其の七十六 三者三様の戦い

ベジータとアーブラの戦いは、ベジータの速攻から始まった。ベジータは、まずアーブラの左頬を殴り、続けて腹部を蹴飛ばした。蹴飛ばされたアーブラは、体勢を入れ替えて床に着地したが、ベジータは着地した直後のアーブラ目掛けて頭から突っ込み、強烈な頭突きをお見舞いした。頭突きを喰らったアーブラは、もんどり打って倒れた。

うつ伏せに倒れたアーブラは、ベジータに見られない様に顔を下に向け、目を赤くした状態で立ち上がり、それから顔を上げてベジータを見た。しかし、ベジータの目は固く閉ざされていた。

「な!?お、お前、目を・・・」
「ふん。その様子だと、目を赤くして俺も操ろうとしたらしいな?しかし、貴様の目さえ見なければ、操られる事はない。下らない術はそれぐらいにして、そろそろ本気になったらどうだ?」

アーブラは歯軋りして悔しがったが、すぐに開き直って笑みを浮かべた。

「やるな、小僧。だが、わしを舐めるなよ。大抵の魔王は老いて力を失うと、若い者に挑まれて、その座を奪われる。しかし、わしは死ぬまで魔王だった。その理由を見せてやろう」

アーブラは気を溜め始めた。すると、アーブラの老いた体が、徐々に瑞々しい若い体へと変わっていった。ベジータは目を開き、アーブラの変化に驚いた。

「これが、その理由だ。俺は一時的にではあるが、全盛期だった頃の自分に戻れる。並外れた力と術を持つ若い頃の俺に勝てる奴は、俺が生きていた時代に一人も居なかった」
「貴様の幸運は、俺が貴様と同時代に生まれなかった事だ。もし俺が貴様の時代に生きていたら、貴様は魔王の座から陥落していた。それを今から証明してやろう」

ベジータは超サイヤ人4に変身した。そして、ベジータとアーブラの激しい攻防戦が繰り広げられた。

一方、悟飯と交戦中のピッコロ達は、一向に崩せない悟飯の鉄壁の防御に苛立ってきた。ピッコロは気光波を、ウーブは悟空直伝のかめはめ波を放ったが、悟飯の防御は崩せなかった。

「どうした!そんな攻撃じゃ俺は倒せないぞ!」

悟飯との実力差に焦りを覚えたトランクスと悟天は、フュージョンして悟飯に対抗しようとした。そして、二人がポーズを取ると、悟飯は防御を解いて慌ててポーズを止めようとしたが、パンが悟飯の前に立ちはだかった。悟飯がパンを殴れずに躊躇している間に、トランクス達はフュージョンを完成させてゴテンクスになった。ゴテンクスは直ちに変身し、超サイヤ人4になった。

「しまった!フュージョンさせてしまったか・・・。手加減して戦うには、きつい相手だ」

ゴテンクスは初っ端から本気になって悟飯に飛び掛かり、悟飯は応戦した。

他方、悟空はジュオウ親衛隊の一人ヘシンと戦っていた。悟空は既に超サイヤ人4になり、序盤は悟空が優勢に戦いを進めていた。しかし、劣勢のはずのへシンは、何故か笑みを浮かべていた。

「流石に出来るな。しかし、所詮は俺の敵ではない。そろそろ本腰を入れるとするか」

ヘシンの発言を不快に思った悟空だったが、構わず攻撃を続けた。そして、悟空の右の拳がヘシンの顔面に当たったが、 殴られた側のヘシンは平然としており、殴った側の悟空の拳に痛みが生じた。悟空は左手で右の拳を押さえたままヘシンから離れたが、ヘシンの右腕が急に伸びて遠ざかる悟空に追いつき、彼の首に巻きついた。ヘシンは悟空を持ち上げて床に何度も叩きつけた。悟空は首に巻きついている右腕を引っ張って噛み付き、束縛が弱くなった所で右腕を振り解いて離れた。

「ど、どうなってるんだ?あいつの顔が固くなった。それに、右腕がゴムのようだった。これは一体・・・」
「ククク・・・。驚いているようだな。先程は俺の顔を極限まで固くし、次に右腕をゴムに変えた。俺の能力は変身だと誤解されるが、本当の能力は自分の体を自由自在に変形や変化させられる事だ。それは全身だけでなく、体の一部分だけ変える事も可能だ。お次は、これだ!」

ヘシンの腹部に穴が空き、周りの肉が盛り上がった。最終的にヘシンの腹部は、キャノン砲になった。そして、キャノン砲から砲弾が悟空に向けて次々に発射されたが、悟空は全ての砲弾を避けた。

キャノン砲では悟空を倒せないと判断したヘシンは、腹部を元に戻し、右腕を剣に変えた。そして、剣を横一文字に振った。悟空は剣の長さを目で測り、充分に距離を置いて避けたつもりだったが、何故か悟空の胸に大きな刀傷が出来た。悟空は痛みの余り、左腕で胸を押さえて片膝を付いた。

「ちゃ、ちゃんと避けたはずなのに・・・。何故?」
「馬鹿め!この剣は俺の体の一部だというのを忘れたのか?お前の体を切りつける直前に刀身を延ばした。お前が速過ぎて体を真っ二つに切り裂けなかったが、二刀流にすればどうかな?」

ヘシンは左腕も剣に変え、今度は両刀で悟空に切りかかった。しかし、悟空は残像拳で攻撃を避け、ヘシンの背後に回り込んで背中を殴った。

「俺に同じ手は二度も通用しない」
「ちっ、さすがに一筋縄でいく相手ではないな。だが、これならどうだ?」

ヘシンは両腕を剣から注射器に変えた。それを見た途端、悟空の全身に鳥肌が立った。

「ち、注射!?な、何でお前、俺の苦手な物を知っているんだ?」
「お前の記憶を読み、お前の弱点を見つけたからだ。ククク・・・。こんな物が苦手とは笑えるな」

ヘシンは注射器を駆使して悟空に襲い掛かった。対する悟空は腰が引けて動きが鈍くなり、ヘシンの攻撃を避けるのが精一杯で、とても反撃どころではなかった。そして、遂に注射器の針が悟空の腕に突き刺さったが、針は悟空の強靭な肉体のせいで、すぐに折れてしまった。それを見て安心した悟空は、急に強気になった。

「へっ、残念だったな。いくら注射でも、針が無ければ怖くも何ともない」
「お前の体に、あの程度の針では脆過ぎたか。ならば、これでどうだ!」

ヘシンは巨大な注射器に姿を変えた。その針は象の胴体すら貫通出来そうなほど太くて長く、悟空の表情は真っ青になった。注射器になったへシンは針を悟空に向けて襲い掛かり、悟空は一目散に逃げ出した。そんな悟空の無様な姿に業を煮やしたキビト界王神は、悟空に対して声を荒げた。

「悟空さん!何してるんですか!そんな注射器なんか見なければ、どうって事ないでしょう!」
「そ、そうか!注射器にビビって、そんな事も忘れていた。サンキュー、界王神様」

悟空は走るのを止めて目を閉じ、背後から迫って来る注射器の中心付近を回し蹴りした。注射器は床に叩きつけられ、元の姿に戻ったヘシンは腹部を右手で押さえて立ち上がった。

「ふー、何て恐ろしい奴だ。こんな奴とは二度と戦いたくねえ。先にボレィとかいう奴を倒しておいて助かったぜ」
「ボレィを倒しただと!?という事は、親衛隊は俺を含めて後二人しか残っていないわけか。ククク・・・。ジュオウにとって最も死んで欲しくない奴と、最も死んで欲しい奴が生き残るとは、何とも皮肉な話だ」

悟空は意外に思った。これまでの親衛隊は、ジュオウの事を「ジュオウ様」と様を付けていたのに、へシンだけは呼び捨てにしたからである。それに、ヘシンの態度を見れば、彼がジュオウにとって最も死んで欲しい奴だというのは何となく分かるが、何故そう思われてるのか不思議に思った。悟空は理由を尋ね、ヘシンは快く答えた。

「自分で言うのもなんだが、俺は親衛隊一のトラブルメーカーでな。ろくに命令を聞かない俺に、ジュオウは困り果てていた。今回のドラゴンボール探しだって、最初は突っ撥ねたが、やらないと殺すなんて脅されたから、仕方なくやっている。やる気なんて微塵も無いから、真面目にボール探しなんかしない。だが、お前達を倒すのは面白そうだからやる。とは言っても、まともに全員と戦っても勝ち目は無いから、蝙蝠に化けて機会を窺っていた」

ヘシンが能力を使えば、アーブラの亡霊に気付かれずにドラゴンボールを手に入れられたかもしれない。しかし、 ヘシンはボール探しに乗り気でなかったため、ずっとさぼっていた。

「なるほどな。でも、考えが甘かったんじゃねえか?確かに俺達全員との戦いは避けられたが、俺一人を相手に苦戦しているようじゃ、どっちにしろ俺達全員を倒すのは不可能だ」
「ククク・・・。勝敗は強さだけで決まるのではない。戦術を駆使すれば、自分より強い相手にだって勝てる。その戦い方を卑怯と言う奴もいるが、そんなのは敗者の弁に過ぎない。俺は戦闘中、お前を分析していたが、お前を倒すには、お前の苦手な人に変身するのが一番のようだ」

そう言ってヘシンは、ある人物に姿を変えた。そして、その人物を見た悟空は、「ぎえっ!」と驚きの声を上げた。

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