悟飯とヒサッツは、手四つで力比べを行った。この勝負は悟飯に分があり、ヒサッツは悟飯に押されて両膝を曲げた。悟飯の優勢は続き、ヒサッツは床に背を付けるまで押し込まれた。ところが、ヒサッツは悟飯の腹部に自分の両足を絡ませ、締め上げた。悟飯は両手を離し、ヒサッツの顔面に殴りかかったが、ヒサッツは両手でガードして防いだ。ヒサッツは間髪入れず、悟飯の首を両手で握り締めた。悟飯はヒサッツの手首を掴み、力任せに振り解いた。
首が自由になった悟飯は、ヒサッツから一旦離れた。そして、一呼吸置いてから、ヒサッツに攻め掛かった。今度の悟飯は組み合いではなく、スピードを活かして四方八方からヒサッツを攻撃した。攻撃しては離れ、また近付いて攻撃するという悟飯のヒットアンドアウェイ戦法にヒサッツは付いて行けず、悟飯からの攻撃を受け続けた。しかし、ヒサッツは平然としていた。悟飯は攻撃を続けても効果なしとみて、再度ヒサッツから離れた。
「四人の力を合わせれば、実力で勝てると思ったが、それでも及ばなかったか。以前に戦った時に見せた力は、本気ではなかったという事か・・・」
「あの時は右胸に大怪我を負っていたから、力は急激に落ちていた。怒りでパワーは増していたが、減少した分を補うほどの力は出せなかった。今は怒っていないが、大きな怪我を負っていないから、それ以上の力を出せる」
二回目のヒサッツとの戦いの最中、悟飯は肺に届く程の深い傷を右胸に負った。そのため、幾ら悟飯が怒っても、通常時以上の力は出せなかった。
「ヒサッツ、貴様に聞いておきたい事がある。どうして貴様は嫌いな者達の力を取り入れてまで俺を倒そうとするんだ?何が何でも俺を倒したいのか?そんなに俺が憎いのか?」
悟飯の問いかけを聞くや否や、ヒサッツの表情が一変した。
「殺したいほど憎いに決まっているだろう!俺は生み出されてから一年ほどの命だったが、そのほとんどの時間を己の向上に割いていた。体を酷使し過ぎて痩せ細り、怒り以外の感情が消え失せた。全ては誰と戦っても負けない最強になるためだった。だが、お前は俺を上回り、俺を殺した。俺の苦労は徒労に終わった!絶対に許せるものか!お前を倒さない限り、俺は死んでも死にきれない!」
ヒサッツの目は憎悪に満ちていた。そんなヒサッツを、悟飯は冷ややかな眼差しで見返した。
「馬鹿は死ななきゃ治らないって言うけど、お前の腐った性根は死んでも治らなかったようだな」
「ほざけ!俺は勝っても負けても消滅する。どうせ死ぬのなら、俺の全てを賭け、お前を倒す。時間が限られているから、そろそろ本気で行かせてもらう」
「何だと!?今までのは本気じゃなかったとでも言うのか?」
「これまでは俺の力を試すためのウォーミングアップに過ぎん。次からが本領発揮だ」
ヒサッツは身構え、悟飯に攻め掛かった。悟飯はヒサッツの第一撃を避けると同時に、ヒサッツの側頭部に蹴りを見舞ったが、ヒサッツは怯まず攻撃を続けた。悟飯はヒサッツからの攻撃を全て避けると同時に、何回か攻撃を浴びせたが、ヒサッツの猛攻は止まる気配を見せなかった。自分の攻撃がヒサッツに効いていないと悟った悟飯は、一旦ヒサッツから距離を置こうとしたが、急に体が動かなくなり、その場に立ち止まった。
「か、体が動かない・・・。俺の体に何をした?ヒサッツ」
「金縛りだ。俺達は生まれつき超能力が備わっているが、出来る事はテレパシーぐらいだ。しかし、テキームだけは違う。テキームは数多くの超能力を使った攻撃が出来る。この金縛りも、その一つだ。とは言え、テキームは肝心の力が弱いから、お前達の動きを金縛りを使って封じる事など出来なかっただろうが、俺が使えば、この通り」
金縛りは自分より遥かに強い相手には通じない。三十年以上前、サイヤ人達が地球に襲来した際、餃子はナッパの動きを止める事は出来なかった。およそ二十年前の第二十五回天下一武道会で、界王神は悟飯の動きを止める事は出来たが、それ以上に強い相手なら無理だった。しかし、今のヒサッツと悟飯の戦闘力に大差なかったので、悟飯は動きを封じられた。
「貴様が身に付けた能力は、テキームの超能力だけではないはずだ。ジフーミから受け継いだ再生能力で、ダメージが即座に回復する。貴様を倒すには、気攻波で細胞一つ残さず消すぐらいだろうが、今の貴様は、カイブの強靭な肉体をも持ち合わせている」
「流石に見抜いていたか。今のお前では、俺を完全に消滅出来る力は無いはずだ。いや、楽観視は禁物だ。お前には、それだけの力があると想定し、それに用心せねばなるまい」
ヒサッツの恐ろしい所であるが、彼は戦いにおいて、どんなに有利な立場にいても、相手を決して見くびったりしない。常に神経を研ぎ澄まして相手の様子を窺い、勝利のために最も有効な方法を考えて実行する強かさがあった。そんなヒサッツが悟飯を侮るはずがなかった。ヒサッツはレパートリーが増えた特技の中から、最も少ないリスクで悟飯を倒す方法を考えていた。
突然、悟飯の体が本人の意思とは無関係に浮かび上がり、側面の壁に見えない力で叩きつけられた。それも一度ではなく、何度も繰り返して叩きつけられた。これもテキームの超能力の一つであるテレキネシスによるもので、悟飯は窮地に追い込まれた。
悟飯は壁に限らず、天井や床にも叩きつけられた。しかし、猛スピードで叩きつけられているにも拘らず、建物には傷一つ付かなかった。超魔力によって建てられた封印の塔は、長い年月を経ても原形を維持してきただけに、ちょっとやそっとの衝撃で傷がつくはずがなかった。
テレキネシスを使った攻撃に飽きたヒサッツは、悟飯を自分の目の前に連れてきた。悟飯の体は至る所が傷だらけだったが、闘志は全く衰えていなかった。体は動かないが、悟飯はヒサッツを睨み、目だけで戦っていた。
「流石にタフだな。今度は他人の技ではなく、自分自身の技を使うとするか」
ヒサッツは気を溜めると、動けない悟飯に向けて気攻波を放った。その気攻波は、波のような動きで床を這いながら進み、悟飯に襲い掛かった。
「波状波!」
ヒサッツの波状波は、悟飯の目前まで迫った。しかし、悟飯は間一髪で右側に滑り込み、波状波を避けた。何とかヒサッツの技を避けた悟飯は、ゆっくりと立ち上がった。悟飯は技が決まる直前に、金縛りから開放されていた。
「この俺の金縛りから自力で脱出したのか?孫悟飯の体に何があった?もしかして孫悟飯は、戦いながら強くなっているのか!?馬鹿な!そんな事は、有り得ない!」
悟飯の理解出来ない強さに、ヒサッツは一瞬たじろいだが、すぐに冷静さを取り戻した。
「流石は孫悟飯。そう簡単に勝たせてもらえる相手ではない。むしろ、そうでなくては、わざわざ魂を融合までした意味がない」
悟飯は呼吸を整えながら構え、ヒサッツに飛び掛かった。無闇に攻めるのは危険な相手だという事を、悟飯は重々承知だが、ヒサッツに主導権を握られるのは、もっと危険だと判断したからである。
悟飯は素早い動きでヒサッツを攪乱し、その間に気を最大限に高め、かめはめ波を放とうとした。ところが、悟飯はダメージのせいでスピードが鈍っていた。ヒサッツは多重残像拳で、逆に悟飯を攪乱し、悟飯の動きが止まると背後から思いっきり蹴飛ばした。蹴飛ばされた悟飯は、後方の壁に激突した。
悟飯の身を心配した悟空とベジータが、倒れている悟飯の元に駆け寄った。
「悟飯。あのヒサッツを相手に、一人で戦うのは無茶だ。オラとベジータが奴を足止めするから、その間に、おめえはフルパワーのかめはめ波を放て。それで勝てるかどうかは分からねえが、それ以外に勝つ方法はねえ」
悟空とベジータは、ヒサッツと向き合って構えたが、悟飯は二人の前に立って両腕を大きく広げ、介入を拒否した。
「絶対に手を出さないで下さい。や、やっと分かったんですよ。ジフーミのように完全消滅させなくても勝てる方法を・・・。どんなに凄い能力を身に付けようと、ヒサッツは所詮ヒサッツ。俺は奴の弱点を突けば良いんです」
攻守に渡り完璧なヒサッツだが、そのヒサッツの攻略法を見出したと主張する悟飯。幾度となく戦ってきた二人の完全決着の時は、まもなく訪れようとしていた。
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