ボレィを倒したベジータは、封印の塔の最上階である五階に上がった。そこにはドラゴンボールが奉られた祭壇と、文字が刻まれている石版以外は何も無い部屋だった。
「ボレィが言っていた障壁とやらが見当たらんが・・・まあいい。ドラゴンボールを手に入れて、こんな所は、さっさと退散するか」
ベジータは祭壇へと歩を進めた。ところが、見えない障害物に当たり、行く手を遮られた。
「これは・・・。見えないが、ここに確かに壁がある。これが障壁か」
ベジータは空間に手を当て、目の前に部屋を二分する壁がある事を確認した。過去のナツメグ人が、ドラゴンボールを封印するために設置した見えない壁は、例の如く超魔力で造られたものだった。
「ふん。こんな物、一撃で破壊してやる」
ベジータは壁を殴ったが、壁は崩れるどころか微動だにしなかった。続けて何回か殴ってみたが、やはり壁を打ち砕けなかった。段々と頭に来たベジータは、超サイヤ人4になって渾身の力を込めて殴ったが、やはり壁は壊れず、逆にベジータが拳を痛める羽目になった。
「何て壁だ!どうやってボレィの奴は、こんな壁を四つも打ち破ったんだ!?おそらく何か魔術を使ったんだろうが、それにしても、ここまで頑丈な壁は初めてだ。おそらく、この星が爆発しても、この壁は無事だろう・・・。くそったれが!」
完全に頭に来たべジータは、壁に向けてビッグバンアタックを放った。ビッグバンアタックが壁に当たった後、凄まじい轟音が鳴り響き、塔を激しく揺らしたが、それでも壁を破壊出来なかった。しかし、ベジータがビッグバンアタックの当たった箇所を触ってみると、壁は微かに凹んでいた。
「ビッグバンアタックで、この程度か・・・。止むを得ん。あれを使うしか無さそうだな」
ベジータはジフーミ戦で使ったファイナルビッグバンを放った。ファイナルビッグバンが壁に当たると、先程の数倍の轟音が鳴り響いて激震が起き、遂に壁を破壊した。変身を解いたベジータは、壁の奥に飾ってあったドラゴンボールと、その側にあった石板を手にして下の階に降りた。そこでは孫親子がベジータを待っていた。
「さっきのは何の音だ!?すっかり目が覚めちまったぞ!それはそうと、ボレィを倒したようだな」
「ふん。あんな雑魚、勝って当然だ。それより見ろ!ドラゴンボールだ!ようやく三個目が揃ったぞ」
「あっ!一神球だ!遂にやりましたね。ところで、ベジータさん。左手に持った、その石版は?」
「分からん。ドラゴンボールと一緒に置いてあった。気になったので持って来た。何か文字が刻まれているが、俺には読めん。しかし、ナツメグ人の長老なら読めるだろう」
悟空達は一階まで降り、そこでドラゴンボールの入った鞄を持ったギルと合流した。実は一階を攻略した時、この先ギルも一緒に行くのは危険だと判断した悟飯は、ギルに鞄を持たせ、その場に待たせていた。そして、外に出た悟空達は、塔に来る前に寄った長老達の住む村に向かった。
村に到着後、悟空達からボレィを倒した事を聞き、喜んだナツメグ人達は、悟空達を治療してくれた。ナメック星人と同じルーツを持つだけに、ナツメグ人の中にはデンデの様に人を回復させる能力を持つ者がいて、その者の手によって悟空達三人は完全回復した。その後、悟空達は塔で獲得した石板を長老に手渡した。
「これは塔を建てた、ご先祖様によるメッセージの様ですな。流石に文字が古すぎて、わしにも読めませんが、古い文献を参考にしながら何とか解読してみましょう。それまでの間、皆さんは休んでいて下さい。泊まる部屋を用意しますから」
悟空達は長老の好意に甘え、ナツメグ星で一泊する事にした。ナツメグ人はナメック星人同様、水しか飲まないが、彼等は魔界の長老を務めている関係上、多くの魔族がナツメグ星に来訪するため、来客者用の食べ物を蓄えていた。悟空達に馳走された料理は、決して美味しくはなかったが、空腹だった悟空達は喜んで食べた。その後、寝床も用意された。
次の日の朝、悟空達は石板の文字が解読出来たので、長老の家に来る様にと若者のナツメグ人から伝えられた。悟空達が訪れると、長老は昨日までとは打って変わった厳しい表情で悟空達を出迎えた。
「悟空さん。ベジータさん。悟飯さん。この石板の文字は、ドラゴンボールを作ったご先祖様が刻んだもので、大変恐ろしい事が書かれていました。今から読みますから、注意して聞いて下さい」
長老は一呼吸を置いてから、ゆっくりと読み始めた。
「私は魔界を荒らすカイを倒すためとはいえ、カイを超える恐ろしい悪魔を造り出してしまった。その悪魔はカイを滅ぼしたが、悪魔はカイに代わって魔界を我が物顔で暴れ回った。私は仲間と協力して悪魔を珠に封印し、念のため珠を七個に分けた。更に万全を期すため、六個の珠を魔界中に分散させ、一個を固く封印した。この封印を解いて珠を手に入れても、決して全てを集めようとしてはならない。もし集めれば、魔界は愚か、全世界が珠に封印された悪魔によって滅ぼされると肝に銘じよ」
悟空達と共に側で聞いたナツメグ人達は、全員青ざめた表情だったが、悟空達の反応は違っていた。
「へー、このボールの中に眠っているのは神龍だと思ってたけど、実際は違うみてえだな。どんな悪魔が眠っているんだろう?あのカイを倒すぐれえだから、とんでもねえ化け物なんだろうな。このボールを破壊するために、神龍を呼び出して殺すつもりだったけど、何の罪もねえ神龍を殺す事に本当は躊躇いがあった。でも、そんな恐ろしい悪魔だったら、遠慮なく殺せる。どんな悪魔が出てくるのか、今から楽しみだ」
悟空の声は弾んでいた。この悟空の不謹慎な発言に、長老は声を荒げた。
「な、何て事を言うんですか!そんな恐ろしい悪魔なら、二度と呼び出されないように、ボールを固く封印するべきです!何故ご先祖様が自分の作ったドラゴンボールを、あんな塔まで建てて封印したのか、ようやく分かりましたよ。ボールは集めるべきではありません!貴方達が持っている三個のボールは、私が預かりますから早く出してください!再び術をかけて封印の塔の中に封印します!」
長老は手を差し出して、悟空達に三個のドラゴンボールを渡すよう迫った。しかし、悟空達はボールを差し出さなかった。
「悪いけど、それは出来ねえ。ジュオウ親衛隊がドラゴンボールを狙っているからな。例えボールを封印しても、奴等が封印を解こうとするだろう。オラ達がジュオウ親衛隊を全員倒しても、別の誰かがボールを狙うだろう。それを考えたら、封印しねえで、さっさと悪魔を呼び出して倒した方が安全だ。オラ達が悪魔を倒してやる。もし封印なんかして、オラ達の居ない時に封印が解かれて悪魔が呼び出されちまったら、その時こそ全世界が滅ぼされちまうぞ」
悟空の発言は、的を得ていた。現代のナツメグ人より遥かに強力な魔力を持った過去のナツメグ人による封印でさえ、今回破られてしまった。現代のナツメグ人が新たに封印しても、それが完璧な封印にはならない事は、誰の目にも明らかだった。そして、これから先、封印が解かれる事に怯えて暮らすよりも、悟空達が魔界に居る間に悪魔を呼び出して倒す方が、将来的には安全と言えた。しかし、長老も簡単には引き下がれなかった。
「貴方達が強いのは分かりますが、伝説の超獣とまで言われたカイを倒した悪魔にも勝てるとは思えません。下手に悪魔を呼び出せば、悪魔は貴方達を殺し、その後に全世界を滅ぼすのではないですか?貴方達がジュオウ親衛隊と戦うのを止めはしませんが、ご先祖様が警告文まで残すほど危険視した悪魔と戦う事には断固として反対します!未来に不安の種を残す事になりますが、現代に生きる我々にだって生活があります!どうかドラゴンボール集めを思い止まってくれませんか?」
長老は必死に懇願した。敢えて危険を冒し、その結果として最悪の事態を招くかもしれない悟空達の行動を止めたかった。
「オラ達にだって家族があり、生活がある。当然、未来のナツメグ人にだってな。怖いのは誰だって一緒だ。でも、その悪魔は誰かが倒さなくちゃいけねえ。全世界を滅ぼすような奴だったら尚更だ。だったら、オラ達がやる!皆に迷惑は掛けねえ!オラ達を信じてくれ!」
悟空は頑として譲らなかった。悟空の説得に失敗した長老は、力尽くでも悟空達からドラゴンボールを奪い取りたかったが、ナツメグ人達が束になっても悟空達には到底敵わない事は分かっていた。事ここに至っては、流石の長老も折れざるを得なかった。
「・・・分かりました。そこまで言うのでしたら、もう封印しようとは言いません。その代わり一つ約束してください。必ず悪魔を滅ぼす事を」
「ああ。なーに、そんなに心配すんな。オラ達だってボレィが召喚したカイを倒したんだからな。オラ達が残りの親衛隊や悪魔だって倒し、魔界に真の平和をプレゼントしてやるさ」
表面上は将来の禍根を絶つために悪魔を滅ぼす事を表明した悟空だったが、本心は悪魔と戦ってみたいと悟空が考えている事を、悟飯とベジータは知っていた。
その後、ナツメグ星を飛び出し、次のドラゴンボールと親衛隊を目指して悟空達三人は飛び立った。残り二人のジュオウ親衛隊との戦いは元より、あのカイを倒したという恐ろしい悪魔との来るべき対戦に、悟空は心躍らずにいられなかった。
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