其の六十六 三度目の対戦

ルーエの亡霊を倒した悟空は、悟飯やベジータと共に封印の塔の三階へと進んだ。まだ三階には、ボレィが召喚したゴースト戦士は居なかったが、悟空達は今の内に四階へ上がろうとはせず、律儀にも敵の出現を待った。

「さーて、次は俺の番だ。俺を本気にさせてくれるゴースト戦士が出てくればいいけど・・・」
「気合が入ってるな、悟飯。ボレィの奴、悟飯の強さを知ったら、ビックリするだろうな」
「ふん。悟飯と戦う羽目になった敵が気の毒だ。実力差を補うため、俺とカカロットの二人が敵に加勢してやろうか?」
「ちょっと、ベジータさん。酷いですよ、それ」

悟空達は声を上げて笑った。これから敵と戦うのに、彼等には緊張感が全く無かった。悟飯の実力を知ってるので、次の戦いは如何なる敵が登場しても、こちらの圧勝だと信じて疑わなかった。

やがて三階にも煙が立ち込め、ゴースト戦士が現れた。そして、そのゴースト戦士の顔を見た途端、悟空達の表情から笑みが消えた。ゴースト戦士は、一人ではなく四人もいた。それも、これまで倒してきたジュオウ親衛隊のカイブ、テキーム、ジフーミ、ヒサッツだった。

意外な敵の出現に驚く悟空達の元に、再びボレィの声が聞こえてきた。

「ひっひっひっ。流石に驚いたようだな。お前達が親衛隊を倒してきたといっても、所詮は一人ずつであろう。四人の親衛隊を一度に敵に回しても、お前達は勝てるかな?」

早くも勝ち誇るボレィだったが、この時、悟空達にもボレィにも予想だにしていない事が起こった。何と、カイブとジフーミが殴り合いを始めたのである。二人は互いを罵り合いながら、憎しみを込めて互いを殴り続けた。

「お前の事は、前から気に入らなかったんだ!ここにはジュオウ様が居ないから、思う存分お前を殴ってやる!覚悟しろ!」
「それは俺の台詞だ!俺を幾ら殴っても、効くわけねえだろ!そんな事も分からねえのか!だから、お前は親衛隊一の馬鹿なんだよ!」
「おのれー!言わせておけば!」

幾ら殴り合おうとも、一人は頑丈な体の持ち主で、もう一人は高速完全再生能力の持ち主。一向に決着が付きそうもなかった。その内、二人の喧嘩を止めようと、テキームが両者の間に割って入った。

「いい加減にしろ!二人とも!敵の前で喧嘩を始めおって!みっともないと思わないのか!私達は同士討ちをするためではなく、敵を倒すために召喚されたんだぞ!」

テキームに説得されて、カイブとジフーミの喧嘩は収まるかに思われたが、二人は怒りの矛先をテキームに向けた。

「誰かと思えば、テキームか!何だ!そのみっともない体は?お前が負けたと聞いた時は、おかしいと思ったが、ようやく納得した!そんな体にされたんじゃ、負けて当然だ!」
「偉そうに命令するんじゃねえ!お前が俺と対等だと思っているのか?俺から言わせれば、お前が実体化したら、単なる雑魚だ!邪魔だから引っ込んでろ!」
「な・・・何だと・・・」

喧嘩を止めに入ったテキームは、二人から罵倒されて、いきり立った。結局、テキームも喧嘩に加わり、互いが互いを激しく罵り合った。ヒサッツは一歩引き、腕を組んで静観していた。

「ジュオウ親衛隊同士の仲が、ここまで酷いとはな・・・。最初こいつ等が現れた時は、オラも戦わなくちゃいけないと思ったが、その必要は無さそうだ。下手すりゃ自滅だ。ちょっとガッカリだ」
「お父さん。この四人が意気投合して襲ってきても、全く問題ありません。カイブに髪の毛は無いし、テキームは実体化してるし、ヒサッツには尻尾が無い。どうやら四人は殺された時の状態で召喚されたようです。俺一人でも勝てます。カイブを倒すのに多少の時間は掛かると思いますが」

悟飯の自信に満ちた言葉を聞き、いがみ合っていた三人は喧嘩を止めて悟飯を睨んだ。

「俺達に勝てるだと!?舐めやがって。以前は油断したから負けたんだ!また勝てるなんて思うな!」
「ならば、試してみるか?こっちは俺一人が相手になってやる。四人まとめて掛かって来い」

悟飯の挑発に発奮したカイブとジフーミが、悟飯に飛び掛ろうとしたが、悟飯の実力を知るヒサッツが二人を止めに入った。

「よせ!孫悟飯の言ってる事は、決してハッタリではない!この男は本当に俺達四人を一度に敵に回しても、勝てるだけの実力がある。バラバラに戦ったのでは、とても勝ち目が無い。俺の指示通りに戦え。そうすれば勝てる」

ヒサッツの頭脳に一目を置いているジフーミは、彼の意見に渋々賛同しようとした。一方、カイブとテキームは、賛同するどころか、ヒサッツにも食って掛かった。

「少しジュオウ様に気に入られているからって、いい気になるんじゃねえ!何で俺が、お前に従わなくちゃいけないんだ!」
「ヒサッツ。お前、本気で言ってるのか?私達は一度は敗れたとはいえ、最強のジュオウ親衛隊だぞ。一人を相手に全員で戦うなんて、恥ずかしいと思わんのか?」

二人の反論を聞いたヒサッツは、何も言い返さずに目を閉じた。ヒサッツはボレィにより、自分が他の敗れた親衛隊と共に召喚される事を、予め分かっていた。反目し合う間柄とはいえ、共通の敵を目の前にすれば、他の三人も素直に自分に従うかもしれないと期待していたが、そうはならなかった。しかし、三人が従わないという結果も予想していた。そして、その時のための策も用意していた。

「ボレィ、聞こえてるか?あれをやってくれ」
「良いのか、ヒサッツ?あれを使えば、お前の魂は二度と元に戻らないぞ。それよりも、三人を意のままに操れるよう洗脳しようか?」
「駄目だ。あれでなければ孫悟飯は倒せない。もう構わないから、一思いにやってくれ。俺は戦うために造られた戦士だ。勝つために手段を選ばない」

ヒサッツの覚悟を受け止めたボレィは、水晶玉に手を当てて、何やら呪文を唱えた。すると、ヒサッツを除く三人の肉体が消滅して魂だけとなり、その三人の魂がヒサッツの体に吸収された。次の瞬間、ヒサッツの痩せ細った体が筋肉隆々となり、蛇の尻尾が生えた。それと同時に、ヒサッツの気が急上昇した。ヒサッツの変化に驚いた悟飯が、ヒサッツに尋ねた。

「ヒサッツ、何をした!?どうして貴様の体が変化したんだ?」
「ジフーミ達三人の魂を、俺の魂と融合させた。その結果、俺には三人の特性と戦闘能力が加わった。魂を自在に操れるボレィだからこそ出来る術だ。だが、そのボレィの力をもってしても、魂を再び分離する事は出来ない」

ボレィは術を使い、死後の世界を自由に行き来する事が出来た。ボレィはヒサッツ達四人が敗れた事をジュオウから聞かされた時、彼等を破った悟空達について詳しく知るため、頭脳明晰なヒサッツに話を聞きに行った。ただし、ボレィがヒサッツに会いに行ったとはいえ、この二人は仲が良かったわけではない。今まで話した事がないほど仲は険悪だった。しかし、勝利のためにボレィは私情を捨てた。

ボレィはヒサッツと会い、どうすれば悟空達を倒せるか二人で協議した。ヒサッツは自分と他の三人の親衛隊を、同時に召喚すべきだと力説した。そして、ヒサッツが三人を指示し、彼等を手足のように使って戦うか、ヒサッツに他の三人の魂を吸収させて戦うという提案をした。ボレィはヒサッツの一番目の案には賛成したが、二番目の案には難色を示した。しかし、ヒサッツの決意は揺るがなかった。

結局、二番目の案を採用して三人の魂と融合したヒサッツは、三人の戦闘能力が加算されて、大幅にパワーアップした。ジフーミの再生能力により、通常なら新しく生えるまで数日掛かるヒサッツの尻尾が即座に生えた。

嫌いな者達と魂を一つにし、二度と別れられない。それが、どれだけ耐え難い事か。また、ゴースト戦士が現世に戻っていられる時間は、限られている。たった一度の戦いのために、ヒサッツは己の全てを賭けた。この並々ならぬ覚悟に圧倒された悟飯は、額や背中に大量の汗を流していた。

「父さん。ベジータさん。後ろに下がっていて下さい。ここは危険ですから・・・」

もはや悟飯に余裕は微塵も残ってなかった。本気で戦わなければ、とても勝ち目は無い。いや、本気で戦っても勝てないかもしれない。悟飯は始めから全力で戦うつもりだった。

悟空とベジータが部屋の隅にまで退いた後、悟飯とヒサッツは同時に飛び掛かった。そして、部屋の中央で組み合った。悟飯とヒサッツの宿命の最終戦は、こうして幕を開けた。

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