「これは、フリーザの息子の一人から聞いた話だがな・・・」
こう前置きしてから、悟空は話し始めた。
「両親が異なる種族の間に生まれた子供、いわゆる混血児は時折、親を遥かに上回る力を持つ事があるんだ。サイヤ人と地球人の間に生まれた、おめえ達が正にその例だ」
悟空はそう言って悟飯達を見回した。次にピッコロが話を続けた。
「それを利用して力を付けていったのがフリーザの一族だ。元はサイヤ人よりも遥かに力が劣っていたらしいが、代を重ねる毎により強い者が生まれ、遂にはフリーザの様な化け物が誕生するまでになった。ただし、混血児が必ずしも親より優れているとは限らない。その逆の場合もありうる。親より優れているかどうかは、成長してからでないと分からない。そのため、奴等は多くの種類の異星人との間に子供を作るそうだ」
子供を多く作り、その中で一番強い者が親の跡を継ぐ。それを繰り返す事で、代を重ねる毎にフリーザの一族は強くなっていった。
「フリーザもまた、征服した星に住む女性との間に次々と子供を作ったそうだ。そして、その子供達は一部の幹部しか知らない秘密の場所に集められ、厳しく鍛えられた」「秘密の場所か・・・。どうりで俺ですらフリーザに子供がいた事を知らなかったわけか。あの野郎、ああ見えて結構女好きだったわけか」
べジータが話を茶化した後で、今度は悟空が話を再開した。
「フリーザの子供達の中で、最も優秀な者がフリーザの跡を継ぐはずだった。選ばれなかった者も、裕福な生活が約束されていた。でも、オラがフリーザを倒したせいで、その子供達の人生は一変した。フリーザに恨みを抱く者達が、大挙して惑星フリーザに攻めてきた。フリーザは宇宙中から恨みを買っていたからな。そして、惑星フリーザに残っていた兵士達は、逃げるか殺された」
フリーザは部下を使って多くの星を滅ぼしてきた。住んでいる星を滅ぼされ、命からがら逃げ延びた者達は、フリーザ達に深い恨みを抱いた。フリーザへの復讐は、フリーザ自身が強過ぎるから無理でも、せめてフリーザに関連する者達に恨みを晴らしたい。そう思う者達が、フリーザの死を知ると、徒党を組んで惑星フリーザを攻めた。フリーザ軍の兵士達は、トップを失い動揺していたので、ろくに抵抗も出来なかった。
「惑星フリーザを攻めた者達は、フリーザの子供達の存在を知り、探し出して襲い掛かったんだ。多くの子供達が殺され、命からがら逃げ延びた子供達は、自分達がこんな目に遭ったのはオラのせいだと思い、オラを憎んだ・・・」
悟空が言葉に詰まった所で、ピッコロが話を続けた。
「逃げ延びたフリーザの子供達は、孫に復讐するため長い年月を掛けて修行し、俺達のドラゴンボール集めの最中に次々と襲い掛かってきた。ある者は正面から堂々と、またある者は奇襲を仕掛けてきた。まあ、手こずりはしたものの、全員返り討ちにしたがな。そいつ等の相手をしていたせいで、ボール集めに随分時間が掛かってしまった」
「だから二回のドラゴンボール集めに三年も掛かったのね」
生き残ったフリーザの子供達は、打倒悟空を目標に修行していただけあって、誰もが強敵だった。悟空とピッコロは、何度も死線を越えてきた。とてもドラゴンボール集めに専念出来る環境ではなかった。
「フリーザの子供達が、幾ら父さんを憎んでいたと言っても、それって只の逆恨みじゃないですか。悪いのは、方々から恨みを買っていたフリーザ一味ですよ」
「パパの言う通りよ。逃げきれずに殺された子供達だって、元はと言えばフリーザって奴の悪事が原因であって、お爺ちゃんは少しも悪くないよ。どうせ生きてたって、ろくな事しないに決まってるし」
悟飯とパンは悟空を気遣い、励ましの言葉を掛けた。
「サンキュー、二人とも。でも、まだ話は終わってねえ。オラ達が倒したフリーザの子供の一人が、死ぬ間際に言ってたんだ。『幾ら貴様でも、レードには勝てない。レードは俺達兄弟の中で、ずば抜けた才能を持つ天才だ。もし親父が生きていたら、間違いなくレードを後継者に選んでいたはずだ』ってな」
フリーザの子供達の強さを知る悟空とピッコロは、子供達の中で一番強いと言われているレードが、とてつもない強敵になると確信していた。だからこそ、武道会の申し込み締め切りの直前まで修行しておきたかった。
「そうか!それで悟空さん達は、レードを知っていたわけですね」
「と言う事は、レードが宇宙一武道会を開いた真の目的は、悟空さんや仲間である俺達を誘きだし、試合で一人ずつ殺すためか」
「そうなると、あの過剰な接待も、俺達を油断させるための罠だったという事か」
ウーブ、トランクス、そして悟天が、悟空とピッコロの話を聞き、今の自分達が危険な状況にあると思った。そして、当然の如くべジータは立腹した。
「レードの正体が分かった以上、奴をこのまま生かしておくわけにはいかん!」
べジータはそう言って、一人飛び立とうとした。しかし、悟空が彼を呼び止めた。
「何処行くつもりだ?まさか、これからレードの所に行くつもりじゃねえだろうな?」
「そのまさかに決まっているだろう!レードの正体がハッキリした以上、このまま放っておけるか!レードに会って、ぶっ殺してやる!」
「そんな事しなくても、レードとは武道会で決着を付ければいいじゃねえか。レードも出場するって言ってたし」
レードとは武道会で決着を付けようという悟空の主張に、べジータは激怒した。
「相変わらず甘いんだよ、貴様は!いいか、よく聞け!これはレードが主催する武道会だぞ!俺達が不利になるように、様々な罠が仕掛けられているに決まっているだろう!それで、まともにレードと決着が付けられると思っているのか!?」
「例え罠が仕掛けられているとしても、今レードを殺しちまったら、武道会が中止になっちまうぞ!そうしたら、オラ達の決着だって付けらんなくなるぞ!」
悟空は自分との試合を餌に、ベジータを何とか思い止まらせようとした。
「貴様が戻ってきた以上、別にここでなくても、けりを付ける事は出来る。それよりも、このまま武道会に出場していたら、俺達全員の命が危ないんだ!その事を分かっているのか!?」
悟空とべジータの言い争いは、中々終わりそうになかった。久々に会えたライバルと、こんな事で争いたくないのは両者共通の思いだが、お互い後には引けなかった。悟飯達は双方に気を遣い、この有様を黙って見ている事しか出来なかったが、部外者のレジックが二人の間に割って入った。
「いい加減にしろ、二人とも!これからレードと戦っていこうという時に、味方同士で対立してどうする!?この状況を一番喜ぶのが、他ならぬレードだという事が分からんのか!?」
レジックに説得され、悟空とべジータは双方とも押し黙った。二人が沈黙したのを見て、トランクスが後に続いた。
「レジックの言う通りですよ。それよりも、そんなにレードが気になるんでしたら、これから皆でレードに会いに行きませんか?」
トランクスの提案に唖然とする一同。そんな彼等を、トランクスは気にせずに話を続けた。
「レードに直接会って話を聞けば、奴の事も少しは分かるんじゃないですか?それから今後どうするか決めましょうよ。それに皆で行けば、危険も少ないでしょう」
「ふん、いいだろう。このまま言い争うよりはましだ」
まずべジータが同意し、続いて悟空、悟飯がトランクスの案に賛成した。しかし、これから行くと言う案に、悟天が難色を示した。
「別に今すぐ行かなくても、明日行けばいいんじゃない?今日は何時間も戦ったから、お腹すいちゃったよ」
「そういやそうだな。オラも腹減っちまった」
能天気な悟天の発言で、戦士達の緊張の糸が切れた。そして、少し離れた所で悟空達をホテルに送り届けるため、車を揃えて待っているリシパの所へ歩き出そうとした。しかし、一人歩こうとしないレジックに悟空が話し掛けた。
「そういや、レジック。おめえは何処に泊まってるんだ?」
「恥ずかしい話だが、ホテルに泊まれるほどの金を持ち合わせていない。野宿だ。出来ればお前達に付いて行って、食事だけでもご馳走になりたいんだが」
「水くせえな。食事だけなんて言わず、オラ達の仲間という事にすりゃ、ただでホテルに泊まれるぞ」
金が無くて困っていたレジックに、断る理由は無かった。こうしてレジックを伴った悟空達は、ホテルへの帰途に着いた。なお、リシパは悟空達が予選を戦っている間はおろか、その後の話し合いの時も、悟空達の邪魔にならない様に離れた所で待機していたため、悟空達の話を聞いていなかった。
ホテルに戻った後、悟空達はレジックをブルマ達に紹介した。続いて、全員予選を通過したと話したが、それに対するブルマからの返事は、「おめでとう」だけだった。悟空達が予選を通過するのは、至極当然だと思っていたからである。
レジックを交えた食事会を終えた後、戦士達は悟空の部屋に集まり、明日の計画を立てた。レードの居場所は、彼から発せられる巨大な気で容易に分かる。レードと直接会って話し、場合によっては即座に戦いを挑み、退治する事で意見は一致した。更に、ブルマ達を心配させないために、黙って行く事まで話しあった。
こうして一日が過ぎていった。
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