其の九十七 魔神龍再び

魔界に戻ったリマは、魔王となるための承認を得るためにナツメグ星を訪れた。そして、リマは長老達に会い、魔界王が書いた推薦状を手渡した。推薦状を一読した後、一人の長老が口を開いた。

「魔界王様が薦める人物なら、わし等には何の異存も無い。しかし、ジュオウが承知すまい。ジュオウが腹いせに親衛隊に命令して、お主の命を狙ってくると思うが・・・」
「その事なら、もう心配いらない。ジュオウ親衛隊は、全員死んだからだ。向こうの世界から来た孫悟空達が、奴等を倒した。それにジュオウも死んだ」
「おお!彼等が遂にやってくれたか!それなら、お主が魔王となるのは大賛成じゃ!」

ジュオウ親衛隊の脅威が去った事を知った長老達は、大いに喜んだ。しかし、リマが彼等の喜びに釘を刺した。

「喜ぶのは、まだ早い。親衛隊は居なくなったが、それ以上の大敵が残っている。ドラゴンボールの中から出て来た魔神龍だ。孫悟空達は魔神龍と戦ったが、敢え無く敗れた」
「敗れたじゃと!?だから言わん事ではない!ドラゴンボールは、封印しておけば良かったのじゃ!こ、これで全世界が滅ぼされる・・・」

喜びから一転、長老達は深い絶望感に包まれた。

「喜んだり悲しんだり忙しい人達だな。魔神龍は勝利後に再びドラゴンボールの中に入り、ボールは魔界中に飛び散った。そして、敗れた孫悟空達は、もう一度魔神龍に戦いを挑もうとしている」
「か、彼等は何を考えているんじゃ!?ボールを封印すべきと何故考えんのじゃ!?」
「封印は問題の先送りに過ぎない。根本的な解決方法になっていない」
「しかし、これまでは、それで何の問題も起きなかったのじゃぞ」

弱腰の長老達に、リマは段々苛立ちが募り、遂には語気を強めて反論した。

「何を弱気な!過去に問題が起こらなかったから、今後もそうなるとは限らん!それに魔神龍には、どんな封印も通じないだろう!次は俺も戦う。よそ者が戦うのに、魔王が逃げるられるか!」
「お、お主まで戦うつもりか!?もし死んでしまったら、誰が魔王の位を継ぐのじゃ?」
「知るか!魔界が真の平和となるためには、魔神龍を倒すしか方法が無い。俺は臆病者にはなりたくないし、修行して得た力を存分に発揮したい。これが魔王としての俺の初仕事だ!」

血気盛んなリマは、悟空達と共に魔神龍と戦う道を選んだ。そして、長老達の制止を振り切り、ナツメグ星を飛び出した。いざ決戦の地に向かおうとしたリマだったが、ここで重大な事に気付いた。

「ど、何処に行けば、魔神龍と戦えるんだ?」

リマは行動力があるが、思慮が欠けていた。

一方、魔界を訪れたトランクス達四人は、ギルと合流した後、ドラゴンボール探しに着手した。レーダーを確認すると、ボールの位置は、悟空達が魔神龍と戦った星から遠くない場所で反応していた。そのため、彼等は短時間でボールを次々と発見したが、彼等の足取りは重かった。ボールが全て揃えば、あの恐ろしい魔神龍との戦いが待っているからである。一個でもボールが見つからなければ、どんなに良いかと密かに願いつつ、それでも彼等は探索を続けていた。

「なあ、悟天。魔神龍との戦いに備えて、何か作戦を思いついたか?」
「そんなの思いつくわけないじゃないか!あんな化け物相手に、どんな作戦を立てれば良いんだよ!ピッコロさんの作戦だって、どこまで通用するか分からないし。俺達も殺されちゃうのかな」
「二人とも。魔神龍は、ボールの中からでも外の会話が聞こえるそうですから、余り余計な事を言わない方が・・・」

後輩のウーブに窘められた二人は、途端に口を閉ざし、半ば不貞腐れながらボールを探した。そして、また新たなボールを見つけた時、何処からともなくピッコロが飛んできた。

「ドラゴンボールは、全部集まったか?」
「い、いえ。今、四個目を見つけた所です」
「四個だと!?邪魔者は居ないのに、何のんびり探してるんだ!?こっちには時間が無いんだ!さっさと全部集めて来い!」

ピッコロに叱責されたトランクス達は、慌てて飛び立った。

「ビックリしたー。ピッコロさん、急に怒り出すんだもん」
「おそらく俺達が、ゆっくりボールを探していたのが気に入らなかったんだろう。でも、どうして時間が無いんだ?」
「早くボールを集めましょう。グズグズしてると、またピッコロさんに怒鳴られますよ」

トランクス達はレーダーを確認し、ボールの反応がある場所まで猛スピードで飛行した。その後、トランクス達は短時間で次々とボールを探し出し、遂に全てのボールが揃った。その時、再びピッコロが飛んできた。

「どうやら全てのボールを揃えた様だな。それでは魔神龍を呼び出すぞ。お前達、用意は良いか?」

突然現れたかと思えば、いきなり魔神龍を呼び出そうとしたピッコロに、トランクス達は仰天した。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ。もう魔神龍を呼び出すんですか?せめて父さん達が来てからでないと・・・。ナメック星のドラゴンボールを使って、父さん達を生き返らせたんでしょ?」
「・・・言っておくが、悟空達は来ない。そして、俺は直接戦闘に参加せず、後ろからお前達を支援する。だから、お前達だけで魔神龍と戦う事になる。ボールを探している間に、何か対策を考えたんだろ?それに期待しているぞ」

悟空達ですら敗れた魔神龍を相手に、トランクス達だけで戦わせようとするピッコロの意図が、四人には全く分からなかった。その事でトランクス達が戸惑っている間に、ピッコロは彼等の手にあるドラゴンボールを取り上げて地面の上に置き、ボールに向かって叫んだ。

「魔神龍!聞こえてるんだろ?とっとと出て来やがれ!」

ピッコロが叫び終えると、辺りは急に暗くなってドラゴンボールが光り出し、魔神龍が出現した。

「前回呼び出されてから、そんなに時間が経っていないのに、もう呼び出されるとはな。とりあえず願い事を言え。もっとも叶えてやる気は無いがな」
「ふざけた事を言いやがって。俺達の願いは、既に決まっている。貴様の完全消滅だ」
「ほう。そうか。だったら、そのチャンスをくれてやろう。全員まとめて掛かってこい」

ピッコロは魔神龍の挑発に応じずに向きを変え、トランクス達に「任せたぞ」と言い残して後方に歩み出した。ピッコロの余りに身勝手な行動に、流石にトランクス達も怒った。

「ちょっと、ピッコロさん!一体、何を考えてるの!?私達だけで魔神龍と戦わせようとするなんて!私達を見殺しにするつもりなの!?お爺ちゃん達が知ったら怒るわよ!」
「ここに来る前に悟空達の居る神魔界に行き、お前達を魔神龍と戦わせるという俺の考えを伝えた。三人とも俺の考えに賛成したぞ」
「そ、そんな・・・。お爺ちゃんやパパやベジータさんが、私達を見捨てるなんて・・・」

パンは心から信頼していた悟空達が、ピッコロの無謀な策に賛同したという事実が受け入れられずに気が動転した。そんなパンの肩を支えながら、今度はトランクスがピッコロに抗議した。

「俺達だけで魔神龍と戦うという事は、魔神龍を二回続けて殺すためなんですよね?一回目で俺達が、二回目で父さん達が魔神龍を倒す。それは分かります。しかし、俺達だけで、あの魔神龍を殺せると本気で考えているんですか!?」
「悟空達も俺も、お前達を無理やり死地に追い込んで犬死させるつもりはない。お前達が不安になる気持ちも分からんでもないが、今は魔神龍を倒す事だけに意識を集中させろ」

トランクスは魔神龍の目の前で、彼を二回続けて殺すという今回の作戦を口走ってしまった。普段は冷静なトランクスらしくない初歩的なミスだが、そうした分別が出来ないぐらい彼は興奮していた。そして、ピッコロ達の会話を黙って聞いていた魔神龍は、笑い出した。

「二回続けて俺を殺すか・・・。もしそれが出来たなら、俺を完全消滅させられるだろう。よく気付いた。しかし、俺も舐められたものだ。お前達の実力で俺を一回でも殺せると思っているのか?己の無力さを、すぐに思い知らせてやる」

全世界の未来を賭けた魔神龍との最終バトルは、こうして幕を開いた。

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