ドラゴンボールを目指して飛行していた悟空達三人は、ボールの反応がある星に到着した。すぐに悟空達は反応があった場所まで移動しようとしたが、見覚えある風景に啞然とした。
「あれ?ここってナメック星?何で魔界にナメック星があるんだ?」
「違いますよ、お父さん。ここはナメック星ではありませんよ。かなり似ていますけど」
「似ているなんてもんじゃない!景色といい、建物といい、何から何までナメック星とそっくりだ!どうなってやがるんだ!?」
悟空達は夢を見ている様な心地だったが、とりあえず近くにある集落まで飛んでいった。そして、その集落には肌の色以外はナメック星人と瓜二つの種族が生活していた。本来のナメック星人は緑色だが、彼等は黄土色だった。悟空達が彼等を見て驚いたのは言うまでもなかった。
悟空達は集落の中心に降り立った。ナメック星人に似た人達は、悟空達の登場に驚愕したが、一人の老人が先頭に立って悟空達に話し掛けてきた。
「何者じゃ?お前達は?」
「えーと、オラ達は、こことは違う世界の地球って星から来た・・・」
「も、もしや、そなた達は、ジュオウ親衛隊と戦っているという・・・」
「え!?何で爺ちゃん、そんな事を知ってんだ?」
悟空達がジュオウ親衛隊と戦っている事実を知ると、彼等の態度が一変した。先程までとは打って変わった歓喜の表情で、悟空達に親しげに近付いてきた。そして、老人は自分達の紹介を始めた。
「わし等はナツメグ人といい、代々魔界の長老を務めています。そのお陰で、魔界で起きた出来事は逐一わし等の耳に入ってきます。向こうの世界から来た者達がジュオウ親衛隊と戦い、一人ずつ倒していると聞き、皆で喜んでおりました。ようこそナツメグ星へ」
この時、悟空達は老界王神との会話で気になった事を思い出していた。過去の魔界にナメック星人の先祖がいたという事は、現在の魔界にナメック星人の遠い親戚がいるかもしれないと。そして、目の前に立つナツメグ人こそが、ナメック星人の遠い親戚であると悟空達は確信した。
「遥か太古の昔、欲深い者が魔界での覇権を握るためにカイという名の超獣を生み出し、そのせいで魔界は壊滅寸前にまで追い込まれました。しかし、ご先祖様がドラゴンボールを作り、カイを退治しました。その後、ご先祖様は魔界で再び争いを起こさぬように魔王という位を設け、魔界で一番強い者を魔王に任じました。そして、自分達は誰が魔王になるべきかを決める長老となったのです。ご先祖様は魔界を救った救世主として尊敬されていたため、皆これに従いました」
カイが出現する以前は、力のある者が魔界の支配を目指して軍を率い、魔界の各地で戦争が勃発していた。カイの出現で戦争が止まったが、カイの死後に何もしなければ、再び戦争が起こる事は目に見えていた。しかし、もしナツメグ人の先祖が自ら魔王になって魔界を統治しようとすれば、それを面白くないと思う者達が反発し、戦争を起こすかもしれなかった。そこでナツメグ人の先祖は、自ら魔王にならず、魔王を決める長老になった。
「わし等は長老の座を継いできました。わし等は長老として魔王となった者の行動を管理し、魔王の行き過ぎた行動を抑える務めもしてきました。どうして一番強い者が魔王になるかというと、単純で分かり易いからです。本当は上に立つ者は、別の方法で選ばれるべきでしょうが、それだと知能の低い大勢の魔族達が理解出来ません。大抵の魔族は生まれつき力が強い反面、知能が低いのです。わし等ナツメグ人は数少ない例外ですが」
動物の世界では、最も強いのが集団のボスになる。魔族の中には動物並みの知能しかない者もいるため、一番強い者がトップになるというのは、誰にでも分かりやすい制度だった。
「一番強い者が魔王になる制度は、長く魔界に定着しました。ところが、最近この制度に異を唱える者が現れました。しかも、あろう事か、わし等ナツメグ人の中からです。それこそがジュオウです。ジュオウは優れた魔術師で、知識も豊富でしたが、野心家でした。自分より優れた者はいないと信じ、『自分を魔王にしろ』と詰め寄りました。当然わし等は、その申し出を断りましたが、ジュオウは承服せず、親衛隊を使って暴力で魔界を支配しようとしたのです」
ナツメグ人はナメック星人のように穏やかな性格だが、他の魔族と関わる機会が多い故に、先代の地球の神の様に邪悪な心も持っていた。これまでにも魔王になりたいと願うナツメグ人がいないわけではなかったが、魔王になるだけの力が無かったため、大事には至らなかった。邪心と野望があり、ジュオウ親衛隊の様な化け物を生み出す力も併せ持ったジュオウの登場が、今回の騒動の引き金となった。
「へー、ジュオウってナツメグ人だったんだ。まだジュオウに会ってねえから知らなかった。それにしても、とんでもねえ奴だな。本来なら他のナツメグ人と同様に長老となるべきなのに、よりによって魔王になろうとするとはな。でも、よくあんた達は親衛隊に殺されずに済んだな。普通なら腹いせに、真っ先に命を狙われそうなのに」
外見だけでなく、強さにおいても、ナツメグ人はナメック星人と余り変わらなかった。もしナツメグ人達がジュオウ親衛隊に襲われたら、一溜まりもなかった。
「さすがのジュオウも、同じナツメグ人に手を掛けようとは思わなかったのでしょう。わし等の力では歯が立たず、親衛隊を倒せるドラゴンボールを作る事も出来ません。ご先祖様が作ったボールを使うにしても、何処にあるか知りませんから全部を集められません。七個の内の一個は、このナツメグ星にありますが、ご先祖様が超魔力を使って建てた封印の塔の中にあり、わし等では手が出せません。現在この星に来ている親衛隊の一人ボレィですら、ボールを手に入れられず、苦労しているようです」
ボレィの名前を聞くと、これまで黙って話を聞いていたベジータが敏感に反応した。
「ボレィだと!?ふふふ・・・。さっき話していた奴が、よりにもよって、この星に来ていたとはな。面白い。ボレィを倒し、ついでに奴が狙っているドラゴンボールも手に入れてやる」
ベジータの好戦的な態度に、ナツメグ人の長老は危機感を抱いた。
「ボレィを甘く見てはいけません!ボレィの力は親衛隊の中では下の方ですが、奴には超魔力があり、それを駆使して数々の高度な魔術を使う強敵です。その中で最も恐ろしいのは、死者の魂を呼び寄せる死者召喚術です。ボレィと戦う時は、奴が召喚した死者達と戦う事になるでしょう。そして、その死者達の中には前魔王ルーエもいるでしょう。ルーエは親衛隊に敗れたとはいえ、その実力は親衛隊に匹敵する程です」
ナツメグ人の長老はベジータを窘めようとしたが、それは焼け石に水どころか、火に油を注ぐ結果となってしまった。
「面白え。前魔王がどれぐらい強いのか試してやる。それに敵はボレィやルーエの他にもいるようだ。オラ、わくわくしてきたぞ」
長老は悟空達の態度に呆然とした。悟空達の物怖じしない姿勢には頼もしく思えたが、緊張感の無さには不安を覚えた。
居ても立ってもいられなくなった悟空は、ナツメグ人の集落を飛び出し、レーダーでドラゴンボールの位置を確認し、封印の塔を目指して飛び立った。ベジータや悟飯も悟空の後を追いかけて飛び立った。
その悟空達の様子を、水晶玉を通して見ている人物がいた。封印の塔の中にいるボレィである。ボレィは悟空達を見、ほくそ笑んだ。
「こいつ等だな。ジュオウ親衛隊に歯向かう連中は。後少しで封印が完全に解けるというのに、余計な邪魔をしおって。確かに各人が凄まじい力の持ち主だが、どんなに強くても必ず上には上がいるものだ。こいつ等以上の強さを持っている死者を召喚すれば、それで片付く話だ。僕の自慢のゴースト戦士達の実力を思い知るがいい。ひっひっひ・・・」
ジュオウは既に残り三人の親衛隊に、テレパシーで悟空達の事に関して知りうる限りの情報を伝えていた。しかし、ボレィは悟空達の事を知っても、特に警戒していなかった。自分の自慢のゴースト戦士達に全幅の信頼を寄せていたからであった。
飛行を続ける悟空達の前方に、白い光を放つ細長い建造物が見えてきた。それが封印の塔であると悟空達は悟り、手前で降り立って目の前の塔を見上げた。白く光る石を積んで建てられた塔は、大昔の建物のはずなのに、損傷一つ確認出来なかった。超魔力で造られた物は、作成者が死んでも存在し続けるという老界王神の言葉を悟空達は思い出していた。
塔を見上げた後、悟空達は正面にある入り口から塔の内部に入った。塔の中は明るく、視界に困らなかった。そして、塔の一階には揃いの制服を着たボレィの兵士達が二十人ほど待ち構えていて、悟空達の姿を確認すると一斉に襲い掛かってきたが、悟空達が全員を返り討ちにするのに五秒も掛からなかった。続けて悟空達は、部屋の脇にあった階段を使って二階に上がった。悟空達が二階に上がると、何処からともなく声が聞こえてきた。
「封印の塔にようこそ。さすが親衛隊を四人も倒したというだけあって、あの程度の兵士では相手にもならなかったようだね」
「お前がボレィだな?何処にいる?出て来い!」
「ひっひっひっ。僕の事を知っていたとは光栄だな。僕は塔の上階にいる。僕に会いたければ、各階にいるゴースト戦士達を倒して上がって来い」
悟空達三人はボレィとの会話が終わると、じゃんけんを始めた。今回は敵が多そうなので、戦う順番を決めるためであった。
「よし!まずはオラからだ!二人とも、絶対に手を出すなよ!」
悟飯とベジータは、悟空の戦いの邪魔にならないように部屋の隅に移動した。そして、準備運動して待ち構える悟空の前に煙が立ち込め、その煙の中から一人の戦士が現れた。黒い兜を被っているため素顔は見えないが、悟空が今まで感じた事がないほど不気味な気を発していた。
「こいつがゴースト戦士か・・・。確かに只者じゃなさそうだな。よっしゃー、かかって来い!」
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