ベジットの発言を聞いた魔神龍は、大声で笑い飛ばした。
「まだ分かってないな。この俺に戦いを挑むという事は、この世で最も愚かな行為だ」
「かもな。しかし、貴様は昔、ナツメグ人によってドラゴンボールの中に封印された。それって貴様が敗れた事にならねえか?」
ベジットの指摘に、魔神龍は鼻で笑った。
「ふん。俺は封印されたのではない。封印させたのだ。昔のナツメグ人は、現代のナツメグ人を遥かに凌ぐ力を持ってはいたが、それでも俺が、あんな連中に不覚を取るはずなかろう」
「封印させただと!?さっぱり意味が分からねえ。何故わざと封印されたんだ?」
「特別サービスだ。当時の事を詳しく話してやろう」
魔神龍は自分の半生を、淡々と語り始めた。
「カイが猛威を振るっていた頃、そのカイを倒すため、ナツメグ人の中でも特に超魔力に優れた者達が力を合わせ、この俺を造った。造られたばかりで右も左も分からなかった俺を、ナツメグ人達は、カイが見える場所まで連れ出して命令した。『あの怪物を消せ』と。どうすれば良いか分からなかった俺は、ただ念じた。『消えろ』と。そうしたら、カイは姿を消した。カイの恐怖から開放された魔族達は喜んだが、俺は何で彼等が喜んでいるのかさえ分からなかった」
魔神龍の力が突出しているせいであるが、伝説の超獣とまで云われたカイの余りにも呆気ない最期だった。小惑星を優に超える大きさと力を持ったカイを一瞬で消した魔神龍の力を、ベジットは改めて思い知らされた。
「しかし、時が経つにつれ、自分が特別な存在であると気付いた。俺に何か望みがあれば、ただ念じるだけで望みは叶うが、それを他の者には出来なかった。自分が望む事を簡単に出来ない周りの連中が、俺には下等生物に思えてきた。下等生物と見下した連中に従うのが馬鹿らしく思えてきた俺は、自分の好きな様に生きる事にした。ところが、いざ好き勝手に行動しても、何の面白味も無かった。何でも簡単に出来てしまうからだ」
何でも念ずれば簡単に出来てしまうのだから、魔神龍は何をやっても楽しくなく、人生に張り合いを持てなかった。
「やがて苛立ちが募った俺は、周辺の破壊を始めた。案の定、ナツメグ人達は俺を危険視した。奴等は俺の力を知っていたから、退治ではなく封印する事にした。俺は奴等の計画を知っていたが気付かぬ振りをし、わざと隙を見せて珠の中に封印された。大人しく封印される道を選んだのは、このまま生きていても退屈なだけだからだ。そして、俺を封印した奴等は、その封印を更に強固なものにするために珠を七個に分け、それぞれ魔界中に分散させた。しかし、奴等は俺の力を見誤っていた」
魔神龍がカイの様に巨体なら封印は不可能でも、自分達と余り変わらない大きさなら封印は可能だとナツメグ人達は考え、実行に移した。魔神龍を球に封じ込め、封印は成功したかに思われたが、実はそうではなかった。
「珠を七等分にしたのは、俺の力を七分の一に抑えて中から封印を解かれないようにするためだ。しかし、俺は珠のままでも自由に動けたし、珠が破壊されても即座に再生する事も出来た。そして、珠が七個全て揃えば、自分から封印を解く事だって出来た。先程、俺は呪文によって出て来たのではない。そう見せかけただけで、実際は自分の意思で出て来た。その理由は、 お前と戦うためだ。お前ほどの実力者には、滅多に出会えないからな」
魔神龍は何時でも珠から出てくる事が出来たので、封印が成功したわけではなかった。それでも三億年もの長い間、魔神龍が珠の中で大人しくしていたのは、自分の力を使うに値する者が現れるのを待つためだった。
「ジュオウに言われるまでもなく、初めから俺と戦うつもりだったのか・・・。それで、この俺を倒した後は、どうするつもりだ?大人しくドラゴンボールの中に戻るとは思えねえ。ナツメグ人が言い残した様に、全世界を破滅させる気か?それとも、支配する気か?」
最初から自分が標的にされていた事に、ベジットは戦慄を覚えた。
「それは、ナツメグ人の勝手な思い込みだ。俺は全世界の破滅にも支配にも興味が無い。どちらも一瞬で出来るからだ。それよりは、俺が気に入った者に全世界を与える方が良い。先程、話に出て来たレードだが、奴は魅力的な悪だ。奴に全世界を与えてやるとするか。俺を止めたいなら、出し惜しみしないで、さっさと超サイヤ人5に変身したらどうだ?俺と長く会話していたから、お前の体力も回復しただろう。手加減して戦っても、とても俺を倒す事は出来ないと悟ったはずだ」
ここまで言われては、ベジットは超サイヤ人5に変身せざるを得なかった。本気になって戦っても勝算があるわけではないが、これまで魔神龍と戦って一つ気づいた事があった。魔神龍が自由に神龍の力を使えば、ベジットといえども勝ち目が無いから、いかに魔神龍に神龍の力を使わせないかが勝負の鍵を握っていた。
超サイヤ人5に変身したベジットは、果敢に攻め立てたが、魔神龍に簡単に避けられてしまった。魔神龍はベジットの最大速度を事前に把握し、それ以上の速度を自分に具えさせていたからだった。しかし、ベジットは攻撃を避けられても、懲りずに何度も攻撃を仕掛けた。結局、魔神龍には掠りもしなかったが、魔神龍は避けてばかりで一度も神龍の力を使ってこなかった。魔神龍はべジットからの攻撃を回避出来ても、精神を集中して神龍の力を使うだけの時間を取れなかったのが、その理由だった。
ベジットは攻撃に意外性を持たせ始めた。殴ると見せかけて蹴りを出したり、左手で殴ると見せかけて右手で殴ったりした。動きの読めないベジットの変幻自在な攻撃に、さしもの魔神龍も手を焼き、段々と余裕が無くなってきた。完全に回避されていたベジットの攻撃が、少しずつ魔神龍に掠るようになった。魔神龍はベジットの勢いに押され、徐々に後退した。ベジットは攻撃しながら、ある場所に魔神龍を誘導していた。
魔神龍は後ろを見ずに退いていたが、後方の地面に大きな穴が空いていた。その穴に足を踏み入れた魔神龍は、穴に落ちてしまった。それは、魔族達がジュオウの城に侵入するために掘った穴だった。狙い通り魔神龍を穴に導いたベジットは、素早く穴の中に入り、体勢を立て直す前の魔神龍に飛び掛かった。穴に落ちて動揺した魔神龍に、ベジットは何度も攻撃を浴びせたが、止めを刺すために放った巨大なエネルギー波は、魔神龍が穴から脱出して避けられてしまった。
「かー、惜しい!もうちょっとで倒せたのによー!」
「ふふふ・・・。良いぞ。その調子だ。そう来なくちゃ面白くない」
危うく難を逃れた魔神龍だが、焦るどころか笑っていた。魔神龍にとって戦いとは、勝ち負けよりも楽しめるかどうかが重要だった。その点は悟空と非常に似通っていた。そして、次の展開が予想し難い現在の状況を、魔神龍は新鮮で刺激的に感じていた。
「魔神龍を倒すためには、その前に奴の動きを止める必要があるな。果たしてどうすれば・・・。そうだ!あの手があった!」
魔神龍が余韻に浸っている間に、ベジットは魔神龍の眼前にまで移動した。そして、ベジットは多重残像拳を使い、魔神龍の周りに多数のベジットの残像が隙間無く出現した。
「どうだ!魔神龍!流石のお前でも、本物の俺が何処にいるか見つけられないだろう」
「何をするかと思えば残像拳か。こんなもの、俺の力を使えば、どうって事はない」
魔神龍は神龍の力を使い、ベジットの残像を全て消した。ところが、その直後、べジットは少し離れた場所から魔神龍に向けてかめはめ波を放った。神龍の力を使ったばかりの魔神龍は、次の対応が間に合わず、かめはめ波の直撃を受け、細胞一つ残さずに消滅して死んだ。
ベジットは残像拳を使った後、残像の陰に隠れてかめはめ波を撃つ体勢を作っていた。そして、多少危険ではあるが、魔神龍に神龍の力を使わせ、その直後を狙っていた。神龍の力を使った直後なら、すぐに次の力を使えず、避ける準備もしていないので、確実に攻撃を当てられると予想したからだった。その予想は見事に的中し、魔神龍の消滅に成功した。
「終った・・・」
難敵を片付けて一安心した途端、ベジットの体に一気に疲れが出た。超サイヤ人5の変身を解いて元の姿に戻り、その場に腰を落として座った。
魔神龍は死んだ。しかし、戦いが終ったわけではなかった。
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