其の九十二 ベジット苦戦

「ヒヒヒ・・・。幾らベジットでも、あの魔神龍に敵うはずがあるまい。親衛隊の敵だ。ボロクズの様に殺されてしまえ!」

魔神龍の凄さを目の当たりにしたジュオウは、先程までの怯えた様子とは打って変わり、落ち着き払っていた。魔神龍の勝利を確信しているジュオウの当面の楽しみは、どういう形で憎きベジットが殺されるのかを見届ける事だった。

ベジットは魔神龍を正面から攻めた。対する魔神龍は、ベジットからの攻撃を、まともに受けた。ベジットは次々と攻撃を当てていき、最後にベジットが放った気功弾を喰らった魔神龍は、粉々になって吹き飛んだ。全く予想外の展開に、観戦していたジュオウの表情は、一瞬で凍りついた。

「い、一体、何が起こった?な、何で魔神龍は、何もしなかった?」

ジュオウの疑問に、ベジットはジュオウの方を振り向いて応えた。

「魔神龍は何もしなかったんじゃない。何もさせてもらえなかったんだ。魔神龍は確かに恐ろしい力の持ち主だが、その力を使わせなければ、怖くも何ともない」
「で、では、何故、魔神龍は力を使えなかったんだ?お前は一体、何をしたんだ?」
「特別な事は何も。ただ俺のスピードが速過ぎて、魔神龍が対処出来なかっただけだ。奴に時間を与えると、何を仕出かすか分からないから危険だ。逆に速攻で攻めれば、この通り安全に倒せる」

ベジットは、シーガ達と魔神龍との戦いを観ていて、ある事に気付いた。魔神龍は神龍の力を使う前に、その力で何をするかを決め、それから目が赤く光る。それなら魔神龍の目が赤く光る前に攻撃すれば、魔神龍は神龍の力を使う前なので、普通に攻撃が当たるとベジットは考えた。ただし、魔神龍は頭の回転が速いので、発案から発動までの間隔が非常に短かった。そのため、シーガ達のスピードでは間に合わなかったが、ベジットのスピードなら可能だった。

魔神龍を片付けたベジットの次なる標的は、ジュオウだった。取るに足らない相手ではあるが、彼の犯した罪の大きさを考えると、決して無視は出来ない存在だった。

「さてと、ジュオウ。貴様を放っておくわけにはいかない。このバリアー、俺の力なら破れるかな?それとも、さっきの魔族達がした様に、穴を空けて下から潜るか?」
「ひいいい・・・」

ベジットは、醜悪なジュオウを捕らえる方法を考えた。しかし、この時、ベジットの背後から声が聞こえてきた。

「この俺を倒したと判断するのは、少し早過ぎるんじゃないか?」

ベジットが後ろを振り向くと、そこには倒したはずの魔神龍が立っていた。粉々にされた魔神龍が元の姿で立っているのを見て、ベジットは全てを理解した。

「魔神龍。貴様、事前に自分自身を不死身にしていたな。そうなると、貴様を倒すには、跡形も残らないよう完全に消し去るしかない。さっきは詰めが甘かった」
「その通りだが、そんな大それた事を出来るかな?言っておくが、今の俺は先程までの俺ではない」
「へえ。だったら、どう変わったのか確かめてやる」

先程、魔神龍を粉々にした事で味を占めたベジットは、再び魔神龍に飛び掛かった。ところが、ベジットの攻撃が当たる直前で、魔神龍の体が半透明になり、ベジットは魔神龍の体を通り抜けてしまった。ベジットが通過した後、魔神龍は元の体に戻り、ベジットの居る方角に振り向いた。

「俺は一瞬だけ自分の実体を消した。テキームの様にな」
「さっきまでは、こんなに速く神龍の力を使えなかった。貴様、自分の反応速度を上げたな?」
「自分に足りない所があれば、それを補う。反応が遅ければ反応速度を、スピードが遅ければスピードを、それぞれ上げる事が可能だ。それが俺の強みだ。今の俺は、お前が攻撃するよりも速く神龍の力を使える。さあ、今度は俺が攻める番だ」

魔神龍の目が赤く光った。すると、ベジットの両手が自分の意思とは無関係に動き、自身の首を絞めた。ベジットは何とか首から両手を放そうとしたが、両手の締め付けが強過ぎて全く外れなかった。ベジットは苦しくなって両膝を地面に付いた。ベジットの表情は徐々に青ざめ、意識が段々と遠ざかっていった。しかし、ベジットが気を失う直前、両手が首から放れた。

「そう簡単に死なれたら、面白くないからな。首を絞めるのは、ここまでにしといてやるか」

ベジットは気を取り直して立ち上がり、反撃を試みたが、魔神龍に到達する前に、またもや魔神龍の目が赤く光った。すると、べジットは首を絞められていなくても、急に息苦しくなった。

「たった今、この地域一帯を真空状態にした。最早、お前は呼吸が出来ん」

長く息を止める事が出来るベジットでも、今回だけは事情が違った。予告なく真空状態にされたために、事前に息を大きく吸って体内に空気を溜めていなかった。しかも、直前まで首を絞められていたのが追い風となって、ベジットは早くも酸欠状態に陥った。一方、バリアーの中にいるジュオウやロボットのギル、そして己の体の構造まで自由に変えられる魔神龍には、全く影響が無かった。

ベジットは息継ぎのために空気のある場所まで移動しようとしたが、その前に足元がふらつき、倒れてしまった。ベジットは立ち上がれず、このまま死を待つのみかと思ったが、その前に魔神龍が元の空気がある状態に戻した。危うく死に掛けたベジットだったが、今回も魔神龍の気紛れで助かった。

「これが最強の男か。まるで話にならんな。俺に出させてくれよ・・・本気を」
「ハアハア・・・。くそったれ!舐めやがって!」

魔神龍に舐められ、自分の決め台詞を真似されたベジットは、激怒した。そして、立ち上がって呼吸を整えてから超サイヤ人2に変身し、今度こそ魔神龍を倒そうと飛び掛かったが、魔神龍はベジットからの攻撃を避けると、再び神龍の力を使った。すると、今度はベジットの体が急に重くなった。

「こ、これは、超重力!?」
「そうだ。お前の立っている場所だけ重力を増やした。合体する以前の段階で、ベジータは二千倍の重力まで耐えられるから、今回は特別に三千倍だ」

強大な重力に押し潰されそうになったベジットだが、重い体を引き摺って、必死に今の場所から離れようとした。

「ほう。その重力の中でも動けるとは大したものだ。だが、四千倍ならどうかな?」

魔神龍は、ベジットの居る場所だけ重力を四千倍にまで高めた。ここまで重力が強いと、べジットといえども打つ手無く、地面に這いつくばって身動きが取れず、変身が解けて気を失ってしまった。

「ふむ。少々やり過ぎたか。では、元に戻すとしよう」

魔神龍は、ベジットの居る場所の重力を、他と同じ水準にまで下げた。しかし、意識の無いベジットは、倒れたままだった。魔神龍は空から水を降らし、ベジットを起こした。目覚めたベジットは、首を少し上に向けて、正面に立っている魔神龍を見上げた。

「どうした、ベジット?お前の実力は、こんなものではないだろう。もし良かったら、体力を回復してやろうか?」

魔神龍はベジットを見下し、完全に勝ち誇っていた。一方、かつてない程の屈辱感を味わったベジットは、拳を握り締め、悔しさに打ち震えた。

「ど、どうすれば良いんだ?どうやったら、こんな化け物に勝てるんだ?超サイヤ人5になったら、あいつに通用するだろうか?いや、焦りは禁物だ。体力を温存し、何か作戦を考えるしかない」

ベジットは本心では、この場から一刻も早く立ち去りたいと思っていた。しかし、勇気を振り絞って立ち上がり、魔神龍と相対した。

「お前の諦めの悪さは知っているが、この状況においても、まだ戦おうとするとはな。お前を殺す機会は、これまで四回もあったんだぞ」
「どんなに凄い敵が相手でも、こちらが攻撃を続けていれば、いつか必ず倒せるチャンスは巡って来る。そう俺は信じている。まだ勝負は、これからだ!」

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