アーブラに操られているピッコロ達は、相対している戦士が悟飯である事も分からずに攻撃を開始した。しかし、彼等の第一撃は悟飯に容易く避けられた。ピッコロ達は続けて攻撃を試みるも、またもや悟飯に避けられた。このままでは勝てないと判断したトランクスと悟天は、超サイヤ人3に変身して同時に悟飯に攻撃を仕掛けたが、それでも彼等の拳や蹴りは空を切るばかりだった。
ピッコロ達の攻撃が一段落したところで、悟飯は反撃に転じた。悟飯は上手く急所を外してピッコロ達に次々と攻撃を浴びせた。当然、本気とは程遠いが、悟飯の攻撃は彼等に着実にダメージを与えていった。ところが、悟飯の攻撃を喰らったパンが急に苦しみだし、心配した悟飯がパンの元に慌てて駆け寄ろうとした時、背後からウーブに蹴られた。
悟飯は少しバランスを崩した程度でダメージは皆無だったが、好機と見たピッコロ達は、一斉に悟飯に襲い掛かった。すぐに悟飯は態勢を立て直して彼等の執拗な攻撃を全て防いだが、ダメージから回復したパンも攻撃に加わり、悟飯は防戦一方になった。悟飯は反撃しようと思えば反撃する機会はあったが、このまま防御に徹する事にした。その方が双方傷つかずに時間を稼げると考えたからである。
その頃、アーブラの後を追った悟空達は、別の大きな部屋の中に入った。そこには多くの棺桶があり、亡霊が出てくるには最適の場所だったが、肝心のアーブラは居なかった。しかし、この部屋も先ほど同様、奥の壁に穴が空いており、アーブラは穴を通って逃げて行ったのだと悟空達は推測した。そして、悟空達は穴へと向かった。
穴を潜り抜けると、そこは細長い通路だった。通路の遥か先には物々しい扉が見え、扉の向こう側からは怪しげな妖気が感じられた。早速、扉に向かおうと歩き出した悟空達だが、通路を歩くと何故か体が段々と重くなっていった。キビト界王神は自身の重さに耐えられなくなり、両膝を付いた。
「ふ、二人とも、ま、待って下さい。か、体が重すぎて、う、上手く前に進めない」
「界王神様、大丈夫か?どうやら前に進むと、その分、重力が強くなるみてえだな。後はオラ達に任せて、界王神様は先程の部屋で休んでてくれ」
「そ、そうですね。そうさせてもらいます」
足手纏いになりたくないキビト界王神は、来た道を引き返した。すると今度は歩く度に体が軽くなった。一方、二人だけになった悟空達は、更に前へと進んだが、今度は悟空の歩行が遅くなった。
「ま、待ってくれ、ベジータ。オ、オラも流石にきつくなってきた」
「この重力だと五百倍といったところか。まだまだ先は長いぞ。この程度の重力に音を上げているようでは、最後まで辿り着けまい。貴様は邪魔だから、戻って悟飯の加勢でもしてこい」
悟空と違い、ベジータには余裕が感じられた。その事を不思議に思った悟空は、ベジータに尋ねた。
「ベジータ。何で、お前は平気なんだ?」
「ふん。貴様と違って、俺は超重力の特訓を続けているからな。この程度の重力は既に克服した」
「ほ、ほんとか!?お前、一体どれぐらいの重力に耐えられるんだ?」
「大した事はない。ほんの二千倍だ」
ベジータは薄ら笑いを浮かべると、その場に悟空を残して一人で先に進んだ。取り残された悟空は、遠ざかるベジータの後ろ姿を見ていた。
「すげーな。オラも重力修行しねえと駄目かもな・・・。おっと、早く悟飯の所に行かねえと」
悟空は来た道を引き返した。そして、先程の棺桶がある部屋で、キビト界王神が悟空を待っていた。
「悟空さん。もうアーブラを倒したんですか?それに、ベジータさんはどうしました?」
「オラも先に進めなくなったから、ベジータに後を任せて引き返してきた。とりあえず、オラは悟飯の助太刀に行ってくる」
「私も行きます。こんな所で一人取り残されたくありませんから」
悟空はキビト界王神と共に、悟飯の元へ向かおうとした。その時、「待って下さい」と弱々しい声が聞こえてきた。悟空が声のした付近の棺桶の蓋を開けてみると、そこには傷を負ったキビト界王神が横たわっていた。怪我をしたキビト界王神は、よろめきながらも棺桶の中から出てきた。
「な、何で界王神様が二人も居るんだ!?」
「私が本物の界王神です。この部屋の中で私は何者かに襲われ、ここに閉じ込められていました。私に成り済ました、そいつが犯人に違いありません。悟空さん。その偽者を倒して下さい」
「騙されてはいけません!この者の言う事は、全て出鱈目です。悟空さんなら私が本物の界王神だと分かるでしょう!?」
悟空は左右に首を振り、二人のキビト界王神を交互に見比べたが、一方が怪我をしている以外は寸分も違わなかった。話し方や雰囲気まで両者に違いは無く、どちらが本物のキビト界王神か悟空には見極められなかった。
「すげえ。二人とも本物にしか見えねえ。でも、どっちかは偽者で、しかも敵なんだろうな。だったら、このまま放っておくわけにもいかねえし・・・」
悟空は腕を組み、しばし考えた。怪我をしている方が本物じゃないかと思ったが、決め手が無かった。そして、悟空は思い悩んだ末に、本物を特定するための作戦に打って出た。
「なあ、二人の界王神様。二人の両耳に付いてるポタラを片方だけ外してくんねえか?怪我をしている方は右耳のポタラを、そうでない方は左耳のポタラを、それぞれ外してくれ。それで、どっちが本物か分かるはずだ」
悟空の要望を聞いて、怪我をしているキビト界王神は早速ポタラを外したが、もう一方のキビト界王神は躊躇して、ポタラを外そうとはしなかった。その様子を見ていた怪我をしているキビト界王神は、得意気に悟空に話し掛けた。
「悟空さん。これで良いですか?これで私が本物だと分かってくれましたか?」
「ああ。良く分かった。お前が偽者だって事がな」
「何ですって!?どうしてですか!?私は言われた通り、ポタラを外したじゃありませんか!?」
悟空の指摘に納得がいかない怪我をしているキビト界王神は、悟空に詰め寄った。しかし、悟空の自信は揺るがなかった。
「界王神様のポタラを二人の人間が片方ずつ付けると、その二人は合体してしまい、二度と元には戻れねえ。界王神様は、それで失敗した過去があるから、尚更慎重になるはずだ。でも、お前は躊躇せずにポタラを外した。本物の界王神様が、そんな事をするはずがねえ。何者だ、お前?正体を見せろ」
悟空に偽者と指摘されたキビト界王神は、反論せずに笑い出した。
「こんな耳飾りに、そんな秘密があるとは誤算だった。そいつに化けて棺桶に閉じ込められ、更に怪我をした振りまでして俺の方が本物だと思い込ませようとしたが、そう上手くいかないか。もう少し時間があれば、そいつを殺して死体を消せたから、完全に騙せたのだがな・・・」
偽のキビト界王神が変形し、別の姿に変化した。小柄な図体で、憎らしい顔付きをした戦士からは、邪悪で巨大な気が感じられた。
「俺はジュオウ親衛隊の一人ヘシン。お前達が親衛隊の半数以上を倒したと聞いた時から、敢えて先には進まず、お前達を待ち構えていた。お前達もドラゴンボールを探している以上、ここにも必ず来ると分かっていたからだ。そして、お前達が来た時から、俺は蝙蝠に化けて監視していた。そうしたら、お前が仲間と別れて途中で引き返して来たから、俺は一足先に部屋に戻って棺桶の中に潜り込んだ。お前達を一人ずつ倒すためにな。お前は最初の標的だ。運が悪かったな」
ヘシンは邪悪な笑みを浮かべたが、悟空は鼻で笑った。
「運が悪い?そいつはどうかな?オラはラッキーだと思ってるぞ。ようやくジュオウ親衛隊と一対一で戦えるからな。パンも悟飯もベジータも、自分だけの力で親衛隊の一人と戦って倒してるから、オラも自分だけの力で親衛隊と戦って倒したいと思っていたんだ。運が悪かったのは、お前の方だ」
悟空とへシンの対決が始まろうとしている頃、超重力の通路を渡りきったベジータは、扉を蹴破り、黒いピラミッドの最奥の部屋に辿り着いた。その部屋の中央には一つの棺があり、その周りに金銀財宝が置かれていた。財宝の中にはガラクタにしか見えない像や石等もあったが、ベジータは財宝に目を奪われず、ドラゴンボールを探そうとした。そして、ベジータが財宝を搔き分けようとした時、背後から声が聞こえてきた。
「わしの宝に触れるな!」
ベジータの背後には、何時の間にかアーブラの亡霊が立っていた。ベジータは振り返らず、前を見たまま言葉を返した。
「貴様は宝に執着し過ぎるから、何時まで経っても成仏出来ないんだ。二度と化けて出ないよう、俺が永久に眠らせてやる」
ベジータは振り返ると同時に、アーブラに飛び掛かった。
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