其の七十四 悪夢の再会

ピッコロ達は黒いピラミッドの内部に潜入したが、中は真っ暗で何も見えなかった。しかし、パンが超サイヤ人となって明かりの役目を果たし、列の先頭に立って歩を進めた。ところが、先頭を歩いていたパンの足場が、大きな音を立てて崩れ落ちた。パンは急いで飛び上がり、床が崩れて出来た穴の底を確かめると、そこには無数の鋭い棘が敷き詰められていた。もしパンが飛び上がるのが遅れていれば、彼女は間違いなく串刺しになっていた。

「な、何よこれ!?危ないじゃない!」
「この落とし穴は、侵入者の命を奪うための罠に違いあるまい。床に限らず何か物に触れると、予期せぬ罠が作動するかもしれない。この先、罠を避けて進むためには、宙に浮かぶべきだ」

全員ピッコロの言に従い、ゆっくり飛行しながら奥へと進んだ。しかし、今度は天井から棘が何本も降ってきた。彼等は落下してくる棘を避けながら、急いで通過した。何とか棘の雨を潜り抜けた彼等は、広い部屋に着いた。そこは壁際に何十体もの魔人の像が並べられている不気味な部屋だったが、そこで彼等は床に降りて一息ついた。

「おい皆、大丈夫か?誰も怪我しなかったか?」
「少し掠りはしましたが、誰も大した怪我を負ってません。しかし、何故あんな罠が発動したんでしょう?誰も何にも触れていないのに・・・」
「確かに変だよね。まるで誰かが俺達を監視してるんじゃ・・・」

悟天が話している最中に、部屋に設置してあった魔人の像が動き始めた。そして、像はピッコロ達に歩み寄ってきた。

「な、何だ、この像は!?どうして動くんだ!?」
「俺達と仲良くしよう・・・という感じじゃなさそうだね」
「これも罠の一つだろう。油断するなよ!」
「どうやら私まで戦う必要があるようですね」

ピッコロ達は分散し、それぞれ魔人の像に向かっていった。一方、像達は歩みを止め、ピッコロ達の攻撃に備えた。それは一斉に動かされたロボットの様な動きではなく、それぞれ独自の訓練を積んだ武道家の様な動きだった。

ピッコロ達は攻撃を開始した。ところが、多少の強弱の差はあれど、どの像も強く、ピッコロ達の力を持ってしても容易には倒せなかった。像達の方もピッコロ達を強者と見て、一対一では不利だと判断すると、ピッコロ達一人に対して徒党を組んで戦いを挑んできた。

しかし、幾ら強いといっても、所詮は像。ピッコロ達に比べると動きは格段に鈍かった。そして、ピッコロ達が更にスピードを上げると、像達は完全に翻弄された。それからピッコロ達は、像達に次々と攻撃を浴びせた。一回や二回の攻撃を受けても平然としていた像だが、何回も攻撃を受け続けると形が崩れ、粉々に壊されると、それ以上は動かなくなった。ピッコロ達は次々と像を破壊し、遂には全ての像の破壊に成功した。すると、何処からともなく不気味な声が聞こえてきた。

「わしの精鋭部隊の魂が宿った魔人像を全滅させるとは・・・。只の侵入者ではなさそうだな」

ピッコロ達が声のした方向に一斉に振り向くと、そこには年老いた魔族が立っていた。白い光に包まれた老魔族からは、生気が全く感じられなかった。

「な、何だあいつは?変な奴だな」
「あれはアーブラの亡霊です。先程の軍団では私達を倒せなかったから、自ら出てきたのでしょう。これまでの罠も、あいつの仕業でしょう。気をつけて下さい。生前は、かなり強い魔王でしたから」

老人とはいえアーブラの体は筋肉隆々で、只者ではない雰囲気を醸し出していた。キビト界王神に言われるまでもなく、手強い相手だとピッコロ達は察知した。

「わしの宝は誰にもやらん。わしの宝を狙う者は殺す」
「宝宝って強欲な奴ね。私達は別に宝なんて欲しくない。ドラゴンボールを手に入れたいだけよ」
「パンちゃん。こいつに、そんな事を言っても無駄だ。倒す以外に道は無い」
「その通りだ。こいつを倒せば、罠に苦しまずに済む。それに、こいつを倒さない限り、ドラゴンボールは手に入るまい」

ピッコロ達は身構え、五人が同時に飛び掛かった。まずはピッコロが、次にトランクスと悟天が、それからウーブ、最後にパンが攻撃を仕掛けたが、アーブラは全ての攻撃を避けた。

「どうした?お前達の実力は、その程度か?」
「ちっ、どうやら本気で戦わねば倒せないようだな」

ピッコロは重いターバンとマントを脱ぎ捨て、トランクスと悟天は超サイヤ人2に変身した。そして、先程よりも更に気を高め、再度アーブラに向かって行った。ところが、今度はアーブラは攻撃を避けようとはせず、ピッコロ達の攻撃を全て喰らった。攻撃された時は顔を歪めたアーブラだったが、攻撃が止まると笑みを浮かべた。

「素晴らしい!お前達の力は素晴らしいぞ!わしの精鋭部隊よりもな。お前達を新しい部下にする」

アーブラの目が赤く光った。次の瞬間、ピッコロ達六人の内、キビト界王神を除く五人が倒れた。キビト界王神は慌ててピッコロ達を揺さぶったが、彼等は目を覚まさなかった。キビト界王神は、元の目の色に戻ったアーブラに質問した。

「アーブラ!彼等に何をした?」
「わしが何をしたかは、すぐに分かる。それにしても、わしの術に掛からないとは珍しいぞ」

やがてピッコロ達が続々と立ち上がった。ところが、彼等の目は先程のアーブラの目と同じく真っ赤だった。アーブラはピッコロ達に対し、キビト界王神を指差しながら命令した。

「さあ、お前達!最初の命令だ!わしの宝を狙いに来た、この男を殺せ!」

ピッコロ達は軽く頷いてから、キビト界王神に襲い掛かった。キビト界王神は慌てて逃げ出したが、すぐに部屋の隅に追い詰められた。

「み、皆さん!私の事が分からないのですか!?」
「ふっふっふ・・・。無駄だ。こやつ等は、わしの言う事にしか耳を傾けぬ。さあ、やれ!殺せ!」

ピッコロ達はアーブラに言われた通り、キビト界王神に手を出そうとした。この時にキビト界王神は、ピッコロ達がアーブラに洗脳されている事を悟った。そして、観念したキビト界王神にピッコロ達の魔の手が迫ろうとした瞬間、急に現れた三人組がピッコロ達を弾き飛ばし、キビト界王神を救い出した。その三人組の正体は、何と悟空達であった。

「ご、悟空さん!どうしてここに・・・」
「それは、こっちの台詞だ。何で界王神様が居るんだ?それに皆、一体どうしちまったんだ?」

悟空達は次の目的地に、この星を選んでいた。そして、ピッコロ達に遅れて、この黒いピラミッドの中に入っていた。安心して胸を撫で下ろしたキビト界王神は、これまでの経緯を悟空達に説明した。

「なるほど。あのアーブラとかいう亡霊に、トランクス達は操られてしまったわけか・・・。しかし、何故あんただけは操られなかったんだ?あんたも奴の赤く光った目を見たんだろ?」

猜疑心が強いベジータは、キビト界王神だけアーブラの術に掛からなかった理由を尋ねた。正常な振りをして、実はキビト界王神も操られているかもしれないと、ベジータは疑っていた。

「宇宙の頂点に立つ界王神が何者かに操られ、その者の意のままに動かされれば、宇宙は大変な事になってしまいます。そのために私達は、常に自我を保っていられるよう特訓を積んでいます。その特訓を受けていない彼等は操られてしまいましたが、あのアーブラを倒せば元に戻るはずです。ただし、アーブラは歴史に名を残す魔王。簡単に倒せる相手ではありません。アーブラの目には充分に気をつけて下さい。奴の赤くなった目を見れば、あなた方も即座に操られてしまいます」

悟空達の並々ならぬ力を感じ取ったアーブラは、部屋の奥の壁にある扉を通って逃げていった。後を追おうとした悟空達だったが、その前にピッコロ達が立ちはだかった。

「ピッコロさん達は、俺が食い止めます。その間に父さん達は、アーブラの後を追って下さい」
「分かった。この場は任せたぞ、悟飯。すぐにアーブラを倒してくるからな」

悟飯はピッコロ達を牽制し、悟空はベジータやキビト界王神と共に、アーブラが逃げた扉を通った。こうして部屋の中には、正常な悟飯と操られているピッコロ達だけが残った。

「まさか仲間と戦うとは・・・。仕方ない。父さん達がアーブラを倒すまでの辛抱だ」

これから師や弟、娘とも戦う破目になった悟飯。実力では悟飯の方が上だが、まさか本気を出して彼等を倒すわけにもいかない。悟飯にとって辛い戦いが始まろうとしていた。

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