其の八十八 ジュオウ捕縛

サキョーの城に負けず劣らず荘厳な城。その城の奥の一室に一人の魔族が居た。今は亡き七人のジュオウ親衛隊を使って魔界を大混乱に陥れたジュオウである。しかし、そのジュオウは以前までの毒気が消えており、現在は非情に狼狽えていた。

「まさかサキョーまでもが敗れるとは・・・。この先、わしは一体どうなるのだ?」

ジュオウは今後の自分の人生について考えていた。頼りとする親衛隊は、もう誰も居ない。全世界の支配という大それた夢を追い求めるどころではない。唯一の救いは、自分の住む城の周囲には生前のサキョーが作った結界が今だ健在だから、何者かが城の中に侵入して自分が殺される心配はない。ただし、何処に自分の命を狙う暗殺者が潜んでいるか分からないから、城から一歩も外に出られない。ジュオウは途方に暮れていた。

その頃、ベジットとギルは、残り二個のドラゴンボールの反応がある星に辿り着き、ドラゴンレーダーを確認して、ボールの反応がある場所まで飛行していた。

その途上、視界を遮る濃い霧が立ち込めており、大勢の魔族が霧の手前に立っていた。優に一万を超す魔族の軍団を、ベジットはジュオウの兵と思い、自分の姿を確認したら一斉に襲い掛かってくるものと予想した。しかし、ベジットは臆する事なく、魔族達の側に堂々と降り立った。ところが、予想に反して魔族達の反応は鈍く、ベジットを見て襲い掛かってくるどころか、関心すら示さなかった。ベジットは拍子抜けしてしまった。

ベジットが近くに立って、この魔族達を見ると、誰一人としてジュオウの部下が着用していた制服を着ていなかった。この魔族達がジュオウの部下でないなら、ベジットと戦う理由は無いので、彼等が襲ってこないのも当然だった。

ベジットが魔族達を眺めていると、魔族達の群れを搔き分け、見知った三人がベジットの前に現れた。それはテキーム戦後に別れたシーガ・ライタ・アストレーのセモークの三兄弟だった。先頭に立ったシーガは、ベジットに親しげに話し掛けた。

「お前は確かゴジータ?でも、少し違うな。他の連中は、どうした?」
「俺はゴジータじゃなくてベジット。まあ、ゴジータと似たようなもんだ。他の仲間は今、地球に居る。それにしても、お前達、よく生きてたな。ところで、この大勢の魔族達は一体何者だ?それに、お前達は何やってるんだ?」

久しぶりの再会に、ベジットも笑顔を返した。

「こいつ等は、先の大戦で散り散りになったルーエ様の元兵士達だ。俺達兄弟は色んな星を訪ね、そこに隠れ住んでいた彼等を発見しては味方になるよう説得し、あっという間に大軍になった。そして、俺達は憎きジュオウの居場所も突き止め、ルーエ様の仇を討つべく攻め入った。ところが、この霧のせいで、俺達はジュオウの元まで辿り着けず、こうして立ち往生していたのだ」

シーガに続いて、ライタやアストレーも話し出した。

「俺達が得た情報では、この霧の奥にジュオウの城があるそうだ。そこで俺達は、この霧の中に足を踏み入れたが途中で道に迷い、何度試しても元の場所に戻された。霧の上まで飛行し、空からの侵入も試みたが、結果は同じだった」
「ジュオウ親衛隊やジュオウの兵士達は、問題なく城に行けるそうだ。どうやら魔法のような摩訶不思議な力が働いて、侵入者の行く手を阻むらしい」

アストレーの「魔法」という台詞を聞いて、ベジットはサキョーを思い浮かべた。そして、サキョーの言った台詞を思い出した。

「そう言えば、俺が倒したサキョーが言っていた。『ジュオウの住む城の周りに結界を張り、親衛隊とジュオウに忠誠を誓う者しか中に入れない』と。この霧が結界に間違いないだろう。サキョーが作った結界なら、簡単に突破出来なくて当然だ。でも、サキョーは何処かに欠点があるとも言ってたな。何処にあるんだ?」

ベジットは腕を組み、突破法を考えた。一方、ベジットの話を聞いていたシーガ達の表情が一変した。

「い、今、サキョーを倒したって言わなかったか?ジュオウ親衛隊の中でも最強との呼び声が高い、あのサキョーを・・・」
「ああ。言った。手強かったけどな。そういえば、まだ言ってなかった。お前達と別れた後も俺達は戦い続け、ジュオウ親衛隊を全員倒した」

ベジットの話を側で聞いていた魔族達の間で、大きな歓声が挙がった。そして、ベジットの言葉に歓喜する者や、戸惑う者や、全く信じない者など、魔族達は様々な反応を見せた。

「俺の話を信じるか信じないかは勝手にしな。俺は現在、親衛隊との戦いを制して手に入れた五個のドラゴンボールを持っている。ジュオウが持つ残り二個のボールと合わせれば、全てのボールが揃う」

ベジットはギルから鞄を受け取り、シーガ達に鞄の中身を見せた。魔族達はシーガから親衛隊がドラゴンボールを探していると聞いていたので、そのボールをベジットが持っている事に仰天した。この事は、その場にいた魔族全体に知れ渡り、魔族達のべジットを見る目が変わった。

「まさか親衛隊を全員倒すとは・・・。にわかには信じられない話だが、ボールを見せられては信じざるを得ないな。武道会で俺達が敵わなかったわけだ。これでジュオウには親衛隊が居なくなったわけだから、今がジュオウを倒す絶好の機会だ。是が非でも城に攻め入らねば」

セモークの三兄弟は、霧を睨んで思案に暮れた。ベジットも霧を見つめながら考えた。

「正面からも上からも城に行けない。・・・待てよ。だったら下からならどうだ?地面の下に霧は無いはずだから、地面に穴を掘りながら進めば、城まで行けるんじゃねえか?」

ベジットの提案に、魔族達は一斉に「あ!」と驚きの声を上げ、すぐに三つのチームに分かれて作業に取り掛かった。ライタとアストレーが、それぞれ大勢の魔族達を指揮して、二か所から地面に穴を空けて地下を掘り進んだ。シーガは少数の手勢と共に、その場に待機して変事に備える事にした。

「やれやれ。これだけの人数が居ながら、誰一人として地面から進む事を思いつかなかったのか?まあ良い。おい、シーガ。あいつ等が城に着くまで時間が掛かるだろうから、それまで俺は向こうで寝てくる。戦い続きで疲れてるんだ。何かあったら起こしてくれ」

ベジットは魔族達に半ば呆れつつ、ここから少し離れた場所で寝ようとした。その時、シーガが唐突に口を開いた。

「なあ、ベジット。一つ頼みがある。お前がドラゴンボールを集めるのは、神龍とやらを呼び出して殺すためであって、願いを叶えるためではないんだろ?だったら、殺す前に俺達の願いを叶えさせてくれないか?神龍を殺すのは、願いを叶えた後でも出来るだろ?」

シーガが叶えたい願い―ベジットはそれが何か、すぐに分かった。ルーエもしくはレードの復活である。ルーエだったら特に問題は無いが、レードだったら大問題である。レードが復活すれば、ほぼ間違いなくベジットと対立し、セモークの三兄弟はレード側に付くだろう。これまで共に戦ってきたシーガ達が敵になるのは少し寂しい気もしたが、ベジットはシーガの切なる願いを無下にしなかった。

「願いを叶えたければ好きにしろ。でも、神龍が願いを叶えてくれるかどうかは知らないぞ」

シーガ達とは旅の途中で別れたので、その後に悟空達が知った神龍に関わる話を、シーガ達は全く知らなかった。シーガ達が知っているのは、魔界に来る前に悟空達から教わったドラゴンボールに関する簡単な知識のみであった。

自分達が苦労してドラゴンボールを集めたのだから、自分達の願いを叶えるべきという考えもベジットにあった。しかし、悟飯を生き返らせるなら、ナメック星のドラゴンボールを使う事をナメック星人達は了承するだろう。また、二度と分離しない覚悟で合体したのだから、元の悟空とベジータに再び分離するのは女々しく思えた。それにレードにしたって、自分達と決着をつけずに死んだのでは、死んでも死にきれないだろう。よって、シーガの願いを優先させた方が良いとベジットは考えた。

ベジットが眠って三時間が経過した。穴の中から大きな声が聞こえ、その声でベジットは目が覚めた。ベジットが穴の方に行ってみると、ライタが縄に縛られたジュオウを引き摺って穴から出て来た。そのすぐ後に、アストレーが三神球と四神球の二個のドラゴンボールを持って別の穴から出て来た。

頼みとする親衛隊を失ったジュオウは、惨めなものだった。地面からライタとアストレー率いる魔族の大軍が城に侵入すると、ジュオウの兵士達は戦わずして一目散に逃げた。ライタ達は安々と玉座の間まで行き、そこで小さくなって震えていたジュオウを捕まえて縄で縛り、二個のボールを取り上げて悠々と凱旋した。

「あれがジュオウか・・・。思っていたより小さいな」

ベジットは初めて見るジュオウを、まじまじと見つめた。温厚な面持ちの他のナツメグ人達と違って、表情が暗くて痩せ細ったジュオウは、ベジットが想像していたよりも遥かに弱々しく見えた。

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