其の九十八 二人の神龍

ピッコロが見守る中、トランクスと悟天は超サイヤ人3に、パンは超サイヤ人に変身し、ウーブを加えた四人が一斉に魔神龍に向けて飛び掛かったが、魔神龍には簡単に避けられてしまった。四人は懲りずに攻撃を繰り返したが、魔神龍には一度も掠りさえしなかった。魔神龍は余裕で攻撃を避けながら、トランクス達に指図した。

「トランクスと孫悟天。フュージョンしろ。合体しても俺には通じないが、ましになる」
「お断りだ。例えフュージョンしても、貴様の力で強制的に分離させられるからな」
「何時分離させられるか分からず、怯えながら戦うのなら、いっそ合体しない方が良い」
「ちっ。世話を焼かせやがって」

魔神龍は、神龍の力でトランクスと悟天の体を操り、二人の意思とは無関係にフュージョンポーズを取らせ、無理矢理合体させた。続けて魔神龍は、ゴテンクスを超サイヤ人4に変身させ、それからゴテンクスの体を自由にした。

「わざわざ合体までさせてやったのだから、先程までの様な気の抜けた攻撃は許さん。相変わらず闘志の感じられない戦いを続けたら、すぐに消してやる」

トランクス達は、ピッコロに無理強いされたせいもあるが、余り戦う気がなかった。自分達の力では、魔神龍に絶対に勝てるはずがないという先入観に囚われていたからである。しかし、対する魔神龍は、彼等の気弱な態度に、段々と苛立ちを募らせていた。そこで魔神龍は、トランクス達を合体させ、彼等が戦い易いように御膳立てした。

ゴテンクスは、気を取り直してパンやウーブと共に攻撃を仕掛けたが、やはり魔神龍には一度も攻撃が当たらなかった。このまま戦い続けても埒が明かないと考えたゴテンクスは、パン達を後ろに下がらせ、自分も魔神龍から距離を置いた。

「喰らえ!スーパーゴーストカミカゼアターック!」

ゴテンクスの口から次々とお化けが吐き出され、そのお化け達は魔神龍に突撃した。ところが、お化け達が魔神龍の体に触れても、一向に爆発しなかった。更にウーブがお菓子光線を放ったが、魔神龍は光線を浴びても、体に変化はなかった。

「学習能力の無い奴等だ。この俺に、そんな子供騙しの技が通用するはずなかろう。お前達は先の俺の戦いを観ていながら、まだ気付かないのか」

魔神龍の両目が赤く光ると、全てのお化け達が一瞬で消滅した。

「もっと真面目にやれ!本当に殺すぞ!」
「俺達が前の戦いを観ていた事まで知っているとは・・・。やっぱり、こいつ凄過ぎる」

ゴテンクスは腕を組み、次の手を必死になって考えた。そして、意を決したゴテンクスは、再び口からお化け達を吐き出した。ところが、お化け達は魔神龍の元に向かわず、隊列を整えてゴテンクスの両側に整列した。

「くたばれ魔神龍!連続死ね死ねミサイル!」

ゴテンクスとお化け達は、無数の気功弾を放った。対する魔神龍は、自分に向かってくる気光弾を避けず、気光弾が命中して大爆発が起こった。魔神龍は、爆風によって発生した煙によって全身を包まれたが、ゴテンクス達は構わずに攻撃し続けた。そして、ある程度の攻撃を続けた後、ゴテンクス達は魔神龍の様子を探るために一斉に攻撃を止めた。

「はあはあ・・・。これだけ攻撃すれば、流石に効いただろ」

お化け達のと合わせて千発以上もの気功弾を放ったゴテンクスは、肩で大きく息をしながら煙が晴れるのを待った。しかし、煙が完全に晴れると、そこには無傷の魔神龍が立っていた。

「折角チャンスをくれてやったのに、この程度の攻撃しか出来ないとはな・・・。これ以上お前に期待するのは、時間の無駄だ」

魔神龍の目が赤く光ると、お化け達は全て消滅し、ゴテンクスは合体していられる時間が残っているにも拘わらず、元の二人に分離してしまった。

「お前達の父親とは楽しめる戦いが出来たが、お前達には失望させられた。もう終わりにする。まずは孫悟天からだ。これで息の根を止めてやる」

魔神龍の右の人差し指の先端に、小型で球形の気の固まりが出現した。とても悟天の命を奪えそうにない代物だが、魔神龍は気の固まりを悟天に向けて放った。悟天は油断せずに身構えて迎撃態勢を取ったが、気の固まりは途中で消えた。それと同時に、悟天が倒れた。悟天の側にいたトランクスは、血相を変えて跪き、悟天の体を揺すぶって呼びかけたが、悟天からの応答は無かった。トランクスは悟天の胸に耳を当てると、心音が聞こえなかった。

「し、死んでる。ご、悟天が・・・殺された。魔神龍!一体、悟天に何をした!?」
「気の固まりを孫悟天の心臓の側に瞬間移動させた。そして、気の固まりは無防備の心臓に直撃し、完全に破壊した。心臓が破壊されても生きられる奴は居ない」

トランクスは悟天の死に顔を見た。悟天は何が起きたのか分からないまま死んだので、瞼は開いたままで、まだ生きている様に見えた。トランクスは亡骸となった友の顔に手を当て、目を閉じさせた。そして、怒りに打ち震えながら魔神龍を睨み付けた。

「魔神龍!貴様だけは許さん!」

トランクスは激怒し、フルパワーになって魔神龍に飛び掛かった。しかし、天上から巨大な雷がトランクスの身に降り注ぎ、雷に直撃したトランクスは黒焦げになって倒れた。魔神龍の降らせた雷により、トランクスは一瞬で絶命した。

「これで二人目。次はどいつにするかな・・・」

魔神龍は舐める様な目付きで残る三人の顔を見回した。しかし、この時、不思議な現象が起こった。死んだはずの悟天とトランクスが、まるで何事も無かったかの様に平然と立ち上がったのである。悟天の心臓は再生されており、トランクスは服まで元通りだった。パンやウーブは、予期せぬ出来事に仰天したが、当の本人達も何故自分達が無事なのか、さっぱり分からなかった。

一方の魔神龍は、驚いた様子を微塵も見せず、ピッコロを睨んで話し掛けた。

「お前の仕業だな?二人が生き返ったのは」
「ふん。俺達が何の考えもなしに貴様に戦いを挑むとでも思ったのか?今の俺は、お前と同類だ。貴様が神龍の力を使って何か仕掛けてきても、それを俺は即座に無効化出来る。貴様が以前に行なった重力操作や真空状態等は、もはや俺達には通用しない」

ピッコロと魔神龍の会話に、当初トランクス達四人は意味が分からかったが、次第に話の内容が飲み込めてきた。そして、ウーブは両者の会話に割って入った。

「もしかしてピッコロさんは、魔神龍と同じ神龍の力を身に付けたんじゃ・・・」

ウーブの問いかけに、ピッコロは鼻で笑ってから応えた。

「そうだ。神龍の力は史上最高の特殊能力。この力に対抗するには、こちらもその力を得るしかないと俺は考えた。そこでナメック星のドラゴンボールを使って神龍の力を授けてもらった。この願いをポルンガに頼んだ時、最初は断られた。しかし、今回頼む願いは一つだけで、しかも有効期限は一日限りという条件付きで、ようやく叶えてもらった。俺が神龍でいられるのは今日一日だけだから、魔神龍は今日中に倒さないといけない。だから、お前達にボール集めを急きたてたのだ」

ピッコロの説明を聞いたトランクス達は、ようやく合点がいった。ピッコロがトランクス達だけで魔神龍と戦わせようとしたのも、悟空達が一回目の魔神龍退治をトランクス達に託したのも、神龍となったピッコロが側に居るからだった。ピッコロへの疑惑が晴れた悟天は、ピッコロに軽い苦言を呈した。

「ピッコロさんが神龍になったのなら、わざわざ俺達がボールを探さなくても、ピッコロさんの力でボールを集められたんじゃない?その方が時間を節約出来たと思うけど」
「俺が魔神龍を倒すため以外で力を使うのを極力控えたかった。しかし、これからは遠慮せずに使う。例えお前達が何十回殺されようとも、その度に俺が生き返らせてやる。もし必要なら、お前達を不死身にしてやる。お前達は何も気にせず、魔神龍を倒す事に全力を注げば良い」

ピッコロの言葉は、トランクス達を大いに勇気付けた。殺されても即座に生き返れるなら、安心して戦える。戦う意欲も沸いてきた。戦う度に強くなるサイヤ人なら、何度でも甦って戦い続けていれば、例え相手が魔神龍でも勝てるかもしれないという気になった。

しかし、そんな彼等の様子を、魔神龍は大声で笑い飛ばした。そして、ピッコロに嫌味たっぷりに話し掛けた。

「ピッコロよ。神龍の力を得て俺と対等になったとでも思っているのか?馬鹿め!お前には俺にはない弱点がある。それも二つもな。どう足搔こうと、俺には敵わないのだ」

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