およそ二十年ぶりの登場となったベジット。悟空もベジータも、二度と分離する事はないと承知しつつも、憎き敵サキョーを倒すために自分達の未来を捨てる覚悟で合体を完遂した。一方、ベジットと向かい合ったサキョーは、舌打ちをして不快感を露にしていた。
「ちっ。また合体したのか。あのフュージョンとかいう変なポーズをしたら全力で止めるつもりだったが、そんな小道具を使っても合体が出来るとは思いもしなかった」
「そうか。そいつは残念だったな。ちなみに今の俺は、さっき合体した時よりも強いからな」
ベジットはサキョーに攻撃を仕掛けようとしたが、その前に悟飯の死体が起き上がってベジットに飛び掛かった。ベジットは予想外の出来事に仰天して動きが一瞬止まり、その隙に悟飯からの一撃を喰らってしまった。悟飯は更に攻撃を繰り出し、完全に混乱してしまったベジットは防戦一方となった。
「こ、これはどうなってるんだ!?ま、まさか、これもサキョーの魔法じゃ・・・」
ベジットがサキョーの方を見ると、サキョーの両手の指は前方にある何かを操作している様な不思議な動きをしていた。
「サキョー!悟飯が俺に襲い掛かってくるのは、やはり貴様の仕業だな?」
「これは操縦魔法マリオネットといって、本来は離れた場所にある人形を自在に動かすための魔法だが、この様に死体を操る事も出来る。既に死んでいるとはいえ、仲間を傷つけられまい」
先刻は魔法の鏡から出て来た悟飯もどきを倒したが、それは偽物だから倒せたのであり、今回とは事情が異なっていた。傷つき倒れた悟飯に手出しするなど、ベジットに出切るはずがなかった。
「止めろ悟飯!お前とは戦いたくない!」
「フハハハ・・・!無駄だ!もう悟飯は死んでいるんだぞ。お前の声が届くはずなかろう。もはや悟飯は俺の操り人形。肉体の損傷が酷いから、生前の時と同じ力は望めないがな」
「許せねえ。悟飯を殺したばかりか、その死体を弄びやがって!」
サキョーに対する怒りを更に募らせたベジットだったが、今は悟飯への対応が急務だった。悟飯は確かに生前の時ほど強くはなかったが、ベジットの実力でも決して侮れる相手ではなかった。
ベジットは悟飯と腕四つに組み、そのままの体勢で超サイヤ人4に変身して一気に力を上げ、悟飯の両拳を握り潰した。悟飯を戦闘不能にして魔法を解除させる算段だったが、悟飯は蹴りを繰り出して尚も攻撃してきた。
「サキョー!いい加減にしろ!何時まで悟飯の体を操る気だ!?」
「くっくっくっ。悟飯の手が使えなくなれば足を、足が使えなくなれば頭を使ってでも攻撃を続行させるつもりだ。悟飯を止めたければ、悟飯の体を消し去る以外に無いが、それは出来まい。悟飯に殺され、お前も俺の人形になれ!」
哀れな操り人形と化した悟飯は、単調な攻撃を繰り返した。肉が裂けようとも骨が折れようとも悟飯の攻撃は止まらず、そんな悟飯を見るのが、ベジットには非常に辛かった。操っているサキョーを倒そうにも、ベジットが近付けばサキョーは即座に光壁を使うのが目に見えていた。
ベジットは悟飯の体を掴んで遠くに投げ飛ばした。しかし、悟飯は即座に戻ってきた。
「どうすれば良いんだ?悟飯を消す以外に方法は無いのか?」
ベジットは迷ったが、現状打開のため、何より悟飯の肉体を開放するため、遂に決断した。
「済まない悟飯。無力な俺を憎め」
意を決したベジットは、気光波を放って悟飯の体を消滅させた。ベジットは自らの手で悟飯を消滅さなければならなかった我が身の不幸を呪い、打ち震えた。
「ほう。よく悟飯の体を消す事が出来たな」
「悟飯はドラゴンボールで、肉体が元通りの状態で生き返らせる事が出来る。それでも貴様のやった事は絶対に許さねえ!」
怒り心頭のベジットは、超サイヤ人5に変身してサキョーに飛び掛かったが、サキョーは光壁を出してベジットの攻撃を凌いだ。ところが、ベジットは変身を解き、光壁を挟んでサキョーと向かい合った。ベジットは特に何もせず、腕を組んでサキョーの様子を窺っていた。
「この光壁は、どんな攻撃も通じねえんだろ?そんな凄い魔法なら、使っているだけで、どんどん魔力を消耗するはずだ。こっちは、お前の魔力が尽きるのを、こうして待っていれば良い。言っておくが、この合体は永久に解けないからな。この光壁が無くなったら、すぐに貴様を倒してやる」
「くっ。考えたな。このままでは、こちらが無駄に魔力を使い続ける事になる。しかし、光壁を解除すれば、お前の攻撃を喰らってしまう」
時間無制限で合体していられるベジットだからこそ出来る作戦だった。自分のエネルギーは消費せず、相手の命綱とも言える魔力だけを浪費させる作戦で、サキョーは窮地に追いやられた。
「こ、このままでは魔力が尽きてしまう。反撃しようにも、こいつに生半可な魔法は通用しそうにない。大魔法を使えるだけの魔力は、もう残っていない」
切羽詰ったサキョーは、止むを得ず光壁を解除した。するとべジットは、「待ってました」とばかりに超サイヤ人5に変身し、サキョーに攻撃を仕掛けた。復讐の炎に燃えるベジットは、容赦なくサキョーを攻撃し続け、散々に打ちのめした。しかし、サキョーは瀕死の状態になりながらも、気力を振り絞って立ち上がった。
「思ったよりタフだな。でも、それもここまでだ。もう貴様に勝ち目はない。悟飯の受けた苦しみを貴様も味わえ!」
「確かに勝てないだろう。人間の体ではな。しかし、俺の体が魔族に変わればどうかな?」
「何!?それは、どういう意味だ?」
サキョーの意味不明な発言に、ベジットは戸惑いを覚えた。
「他の親衛隊は全て魔族の姿をしているのに、俺だけ角はあるが他は全て人間の姿で、変だとは思わなかったのか?それは、これが仮の姿だからだ。俺は自分の体を弱い人間に変えていた。魔族の体の方が、今の体より遥かに強いのだが、醜いので好きではないからだ。しかし、お前に勝つため、俺は再び魔族の体に戻る事にした。俺の真の姿を、とくと見よ!」
サキョーは上着を脱ぎ捨て、気を溜め始めた。
「メタモルフォーゼ!」
サキョーの皮膚の色が肌色から緑に変わり、目つきが鋭くなり、口が大きく裂け、そこから覗く歯が鋭く尖った。背中からは翼が生え、手足の爪が伸び、尻尾まで生え、体が一回りも二回りも大きくなった。更に、サキョーの左右の脇腹から一本ずつ腕が生え、腹部には顔が出現した。もはや先程までのサキョーの面影は、角以外に残っていなかった。そして、変わったのは外見だけでなく、サキョーから感じる気が大幅に上昇していた。
「待たせたな。さあ、白黒ハッキリさせようか。どちらが真の最強なのかをな」
魔族への変貌を遂げたサキョーは、正面から突進してきた。ベジットは横に移動してサキョーを回避したが、サキョーは引き返してベジットの背後に素早く回りこんだ。そして、脇腹から生えた右腕の拳でベジットの背中を殴った。ベジットは体勢を入れ替えてサキョーへの反撃を試みたが、サキョーは四本の腕を上手に駆使し、ベジットからの攻撃を全て防いだ。
「で、でかいくせに、何て素早いんだ」
「くっくっくっ。俺は魔族の体になると、戦闘に必要な全ての能力が飛躍的に上昇する。お前が犯した最大のミスは、俺の体が人間だった時に倒さなかった事だ。さあ、死ぬ覚悟は出来たか?」
サキョーは再度ベジットに襲い掛かったが、ベジットは上空に飛び上がって難を逃れた。すると、サキョーは翼を大きく羽ばたかせてベジットと同じ目線の高さまで飛び上がり、何度も攻撃を繰り出したが、ベジットは全ての攻撃を避けた。何とかサキョーの猛攻を凌いだベジットだが、疲れて肩で大きく息をしていた。
「お前の方がスピードは上か。しかし、パワーは俺の方が上だ。そんな疲れた体で、何時まで俺の攻撃を避けられるかな?もはや勝負は見えたな」
「貴様は一つ大きなものを見落としてるぞ。それは経験だ。幾ら貴様が凄い奴でも、所詮一年程度しか生きてない青二才。それに引き換え、俺には二人分の長年培ってきた戦いの経験がある。経験豊富な俺を見くびるなよ」
ピンチのはずのベジットだが、彼には絶対に勝てるという確たる自信があった。
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