苦労の末にヒサッツを倒した悟飯は、悟空やベジータと共に四階へと歩を進めた。そして、四階には一人の魔族が立っていた。背はクリリンと同じくらい低く、大きな目を持ち、右手にはドラゴンレーダー、左手には水晶玉が握られていた。その魔族がボレィだと悟空達は悟った。
「貴様がボレィだな。ようやく面を拝めたぜ。それにしても、やっと俺の出番が巡って来たというのに、こんな雑魚が相手とはな。一回でも攻撃すれば、それで勝負は付きそうだ。やれやれ、どうもジャンケンが弱いな、俺は」
「ふん、雑魚で悪かったな。僕だって並の魔族が相手なら、魔術を使わなくても勝てるんだぞ。お前達や他の親衛隊が、異常に強過ぎるんだ」
ボレィからは他の親衛隊に比べると、小さな気しか感じられなかった。相手の弱さに失望したベジータは、これから戦うというのに、やる気が全く出なかった。
「他にゴースト戦士は居ないのか?居るんだったら、さっさと出しやがれ。貴様を相手にするより遥かにましだ」
「ふん。そこまで言うんだったら、その期待に応えてやろう。とっておきのゴースト戦士で、今度こそ倒してやる。パッパラパーッ!」
ボレィが呪文を唱えると、悟空達は一瞬にして別の場所に移動させられた。そして、悟空達が飛ばされた場所は、淡い緑色の光を放つ大地以外は何も無い闇の世界だった。
「こ、これはもしや、以前バビディも使った術?しかし、ここは何処なんだ?」
「敵の姿が見えねえ。本当は、もうオラ達と戦えるゴースト戦士は残っていねえのか?」
「もしやボレィの奴、俺に勝てそうもないから、ここに俺達を閉じ込める気か?」
悟空達は大地から発せられる光を頼りに周囲を見渡し、出口を探した。その時、何処からともなく、ボレィの声が聞こえてきた。
「ひっひっひ・・・。そこは魔界でも、お前達の住む世界でもなく、僕が創ったパラレルワールドだ。気に入ったか?」
「ふざけるな!とっておきのゴースト戦士で俺達を倒すと豪語しておきながら、そんなのは存在しないから、俺達を閉じ込める気だろ!」
ベジータは空に向かい、怒気を含んだ声で叫んだ。
「このパラレルワールドに、お前達を永久に閉じ込められるなら、とっくにしている。お前達の力があれば、僕が何もしなくても、いずれ脱出するだろう。そこに、お前達を連れてきた本当の目的は、最強のゴースト戦士と戦わせるためだ。そいつは封印の塔には収まりきらないのでね。そいつに勝てたら、そこから出してやる。まあ、無理だと思うけどね」
悟空や悟飯の強さを目の当たりにしたボレィだが、彼の強気な姿勢は一向に変わらなかった。それだけ次に出てくるゴースト戦士に自信があるのだと悟空達は思った。
「これから戦うゴースト戦士を紹介しよう。それは魔界の昔話に登場するカイだ。魔界に伝わる伝説の超獣だが、お前達は知らないだろう」
「カイだと!?大昔に、魔界を壊滅寸前まで追い込み、ドラゴンボールで退治したという・・・」
「ほう、知っておったか。そうだ。そのカイだ」
悟空達は周囲を見渡したが、敵の姿が見えなかった。
「カイと言えば、星を食っちまったって聞いたぞ。それが本当の話なら、とてつもなく大きいんだろ?でも、ここには誰もいねえぞ。ひょっとして、まだ召喚してねえのか?」
「何を言ってるんだ?カイは、お前達の側に居るではないか。カイが余りにも大き過ぎて、その存在に気付いてないな」
悟空達は再び周囲を見渡したが、やはり敵の姿を確認出来なかった。しかし、この時、地面が大きく揺れ始めた。そして、遠くから大きな遠吠えが聞こえてきた。悟空達は一連の出来事に不気味さを感じ、誰が声を掛けるでもなく、三人揃って上空高く舞い上がり、これまで立っていた大地を見下ろした。その瞬間、三人の表情が凍りついた。
悟空達の視界に捉えたのは、巨大な生き物の背中だった。そして、先程まで彼等が立っていた緑色の大地だと思っていたものは、実は巨大な生き物の体を覆っている無数の鱗の内の一枚だった。彼等は、この巨大な生き物の全容を確かめるため、更に高く飛び上がったが、生き物が余りにも大き過ぎて全体像を認識出来なかった。
「で、でけえ・・・。地球より、ずっとでけえ・・・。こ、こいつが超獣カイ・・・。たまげた」
「ば、馬鹿な!?何で、こんな奴が存在したんだ!?幾ら何でも、大き過ぎだろ!」
「ど、どうやって、こんな奴を倒せばいいんだ?皆目見当が付かない」
カイは、かつて悟空が走り切るのに半年も掛かった蛇の道に匹敵する程の体長があった。しかも、カイは蛇の道の様な極細の体ではなく、体の幅も相当あった。実はカイは、造られた当時のトカゲの姿から、ほとんど変わらないまま、体だけが大きくなったのだが、悟空達はカイと近過ぎる距離に居たため、それを確かめる事が出来なかった。
これまで多種多様な敵と対決してきた悟空達も、ここまでインパクトがある敵と出会った事は、流石に無かった。悟空達の驚いた表情に満足したボレィは、彼等に対して得意気に語り始めた。
「カイは何でも食し、食べた物からエネルギーを吸収して強く、大きくなると伝えられている。その食欲は衰えを知らず、無限に成長を続ける究極の生物だ。お前達が幾ら強くても、この怪物には勝てまい。カイに食われて、奴の体の一部となれ!」
喜ぶボレィとは対照的に、天界で老界王神の水晶玉を通してカイの姿を見ていたピッコロ達は、誰一人として驚きを隠せなかった。悟空達の身を案じると同時に、何故カイが召喚出来たのか気になったピッコロは、老界王神に尋ねた。
「界王神様!カイは確か三億年も前に存在した伝説の超獣でしょう!どうして現代に召喚する事が出来たのですか?カイの魂が存在するという事は、奴は死んでから現代に至るまで、一度も生まれ変わらなかったのですか?生まれ変わる前には、必ず魂が浄化されるはずです!」
生物が死ねば魂は浄化され、別の生命体となって転生する。ルーエやヒサッツ達は、死んでから日が浅く、まだ魂が浄化されていなかったので、生前の姿で召喚された。しかし、カイは大昔に死んだので、とっくに魂は浄化されているはずとピッコロは思っていた。
「言い伝えによれば、カイは余りにも多くの魔族の命を奪った。その事が魔界の神々の逆鱗に触れ、カイの死後、奴の魂は二度と転生しないように、魔界の神々が住む神魔界の奥深くに封印されたそうじゃ。それが真実だとしたら、カイは三億年ぶりに自由を得て猛り狂うはずじゃ。まさか親衛隊の中では危険視していなかったボレィが、こんな大それた真似をするとは・・・。とんだ誤算じゃった」
これまで悟空達の勝利を信じて疑わなかったピッコロは、初めて不安に駆られた。そして、引き続き水晶玉の中のカイを見たが、そのカイが遂に行動を開始した。
カイにとって悟空達の体は小さ過ぎて視界に入らないが、カイは気を感じ取る事が出来た。力の弱い者の気は感知しないが、悟空達の気は、カイが感知出来るほど大きかった。そして、悟空達の存在に気付いたカイは、体の向きを変えて顔を悟空達に近付け、口を開けて襲い掛かった。カイは地球を二、三個丸呑み出来そうな大きな口を開けて迫ったが、悟空達は急いでカイから離れた。
悟空やベジータは、離れざまに気光波をカイの顔に向けて放った。気光波はカイの口の辺りに命中したが、分厚い鱗に覆われたカイの体には傷一つ付かなかった。今度は悟飯が気光波を放ち、カイの頬にある鱗の一枚に穴を空けた。カイは少し身悶えたが、悟飯の気分は憂鬱だった。
「あんな穴が空いたところで、人間の体に例えたら針が刺さった程度の傷だろう。とても倒すまでには至らない。一体、どうやったら倒せるんだ?」
悟飯の攻撃が通じたとはいえ、それはカイにとって微々たるものだった。しかし、悟飯の攻撃に腹を立てたカイは、左右の前脚をブンブン振り回して悟飯に殴り掛かった。単純な攻撃だが、悟飯は必死になって逃げ回った。規格外の体を持つカイの攻撃が当たれば、幾ら悟飯でも良くて重傷。当たり所が悪ければ一撃で即死である。しかも、カイのスピードは速く、最初は上手く逃げ回っていた悟飯だったが、遂にカイの攻撃が悟飯に当たってしまった。
悟飯は直前に防御して即死は免れたが、右腕の骨が粉々に打ち砕かれた。更に攻撃を加えようとするカイの魔の手が悟飯に迫り、悟飯は左手で右腕を押さえ、少しでも離れようと飛び立った。カイは逃げていく悟飯を追いかけた。
「くそ・・・。パワーが違い過ぎる。何か打つ手は無いのか?」
取り残された形となった悟空とベジータは、慌てて話し合った。
「まずいぞ!悟飯はヒサッツと戦ったばかりで、体力を消耗している。とても逃げ切れねえ。早く何とかしないと、悟飯が殺されちまうぞ!」
「しかし、あんな化け物を相手に、俺達の攻撃が通じるとは思えん。カイを倒すには、あれをやるしかない。もはや一刻の猶予も無いぞ!カカロット!」
絶体絶命のピンチから切り抜けるため、悟空とベジータは、ある行動をする決意を固めた。
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