其の八十 最強の王と最弱の民

魔界の中で異彩を放つ星。その星の最も高い場所に存在する豪華絢爛な城。その城の玉座の間に居る一人の魔族。その魔族の名はサキョー。かつてジフーミ達がドラゴンレーダーを持ち帰ってジュオウと謁見した際、ジュオウの側に立って進言していた、あの時のジュオウの部下である。現在、サキョ―は赤ワインが入ったグラスを片手に持ち、テレパシーで遠くの星に居るジュオウと交信していた。

『・・・そうですか。ボレィもヘシンも死に、生き残ったジュオウ親衛隊は、私一人となってしまいましたか。ですが、ジュオウ様。ご心配には及びません。私が攻めてきた連中を倒し、ドラゴンボールを奪ってみせます。そして、ジュオウ様が晴れて魔王となった暁には、私一人で七人分の働きをし、ジュオウ様に全世界を献上します』

悟空達の存在を知って以降、ジュオウはドラゴンレーダーを見たり、各親衛隊とテレパシーで交信したりして、悟空達の動きに着目していた。そのため、悟空達がボレィやヘシンを倒した事を、ジュオウは既に知っていた。

『嬉しい事を言ってくれるわ。まあ、お前さえいれば、わしに何の不安もない。いずれ連中は、お前の元にも現れるだろうが、なーに、お前に勝てるはずがない。だが、相手は親衛隊を六人も倒した実力の持ち主だ。一応、油断だけはするなよ。見事に連中を倒してボールを奪い、捜索中のボールを手に入れ、早く戻って来てくれ』
『かしこまりました。吉報を、お待ち下さい』

ジュオウとのテレパシーでの交信を終えたサキョ―は、手に持っていたグラスを口に近付けた。その時、複数の大きな気の出現をサキョーは感知し、手を止めて気を感じる方角を見た。

「もう来ましたか。思ったより早かったですね。さて、歓迎の準備をしなくては」

サキョ―は微笑を浮かべつつ、ワインを一気に飲み干した。

話は少し遡るが、ヘシンを倒した悟空は回復のため、仲間達と共に一旦地球へ帰った。そして、全員の回復後、悟空・悟飯・ベジータはキビト界王神の瞬間移動で、再び魔界に向かった。その直前、トランクス達は自分達も連れて行くよう懇願したが、今回も悟空は首を縦に振らなかった。

悟空達が連れてこられた場所は、サキョ―の居る城から遠くない距離にある平原だった。サキョ―の巨大な気を感じて気を引き締めた悟空達に対して、キビト界王神が口を開いた。

「悟空さん。宇宙一武道会の会場で、私は『ジュオウ親衛隊の中には絶対に勝てない奴もいる』と言いました。それは、テキームとサキョ―の事を言ったのです。サキョ―は、テキームの様な特殊な体ではありませんが、恐ろしい魔法を使います。どんな魔法かを教えるべきか悩みましたが、仮に知っても対処法は無く、恐怖を抱くだけでしょう。むしろ知らない方が、思いっきり戦えると思います」

話を終えたキビト界王神は、両耳に付いているポタラを外し、それを悟空とベジータに手渡した。戸惑う悟空達に対し、キビト界王神は話を再開した。

「あなた方がポタラを使いたくない気持ちは分かりますが、念のため持っていて下さい。今のあなた方は武道会の時よりも強くなっていますが、それでも勝てるかどうかは分かりません。もし勝てないと悟った時は、これを使ってください。使わないで勝てれば、それに越した事はありません」
「・・・分かった。一旦、借りておくぞ」

悟空とベジータは、ポタラを手に取ると、それぞれ懐の中に入れた。いつもの彼等なら「要らない」と言って、ポタラを突き返すが、今回は受け取った。それだけサキョーとの戦いが厳しいものになると感じていたからである。

「私が出来るのは、ここまでです。後は地球に戻って、他の方々と共に、あなた方の応援をしています。それでは、お気をつけて」

キビト界王神は瞬間移動で地球に戻った。キビト界王神が居なくなった後、悟空達はサキョ―の気を感じる方向に飛行を開始した。その途中、大きな町が眼下に広がり、そこにはキノコ型の頭をした人々が暮らしていた。何故か彼等に興味を引かれた悟空は地上に降り、悟飯達も後に続いた。

町の中では人々が楽しそうに行き来していた。ここが悟空達の住む世界であれば何の不思議もない光景だが、生憎ここは魔界である。魔界全体が親衛隊の脅威に怯えているのに、ここだけまるで別世界だった。町の人々の何気ない生活が、今の悟空達の目には異様な光景に映った。

「どうして皆の表情は、こんなに明るいんだ?ここにはジュオウ親衛隊の中でも最強と言われてる奴が攻めてきているのに」
「不思議なのは、それだけではない。こいつ等の力は、並の地球人以下だ。魔界は弱肉強食の世界で、弱い者は滅ぼされると聞いているが、こいつ等は何で今日まで滅ぼされなかったんだ?」
「それに、どの建物も新しい。まるで昨日今日に建てられたみたいですよ」

体が貧相で背も低い彼等は、これ以上ないぐらい弱々しい人種に見えた。しかし、彼等の表情は明るく、魔界に住んでいながら魔族とは思えない異質な種族に見えた。そして、彼等が住む家屋は、どれも同じ様な外観で、つい最近建てられたばかりに見えるほど新しかった。余りにも不可解な事が多過ぎる奇妙な町なので、悟空達は考え込んでしまった。

しかし、幾ら考えても答えが分かるはずないので、道行く人に尋ねようと思ったが、今は大事な戦いの前。謎は謎のままにして、とりあえずサキョ―の元まで行こうとしたが、すぐ近くに屋台がある事に気付いた。そして、そこには食べ物が山と積まれていた。悟空は食べ物に釘付けになった。

「なあ、ベジータ。あれ全部オラに奢ってくれよ」
「ふざけるな!何で貴様に奢らないといけないんだ?」
「だって、お前の家、金持ちじゃねえか」
「欲しければ自分で買え!大体、地球の金が、ここでも通じるとは思えんがな」

ベジータの鋭い指摘に気落ちした悟空は、食べ物を我慢して飛び立とうとした。ところが、その前に屋台の中に居た中年の店主が、悟空達に声を掛けた。

「おい、お前等。ここらじゃ見ない顔だな。ひょっとして、これが欲しいのか?」
「ああ。でも、オラ達は金がねえし」
「金なんか要らねえ。ほれ、持ってきな」

屋台の店主は、悟空達に青い色で梨に似た形の果物を手渡した。悟空達は店主に礼を言ってから、果物を食べた。スイカに似た味の果物を三人とも食べ終わった後、悟空は屋台の人に話し掛けた。

「オラ達は今まで魔界で色んな星を見てきたが、こんなに平和な星は初めてだ。これまで出会った魔族は、どいつも表情が険しかったが、ここの人達は穏やかな表情だな」
「この星は、サキョ―様によって守られているから、俺達は平和に暮らせるんだ。俺達全員、サキョー様には感謝しているんだ」

この言葉に悟空達が驚いたのは、言うまでもなかった。人々に慕われているサキョ―。それは、これまで出会ってきた他の親衛隊とは、明らかに一線を画していた。悟空達は、これから本当にサキョ―と一戦を交えるのか怪しくなってきた。

その後、悟空達は屋台の店主に別れを告げ、再びサキョ―の居る場所を目指して飛び立ったが、その途上で悟空は悟飯に話し掛けた。

「なあ、悟飯。パワーアップの最中に、界王神様からジュオウ親衛隊の事を聞いてんだろ?サキョーって、どんな奴なんだ?」
「俺が聞いたのは、サキョーは親衛隊の中で一番強く、恐ろしい魔法を使うという事だけです。性格までは聞いてませんよ。いずれにせよ、どんな奴なのかは会えば分かるでしょう。ただし、もし戦う事になったら、この星に住む人達が犠牲にならないよう配慮しないといけませんね」

飛行を続けていた悟空達の視界に、とんでもない代物が飛び込んできた。何と島が宙に浮いていたのである。この星に来て何度も驚いていた悟空達だが、これには最も驚いた。

「な、な、何で島が浮いてんだ!?」
「た、多分あれはサキョ―の魔法だと思いますけど、それにしても凄い・・・」
「ふ、ふん。あんなのは戦いの役に立たん」

浮遊島の上には豪勢な城があり、その城の前では一人の魔族が立っていた。悟空達より少しだけ背が高く、中世の王様の様な衣装を身にまとい、端整な顔立ちで頭の左右に角がある魔族は、先程から感じていた巨大な気の持ち主だった。この人物こそがサキョーであると、悟空達は即座に分かった。そして、悟空達がサキョ―の目の前に降り立つと、サキョ―は笑みを浮かべて自己紹介を始めた。

「ようこそ我が城へ。この星の王であり、ジュオウ親衛隊の一人でもあるサキョ―です」

サキョ―は悟空達に対し、深々と頭を下げた。

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