「さあ、城の中へ案内します。どうぞ中へ」
サキョーは招かれざる客どころか、敵であるはずの悟空達を、客人として城の中へ誘った。サキョーの考えが全く読めない悟空達だが、勧められるまま城の中へ入った。悟空達は城の中を警戒しながら、ゆっくり歩いたが、特に罠らしい罠もなく、サキョーを加えた四人は応接室に到達した。
「今から食事を用意します。お口に合うと良いのですが・・・」
サキョーが指を鳴らすと、突然テーブルと三つの椅子が彼等の前に出現した。次に、何処からともなく料理が飛んで来て、テーブルの上に並べられた。悟空達三人は、左から悟飯・悟空・ベジータの順に椅子に腰掛けた。目の前には美味しそうな料理があるが、ベジータは食べたい気持ちを堪え、手前のスープが入った皿を手に取り、鼻を近付けて匂いを嗅いでみた。異臭が無かったので、次にスプーンでスープを掬って少し舐めてみた。味にも異常は無かったので、ベジータは悟空達の方を振り向いた。
「カカロット、悟飯。毒は入ってないみたいだから、食べられそう・・・」
ベジータが悟空達を見た時、悟空は既に十皿を空にしていた。悟飯も五皿を平らげていた。ベジータは悟空達の不用心さに呆れたが、すぐに冷静になって怒声を上げた。
「貴様等!不用心過ぎるぞ!食べ物に毒が入ってたら、どうするんだ!?」
罠かもしれない食べ物を、何の疑いもなく食べた悟空達の無神経さに、ベジータは腹を立てた。ベジータが急に声を荒げたので、悟空は驚いて喉に食べ物を詰まらせてしまい、慌てて胸を叩いた。一方、ベジータに疑われている事を知ったサキョーは、不機嫌になるどころか笑い出した。
「はっはっはっ・・・。お疑いも当然かと思いますが、食べ物に毒を混ぜるとか、そんな情けない手段は使いません。第一、ヒサッツの尻尾の毒ならともかく、それ以外の毒で、あなた方を殺せるはずないじゃありませんか。さあ、あなたも遠慮しないで、どんどん食べて下さい」
食べ物に害が無いと分かっても、ベジータは食べようとしなかった。ベジータはテーブルを挟んで向かいに立っているサキョーを睨みながら問い質した。
「サキョー。貴様の目的は何だ?敵である俺達に食べ物まで出して、何を企んでいるんだ?」
「敵?何故あなた方が、私の敵なのですか?」
「とぼけるな!俺達はジュオウ親衛隊を六人倒した。貴様にとって、俺達は憎い敵だろ!」
「あなた方を敵視しているのはジュオウであって、私は敵だとは思っていません。私が倒すべき敵は、あなた方ではなくジュオウです」
サキョーの衝撃の告白に、ベジータは絶句した。悟空や悟飯も食べるのを止めた。サキョーは笑みを浮かべて語り始めた。
「ジュオウは自らの野望を成就させるために、己の大半の魔力を使い、私達一人一人が入った卵を口から産みました。しかし、ジュオウは強過ぎる私達が自分に背く事を恐れ、私達が卵の中にいる間に、ある術を卵に掛けました。それは、ジュオウが死ねば私達も死ぬという呪いでした。こればかりは、私の魔法でも対処出来ず、以後、私達は体を張ってジュオウを守る他ありませんでした。これだけ優れた力を持つ私達が、あんな小物に従わざるを得ないとは、何とも皮肉な話です」
ジュオウ親衛隊がジュオウを守っているのは、自分達の生みの親だから彼に対して忠誠心があるわけではなく、呪いのせいだった。
「なるほどな。だからこそ、ジュオウ親衛隊はジュオウを守っていたわけか。だったら、わざわざ手強い親衛隊を相手にするよりも、ジュオウ一人を倒した方が遥かに楽だったな」
ベジータは言葉とは裏腹に、魔界に来て真っ先にジュオウを殺そうとしなかった事に安堵した。ベジータが魔界に来た目的は、ジフーミへのリベンジだったからである。もしジュオウを殺し、それに伴ってジュオウ親衛隊が全滅しても、ベジータに勝利の喜びはなく、ジフーミへのリベンジを果たせなくなった悔しさだけが残るだろう事は想像に難くない。
「ドラゴンボール集めのために私達が魔界の各地に散らばる時も、ジュオウの安全を配慮する必要がありました。そこで私は、ジュオウが居住する城一帯に、親衛隊と彼に忠誠を誓う者以外は立ち入り出来ない結界を張りました。まあ後になって、その結界には重大な欠点がある事に気付いたのですが、仮にジュオウの身に危険が迫ったとしても、すぐに私が彼の元に駆けつけられますから問題ありません」
サキョーの作った結界は、ジュオウを守るためのものであると同時に、ジュオウを監視するためのものでもあった。ジュオウが結界の中にいる間は、ジュオウの一挙手一投足がサキョーには手に取るように分かった。一方、結界内ではジュオウからサキョーの様子を覗き見る事が出来ないため、サキョーは好き勝手に行動していた。
「私は生まれてこの方、ジュオウの前では常に従順を装いながら、どうすればジュオウの呪いが解けるのか模索していました。なかなか解決策が見つからない中、ある物の発見により、とうとう呪いを解く方法を見つけました。これです」
サキョ―が懐から取り出した物。それは六神球だった。
「ジュオウが見つけた一個のドラゴンボール。でも、それが何なのかは最初は誰も知りませんでした。しかし、私はボールの事が記載されている古文書を発見しました。古文書によれば、どんな願いでも叶えてくれる神がボールに宿っているそうです。それが本当ならば、ジュオウの呪いを解く事だって出来るはずです。初めは私一人でボールを全部集めようとしたのですが、探し方が分かりませんでした。そこでジュオウに古文書を見せ、ジュオウの野心や他の親衛隊の力を利用する事にしたのです」
サキョーは自身に掛けられた呪いを解くため、ジュオウには内緒でドラゴンボールを集めたかった。しかし、唯一の情報源である古文書には、他のボールがある場所は記載されていなかった。自分一人の力だけでは限界があると悟ったサキョーは、本心を隠して情報だけ開示し、他の協力を得る事にした。
「魔王になれるかもしれないと知ったジュオウは、ドラゴンボールを全部集めようとした。でも、探し方が分からなかったから、ジフーミとヒサッツの二人を俺達の世界に派遣したわけか。そして、レーダーを手に入れて探し方が分かった貴様等は、魔界の各地に分散してボールを集めようとしたわけだな。そこまでは分かるが、貴様は既にボールを手に入れておきながら、何故この地に留まっているんだ?」
理由はどうあれ、サキョーがドラゴンボールを探しに来たのなら、それを発見した時点で、この星に居続ける必要はない。ベジータの疑問は、至極当然だった。
「私の当初の計画では、まず私が一個のボールを確保し、それ以外の六個のボールをジュオウが入手した時点で、まとめて奪うつもりでした。そのため、私はボールを見つけた後も、ジュオウには探し中と報告していました。しかし、一つ気掛かりな事がありました。私がボールを奪う際、他の親衛隊と衝突するでしょう。彼等が徒党を組めば、流石に厄介でした。ところが、あなた方が彼等を倒してくれました。お陰で、ジュオウからボールを奪いやすくなりました。本当に感謝しています」
ジュオウ親衛隊の中で最強の実力を誇るサキョーでも、曲者揃いの他の親衛隊六人を相手に戦うのは、流石に荷が重かった。ボール探しのために分散した彼等を、一人ずつ暗殺しようかとも考えたが、思いがけず悟空達が現れて彼等を倒してくれたので、サキョーは喜んでいた。だからこそ悟空達に料理を振る舞い、感謝の意を示した。
「呪いを解いてジュオウを殺した後、私は魔王になります。私の実力なら、長老達も認めてくれるでしょう。その後、私は更に上の大魔王の位に就くつもりです。魔王となるためには長老達に認められなければなれませんが、大魔王は魔界の神々に実力を認められた魔王しかなる事が許されません。魔王は魔界の歴史に数え切れないほどいますが、大魔王にまで上り詰めた者は余りいません。神々に実力を認められるのは、それだけ容易ではないからですが、私だったら大魔王になれるはずです」
魔王も大魔王も、魔界の支配者という意味では同じだった。しかし、魔王となった者は、ほぼ例外なく大魔王になる事を目指していた。
「大魔王となった者は、魔界の神々から魔神技を伝授されます。魔神技とは、読んで字の如く魔界の神の技です。どんな技かは私も知りませんが、是非習得したいと思っています。それに何と言っても、大魔王といえば魔族にとって最高のステータス。大魔王となった者は、魔界の歴史に永久に語り継がれていくのです。そのためにも私にはドラゴンボールが必要なのです。あなた方にもあなた方の住む世界にも手出ししませんから、あなた方が持つボールを私に譲ってくれませんか?」
話し終えたサキョーは確信していた。悟空達は絶対に自分にボールを手渡すと。しかし、悟空達の反応は、サキョーにとって予想外だった。
「俺達にも俺達の住む世界にも手出ししないだと?そんな言葉が信用出来るか!幾ら貴様が善人の振りをしても、気までは誤魔化せない。貴様の気は他の親衛隊と比べても大きいが、本質は変わらない。貴様の気は邪悪に満ちている」
サキョーの本質はフリーザと似ていた。どちらも物腰は柔らかだが、本性は邪悪で、野心的だった。もしサキョーが魔王になれば、魔界の支配だけで満足するはずがない。悟空達の住む世界も手中に収めるために攻めてくる事は想像に難くなかった。
「オラ達は長老達と約束した。ドラゴンボールの中に眠る悪魔、おめえは神って言ったけど、そいつを倒すってな」
「今まで他の親衛隊と共に悪事を働いておきながら、貴様一人だけ許されると思っているのか?それに仲間を騙し討ちしようとした奴が魔王になったら、魔界に住む人達が気の毒だ」
悟空達はサキョ―の事を全く信用していなかった。ベジータに続いて悟空と悟飯も思いの丈をサキョーにぶつけた。それを聞いていたサキョ―の表情からは、すっかり笑顔が消えていた。
「・・・ボールを譲る気はなさそうですね。仕方がない。力づくで奪う事にしましょう。何故、私が自分の秘密を話したか、その理由が分かりますか?あなた方の信用を得るためでしたが、自分の実力に絶対の自信があるのも理由の一つです。大魔王クラスの実力、とくと見せてあげましょう」
サキョーが再び指を鳴らすと、目の前にあった料理はテーブルごと消えた。更にサキョーの来ている服も、豪華な衣装から軽装な武道着になった。
「流石の私でも、あなた方を相手に無傷で勝つのは無理でしょう。掠り傷程度で済めば良しとしますか。素直にドラゴンボールを差し出さなかった事を後悔させてあげましょう」
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