長かったジュオウ親衛隊との戦いも、いよいよ大詰め。遂に悟空達は、ジュオウ親衛隊最後の刺客であるサキョーとの対決の時を迎えた。
「お一人ずつ戦いますか?それとも、全員で一斉に戦いますか?どちらでも構いませんよ」
いざ決戦の時を迎えても、サキョーは余裕の表情を見せていた。それは悟空達が、どの様な戦いを仕掛けてきても、自分の勝利は確実だと信じて疑わない自信の表れであった。また、悟空達がサキョーと対峙して初めて気付いた事だが、サキョーの威圧感は他の六人のとは比べ物にならない程に大きかった。しかし、悟飯は怯まず、一歩前に進んでサキョ―と相対した。
「貴様とは俺が戦う」
「そうですか。戦う前に名前を伺っておきましょう。今の内でないと聞けませんからね」
「俺の名は悟飯。孫悟飯だ」
「悟飯さんですね。覚えておきましょう」
悟飯はサキョーを睨みながら身構えた。対するサキョーも同様に身構え、双方ほぼ同時に飛び掛かった。まず悟飯の右の拳がサキョーの顎に迫ったが、サキョーは拳を避けると同時に、左の手刀を悟飯の首筋目掛けて真一文字に繰り出した。サキョーの爪が長過ぎたせいで悟飯は完全には避けきれず、薄皮一枚切られた。しかし、悟飯は臆せず、更に前に出てサキョーとの距離を詰めたが、サキョーは悟飯の腹部を蹴飛ばした。
蹴飛ばされた悟飯は体勢を入れ替えて着地し、サキョーの背後に素早く移動した。そして、悟飯はサキョ―を背後から攻撃しようとしたが、悟飯がサキョーの射程距離内に侵入した瞬間、サキョーは後ろに振り向きざま裏拳を出した。腕のリーチの差で、悟飯の攻撃が当たる前にサキョーの拳が悟飯の顔面を捉えた。思いもよらぬ攻撃を受けた悟飯は、不覚にもダウンしてしまったが、すぐに立ち上がった。
「くっ、俺の動きが全て見透かされているみたいだ。こんな奴は初めてだ」
「ふっふっふっ。驚かれましたか?私は対戦相手の次の行動を、何故か事前に読めるのです。相手の動きが分かっていれば、当然カウンターも容易い。これは訓練で身に付けたのではなく、生来備わっていた能力です。私は天性の勘と呼んでいます。私が反応する以上のスピードで動かないと、私に攻撃を当てられませんよ」
悟飯はサキョ―の人を見下した態度に苛立ち、早くも気を最大限に高めた。そして、再びサキョーに攻撃を仕掛けた。しかし、その攻撃もサキョ―に避けられたが、悟飯のスピードが余りにも速過ぎて、サキョーは反撃どころか避けるのが精一杯だった。
その後も悟飯は積極的に攻撃を繰り返し、サキョ―は防戦一方となった。そして、悟飯の数発の攻撃がサキョーの体に当たった。攻撃を受けてサキョ―が怯んだ隙に、悟飯は気を溜めて至近距離からかめはめ波を放ったが、危険を察知したサキョーに惜しくも避けられた。
「貴様は確かに強い。それは認めよう。だが俺達の事を舐め過ぎだ」
「まさか私のパワーとスピードを超える人物がいるとは思いもしませんでした。どうやら体術だけでは勝てないみたいですね。正直言って残念です」
悟飯の奮闘で劣勢に追い込まれたサキョーだったが、焦りの色は少しも見られなかった。
「あなたが私より強いので、私は魔法を使わなければならなくなりました。出来れば魔法は使いたくなかった。魔法を使うと、あっさり勝ってしまうので、戦いを楽しめないからです。でも仕方ありませんね。さて、どの魔法を使いましょうか・・・」
サキョ―は顎に手を当てて少し考え、ある事を思い出した。悟飯の名前である。
「あなたは悟飯さんといいましたね。では、その名に相応しい姿に変えてあげましょう」
サキョ―が指を鳴らすと、悟飯の全身が突然発生した煙に包まれた。そして、煙が晴れた時、その場に悟飯の姿がなく、代わりに御飯が盛られた茶碗が置かれていた。しかも、茶碗は微かに動いていた。観戦していた悟空とベジータは、何が起きたのか分からず、呆気に取られてしまった。
「ほう。そんな姿になっても、まだ動けるとは驚きです。ですが、余り動かない方が良いですよ。もし茶碗が割れてしまったら、中身が飛び出て死んでしまいますから」
サキョ―の忠告が聞こえたのか、茶碗は動かなくなった。ここにきて悟空達は、ようやく状況を理解した。悟飯はサキョ―の魔法により、御飯に変えられてしまったのである。悟飯が戦闘不能になったので、悟空とベジータの出番が回って来た。
「ギル。悟飯を連れて、どこか安全な場所まで避難してくれ。茶碗を割らねえように気を付けてな」
悟空は背後にいたギルに悟飯を連れて逃げるよう指示し、ギルは茶碗を抱えて飛び立った。ただし、ギルは四個のドラゴンボールが入った鞄を背負っているため、決して速くは移動出来なかった。そして、ギルが去った後、悟空達はサキョーと向き合った。
「よくも悟飯を、あんな姿に変えてくれたな」
「ふっふっふっ。あれは私でなくても出来る単純な魔法ですから、私が死ねば魔法が解けて元の姿に戻ります。悟飯さんを元に戻したければ、頑張って私を殺してみたらいかがですか?」
サキョ―の人を舐めた態度に腹を立てた悟空とベジータは、共に超サイヤ人4に変身した。
「次は、あなた方が二人掛かりで私と戦いますか?お願いですから、私に魔法を使わせないで下さいね。まあ、あなた方が相手でしたら、その心配は無用ですね」
「ふざけるなー!」
悟空とベジータは二人揃って正面からサキョーに攻撃を仕掛けた。ところが、サキョーは右腕で悟空の連続攻撃を、左腕でベジータの連続攻撃を、それぞれ完全に防ぎ、しかも二人の攻撃の合間を縫って反撃までしてきた。悟空達の攻撃は一つも当たらないのに、たまに繰り出されるサキョーの攻撃は全てヒットした。そのため、悟空達の体には生傷が増えていった。
このままではまずいと判断した悟空達は、攻撃を止めて一旦サキョ―から離れ、ベジータはサキョーの背後から、悟空は再び正面から突撃した。しかし、二人がサキョーの目前まで迫った瞬間、サキョーは上に飛び上がり、悟空とベジータは急に止まれずに勢いよく衝突した。
悟空は痛みに堪えて宙に浮いているサキョー目指して飛び上がった。悟空は下から右のパンチを突き上げたが、サキョーに右手首を掴まれてしまった。そして、サキョ―は下にいるベジータ目掛けて悟空の体ごと投げつけた。ベジータは避け切れずに悟空と再び衝突し、二人揃って倒れた。サキョ―は倒れている二人の側に降り立った。
「悟飯さんだけでなく、あなた方も強いですね。二人が揃って戦えば、親衛隊ナンバー2のカイブにも勝てるでしょう。しかし、ナンバー1の私には遠く及びません」
焦燥感に駆られた悟空とベジータは、サキョ―から少し離れて小声で話し合った。
「何て手強い奴だ。このまま二人で戦っても勝ち目は無い。フュージョンするぞ」
「でも、フュージョンしてあいつの力を超えたら、また魔法を使われちまうぞ」
「だったら魔法を使われないよう、フュージョンしたら速攻で倒せばいい。それなら文句あるまい」
「速攻で倒す?そんな簡単に勝てる相手じゃねえ。もっと慎重に作戦を立てないと」
サキョ―の強さに圧倒された悟空達は、対策を話し合うものの、冷静さを欠いて良いアイデアが思い付かなかった。離れた場所で話し合いを続ける悟空達に対し、圧倒的に有利な立場にいるサキョ―は、二人に声が届くよう大声で叫んだ。
「まだ戦うつもりですか?そんなに無理をしないでも、大人しくドラゴンボールを差し出せば、これまでの経緯は水に流しても良いのですよ!悟飯さんだって元の姿に戻してあげます!」
サキョ―にとって悟空とベジータは敵ですらなかった。かつてないほどの屈辱を味わった悟空達は、今の状態でも一矢報いたかったが、ここは私情を捨て、現状を打開するためにフュージョンする決意を固めた。ところが、この時、ある人物が彼等の元に近付いてきた。それは元の姿に戻った悟飯であった。悟飯は戦場に舞い戻ると、すぐにサキョ―の真正面に立った。
「サキョー。勝負は、まだこれからだ!」
「まさか、幾ら簡単な魔法だったとはいえ、私の魔法を自力で打ち破ったというのですか!?」
「ああ。時間は掛かったがな」
サキョ―は初めて驚きの表情を見せた。しかし、すぐに元の表情に戻った。
「思ったよりもやりますね。もう少し上位の魔法を使って、じっくり攻める事にしましょう」
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