其の九十四 最悪の結末

大苦戦の末、魔神龍の撃退に成功したベジットは、再びジュオウと向き合った。

「魔神龍は死んだが、このバリアーは残っているのか・・・。こいつを破るのは至難の業だな」

ベジットは怯えるジュオウを尻目に、彼の周囲に張られたバリアーの突破法を考えた。ところが、その最中に、ベジットの両耳に付いていたポタラが破裂した。そして、ポタラの破裂の原因が分からず、戸惑うベジットの身に大きな異変が起こった。何と絶対に解けないはずの合体が解け、元の悟空とベジータに分離した。

「こ、これは一体・・・?ま、まさか・・・」
「そう。そのまさかだ」

悟空とベジータが揃って後ろを振り向くと、そこには倒したはずの魔神龍が立っていた。二人の驚きは、言うまでもなかった。

「お前達が合体したままだと面倒だったので、二人に分離させた。元の二人に戻れて嬉しかろう」

魔神龍は悟空達の合体を解除した理由を説明したが、二人が訊きたいのは、そんな事ではなかった。

「な、何故、貴様が、ここに居るんだ?死んだはずじゃなかったのか?」
「ふっふっふっ・・・。確かに俺は死んだ。しかし、俺が死んでも神龍の力は失われない。ここまで言えば、分かるだろう。俺は自分自身を生き返らせた。苦労して倒したと思ったら、すぐさま復活したのだから、ショックも大きかろう。天国から地獄に一気に突き落とされたのは、どんな気分だ?」

さしもの悟空達でも、今回ばかりは茫然自失してしまった。魔神龍は、そんな二人の様子を嘲笑しながら、更に彼等を精神的に追い詰める残酷な手法を思い付いた。

「幾ら油断していたとはいえ、この俺に恥を掻かせた罪は重い。これから、その罪を償ってもらおうか。まずは、ベジータ。お前からだ」

魔神龍の目が赤く光った。するとベジータは、別の場所に移動させられた。広大な荒野に、ベジータは一人で立っていた。ベジータが立ち尽くしていると、地面から多数の亡者達が這い出て来た。そして、亡者達はべジータに這い寄ってきた。ベジータは気を取り直し、亡者達を一人ずつ蹴飛ばしながら、亡者達の顔を見てみたが、何故か以前にも見た事がある気がした。ベジータは不思議に思いながらも亡者達を蹴飛ばし続けていると、何処からともなく魔神龍の声が聞こえてきた。

「ベジータよ。その亡者達に見覚えはないか?そいつ等は昔、お前が殺した者達だ」

魔神龍に指摘されたベジータは、改めて亡者達を見ると、彼が昔フリーザに従っていた頃に殺してきた人達の様に思えてきた。全ての顔を思い出せるわけではないので、全員がそうだと断定出来ないが、微かに覚えている顔もあった。過去に犯した虐殺を思い出し、罪の意識に苛まれたベジータは、もはや亡者達を足蹴にする事など出来なくなった。

「おい、ベジータ!一体どうしたんだ?しっかりしろ!」

悟空は突然暴れ出したかと思えば、苦しそうな呻き声を上げたベジータを心配して彼の肩を揺すぶったが、ベジータは正気に戻らなかった。実は、ベジータは別の場所に移動させられたわけではなく、幻術によって幻を見させられていただけだった。そして、魔神龍は、かつてベジータが殺した大勢の罪無き者達の幻を、ベジータだけに見せていた。

「改心した人間が、過去に自分が殺した人間を見るのは地獄の苦しみだろう。当時を思い出し、罪悪感に悶え苦しむからな」

ベジータには魔神龍の声だけが聞こえていた。魔神龍が作り出した亡者達の幻は、「命を返せ」とベジータに迫り、ベジータは頭を抱えて「許してくれ」と叫んでいた。悟空はベジータの頬を叩いて正気に戻そうとしたが、魔神龍は悟空にも牙を剥いた。

「孫悟空よ。お前にも地獄を見せてやろう。ベジータ同様に苦しむが良い」

魔神龍の目が赤く光り、悟空も幻を見させられた。それは懐かしい天下一武道会の会場であり、そこには少年時代のクリリンとタンバリンが居た。そして、タンバリンが悟空のドラゴンボールと天下一武道会の名簿を奪おうとし、それをクリリンが阻止しようとした。しかし、クリリンの奮闘空しく、タンバリンに殺された。悟空が見ているのは、実際に起こった過去の出来事だった。

その後も悟空は、武天老師がピッコロ大魔王に魔封波を仕掛けて失敗して死んでしまう場面や、ピッコロが悟飯を庇ってナッパに殺される場面、フリーザにクリリンが殺される場面等、次々と仲間達が殺される場面を延々と見させられた。悟空は目を背けたくても、脳に映像が飛び込んでくるので、すっかり気分を害してしまった。

「仲間が殺される場面を見るのは、実際に自分が殺されるよりも辛かろう。もっともっと苦しめ」

魔神龍は悟空が実際に見た場面や、そうでない場面も含め、何回も繰り返して仲間が殺される場面を再現した。極めつけに、悟空が大猿になって育ての親である孫悟飯を踏み殺す場面まで見せ、悟空は完全に参ってしまった。

「ここまでにしておくか。これ以上続けると、二人とも発狂してしまうからな。狂った奴等を殺しても面白くない」

魔神龍が術を解いた途端、悟空とベジータは両者共に倒れた。二人とも精神面に受けたダメージが大き過ぎて、すぐに立ち上がる事が出来なかった。魔神龍は彼等の様子を見て満足し、とうとう最終段階に移る事にした。

「お前達のお陰で、久しぶりに楽しめた。しかし、それも飽きてきたから、そろそろ終わりにする」

魔神龍の目が赤く光ると、ベジータの体は手足の先から徐々に砂になっていった。悟空とベジータは、お互いの名を呼び合っている間に、ベジータの全身は砂になってしまった。その直後に風が吹き、砂は遥か彼方に吹き飛んだ。この風も魔神龍の仕業だった。ベジータの無残な最期だった。

ベジータの死に、悟空は胸が張り裂けんばかりの思いだった。悟空は立ち上がって超サイヤ人4になり、魔神龍に飛び掛かったが、魔神龍に届く前に腹部に鈍い痛みを覚えた。悟空が立ち止まって自分の腹部を見ると、長い槍が自分の腹部を貫通していた。悟空は槍を抜こうとしたが、その前に魔神龍が何本もの槍を天から降らせ、槍は悟空の体を次々と貫いた。それでも悟空は辛うじて生きていたが、もはや身動き取れなかった。自らの死が近い事を悟った悟空は、魔神龍を睨みながら呟いた。

「ま、魔神龍・・・。オ、オラ達を倒したからといって、い、いい気になるなよ・・・。い、何時か誰かが、必ず貴様を倒す・・・」
「俺を倒すだと?そんな事を出来る奴がいるなら、この目で見てみたいものだ。じゃあな」

再び魔神龍の目が赤く光った時、悟空の肉体は地上から消滅した。悟空まで死に、魔界に遠征した戦闘メンバーは、全員死亡という最悪の展開を迎えた。

悟空を始末した魔神龍は、ジュオウの周囲を覆うバリアーを解除した。大喜びのジュオウは、満面の笑みを浮かべながら魔神龍に近寄った。

「いやいや。一時はどうなる事かと思ったが、流石は魔神龍だ。ついでと言っては何だが、先程断られた願いを叶えてもらえないか?」
「お前の願いは、まだ完遂していない。後一人倒すべき奴がいる」

ジュオウが辺りを見回すと、遠くでギルが震えている様子が視界に入った。

「ひょっとして倒すべき奴って、あれ?あんなのは別に放っといても・・・」
「違う。お前だ」

魔神龍の目が赤く光ると、ジュオウの両手が動いて自分の側頭部を鷲づかみにし、上方に尋常でない力で引っ張った。

「ま、魔神龍!な、何故わしを殺そうとするんだ!?」
「お前の願いは、この場に居た全ての魔族とベジットの処刑。お前も魔族の端くれだから、当然お前も殺さないといけない。最後に一つ言っておく。お前の様な小物は、魔王に相応しくない。見ていて不愉快だ。失せろ」

ジュオウの首は胴体から切り離され、ジュオウは断末魔の叫びを上げて死んだ。魔神龍はジュオウの頭部を踏み潰し、ドラゴンボールに向けて歩き出した。その途中でギルに話し掛けた。

「その小さな体で、よくドラゴンボールを運んだ。その努力に免じて、お前だけは見逃してやろう」

その後、魔神龍はドラゴンボールの中に入り、ボールは魔界中に飛び散った。

悟空達は死んでしまったが、まだピッコロ達が残っていた。しかし、彼等に全てを託すのは、余りにも荷が重過ぎた。

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