「今まで何処に行ってたのよ!?どうせ武道会に備えて、皆で一緒に修行していたんでしょうけど、一言声掛けてくれたっていいじゃない!」
悟空達の姿を確認するなり、ブルマが悟空達に対して叫んだ。悟空達が黙っていなくなった事に、ブルマ達は少し腹を立てていた。
「あ・・・いや、ちょっと、レードに会いに・・・」
「何だおめえら、レードに会いに行ってたんか。そりゃこんなにいいホテルに、ただで泊めさせてもらってるんだから、ちゃんとお礼は言っとかねえとな」
悟空はレードの正体をブルマ達に話していなかった。そのため、事情を知らないチチが、悟空達が礼を述べにレードに会いに行ったと勘違いしても仕方がなかった。
「いや、そうじゃなくて・・・」
「何だ?どうかしただか?」
悟空達の様子が、ただ事ではないと気付いたチチは、今度は怪訝な表情で尋ねた。悟空もまた、レードの事を話すべきだと思い、これまでの経緯を話した。初めは興味深そうに聞いていた彼女達も、徐々に険しい表情になっていった。
「お前等、そこまで言われて黙って帰ってきたのか!?」
話を聞くなり、まずヤムチャが非難の口火を切った。
「あんた達を十秒で倒せると言うんだったら、本当に出来るかどうか、全員で戦えばよかったじゃない?どうせ、ハッタリなんだし、すぐに『ごめんなさい。言い過ぎました』と言って謝ってくるわよ」
続いてブルマが怒った表情で悟空達を非難した。しかし、この言葉でべジータの堪忍袋の緒が切れた。
「ふぜけるな!そんなみっともない真似が出来るか!あの野郎は武道会で、大勢の人間が見ている前でぶっ殺してやる!」
それはべジータだけでなく、他の戦士達も似たような思いを抱いていた。レードの尊大な態度が、悟空達の闘争本能に火をつけていた。
しかし、そんなべジータの様子を不安に思ったピッコロが、彼をなだめた。
「落ち着け、べジータ。奴の態度には、この俺だって腹が立った。しかし、フリーザの子供の実力を甘く見るな。レードに俺達全員をあっさり倒せるほどの実力があるとは思えないが、一対一で戦わざるを得ない試合は余りにも危険だ。それよりも、武道会に出ないで、今すぐ地球に帰った方がいい。その後で、俺達を追って地球に来るであろうレードを、俺達全員で倒せばいい。もし可能なら、お前一人で倒してもいい」
実際にフリーザの子供達と戦ってきたピッコロは、彼等が強敵である事を充分に把握していた。しかも、その中で一番強いと言われているレードと戦う事は、例え悟空が戦うとしても、一対一では殺される可能性があると、ずっと危惧していた。そもそもピッコロは、この武道会に出場する事自体に賛成ではなかった。悟空が出場したいと言って聞かないので、渋々付いて来ていた。
「奴を大勢の人間が見ている前で血祭りにあげられんのは気に入らんが、本選が始まる前に俺達がいなくなれば、レードの面目は丸つぶれだ。武道会そのものをが中止になるか、続行するとしても、後に残っているのは雑魚ばかりで、レードの実力をアピールする計画を防ぐ事は出来る。それはそれで痛快だ」
ピッコロの提案に同意する素振りを見せたべジータ。最も本心は、ピッコロの慎重策に反対どころか、苛立ちすら覚えていた。しかし、人の意見を聞かずに一人突っ走って、後で大失敗した経験が過去に何度もあるため、頭ごなしに否定出来ず、止むを得ず賛成しているだけであるが。
ところが、脇に控えて話を黙って聞いていたリシパが、血相を変えて悟空達の前に飛び出し、土下座しつつ懇願した。
「待って下さい!それだけは、それだけは勘弁して下さい!あなた方が武道会に参加しなければ、私の命、いえ私の星がレード様に滅ぼされてしまいます!」
今まで弱腰だったリシパの鬼気迫る形相に、思わず悟空達はたじろいだ。
「私が生まれ育った星は、レード様が支配する星の一つなのです。実を申しますと、あなた方を接待するよう人づてに命令された時、こう言われたのです。『もし孫悟空達が武道会に出場せずに帰る事になれば、貴様等の反逆とみなし、貴様等を星もろとも皆殺しにする』と。そこで、あなた方が気分を害して途中で帰らない様に、私達の星の金を使って接待してきたのです」
悟空達にはショックが大き過ぎる話だった。これまでレードの金と思ってきたからこそ、好き勝手に贅沢してきた。それが実は、リシパ達が負担してきたというのである。しかも、自分達が今帰れば、リシパの星そのものが滅ぼされるという。レードに言われるがまま多額の金を使ってきたリシパは、情けないと言えばそれまでだが、力が無いので抗う術を知らず、言いなりになるしか生きる道がなかった。
これまでリシパが悟空達のために使った金は、一億ゼニーを優に超えているだろう。リシパが負担した金を立て替えようにも、額が大き過ぎて出来そうにない。ブルマやサタンですら、そんな大金を惑星レードに持ち込んでいる訳がなかった。この時点で悟空達に出来る最善の手段は、誰か一人が武道会で優勝する事だった。優勝賞品である星は、黄金の産出量が宇宙一らしいので、今回の接待費も十分に補えるはずである。
「仕方ねえ。結局、武道会には出なくちゃなんねえ様だな」
悟空の意見に、ピッコロは不本意ながらも首を縦に振った。まるでレードの手の内で踊らされているみたいで、悟空達にとっては腹立たしいが、いずれ見返すしかない。
こうして、改めて本選で戦う事を決意した戦士達は、それが始まるまでの期間を、軽めの修行で過ごした。また、余り贅沢しないように、部屋を相部屋に変え、食事も大量ではあるが、豪華ではない物に切り替えた。
遂に本選当日の日を迎えた。悟空達は朝早く、今度はリシパが用意した車ではなく、ブルマの飛行機で試合会場まで移動した。本選が行われる試合会場は、天下一武道会の会場を大幅に上回る広さだった。そして、会場には宇宙中から集まった大勢の観戦希望の客が、続々と入場していた。
飛行機を降りて会場に入った悟空達は、リシパの案内で控え室に通された。出場選手達には各自個別の控え室が用意されていたが、悟空達には全員が共同で使用する広い控え室が用意されていた。控え室にはモニターが置いてあり、リシパの話では、それで試合を観る事が出来るという。ブルマ達観戦者組も、その控え室のモニターで試合を観る事にした。
その後、悟空以下選手全員は、別の部屋に集められた。出場選手全員が集まった後、審判団によるルールの説明が行われた。
「選手の皆さん。それではルールの説明をさせて頂きます。試合は一対一のトーナメント形式で行われ、勝った者が次に進みます。基本的には、片方が戦闘不能と判定されるまで試合を続けて頂きます。途中でギブアップされる場合は、床を数回叩いて下さい。その者を棄権とみなし、試合を止めます。禁止事項は予選と同じで、武器を使わなければ後は特にありません」
当然と言うべきか、本選も相手を殺してしまっても反則にはならない。しかし、選手達には既に予想通りのことなので、誰も文句を言わなかった。次に、審判団は選手達を闘技場に案内した。闘技場には武舞台のような物がなく、正方形に切り取られた無数の黒光りするパネルが、闘技場全体に隙間なく敷き詰められていた。その闘技場を囲む形で、観客席があった。
「皆さんには、こちらで戦って頂きます。闘技場と観客席の間には、透明のバリアが張られます。そして、闘技場の床には、宇宙一固い金属であるカッチン鋼が敷いてあります。また、我々は衛星カメラを通して試合の状況を随時確認し、放送によって判定を下します。なので試合中の闘技場には、戦う選手二名だけになります」
観客席にはバリアが張られるので、そのバリアが破られない限り、観客が戦闘の被害に巻き込まれない。また、床にはカッチン鋼が隙間なく敷かれているので、うっかり星を破壊してしまう心配もない。ただし、試合中に床に叩きつけられれば、それだけで大ダメージを受けてしまうのは間違いない。
闘技場の説明が済むと、再び先ほどの部屋に全員戻り、いよいよ運命の組み合わせ抽選会が行われた。
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