其の八十三 魔法の鏡

悟空達は三人揃って身構えたが、対するサキョーは悟空達の方を見ずに天井を見上げ、しかも腕を組んで次に何の魔法を使うか楽しそうに考えていた。そして、サキョーは次に使う魔法を決めた後、とても戦闘中とは思えない事を提案してきた。

「今からゲームでもしませんか?」
「ゲームだと!?真剣勝負の最中に、何を馬鹿な事を言ってるんだ!」
「真剣勝負?ああ。あなた方は、そのつもりでしたね。ゲームと言っても難しく考える必要はないです。単なる鬼ごっこですから。これから私が鬼を出しますので、あなた方は逃げて下さい。ただし、この部屋から外に出ては駄目ですよ」

サキョーが右腕を前に出して左に振ると、サキョーが腕を振った辺りの空間に十本の剣が浮上している状態で出現した。

「この剣が鬼です。制限時間は十分。それまで逃げられたら、あなた方の勝ちです。途中で剣に刺されて命を落としたら、あなた方の負けです。では、いきますよ」

サキョーが右腕を下に振ると、十本の剣は猛スピードで悟空達を目掛けて飛んできた。悟空達は難なく剣を避けたが、通り過ぎたはずの剣は引き返して再び悟空達に迫ってきた。ただし、今度は十本の剣が同じ速度ではなく、剣毎にスピードや軌道を変え、各自バラバラに襲い掛かってきた。三人が一箇所に固まっていると狙い撃ちされると判断した悟空達は、三人別々の方向に逃げた。すると次に剣は、全てベジータを追跡してきた。

「くそったれが!俺が三人の中で最も切り裂き易いとでも判断したのか?剣のくせに舐めやがって!これでも喰らえ!」

ベジータは飛行を続けながら、後ろを振り向いて気光波を放った。しかし、剣は気光波を避けて追跡を続けた。一筋縄ではいかないと思ったベジータは、闇雲に逃げるのを止め、油断していたサキョーの背後に回り込んでサキョーを羽交い絞めにした。剣はサキョーに一直線に向かっていった。

「もう逃げられんぞ。このまま串刺しになりやがれ!」
「ふっ。それはどうですかな?」

剣がサキョーの身体に突き刺さると思われた瞬間、剣が進路を変えてサキョーを迂回し、サキョーの背後にいたベジータを狙ってきた。仰天したベジータだったが急いでサキョーから離れ、間一髪で剣の魔の手から逃れた。そして、一計案じたベジータは、わざと床に寝転がり、剣が真上から迫ってきたら素早く横に避けた。剣は急に止まれず次々と床に突き刺さり、ベジータは即座に気光波を放ち、全ての剣を消滅させた。

「ハアハア・・・。あの剣は何だったんだ?サキョーに操られていた、もしくは自動追跡機能の付いた剣のはずなのに、まるで一本一本の剣が生きている様な独特な動きだった」
「ほう。なかなか鋭いですね。あなたの想像通り、あの剣は生きてました。私は魔法で生きた剣を作ったのです。だからこそ、あの剣は私を絶対に傷つけようとはしなかったのです。どちらにしても鬼ごっこは、あなたの勝ちです。おめでとうございます」

サキョーは拍手してベジータを称えたが、サキョーの態度にベジータは堪忍袋の緒が切れた。

「貴様が凄い魔法を使うと聞いていたから少しは警戒していたが、その程度の魔法で何時までも調子に乗ってるんじゃねえ!貴様は思わせぶりな事を言ってるが、どうせ大した魔法は使えないんだろ!下らん魔法は終わりにして、さっさと全力で掛かってきやがれ!」

ベジータに自慢の魔法を馬鹿にされたサキョーは、不機嫌になって表情から薄ら笑いが消えた。

「・・・そこまで言うのでしたら、これまでの低レベルな魔法と違い、超魔力による本物の魔法というのを披露しましょう」

サキョーは指先から三つの光弾を放ち、悟空達から一メートルぐらい手前の床に当てた。すると光弾が当たった所に、悟空達の背丈と同じくらいの高さの鏡が出現した。そして、それぞれの鏡には、悟空達一人一人の全身像が映し出された。

「これが本物の魔法?単なる鏡じゃないか」

訳が分からない悟空達は、ただ漠然と目の前の鏡に映し出された自分達の姿を見ていた。しかし、鏡に映っていた悟空達の顔が、突然にやけた。悟空達は誰一人として笑っていないのに、鏡に映る自分達の笑みを見て驚いている間に、鏡に映った悟空達は鏡を割って鏡の中から現実世界に来た。一連の出来事に驚き過ぎて声も出ない悟空達に対し、少し離れた所で見物していたサキョーが得意気に語った。

「いかがですか?私の魔法の鏡は?鏡に人が映されると、その人と見た目も能力も全く同じ人が、私の忠実な僕として鏡の中から出てくるのです。流石に私の魔力を上回る力を持つ人は鏡に映りませんが、そんな人は今まで居ませんでした。無理だと思いますが、もしあなた方が彼等を倒せたら、私はあなた方を強敵と認め、本気になって戦っても良いですよ」

サキョーが合図を送ると、鏡から出て来た悟空もどき達は、本物の悟空達に一斉に襲い掛かってきた。そして、悟空もどきは悟空と、悟飯もどきは悟飯と、ベジータもどきはベジータと、それぞれ戦闘を開始した。もっと正確に言えば、悟空達は自分達と同じ姿をした敵と戦い始めた。

サキョーの言葉通り、この悟空もどき達は見た目だけでなく、実力もオリジナルと寸分も違わなかった。戦い始めた当初は、悟空達は混乱していたため、相手の勢いに押されて防戦一方だった。しかし、彼等は徐々に心が落ち着いて勢いを盛り返し、戦いは三つとも互角の様相を呈した。

悟空は一気に勝負を決めるために龍拳を放ったが、悟空もどきも同様に龍拳を放って相殺した。悟空は続けて十倍かめはめ波を出したが、それも同じ技を使われて相殺された。このままでは埒が明かないと思った悟空は、悟空もどきから距離を置き、悟飯やベジータも後に続いた。そして、三人が集まって対策を話し合った。

「相手はパワーもスピードも全くの互角です。このまま戦い続ければ、三人とも相討ちになってしまいます。今の内に何か手を打たないと・・・」

悟空もどきだけでなく、悟飯もどきやベジータもどきも、本物と寸分も違わぬ実力を持ち、同じ技を使用してきた。このまま戦い続ければ、行きつく先は共倒れであった。

「しかし、何か手を打つと言っても、あいつ等を出し抜くのは簡単じゃねえぞ。戦ってみて分かった事だが、あいつ等は戦い方や駆け引きまで一緒だからな。違う事と言えば、あいつ等は音の無い鏡から出てきたから全く喋らないぐらい・・・。そうだ!フュージョンだ!フュージョンはポーズだけでなく、声も合わせないと成功しねえ。あいつ等は声を出せないから、フュージョン出来ねえ。こっちがフュージョンすれば勝てっぞ!」

悟空もどき達は登場以来、一言も発していない。掛け声すら無い。声だけではなく、気光波類を出した時も音が出なかった。一連の動作から見て、悟空もどき達に音は出ないと判断した。

「よし!そうと決まったら、さっさとフュージョンするぞ!悟飯。お前は三人を一人で食い止めろ。その間に俺達がフュージョンする」

悟飯はベジータの指示に従って悟空もどき達相手に一人で戦いを挑み、悟空とベジータはフュージョンポーズを開始した。ところが、悟空もどきは瞬間移動で悟空達の背後に回りこみ、ポーズの最中の二人を蹴飛ばした。悟飯は悟飯もどきに足止めされ、他の二人を抑える事が出来なかった。そして、悟空もどき達は、悟空達の作戦を見抜いていた。

「ちっ。こちらの考えは、お見通しか。奴等、俺達にフュージョンをさせない気だ」
「しかし、何としてもフュージョンを完成させないと、サキョーと戦う前に俺達は全滅だ。よし!残像拳を使うぞ」

悟空達は一神龍と戦った時に使用した多重残像拳を使ってフュージョンを試みた。ところが、悟空もどき達も多重残像拳を使って悟空達を攪乱させ、その間に本物を見つけて攻撃した。またしても悟空達はフュージョンを失敗した。

「ほんの数秒で良いんだ。合体するための時間が欲しい。そうだ!あの手があった!」

悟空はべジータに目を閉じさせると、悟空もどき達の側まで駆け、彼等が自分に注目しているのを確認してから太陽拳を使った。間近で悟空を見た悟空もどき達は、三人とも目が眩んで動けなくなり、その間に悟空はベジータとフュージョンを完成させ、更に超サイヤ人5に変身した。視力が回復した悟空もどき達はゴジータを見て狼狽し、高みの見物をしていたサキョーも、初めて見るフュージョンに驚きを隠せなかった。

「どんなに凄い魔法を使っても、戦いにおいて最後に物を言うのは純粋な力だ。サキョー。これから俺が本当の戦いというのを見せてやる」

ゴジータは圧倒的な実力差を活かして悟空もどき達三人を瞬く間に撃退し、返す刀でサキョーにも攻撃を仕掛けた。しかし、サキョーの周囲に半透明の光り輝く壁が出現し、ゴジータの攻撃を阻んだ。

「何だ!?この壁は?」
「これぞ絶対防御魔法光壁。いかなる攻撃も光壁には通用しません」

防御魔法を使って危うく難を逃れたサキョーだったが、もはや彼の表情に先程までの余裕は無かった。

「この私に一瞬とはいえ恐怖を抱かせ、光壁まで使わせるとは・・・。あなた方を・・・いや、お前達を甘く見ていたようだ」
「ふっ。気付くのが遅いぞ。さあ!何時までも壁の中で震えてないで、早く外に出てこい!逃げてちゃ俺は倒せないぞ!」
「くっ。こうなったら、とっておきの魔法を使わねばならないようだ」

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