其の七十九 悟空の逆襲

悟飯達の存在に気付いた悟飯もどきは、視線を彼等の方に向けた。

「その様子を見ると、アーブラの術から開放されたようじゃな。もう少し来るのが遅ければ、この二人の命を奪えたのにのう」

悟空もキビト界王神も重傷だったが、両者とも辛うじて生きていた。彼等の無事を知った悟飯達は、一先ず安心した。

「貴様がヘシンだな?相手の弱みに化けると聞いているが、今も父さんにとって弱点となる人に化けているのだろう。でも、誰に化けたんだ?俺の知ってる人ではないが・・・」
「ふふふ・・・。わしの顔を知らないのも無理はない。じゃが、わしの事を悟空から聞いているはずじゃ。特に悟飯。お前は、わしの名前を名付けられたのじゃから、知らぬはずがない」

悟飯もどきの話を聞いた悟飯は、該当する人物を即座に思いついた。

「わしの名前だと!?もしかして父さんの育ての親である曾お爺さん!?お、お前、まさか曾お爺さんに化けたのか!?」
「曾お爺ちゃんなら俺も話を聞いた事がある。父さんは曾お爺ちゃんを尊敬していたと。その曾お爺ちゃんに化けられたら、父さんが手を出せるはずがない。何て残酷な手を使う奴だ」

悟空は自分が小さい時に悟飯に育てられた時のエピソードを家族に話していたので、悟空の子供達は写真ですら見た事がなかった曽祖父の事を知っていた。そして、これまでの悟空とヘシンの戦いを見ていなくても、その時の悟空の苦悩が手に取る様に分かった。悟飯達は悟飯もどきに対して怒りを露にし、それを見た悟飯もどきは口調を変えた。

「ふん。お前達に、この爺の姿は効果がないようだ。ならば、この姿でいる意味はない」

悟飯もどきは姿を変え、元のヘシンの姿に戻った。ヘシンは足元の悟空を見下ろしたまま、邪悪な笑みを浮かべた。

「クックック・・・。この馬鹿、さっき何て言ったと思う?『爺ちゃんになら殺されても本望だ』とよ。ここまで馬鹿な奴は、今まで見た事がねえ。それを聞いた時、俺は笑いを堪えるのに必死だったぜ。今、思い出しても笑えるな」

ヘシンの挑発的な態度に、悟飯達は更に怒りが込み上げてきた。黙っていられなくなったウーブは、ヘシンに対して怒鳴った。

「ヘシン!貴様には人の情というものがないのか!」
「人の情だと?そんなものがあるから、こいつは無様に負けたんだ。まあ、お陰で俺は存分に楽しめたがな。こいつが情に苦しんでいる時の姿は、見ていて滑稽だったぜ」

ヘシンは足元に倒れている悟空の顔を足蹴にし、更に唾を吐きかけた。このヘシンの態度に、悟飯達の怒りは頂点に達した。

「酷い性格だと聞いていたが、ここまで性根が腐った奴だとは思わなかった。この屑野郎め!」
「許さない!あんたみたいな奴は絶対に許さない!」

トランクスとパンが、それぞれフルパワーになってヘシンに飛び掛かったが、ヘシンに軽く弾き飛ばされてしまった。

「馬鹿め。お前ら如きが俺に敵うと思っていたのか?そう言えば、この界王神とかいう奴も似たような事を言って俺に挑んできたな。あっさり倒したがな・・・ってあれ?居ない」

ヘシンは話しながら足元のキビト界王神に目を向けた。ところが、先程まで自分の近くで倒れていたはずのキビト界王神と悟空までが居なかった。実はヘシンがトランクス達との交戦中に、悟飯とピッコロが二人を抱えてヘシンから遠ざけていた。悟飯達は仲間達が立っている側に悟空達を降ろした。

「何時の間に・・・。ちっ、早く殺しておくべきだった」
「二人を助け出した今、心置きなく貴様を殺せる。悟空と俺達の怒りを思い知れ!」
「この俺を殺すだと?舐めるな!」

ヘシンは蠅に変身して悟飯達に襲い掛かった。蠅になってもヘシンの力とスピードに変動はなく、しかも体が小さいので悟飯達の攻撃は掠りもしなかった。また、悟飯達が幾ら防御を固めても、ヘシンは体の小ささと機動力を活かし、防御の隙間を縫って攻撃してきた。

「お前達の攻撃を俺に当てられまい。このまま嬲り殺してやる」
「攻撃が当たらないだと?お前こそ俺達を舐めるな!」

悟飯は気を開放した。蠅になって体が軽くなったへシンは、あっさり吹っ飛ばされ、勢いよく壁に叩き付けられた。ヘシンは自分の後頭部を押さえながら元の姿に戻った。

「あいててて・・・。全員を一度に相手にするのは、流石に無理だな。弱点も一人一人違うし。ここは一旦退散するか」
「俺達から逃げられると思っているのか?貴様は、この場で殺す」

悟飯達はヘシンを取り囲んだ。しかし、遠くから「止めろ!」という声が聞こえた。彼等が声のした方角を振り向くと、そこにはドラゴンボールを持ったベジータが立っていた。ベジータも重傷を負っていたが、毅然と立っていた。

「貴様等は、そいつに手を出すんじゃない!そいつはカカロットの敵だ!カカロットにやらせろ!」
「でも、父さん。悟空さんは、とても戦える状態ではありません。ヘシンは俺達が倒した方が・・・」
「トランクス。お前は何年カカロットの戦いを観てきたんだ?これしきの傷で戦えない奴だったら、俺が当の昔に倒している」

ベジータは続けて悟空に向けて叫んだ。

「何時まで寝ているつもりだ!さっさと起きて戦え!やられっ放しで悔しくないのか!」
「俺の攻撃を散々喰らって立てるはずが・・・げっ!そ、そんな・・・」

ベジータの声に反応した悟空は、力を振り絞って立ち上がった。そして、悟空はファイティングポーズを取った。悟空の根性に驚いたへシンだったが、そんな時でもヘシンは、自分が助かる方法を必死になって考えていた。

「おい、ベジータ。俺が勝ったら、この場は見逃してくれるか?」
「ふっ、いいだろう。貴様が勝てたら何処にでも行くがいい。他の奴等にも手出しはさせない」

折角ヘシンを追い詰めたのに、後から出て来て勝手な約束までしたベジータに、悟飯達は軽い憤りを覚えた。勝利を確信したへシンは、悟空に目線を移した。

「そんな体で、よく立てたな。今のお前を倒すのに変身は必要あるまい。この姿のまま殺してやる」
「ヘシン。よくも俺と爺ちゃんとの大切な思い出を踏みにじってくれたな。お前だけは、お前だけは絶対に許さねー!」

悟空は、かつてないほど激怒していた。そして、悟空は怒りの形相でヘシンに飛び掛かった。その気迫に圧倒されたへシンは、悟空の右の拳の一撃を喰らった。悟空は引き続いて攻撃を何度も繰り出したが、とても重傷を負っている者の仕業とは思えない程の凄まじさで、ヘシンは壁際に追い詰められた。このままではまずいと思ったヘシンは、あっさり前言撤回して再び悟飯に変身した。

「どうじゃ!わしには手出し出来まい」

悟飯もどきとなった事で勝ち誇ったへシン。しかし、悟空はタックルして悟飯もどきを倒し、悟飯もどきの股間に自分の後頭部を乗せた。驚いた悟飯もどきは、慌てて悟空から離れた。

「な、何をするんじゃ!?悟空」
「何って、キンタマクラじゃねえか。昔よくやってたろ?」

悟空は再び悟飯もどきにタックルを試みた。悟飯もどきは見た目が悟飯でも中身はへシンであり、悟空のキンタマクラに気色悪さを感じたヘシンは、急いで元の姿に戻った。そして、ヘシンが元の姿に戻ると、悟空は攻撃に転じた。これまでヘシンから受けた数々の仕打ちを思い出した悟空は、怒りに我を忘れて無我夢中で攻撃を繰り返し、ふと我に返ると瀕死の状態のへシンが悟空の足元に横たわっていた。自らの死期を悟ったへシンは、精一杯の虚勢を張った。

「こ、この俺が敗れるとは・・・。だが、俺に勝てたぐらいで調子に乗るなよ。貴様が次に戦う相手、つまり最後に残ったジュオウ親衛隊のサキョーは、俺達の中では、ぶっちぎりのナンバーワンの実力の持ち主だ。貴様程度の力では、サキョ―の足元にも及ばない。奴の強大過ぎる力と魔法に苦しんで死ね。クハハハハ・・・」

ヘシンは皮肉な笑みを浮かべたまま息絶え、死体は消滅した。悟空はヘシンの最後の言葉を気にもせず、一言述べて締めくくった。

「悟飯、悟天、パン。俺は確かに俺を育ててくれた爺ちゃんを殺してしまったが、それでも爺ちゃんが俺を憎んでいるはずがねえ。爺ちゃんは優しくて、本当に偉い人だったんだ」

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