其の九十六 神魔界

「父さん。起きて下さい。父さん」
「う、うーん。あれ?悟飯じゃねえか。・・・そっか。オラ、死んだんだっけ」

自分を呼ぶ声に反応して悟空が目を覚ますと、目の前には悟飯が立っていた。そして、悟空は自分がベッドの上に寝かされている事に気付いた。悟空の頭の上には天使の輪が浮かんでいて、悟飯の頭の上も同様だった。悟空が隣を見ると、そこには頭上に天使の輪が浮かんであるベジータが、別のベッドの上に寝かされていた。悟空は立ち上がって辺りを見渡すと、そこは殺風景な小部屋の中だった。

「ここは何処だ?天国にしちゃ薄汚い所だな。まさか地獄じゃねえだろうな」
「父さん。汚いなんて言ったら失礼ですよ。それに、ここは天国でも地獄でもありません。魔界の神様達が住む神魔界という聖域です。魔界で死んだ者の魂は、全て神魔界に運ばれて来るそうです。そして、この部屋は、魔界の神様の一人である魔界王様の住む家の一室です。魔界王様はバラバラになった俺達三人の体を、この通り再生して下さったんですよ」

悟空は自分達の体を見ると、悟空達三人の肉体は愚か、服まで元通りに直っていた。

「そっか。汚いなんて言って悪かったな。ところで、その魔界王様ってのは何処に居るんだ?」
「今から案内しますから、二人とも俺の後に付いて来て下さい」

悟空は隣で話を聞いていたベジータと共に悟飯の後を追って退室し、庭に出た。空は薄暗く、あの世とは一線を画していた。そして、庭には悟空達の方を見ている背の低い太った男と、座禅を組んでいる立派な体躯の男がいた。悟空は座禅を組んでいる男に近付き、体を再生してもらった事に対する礼を述べたが、男からの応答は無かった。

「と、父さん。その人は魔界王様じゃありません。魔界王様は、こちらの方です」

魔界王は、もう一人の太った男の方だった。魔界王は、背丈が悟空の半分ほどしかなく、頭部には二本の触覚があり、目にはサングラスを掛けていて、何処となく見た目が北銀河の界王に似ていた。

「わしが魔界王じゃ。早とちりするでない。そこで座禅を組んでいる男は、ここで修行をしているリマという若者じゃ。本来ここでの修行が許されるのは大魔王だけなのだが、こいつがどうしてもと頼むから、特例で認めてやった」
「リマだって!?」

悟空はリマという名前に聞き覚えがあった。改めて座禅を組んでいるリマの顔を見ると、彼の額には第三の目があった。悟空は再度リマに話し掛けた。

「お前、ルーエの弟だな?何で死んでいないのに、ここにいるんだ?」

リマの頭の上には天使の輪が無かったので、生きている事が明白だった。両目を閉じていたリマは、微かに目を開け、憎々しげに応えた。

「一年前にジュオウが反乱を起こした際、俺は兄と共に応戦した。しかし、俺はジュオウ親衛隊の一人であるサキョーに敗れ、命からがら戦場を脱出した。何とか生き延びた俺は、親衛隊への復讐を誓い、魔界と神魔界を結ぶ秘密の通路を通って生きたまま神魔界に来て、魔界王様に弟子入りした。ところが、俺が修行している最中に、突然現れたお前達が、ジュオウ親衛隊を全滅させた。お前達のせいで、俺は兄の敵を討つ機会を永久に失った」

この一年、親衛隊の打倒を目指して修行していたリマにとって、敵を横取りされた恨みは、決して小さくなかった。

「あのサキョーと戦って生き延びたなんて凄い事だぞ。ところで、お前は兄貴と会ったのか?」
「・・・会っていない。ここは神魔界の中でも特別な場所だから、死んだ者の魂は、本来ここに来ない。兄は俺が、ここに居る事さえ知らないはずだ」
「やっぱりな。実はオラ、親衛隊の一人が呼び出したルーエの亡霊と戦った。そのルーエから、お前への伝言を頼まれた」

リマの表情は一変し、初めて悟空の方を振り向いた。

「ルーエの後を引き継いで魔王になれとさ。お前は兄以上の才能の持ち主だとルーエが太鼓判を押していたぞ。親衛隊が全滅した今、お前が魔王となるのに何の障害も無いはずだ。魔王になっちまえよ」
「俺が魔王にだと!?俺は魔王の器ではない」

魔王になる事を拒むリマだが、ここで魔界王が会話に加わった。

「リマ。お前が魔王になる事は、わしも賛成だ。お前の実力は、魔族の中では突出している。お前を置いて他に適任者は居ない。何だったら、わしが長老達宛てに、お前を推挙する手紙を書いてやろうか?それを長老達に見せれば、彼等は魔王就任を認めてくれるだろう」

長老達にとって魔界の神々は、信仰の対象であった。その魔界の神の一人である魔界王からリマを魔王に推すという手紙を受け取れば、彼等は即座にリマの魔王就任を認める可能性が高かった。

「し、しかし、俺は未だ若輩者です。とても魔界を治められそうにありません」
「最初は誰でも不安になるものだ。いいか!現在の魔界は騒然としておる。求心力のある新しい魔王の出現を、多くの魔族達が待ち望んでいる。お前なら名君だった先代の弟なので、魔族達も歓迎するだろう。それに、ここでの修行は何時でも出来る。魔界の将来が心配だったら、一刻も早く魔王になって魔界を安んじろ」

魔界王に説得されたリマは、魔界王の推薦状を携えて、名残惜しそうに新魔界を後にした。リマが去った後、魔界王は悟空達三人を自宅に招き入れ、四人は書斎に移った。

「わしは、お前達と魔神龍との戦いを観ていた。わしも魔神龍については多少の知識があったが、あんな凄い化け物だとは思いもしなかった。魔神龍の力は余りにも危険だ。奴の気分次第で、いつか全世界が滅ぼされるかもしれない。奴は存在してはならない。お前達は魔神龍に敗れたとはいえ、また戦うつもりだろ?その時は、わしも協力するつもりだ。ところで、お前達は魔神龍との再戦に際し、何か対策があるのか?」

魔界王は長く生きている神様とはいえ、流石に何億年も生きているわけではない。魔神龍が生み出された当時の魔界王は、別の者だった。

「魔神龍を確実に仕留めるためには、奴の存在そのものを消すしか方法がねえ。そのためには、奴が死んでいる状態の時に倒せばいいんだ。口で言うのは簡単だが、これが相当難しい。何故なら、奴を二回続けて殺さないといけないからな。しかも、二回目に殺す時は、奴が自分自身を生き返らせるために神龍の力を使う前に倒さないといけないから、速攻で仕留めないといけねえ。もし失敗したら、奴は復活してしまう。そうなったら、また最初からやり直しだ」

ピッコロと同じく、悟空も既に魔神龍の攻略法に気付いていた。

「その通りだ。この神魔界に魂が到着する場所で待ち伏せすれば、魔神龍の魂が運ばれた時点で速攻で倒す事は可能だと思う。しかし、お前達が神魔界で魔神龍を倒すとするならば、一回目に奴を倒すのは別の人間でなければならんだろうな」

魔界王の発言を聞いて、これまで口を閉ざしていたベジータも会話に加わった。

「ふん。俺達以外に魔神龍を倒せる者など、存在するはずがなかろう。魂が到着する場所が決まっているなら、そこにドラゴンボールを持っていって奴を呼び出したら良い。それだったら、俺達が二回続けて奴を殺す事が可能だ」

死んだ者の魂が辿り着く場所が決まっているなら、そこで魔神龍と戦えば、倒せた後に場所を変えずに再び魔神龍と戦える。他の魂にとっては迷惑極まりないが、効率的な作戦に思えた。

「ベジータさん。その作戦は、高確率で失敗すると思います。魔神龍は俺達の心を読む事だって出来るでしょうから、魔神龍が俺達と戦ってる最中に俺達の作戦を知り、危険を回避するため何処か遠くに避難されたら、その時点で俺達が二回続けて奴を殺す事が不可能になります。奴はスピードもありますし、何より狡猾ですから、そう簡単には倒せないでしょう」

魔界王と共に戦いを観戦していた悟飯は、魔神龍の恐ろしさを理解していた。

「全くもって忌々しい奴だ。何れにしろ、魔神龍が好き勝手に行動していたら、絶対に奴を倒す事は出来ん。奴を倒すためには、まず奴の行動を封じねばならない。しかし、そのためには、超サイヤ人5のベジットもしくはゴジータ位のスピードでないと不可能だろう。だが、合体して戦っても、この前の時みたいに強制分離させられるかもしれない。何か手は無いものか・・・」

良案が思い浮かばず、頭を抱える悟空達三人に対し、魔界王は得意そうな顔で語り始めた。

「魔界の神々が長い年月を掛けて編み出した魔神技を使えば、お前達のスピードやパワー、スタミナを大幅に高める事が出来る」
「魔界王様。ひょっとして、その魔神技ってのを教えてくれるのか?」
「魔神技は一日二日修行しただけで会得出来るような単純な技ではない。どんなに凄い達人でも、会得までには長い期間を要する。お前達ではなくて、わしが魔神技を使う」

魔族達の間では伝説となり、あのサキョーでさえも会得する事を熱望した魔神技だが、魔界王は最悪の敵を倒すために魔神技を使う事にした。

「その魔神技ってのを使えば、魔神龍に勝てるのか?」
「お前達次第じゃ。魔神技には制限時間が無いし、好きな時に解除出来る。また、仮に魔神龍に技を強制解除されても、再び使う事も出来る」

悟空達から見れば、魔界王自身は強そうに思えない。共に戦ってくれると言っても、戦力になるとは思えない。しかし、自分達の能力を高めてくれる魔神技とやらを使ってくれるなら、魔神龍の打倒に大いに役立つかもしれないと三人は思った。

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