其の七十三 最低の親衛隊

悟空達三人は、次のドラゴンボールを目指して飛行していた。そして、天界では水晶玉を通して、その様子を悟天は不満げに見ていた。

「いいなー、父さんや兄ちゃんばっかり戦って。俺も戦いたいよ」

悟天の独り言に、トランクスが即座に諌めた。

「おい、悟天!悟空さん達は別に遊んでるわけじゃないんだぞ!」
「そんな事ぐらい分かってるさ!でも、父さん達だけ戦って、俺達は留守番なんて酷くない?俺達だって少しは戦いたいと思わない?」
「うーん・・・。まあ、そうだな。悟空さん達には内緒で俺達も魔界に行き、悟空さん達より先にジュオウ親衛隊を倒そう!俺達だってやれば出来るんだって事を、悟空さん達に見せてやろう!」

トランクスと悟天の会話は、当然の事ながら周りに筒抜けだった。早速、ピッコロが怒鳴った。

「お前等、いい加減にしろ!俺達は悟空達が留守の間、地球を守るという大事な役目があるんだぞ!俺達が居ない間に、もしジュオウ親衛隊に地球を攻められたら、どう悟空達に申し開きする気だ!?」

ピッコロに怒鳴られたトランクス達は押し黙ったが、ウーブとパンが二人に助け舟を出した。

「ピッコロさん。悟空さん達がドラゴンボールを持ってるんだから、親衛隊が遠い地球にまで攻めてきませんよ。それに、いずれは俺達が主軸となって地球を守らなければなりません。その時に悟空さん達に安心して地球を託されるためには、より多くの実戦を積んで、もっと強くならないといけません。お二人の案、面白いじゃないですか。行きましょう!魔界に!」
「行こう行こう!これがあれば、ついでにドラゴンボールも手に入るしね」

悟空達が魔界に行く時は元気が無かったが、今では元の好奇心旺盛なパンに戻っていた。パンはポケットからドラゴンレーダーを取り出し、それを皆に見せびらかした。

「パンちゃん。そのレーダーは、何処で手に入れたの?」
「私がテキームを一人で倒した時、その部下の兵士達が、レーダーを落として逃げていったの。それを私が拾ったわけよ」
「ははは・・・。いいぞいいぞー」

トランクス達に押し切られ、困惑するピッコロだったが、代わりにキビト界王神が彼等を制止した。

「お待ちなさい!貴方達が親衛隊と戦うといっても、残る二人の内の一人は親衛隊最強。とても太刀打ち出来る相手ではありません。勝ち目の無い戦いをさせるわけにはいきません!」
「じゃあ、もう一人の親衛隊はどうなんですか?そいつにも俺達は勝ち目が無いんですか?」

キビト界王神に制止されても、彼等の興奮は収まらなかった。悟天は、恐れ多くもキビト界王神に噛み付いた。答えに詰まるキビト界王神に代わり、老界王神が答えた。

「もう一人は、何にでも化けられるという能力の持ち主じゃが、大した特技ではない。お前達が力を合わせて戦えば、勝てない敵ではないじゃろう。行きたければ行けばええ」
「ご、ご先祖様!相手は親衛隊なんですよ。ここは悟空さん達に任せた方が・・・」
「なーに、心配いらん。こやつ等が見事に倒して、悟空達の度肝を抜くじゃろう」
「し、しかし・・・」

尚も渋るキビト界王神だったが、側で話を聞いていたブルマが口を挟んだ。

「そんなに心配いらないわよ。何にでも化けられるって、要は、あいつ等が使うような変身能力でしょ?トランクス達だったら余裕で勝てるわ」

ブルマの視線の先には、ウーロンとプーアルがいた。自分達の能力を軽んじられたと思った二人は、顔を真っ赤にして怒った。

「そんなの分からないじゃないか!もしかしたら、とんでもなく手強い敵かもしれない!」
「そうですよ!変身能力を見くびらないで下さい」

二人は抗議したが、もはや戦士達の耳には届かなかった。結局、トランクス達四人に加えて、ピッコロも行く事になり、キビト界王神が瞬間移動で五人を魔界まで連れて行った。

ピッコロ達六人が着いた場所は、荒廃した大地の星だった。彼等はパンが持つレーダーの反応がある場所まで移動すると、そこには黒い建造物があった。四角錐の形をした建造物は、地球にも存在する、ある建物に酷似していた。

「ピラミッドだ・・・。それも黒いピラミッド。魔界にもピラミッドがあるとは・・・」
「レーダーによると、この黒いピラミッドの中に、ドラゴンボールがあるみたいね。おそらく親衛隊も、この中にいるはずだわ」
「何処かに入り口があるはずだ。まずは、それを探そう」

ピッコロ達は分散して入り口を探した。そして、ウーブが入り口を見つけ、気を高めて皆を呼び集めた。彼等が入り口に近づくと、その近くに三人の傷ついた魔族が座っていた。その魔族達が着ていた服は、ジュオウ親衛隊に従う兵士達が着用していた制服だった。ピッコロは魔族達に近付いて尋ねた。

「貴様等、ジュオウ親衛隊に従う兵士達だな?」
「ああ。確かに俺達は、あのくそ野郎に従う兵士だ。好きで従ってるわけじゃないがな」
「くそ野郎だと!?」

ピッコロ達は啞然とした。上官に対して、そんな汚い呼び方をする兵士達に、少なからず驚いていた。

「一体、何があった?詳しく聞かせてくれないか?」
「良いだろう。俺達兵士は、ドラゴンボール探しをする事になった親衛隊をサポートするため、ジュオウ様によって各親衛隊に割り振られた。そして、俺達は運悪くヘシンの野郎に従う羽目になった。それからは不幸の連続だ。俺達はヘシンに散々いびられ、時には理由も無く殴られた。耐えられなくて逃げ出した事もあったが、見つかって酷い拷問を受けた」

自分達の身の上話をしている内に、涙を流す者までいた。よほど酷い仕打ちを受けたのだと、ピッコロ達は思わず同情した。

「ところで、この建物は何だ?かなり昔に建てられたようだが」

兵士達の身の上話は一先ず置いといて、トランクスは情報収集を始めた。

「この建物は、およそ四千年前の魔王アーブラが建てた自分の墓だ。アーブラは物に対する執着心が強く、魔界の各地から珍しい宝を集めた。その宝を自分の死後も独占するために、生前に墓を建てて宝を収納した。アーブラの死後、大勢の者が宝を求めて墓に侵入したが、大抵は途中で逃げるか、罠に掛かって死んだ。宝を持ち出して帰還した者は、これまで一人も居ないそうだ。俺達は、こんな所に近付きたくもないが、この中にドラゴンボールの反応があったので、命令されて中に入った」

地球にあるピラミッドと、魔界の黒いピラミッドは、外見だけではなく、建てられた時期も、用途まで似通っていた。

「おそらくドラゴンボールも宝の一つとして、この中に保管されているのだろう。お前達が生きて、ここに居るという事は、途中で逃げ出したのか?」

ピラミッドの中に入って、生きて外に居るのは、途中で逃げた以外に考えられない。

「ああ。半数以上は墓の中で死に、俺達だけが生き延びた。へシンの奴、命からがら出てきた俺達を『役立たず!』と言って罵倒し、今度はヘシン自らが中に入った。その際、俺達は外で待機するよう命令され、それから数日間ここで待ち続けている。もしかしたらヘシンは中で死んだかもしれないが、俺達には確かめる術がない。それに、もしヘシンが生きて戻ってきた時に俺達が居なければ、また酷い拷問を受けるだろう。それが怖くて俺達は、ここから動けない」

兵士達の悲痛な告白は、キビト界王神の心を激しく揺さぶった。彼は兵士一人一人の体に手を触れ、傷を回復してあげた。

「これから私達も、この墓の中に入ります。もしヘシンが生きていたら、その場で倒します。ですから、貴方達がヘシンを待つ必要はありません。その代わり一つ約束して下さい。もう二度とジュオウに加担してはいけません。よろしいですね?」
「は、はい。ありがとうございます」

兵士達は感涙し、飛び立とうとしたところを、ウーブが呼び止めた。

「ちょっと待って。何かへシンの弱点を知っていたら教えてくれないか?」
「弱点?あいつに弱点があるとは思えないが・・・。ただあいつ、人の弱みを見つけるのが上手いんだ。そして、その弱みを卑劣な手段で突いてくる。同じ親衛隊のヒサッツも卑劣な手段を使うそうだが、あいつの場合は必要が無ければ使わない。しかし、へシンは進んで使う最低な野郎だ。あいつの策略に惑わされないでくれ。武運を祈る」

兵士達はピッコロ達にエールを送ってから、何処かに飛び立った。それを見届けた後、ピッコロ達はピラミッドの中へ入っていった。

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