其の六十一 再び魔界へ

悟空とベジータは、修行するという名目で何処かに飛び去り、それから戻ってこないまま夜を迎えた。ブルマやチチは、明日に再び魔界に出撃する戦士達を激励するために、ブルマの家で食事会を開いていた。しかし、会が始まっても悟空達は帰って来なかった。

「一体、悟空さ達は何処で何してるんだべ!?いつもは食事時になったら、真っ先に帰ってくるのに」
「全くよ!こっちは腕によりをかけて作ったのに。後で帰ってきて『おい!飯』なんて言っても、絶対に用意なんてしないわ!」

「あの二人が一緒に修行するとはな。一体どれぐらい強くなって帰ってくるのか、今から楽しみだ」
「でも、ピッコロさん。お父さん達は何時になったら帰ってくるつもりなんでしょう?今日中に帰ってこなければ、魔界行きは明後日以降にせざるを得ませんよ」

「あの二人、ひょっとして喧嘩なんてしてないだろうな?」
「ありうるぞ、クリリン!あの二人が仲良く修行なんて出来るはずがないからな。きっとベジータの奴、周りに人がいないのを良い事に、隙を見て悟空に襲い掛かっているに違いない。あいつは昔から油断ならない所があったからな。なにせ俺が目を離した隙に、ブルマに手を出すような奴だからな」

ヤムチャは周りの目を気にせず、ベジータの悪口をまくし立てた。しかし、ヤムチャの背後から低い声が聞こえてきた。

「そいつは悪かったな」

ヤムチャが恐る恐る後ろを振り向くと、そこには何時の間にか悟空とベジータが立っていた。ヤムチャの表情は一瞬で青ざめたが、ベジータはそれ以上ヤムチャを相手にせず、悟空と共に目の前の食事を頬張り始めた。

「特に変わった様子は見られないけど、二人の余裕は何だ?修行で何か掴んだのかな?」

食が進む悟空とベジータだが、その様子に悟飯達は違和感を感じていた。二人は修行前と何ら変わっていなさそうなのに、当の二人は一向に気にせず、美味しそうに馳走を食べ続けていたからである。

一通り食事が済んだ後、悟空は一変して真剣な表情で話し始めた。

「皆、聞いてくれ。オラ達は明日に再び魔界に乗り込む。七人のジュオウ親衛隊の内、既に半分以上を倒したわけだから、残った親衛隊は警戒し、どんな手を使ってでもオラ達を倒そうとするだろう。そこでベジータと話し合ったんだけど、残りの親衛隊に対し、こちらは全員で立ち向かうのではなく、少数精鋭で戦うべきだ。残る親衛隊は三人。だから、こちらもオラとベジータと悟飯の三人。つまり明日は、オラ達三人だけで魔界に行こうと思う」

悟空の発言は、皆に大きな衝撃を与えた。そして、トランクスと悟天は反論した。

「ちょっと待って下さい!俺達が役不足だとでも言いたいんですか!?確かに俺達は実力では悟空さん達に劣りますが、これまで共に戦い、それなりに活躍してきたじゃありませんか!」
「そうだよ、父さん!俺達がいなかったら勝てない戦いだって、あったじゃないか!父さん達二人で、どんな修行してきたのか知らないけど、幾らなんでも横暴だよ!」

今まで共に戦ってきたトランクス達が、悟空の案に素直に応じるはずがなかった。二人とも顔を真っ赤にして反論した。しかし、悟空は二人の意見を聞いた上で、二人を諭すように語り始めた。

「お前達が役不足だなんて、オラは思ってねえ。むしろ頼りに思っているぐらいだ。だからこそ地球に残ってもらいてえんだ。オラはベジータとの修行で誰にも負けない自信がついたし、悟飯だって以前に比べて強くなった。オラ達三人が共に戦えば、残りの親衛隊全員を同時に相手にしても勝てると思う。でも、万が一という事もある。もしオラ達が敗れても、お前達がいれば、いつか必ず親衛隊を倒せるだろうし、オラ達だって心置きなく戦える」

悟空に説得されて黙り込むトランクス達だったが、今度はウーブが嚙みついた。

「悟空さんの言いたい事は分かりますけど、だからと言って悟空さん達だけ戦わせて自分は地球に残るなんて出来ません。お願いします!俺も連れて行って下さい!」
「ウーブ。お前の気持ちは分からないでもねえが・・・」

ウーブの熱意に困惑する悟空だったが、意外にもパンが助け舟を出した。

「お爺ちゃん達だけで魔界に行くの、私は賛成だな。私達がいても助けになるどころか、むしろ邪魔になる時だってあるもの」

悟空の提案に真っ先に反対しそうなパンが、逆に賛成した事に、一同驚いてパンの顔を覗き込んだ。

「パンちゃん。君がそんな事を言うなんて、一体どうしたんだい?」
「パパとヒサッツとの戦いで、私は人質にされてしまい、パパを危険な目に遭わせてしまった。もしあの場に私がいなければ、パパはもっと楽に勝てた。この先ジュオウ親衛隊との戦いでも同じ様に人質にされるぐらいなら、私は地球に残るわ。その方がパパも思いっきり戦える」

パンは人質にされて父親をピンチに陥れた事に罪悪感を抱いていた。この先、自分がすべき事は、出しゃばって足を引っ張るよりも、味方の邪魔にならないようにする事だと考えた。そして、手強いジュオウ親衛隊を相手に無理して自分の出番を探そうとするよりも、戦場に赴かず、遠くで悟空達の勝利を祈る方が良策という結論に達していた。

「その代わり一つ約束して。三人とも必ず無事に地球に帰ってきて」
「分かった。約束する」

パンの苦渋の決断は、ウーブの熱意をも冷ましていた。ゴジータや悟飯の実力は、他の戦士達と大きく離れている。この二人が共に戦っても苦戦する様な敵がいれば、ウーブの実力では到底歯が立たない所か、ゴジータ達の足を引っ張る危険性すらある。一番若いパンですら邪魔にならない様に身を引こうとしているのに、年長の自分が我儘を言って彼等に付いて行こうとするのは、余りにも大人気ない行為に思えてきた。そして、これ以上ウーブは何も言わなかった。

これ以降、悟空の提案に反論する者は出ず、魔界に遠征するメンバーは悟空・悟飯・ベジータの三名に決定した。

「話は変わりますが、明日どうやって魔界に行きますか?魔界の門がある惑星パーシタは遠過ぎますし、お父さんの瞬間移動で直接魔界には行けません」
「それについては考えてある。シーガ達が言ってたろ?この世界と魔界を行き来する門は、たくさんあるって。そこで、お前が界王神様にパワーアップしてもらっている間に、地球にも魔界への門があるか、占いババに探してもらったんだ。そしたら、あったんだよ。明日そこから魔界に行く」

次の日、悟空達三名とレーダー代わりのギルは、ドラゴンボールを持って、悟空が言っていた魔界の門の前に来た。ピッコロ達も見送りに門の前まで来ていた。悟空が門の前に立って門を見上げると、何故か懐かしい印象を覚えた。

「変だな?以前にも一度ここに来た事があるような・・・。ま、いいか」

門は硬く閉ざされていたが、悟空の力で容易に開いた。

「それじゃ行って来る。もしかしたら親衛隊が地球に攻めてくるかもしんねえから、オラ達がいない間、地球を守ってくれよ」
「分かった。安心して行って来い」

「ブラ。俺がいない間に、勝手にボーイフレンドなど作るなよ」
「はいはい。どうせパパより強くなければ、ボーイフレンドに認めないんでしょ?そんなのいるわけないじゃない!ボーイフレンドを作ってほしくなければ、無事に帰ってきて、しっかり監視するのね」

「ギル。お爺ちゃん達の足を引っ張らないようにね」
「ギルルルル・・・。パン、ヤサシイ」

「よいな、悟飯。パワーアップ中に話した通り、残り三人の親衛隊は、どれも恐ろしい奴ばかりじゃ。強くなったからといって、くれぐれも油断するでないぞ」
「はい!界王神様。色々ありがとうございました」

会話を切り上げて、門の中に入っていく悟空達。パンやブラといった数人の仲間達は、彼等が見えなくなるまで声援を送り、悟空達は未練が残らない様に、一度も振り返らずに門の奥へと消えていった。

魔界へと通じる暗闇の中を歩く悟空達。再び訪れる魔界では、これまで以上の激戦が待ち構えていると彼等は感じずにいられなかった。

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