其の六十五 カラフルな奥義

四人のルーエは、各々が手の平を合わせて念じ始めた。すると、ルーエ達の肌が、それぞれ別の色に変化した。一人目は赤、二人目は青、三人目は黄色、四人目は白に変色した。悟空達が驚いたのは、言うまでもなかった。

変色が終わった四人のルーエ達の内、白以外の三人が悟空に対して飛び掛かってきた。まず黄色のルーエが、先頭に立って向かってきた。悟空は迎撃しようと待ち構えたが、黄色のルーエは、突如として悟空の視界から消えた。実は黄色のルーエは、高速スピードで天井高く飛び上がっていた。ただし、スピードが先程までと比べて段違いに速く、それに驚いた悟空は、思わず動きが止まってしまった。

悟空の一瞬の隙を突き、今度は赤のルーエが突っ込んできた。そして、悟空の腹部に重い一撃を浴びせた。悟空の表情は歪んだが、すぐに赤のルーエに反撃しようとした。しかし、両者の間に青のルーエが割って入り、青のルーエが身代わりに悟空の攻撃を受けた。ところが、青のルーエは悟空の一撃を受けても、平然な顔をしていた。

「ど、どうなってんだ!?黄色のルーエは、とんでもなく速かったし、赤のルーエは、物凄く強かった。青のルーエは、俺の攻撃が通じていないみたいだ」
「驚いたか?この技は、色に応じて強さのパラメーターが変わる。黄色はスピード、赤は攻撃力、青は耐久力が、それぞれ上がる。これぞ三つ目人最大奥義の変色拳。お前は終わりだ」

再びルーエ達三人が、悟空に襲い掛かった。黄色のルーエがスピードで悟空を攪乱し、その間に赤のルーエが悟空を攻撃し、青のルーエは二人の盾になるという役割分担で、それぞれ悟空に立ち向かった。

ところが、悟空も底力を発揮して攻勢に転じた。盾となって悟空の攻撃を受け続けた青のルーエは、ダメージが蓄積されて動きが鈍ってきた。そして、悟空は赤のルーエに攻撃した。防御力が技を出す前と変わっていなかった赤のルーエは、悟空の一撃で大きなダメージを受け、腹を抱えて身悶えた。そして、赤のルーエを心配した黄色のルーエは、動きが止まってしまった。悟空は機を逃さず、黄色のルーエにも攻撃した。

青のルーエが片膝を付き、赤と黄色のルーエが床に倒れた。悟空は残る白のルーエに目を向けた。

「お前は何をしているんだ?どうして三人が戦っているのに、お前だけ戦わないんだ?」
「ふっ。生憎だが、俺の担当は戦闘ではなく治療だ。ようやく俺の出番が巡って来たようだな」

白のルーエは他の三人に向けて、それぞれ白い気弾を放った。すると気弾を浴びた三人のルーエ達は、まるで何事も無かったかのように立ち上がった。何と三人のルーエ達は、完全回復していた。

「残念だったな。白になると戦闘能力が落ちる代わりに、治癒能力が備わる。他の三人は敵と戦い、傷ついた時は、こうして俺が回復してやるのだ」
「という事は、今までの俺の攻撃は、全て無駄になったわけか・・・」

悟空に落胆の色は無かった。むしろ、まだ戦いを続けられる事に喜びを感じていた。

「白のルーエが回復役と分かれば話は早い。だったら、白のルーエから倒せば良いんだ!」

悟空は白のルーエに向かっていったが、黄色のルーエが先回りして悟空の前に立ち塞がった。悟空の進行が止まると、赤のルーエが悟空の背中に体当たりした。悟空はその衝撃で吹っ飛ばされたが、すぐに立ち上がった。

「あいててて・・・。そう簡単に攻撃させてくれそうもないな。このまま戦い続けても、エネルギーを消耗し、いつか敗れるだろう」

もはや超サイヤ人2では勝算が無いと判断した悟空は、一気に超サイヤ人4に変身した。

「今まで本気じゃなくて、悪かったな。お前の実力を試していたんだ。流石は元魔王だ。ジュオウ親衛隊に殺されたのが惜しまれるな」
「ジュオウ親衛隊だと?お前は何を言っているんだ?」
「知らなくて良い。知っても辛いだけだからな。今は俺を倒す事だけに全力を注げ」

悟空は記憶を失った悲劇の王に同情した。そして、ルーエ達に悠然と飛び掛かった。超サイヤ人4に変身した悟空は、一回の攻撃で青のルーエでも大ダメージを受けるほど強かった。黄色のルーエのスピードでも、悟空の攻撃を避ける事は出来なかった。そして、悟空の攻撃を受ける度に、三人のルーエ達は白のルーエに回復してもらわざるを得ないほどダメージを負った。

白のルーエは、他の三人のルーエ達が傷づく度に彼等を回復してきたが、やがて回復のし過ぎで白のルーエは体力を消耗し、傷ついた他のルーエ達の回復が出来ずに力尽きて片膝を付いてしまった。そして、悟空が攻撃を止めた時、四人のルーエ達は一人として立っていられないほど疲弊していた。

「ここまでのようだな。それとも、まだ他の色に変化するのか?」

悟空は超サイヤ人4になって以降、一度も攻撃を受けなかった。ルーエ達は圧倒的な実力差のある悟空に対抗するため、最後の手段に打って出る事にした。ルーエ達は四人とも気力を振り絞って立ち上がり、手の平を合わせて再び念じ始めた。すると、ルーエ達は四人とも真っ黒に変化した。それと同時に、四人から巨大な気が感じられた。

黒になった四人のルーエ達は、一斉に悟空に襲い掛かった。四人とも更にスピードが増し、攻撃力も上昇していたが、今までとは違って奇声を発しながら、無我夢中で悟空に攻撃していった。悟空から反撃を受けても、それに怯まず悟空に向かっていった。明らかに今までとは様子が違っていた。

「黒のルーエは、戦闘に必要な全ての能力が上昇する代わりに、理性を失い獣と化すようだ。カカロットを倒すためとはいえ、人の心を捨てるとは・・・。敵ながら見上げた奴だ」

ベジータが思わず感心するほど、今のルーエ達は強かった。悟空は迫り来るルーエ達に対抗するため、全力で立ち向かった。しかし、悟空の実力を持ってしても、決して有利な展開にはならなかった。今のルーエは、一人一人がパワーもスピードも悟空と大差なかった。そんなのが四人もいるのである。苦戦するのは自明の理であった。

次々と攻撃を仕掛けてくるルーエ達に、悟空は段々と押されてきた。しかし、優勢のルーエ達は無理をしているようで、攻撃を受けていないのに吐血する者も中にはいたが、それでも誰一人として戦いを止めようとはしなかった。実は三つ目人が黒になると、本人の限界以上に戦闘能力を高めるため、体への負担が非常に大きかった。そのため、黒になる事は、三つ目人の間で禁じ手とされていた。

ますます劣勢へと追い込まれる悟空だったが、決して勝負を諦めてはいなかった。ルーエ達一人一人の動きを見計らい、機会を窺っていた。そして、動き回る悟空を追ってルーエ達が一列に重なった時、悟空は待ってましたとばかりに、必殺の龍拳を放った。龍拳は先頭のルーエに命中し、その背後にいた他のルーエ達の腹部を次々と貫いた。この攻撃でルーエ達は四人とも戦闘不能となり、悟空とルーエの戦いは決着の時を迎えた。

致命傷を負ったルーエは、四身の拳も変色拳も解けて元の一人の人間に戻り、仰向けに倒れた。悟空は倒れているルーエの側まで歩み寄った。

「見事だ・・・。お前ほどの男に敗れたのなら悔いはない。一年前にジュオウの造った悪魔達に殺された時は無念でしかなかったが、今は晴れやかな気分だ。お前に敗れた俺は、二度と召喚される事はあるまい。ようやく眠りにつける」
「お、お前、ひょっとして記憶が戻ったのか?」

ルーエは頷いた。ルーエはボレィの魔術により、一時的に復活した。そして、ボレィの命令に忠実に従うよう、必要最小限の記憶以外は、全て魔術で封印されていた。しかし、戦いに敗れた今、その記憶を封印し続ける必要はない。再び死を迎えるルーエは、全てを思い出していた。

「お前を見込んで一つ頼みがある。魔界の何処かにいる弟のリマを探し、魔王になるよう説得してくれないか?あいつは俺以上の才能の持ち主だ。長老達も、あいつの事を魔王として認めてくれるはずだ・・・。頼む」
「分かった。もし会う事が出来たら、お前の言葉を伝える」
「良かった・・・。これで安心して死ねる」

ルーエは微かに微笑み、静かに消えていった。ボレィに復元された肉体は無くなり、魂が再び死後の世界へ戻った。そして、ルーエが消えていく様を、ボレィは水晶玉を通して苦々しく見つめていた。

「ふん。幾ら魔王といっても、所詮、僕達ジュオウ親衛隊に敗れた奴だ。親衛隊を半分以上倒している奴等に勝てるとは思っていなかったが、たった一人に倒されるとはな・・・。使えない奴だ。だが、これからが本番だ。次の階のゴースト戦士は、ルーエの比ではないぞ」

ボレィは水晶玉も映る悟空達に対し、憎々しげに呟いた。

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