地球の天界では、重い空気に包まれていた。地球に残ったピッコロ達は、老界王神の水晶玉を通して悟空達と魔神龍の戦いを観ていたが、その結末に驚愕し、誰も一言も発しなかった。悟空達の敗死も衝撃的な出来事ではあったが、彼等はナメック星のドラゴンボールで甦らせる事が出来る。それよりも、魔神龍の余りの凄さに、一同は茫然自失していた。長い沈黙の後、悟天が口を開いた。
「あんな化け物、倒せるはずないじゃないか!魔界のドラゴンボールを絶対に解けないように封印して、魔神龍が二度と呼び出されないようにすべきだよ!」
「しかし、悟天。それだと父さん達の敵を討てないぞ」
「何が敵だ!あんな何でもありの奴に、どうやって勝つんだよ!?誰が戦っても殺されるよ!」
悟天の提案は、その場に居た大多数の者を「やむなし」と思わせた。しかし、意外にも、悟天の案に最も賛同しそうなキビト界王神が異議を唱えた。
「絶対に解けない封印なんて、ありません。以前、ご先祖様がゼッドソードの中に封印されていましたが、それすら完璧な封印ではありませんでした。他にも、魔人ブウの封印だって解かれてしまいました。魔界のドラゴンボールを封印すれば、一時的には安全かもしれませんが、将来に禍根を残す事になります。それに魔神龍なら、どんな封印だって破れると思います。何時ジュオウの様にドラゴンボールを狙う輩が現れるか分かりません。やはり魔神龍を倒さないと万全とは言えません」
老界王神の時しかり、魔人ブウの時しかり、どんなに万全と思われた封印でも、何時かは解かれてしまう。封印の不確かさを知るキビト界王神は、悟天の案に賛同しなかった。
「でも、界王神様。奴は殺しても復活するんですよ。どうやって倒せと言うんですか?」
尚も食い下がる悟天だが、キビト界王神に代わってピッコロが答えた。
「魔神龍が二度と復活せずに完全に倒す方法が一つだけある。ほとんど不可能に近いがな。死んでいる状態の人間が、もう一度死ねば、その人間は存在そのものが消えてしまう。それは魔神龍とて例外ではないはずだ。だから、魔神龍を殺し、復活する前に再度殺せば、奴は復活しない」
ピッコロの話を聞き、パンやウーブは喜びの声を上げた。しかし、悟天は難色を示した。
「魔神龍を二回続けて殺すなんて、そんなの無理に決まってるじゃないですか!父さん達でさえ一回殺すのに苦労したのに、どうやって二回続けて殺すんですか?」
「少なくとも悟空は諦めていない。奴の最後の言葉を聞いただろ?『誰かが必ず貴様を倒す』と。悟空は魔神龍を倒せると信じているんだ。お前も悟空の息子なら、文句ばっかり言ってないで、どうすれば魔神龍を倒せるか考えろ」
ピッコロの言葉に悟天は押し黙ったが、今度はトランクスがピッコロに問い質した。
「そう言うピッコロさんは、何か考えがあるんですか?」
「絶対に上手くいくという保障は無いが、もし成功すれば、魔神龍の力の大半を封じる事が可能だ。これから俺は、その作戦の準備に移るから、お前達は魔界に行ってドラゴンボールを集めてこい。ボールを揃えなければ、魔神龍と戦えないからな」
もう魔界にジュオウ親衛隊は存在しないから、トランクス・悟天・ウーブ・パンだけで魔界に行っても危険は無い。ピッコロは、その点を考慮して彼等に魔界行きを指示した。
「分かりました。これから皆でボールを集めてきます。ところで、ピッコロさんは、どんな作戦を考えているんですか?」
「実現可能かどうかすら分からん以上、まだ言えん。余り俺を当てにしないで、お前達はボールを探しながら何か作戦を考えろ。魔神龍との戦いは、今までの戦い方では勝てん。俺達一人一人が力と知恵を出し合って立ち向かう必要があるだろう」
結局、ピッコロは作戦を誰にも明かさないまま、トランクス達四人を魔界に行かせた。その後にピッコロは、キビト界王神の瞬間移動でナメック星を訪れた。そして、ピッコロは最長老に会い、これまでの経緯を話した。ピッコロの話を聞いた最長老や、側に居たナメック星人達は、一斉に青ざめた。
「そ、そんな恐ろしい神龍が存在するとは・・・。とにかく悟空さん達を生き返らせましょう。直ちにボールを取り揃えますから」
「最長老様。俺がここに来たのはドラゴンボールを使うためだが、悟空達を生き返らせるために使うのではない。このまま悟空達を生き返らせて再び魔神龍と戦っても、前回の二の舞になるだけだ。俺は別の願いを叶えてもらうつもりだ。叶えられるかは分からないが」
以前、テキームを倒すためにドラゴンボールを使ったピッコロだが、それ以上の強敵を倒すために再度ドラゴンボールを使うと決めた。しかし、その願いをポルンガが叶えられるかどうかは、ピッコロにも分からなかった。
魔神龍を巡る動きがあったのは、地球やナメック星ばかりではなかった。南銀河のとある星。そこには大変美しい女性が居た。この女性は、道ですれ違えば誰もが振り返るほどの美貌を持ちながら、ドレスではなく戦闘服を身に纏っていた。自身への特訓のためにトレーニングルームを訪れた女性だが、お目当ての人物が居なかったので、部屋の中にいた者に問い掛けた。
「ねえ、パパは今どこに居るの?久しぶりにパパと組み手をしたいんだけど」
「アイスお嬢様。多分メディテーションルームに居らっしゃると思いますが・・・」
「また瞑想?あんな事して、何が楽しいんだか・・・」
アイスという名の女性は、トレーニングルームを出てメディテーションルームに向かった。そして、その部屋の中に入ると、ヒサッツの毒から奇跡の生還を遂げたレードが、一人で喋っていた。アイスはレードに全く臆せず、レードに面と向かって話し掛けた。
「どうしたの、パパ?瞑想しないで独り言なんかして。気でも狂った?」
何とアイスは、レードの娘だった。しかし、アイスには角も尻尾も無く、代わりに髪が生えていて肌も人間のと同じ色だった。一般の地球人と比べても差異が無い風貌で、父親のレードとは似ていないどころか違う種族の生物に見えた。アイスは混血を繰り返したフリーザ一族の中でも突然変異体と呼べる存在だった。
「アイスか。北銀河の界王と名乗る人物が、テレパシーで最近の出来事を伝えてきた。その内訳を簡単に述べると、孫悟空達が魔界に行ってヒサッツ達ジュオウ親衛隊を全滅させた。ところが、その後に出現した魔神龍とやらに敗れた。だが、孫悟空達は再び魔神龍に戦いを挑もうとしている。その際に僕の力を孫悟空達に貸して欲しいとさ」
天国に居る界王は、これまでの悟空達の戦いを観た後、魔神龍を倒すために自分が出来る事を考え、レードに目を付けた。レードが悟空達に協力する可能性は低いが、界王は低い可能性に賭けて、これまでの経緯をレードに余す所無く説明した。それを今度は、レードがアイスに簡略化して伝えた。アイスは話を興味津々に聞き、レードが話し終えると、間髪入れずにレードに質問した。
「それで、パパはどうするの?勿論、孫悟空達と共に、その魔神龍って奴と戦うんでしょ?」
「まさか。孫悟空達を助ける義理などない。むしろ魔神龍に加勢した方が良い。彼の思った事は全て実現するそうだから、彼の味方になれば、僕の願いを何でも叶えてくれそうだ」
「そっか。パパとは敵同士になるわけか。まあ仕方ないか」
「な!?それは、どういう意味だ?まさか魔界に行って、孫悟空達に加勢する気か?」
アイスは力強く頷いた。レードは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「僕の話を聞いてなかったのか!?魔神龍の思った事は全て実現するんだぞ!そんな奴と戦っても勝てるはずないだろう!僕が魔界に行ってる間は、大人しく留守を守っていろ!」
「い・や・よ。この前の武道会だって、危険だからという理由で私だけ参加させてもらえなかったし。今度も私だけ出番無しなんて絶対いや。私も魔界に行くわ。そして、孫悟空達に加勢する。孫悟空達の中には、気になる奴もいるしね」
アイスの衝撃の告白に、レードは狼狽した。
「ま、まさか、あいつ等の中の誰かに恋してるんじゃないだろうな!?そ、それだけは駄目だ!」
年頃の女の子であるアイスが、誰かに恋心を抱いたって変ではない。しかし、その相手が、よりにもよって孫悟空達の中の誰かとなれば、レードにとっては受け入れ難かった。
「何でよ!強い子孫を残すのは私達一族の使命でしょ?そのために強い男を選ぶのは当然じゃない!敵同士だから駄目だと言いたいの?敵対してるのはパパだけでしょ?私には関係ないわ。それに、この前パパが倒れた時、私が付きっ切りで看病してあげたじゃない。少しぐらい私の言う事を聞いてくれたって良いでしょ!大体パパったら、勝ってる側に付こうなんてセコすぎるわ!それでも宇宙の帝王と言えるの?帝王だったら帝王らしく、負けてる側に付いて形勢を逆転させてみなさいよ!」
アイスに言い包められたレードは、もはや何も言い返せなかった。
「・・・分かった。なら、魔界に一緒に行くか?」
「さっすがパパ!だから好きよ。じゃあ、これから準備してくるね」
アイスは喜び勇んでメディテーションルームを出て、自分の部屋に戻った。一人部屋に残ったレードは、大きな溜息を吐いた。
「少し甘やかし過ぎたか。それにしても、こんな所、とても孫悟空達には見せられん・・・」
自分にも他人にも厳しいと言われるレードだが、自分の娘にだけは甘かった。程なくしてレード親子を乗せた宇宙船は、惑星レードを出発した。
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