ等をヒサッツに嗾けた。

「行け、お化け達!超ゴーストカミカゼアターック!」

お化け達が次々とヒサッツに向かって突っ込んで行った。超ゴーストカミカゼアタックについての知識が無いヒサッツは、それを手で払い除けようとし、お化け達の爆発に巻き込まれた。しかし、ヒサッツは平然な顔をしていた。

「げげ、ほとんどダメージを受けていない」
「面白い。その技も貰った!喰らえ!巨大ゴーストカミカゼアタック!」

ヒサッツの口から体長三メートル以上の巨大なお化けが出てきた。そして、巨大なお化けは上空にいるゴテンクスに向かっていった。対するゴテンクスは、巨大なお化けに向けて気功弾を放った。気功弾が命中した巨大なお化けは、ゴテンクスに届く前に爆発したが、その時に生じた爆風によってゴテンクスは吹き飛ばされ、地上に墜落した。

「てて・・・何て爆発だ。まともに喰らっていたら、やばかったな」

巨大なお化けだっただけに、その爆発も並大抵ではなかった。ゴテンクスは頭を抱えながら起き上がって別の技を出そうとした時、ピッコロが大声で叫んだ。

「よせ、ゴテンクス!技を使うんじゃない!お前が技を使えば使うほど、ヒサッツはそれを習得し、ますますパワーアップしてしまうぞ!技を使わずに戦うんだ!」
「そんな・・・。技を使うななんて」

技が豊富にあるゴテンクスに対して「技を使うな」とは厳しい発言だが、相手が相手だけに、ゴテンクスは了承せざるを得なかった。そして、ゴテンクスはピッコロやウーブと共にヒサッツを取り囲んだ。しかし、ピッコロ達三人が一斉に身構えても、ヒサッツは動揺する素振りを見せなかった。

「お前達に構っている時間は無い。大人しくしてもらおうか」

ヒサッツがさっと両手を上げると、ピッコロ達が自らの顔を殴り始めた。

「ど、どうなってるんだ!?手が勝手に動く」
「こ、これはレードのデスマジック」
「し、しかも俺達三人を同時に技に掛けるとは」

ピッコロ達は何も出来ず、自分達の顔を殴り続けていた。そして、ヒサッツが手を下ろすと同時に、ピッコロ達は倒れた。ゴテンクスはダメージが大き過ぎて、フュージョンが解けていた。

「お前達の始末は後だ。まずは肝心な奴から仕留めないと」

ヒサッツは視線を少し離れた所で倒れている悟空達に向けた。そこにはパンとブラもいて、パンが悟空の、ブラがベジータの前に立ち、悟空達を庇う様に両腕を大きく広げ、ヒサッツを睨んでいた。そんな彼女達の態度を気にする様子も無く、ヒサッツは彼女達の元に歩を進め、パンの手前で止まった。

「どけ。どかないと死ぬぞ」
「どかないわ!それに、あんたの事だから、結局は私達を皆殺しにするつもりでしょ?」
「なら、お前から死ね!」

ヒサッツは右手を上空に上げた。観念したパンは目を閉じ、ヒサッツはパンを殺そうと右の手刀を繰り出したが、その手刀がパンに届く前に、いきなり現れた何者かがヒサッツを側面から蹴飛ばした。目を開けたパンは、その人物を一目見て、すぐに誰か分かったが、ヒサッツには分からなかった。ヒサッツは立ち上がり、その人物を睨みつけた。

「誰だ!お前は?」
「もう俺の事を忘れたのか?記憶力が無いんだな」
「何だと!?」

ヒサッツはその人物の顔を見て、ある人物を思い浮かべた。しかし、その人物と目の前に立つ人物は、外見はそっくりでも、気の大きさや感じが大きく異なっていた。謎の人物の正体が分からず戸惑うヒサッツとは対照的に、パンは目を輝かせて、その人物の来訪を喜んだ。

「パパ!パワーアップは終わったのね?」
「ああ。遅くなって悪かったな。後は父さんに任せろ」

突如として現れた謎の人物の正体は、パワーアップを終えたばかりの悟飯だった。ヒサッツはパンの言動で、ようやく悟飯だと認識した。悟飯が戦場から離れた所にいた事は、ヒサッツも認識していたが、そこで悟飯が何をしているのかまでは把握していなかった。

「お前、本当に孫悟飯なのか?」
「そうだ。貴様を殺し損ねた、あの孫悟飯だ。あの時は俺のせいで、大事なドラゴンレーダーを奪われてしまった。今回は俺の到着が遅れたせいで、仲間達を傷つける事になってしまった。皆には済まないと思っている。自分の失態は、自らの行いで償う。あの時の続きだ!今度こそ貴様を倒す!」

ヒサッツが思わず別人と錯覚してしまうほど、今の悟飯の気は以前のとは明らかに違っていた。悟飯が予想外に強くなっている事に驚いたヒサッツだったが、すぐに気持ちを切り替えて話を続けた。

「お前に出会えてよかった。俺は対戦相手を殺す事を信条にしているが、お前が唯一の生存者だ。お前だけは俺の手で直接殺さねば気が済まないと思っていた。ようやく殺せる」
「ふざけるな!対戦相手を必ず殺すだと?人の命を何だと思ってるんだ!貴様のような身勝手な奴は、絶対に許さない」

悟飯はヒサッツの言葉に怒った。ヒサッツもまた、悟飯の正義感に虫唾が走った。悟飯とヒサッツの己の信念をかけた戦いの火蓋は、切って落とされようとしていた。

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