其の六十八 完全決着

悟飯は悟空達の助太刀を断り、ヒサッツと向き合った。そんな悟飯を、ヒサッツは苦々しく睨んだ。

「俺の弱点を突くだと?馬鹿め!お前も知っての通り、俺は三人の親衛隊の魂と融合し、全てにおいて完璧な存在となった。俺に弱点など存在しない」

悟空と悟飯の会話が耳に入っていたヒサッツは、悟飯の発言を茶化した。

「貴様は三人の親衛隊の力を得て、多種多様な特技を身に付けたと調子に乗っているが、俺から言わせれば穴だらけだ。それに気付かない貴様は、本来の自分を見失っている。その穴を、これから一つずつ指摘してやる」

悟飯は語気を強め、解説を始めた。

「まずカイブが使った巨大化だが、広い屋外ならともかく、ここは塔の一室。もし巨大化すれば、天井が邪魔になって、身動きが取れなくなる。一方、俺は狙う的が大きくなって、貴様の弱点を突き易くなる。よって、巨大化は使えない」

カイブと戦った際、サイヤ人の巨大猿並みにカイブは大きくなった。今いる部屋の天井の高さは十メートル程しかないので、もしヒサッツが巨大化すれば、身を屈めなければならなかった。そんな状態では、まともに戦えるはずがなかった。

「次にテキームの邪気玉だが、これも使えない。何故なら、邪気玉は周囲の邪悪な気を集めて、それを凝縮して放つ技。しかし、ここは魔界で一番の平和主義者であるナツメグ人達が住むナツメグ星だ。代々、魔界の長老を務めてきた彼等は、争いを好まず、ジュオウ親衛隊ですら手出ししていない。そんな彼等が住む星で、俺を倒すどころか、ダメージを与える邪気玉すら作れるはずがない」

邪気玉は周囲に留まった、争いで生じた魔族の気を集めて放つ技。魔界の他の星でなら、それなりの邪気玉を作れる。しかし、ナツメグ星は周辺の星も含めて、長らく争いが起こっていないので、邪気玉を作るには不向きだった。

「続いて、ジフーミが行った分裂してのフュージョンだが、これは成功すれば俺に勝ち目は無いが、成功する確率は極めて低い。何故なら、貴様はカイブの魂とも融合して頑丈な体になったからだ。これは敵からの攻撃を防ぐ時には有効だが、自分の体を切断する時には邪魔になる。貴様が自分の体の一部を切り落とすのに手間取っている間、俺は速やかに妨害する。貴様が自分の体の一部を切り離すより先に、俺が妨害するのは至極簡単なはずだ」

カイブの体は、ピッコロの神魔光裂斬ですら切断出来ないほど硬かった。そのカイブの魂と融合した今のヒサッツでは、指一本すら素早く切断出来そうもなかった。

「仮に上手く俺の妨害を避け、分裂に成功しても、果たしてフュージョンが成功するかな?フュージョンのポーズの最中に少しでもタイミングが狂えば、フュージョンは失敗する。無論、貴様がフュージョンポーズをしている時も、俺は容赦なく妨害する。フュージョンが失敗すれば、合体前よりも力が落ちる。フュージョンしか打つ手が無いほど追い詰められているならともかく、今の貴様は、そこまで劣勢というわけではない。そんな状況下では、失敗するリスクの高いフュージョンを使えない」

悟飯の指摘は全て的を得ており、しかも一気にまくし立てる事で、ヒサッツに反論するタイミングを与えなかった。ヒサッツは歯軋りしながらも、黙って聞いていた。

「最後に貴様の尻尾だが、これは論より証拠。実際に俺に通じない所を見せてやろう」

悟飯はヒサッツの元まで歩み寄り、ヒサッツの眼前に左の拳を突き出した。

「さあ、その蛇に俺の拳を噛ませてみろ」

これにはヒサッツも、観戦している悟空達も仰天した。悟飯はヒサッツの腰の辺りまで拳を下ろし、蛇が噛みやすい位置にまで拳を動かした。

ここまで挑発されては、ヒサッツも悟飯の言う通りにせざるを得なかった。ヒサッツの尻尾の蛇は、悟飯の拳に勢いよく噛み付いた。しかし、蛇の牙は悟飯の拳に刺さらなかった。それどころか、蛇は固過ぎる物を噛んだせいで、口を開けて痺れていた。ヒサッツが再度驚いたのは、言うまでもなかった。

悟飯の大胆な行動を目撃した悟空とベジータは、ヒサッツに聞こえないように小声で話した。

「蛇の牙が悟飯の拳に刺さらなかったのは、悟飯が噛まれる瞬間に、拳に思いっきり力を入れたからだ。人間は体の一部分に力を込めると、そこは通常より固くなる。そして、悟飯が危険を冒してまで、あんな真似をしたのは、ヒサッツの尻尾を使えなくするためだ。ヒサッツの一番恐ろしいのは、あの尻尾だからな。しかも、今回は尻尾の蛇を殺しても、瞬時に再生するだろうから、尚更質が悪い。悟飯はヒサッツに蛇が通じないという先入観を持たせる事で、それを封じ込めたんだ」

ヒサッツの尻尾の蛇は、体が頑丈になって、ますます殺し難くなった。苦労して殺しても、すぐに再生するので意味が無い。そこで悟飯は、蛇を殺すのではなく、自分には通じないとヒサッツに思わせる事で、蛇を無力化させた。

「仮に読みが外れて蛇の牙が悟飯の拳を貫いても、悟飯は即座に自分の腕を切り落とし、全身に毒が回るのを回避したはずだ。片腕を失うリスクを背負ってでも、あの蛇を封じる事は、ヒサッツ打倒に不可欠だと悟飯は判断したんだろう。それにしても悟飯の奴、あのヒサッツを嵌めるとは、随分と恐ろしい戦士に成長したものだ。あのような戦術がトランクスにも出来るようになれば、俺は安心して引退出来るのだがな・・・」

一方、悟飯は騙されたヒサッツに対し、更に畳み掛けた。

「貴様の技で有効なのは、元々貴様が持っていた技とテキームの超能力ぐらいだろう。ジフーミの最終砲は、気を溜めるのに時間が掛かり過ぎるし、その間は隙だらけになる」
「このわずかな時間に、そこまで見抜くとは恐ろしい奴だ。だが、それで俺に勝てると思ったら、大間違いだ。お前は俺の弱点を突くと言っていたが、何処を攻撃しようと俺の体には通じない。お前が攻撃に疲れ果てて弱った時に、俺が反撃してやる」

ヒサッツは己の肉体を誇示した。そんなヒサッツを、悟飯は鼻で笑った。

「俺は既に貴様の攻略法を見つけた。無駄な攻撃はしない。全てを込めた一撃で貴様を倒す」

悟飯とヒサッツの激闘が再開された。悟飯は正面から突っ込むと見せかけて、ヒサッツの側面に回った。悟飯がヒサッツの側面に回ったのは、ヒサッツの超能力が正面にいる敵にしか発動しない事を見抜いての行動だった。ところが、悟飯はヒサッツに手を出さず、終始守勢に回った。しかも右腕を全く使わず、左腕と両膝だけでヒサッツの猛攻を防ごうとした。当然の事ながら、ヒサッツの攻撃を全て防ぐ事は出来ず、悟飯は立て続けに攻撃を喰らったが、それでも戦法を変えなかった。

疲れを知らないヒサッツの勢いは、更に増していった。一方の悟飯は、疲労とダメージのせいでスピードが鈍り、攻撃を受ける頻度が更に多くなっていった。そして、悟飯が堪らず片膝を付いた時、ヒサッツは渾身の一撃を喰らわそうと右腕を大きく上に上げた。しかし、ヒサッツの右の拳が悟飯に向けて振り下ろされる直前、悟飯は遂に反撃へと転じた。

「貫け!破砕拳!」

悟飯の右の拳が、ヒサッツの右胸を貫いた。実は悟飯は、ヒサッツとの交戦中、右の拳に気を集めていた。そして、ヒサッツの右胸に隙が出来るのを待ち、満を持して必殺の一撃を放った。ヒサッツの右胸の奥には心臓があり、悟飯は前回の対戦で、その事を知っていた。幾ら再生能力が備わったとはいえ、ヒサッツの体の構造までは変わらなかった。そして、ヒサッツの心臓はコアの役割も果たしていたので、潰れた心臓を再生させる事は出来なかった。

悟飯は息絶え絶えで倒れているヒサッツの元に歩み寄った。

「ど、どうして俺は、お前に勝てないんだ?今回は三人の親衛隊の魂と融合までしたのに・・・」
「貴様が幾ら策を巡らして戦っても、それは全て自分のため。だが、俺は自分のためでなく、貴様の様な悪党から人々を守るために戦う。だからこそ俺は自分の限界以上の力で戦えるんだ。もし生まれ変われたら、まず心を磨け。真の武道家は、心身共に鍛えるものだ」
「・・・そうか。俺は心で負けていたのか。ふっ、どうりで勝てないわけだ・・・」

ヒサッツは微かに笑った。それはヒサッツにとって、最初で最後の笑みだった。そして、ヒサッツの体は少しずつ消えていった。ヒサッツが完全に消えた後、悟空達は悟飯に近寄った。

「すげえじゃねえか、悟飯!ところで、ヒサッツを倒したパンチは、どういう技なんだ?」
「あれは破砕拳といって、全身の気を拳に集約し、一回のパンチに全てを託す技です。敵に近づかなければ使えないという弱点はありますが、決まれば通常のパンチの数倍の威力があるので、ヒサッツの体を貫けたのです」

気功波の類と違い、遠くから攻撃出来ないデメリットがある破砕拳だが、至近距離から狙いを定めて放つだけに、気功波よりも断然命中率が高かった。口では褒めていた悟空だが、「こいつが敵でなくて良かった」と内心では冷や冷やしていた。

その頃、塔の上階では、ボレィが苦々しく呟いていた。

「まさか親衛隊の力を結集したヒサッツを倒すとは・・・。それも、たった一人で。最早こいつ等を倒すには、親衛隊以上の力を持つ化け物しかおるまい」

悟空達を見るボレィの目が、怪しく光った。

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