其の一 黒幕は誰だ?

魔神龍との壮絶な死闘から一月が過ぎた。この日は、悟空とベジータが荒地の上で対峙していた。その近くでは、彼等の仲間達が様子を見守っていた。ベジータにとって長年の悲願だった悟空と対戦する時が、遂に来たのである。

事の発端は、ベジータからだった。皆と共に地球に帰ってきたベジータが、悟空に戦いを申し入れた。悟空は二つ返事で了承し、一月後に対戦する事で、お互い合意した。それ以降、今日に至るまで両者は、いつも以上に修行に精を出していた。ようやく決着の日を迎えたベジータは、喜びを抑えきれず、笑みを浮かべながら目の前の悟空に話し掛けた。

「ふっ。とうとう来たか、この日が。思えば、これまで過去二回、俺は貴様と戦ったが、どちらの戦いも、お互いにとって満足し難い結果だった。今日こそは決着を付けてやる」
「ああ。オラも今日が楽しみで仕方なかったぞ。どちらが勝っても恨みっこなしだからな」

待ちに待った戦いの前に、二人は早くも気炎を上げていた。その二人の間には、トランクスが審判役として立っていた。

「良いですか、二人とも。これは優劣を競う試合なんですから、どちらかが、もしくは両方が危険だと思われたら、直ちに止めます。そして、どちらかが超サイヤ人に変身すれば、その時点で変身した方を反則負けにして試合を終了します。以上、宜しいですね?」
「ああ。これは殺し合いじゃねえからな」
「しかし、この戦い、お互い手加減出来ないから、もしやという事もあるかもしれんがな」

戦いが楽しみな悟空やベジータとは対照的に、トランクス達は心配で仕方なかった。例え殺意が無くても、どちらかが命を落とすかもしれない。双方無事に戦いを終えても、その時には優劣が決まっている。どちらも大好きな人だから、優劣を決めて欲しくないのが彼等の本心だった。悟飯に至っては、「こんな戦い観たくない」と言って、天界に来ていた。ピッコロは悟飯に付き合って同じく天界に居たが、戦いに興味があったので、天界から下界の様子を見守っていた。

トランクスは右腕を高く掲げ、勢いよく振り下ろした。それと同時に悟空とべジータは相手に向かって飛び掛かり、早くも激しい攻防戦を繰り広げた。お互い手の内が分かっているので、様子見も無く、最初から本気で戦っていた。

しかし、幾ら本気とはいっても、悟空達は気功波の類を一切使わなかった。すぐ近くに仲間達が居るから、誤爆しないようにするためでもあるが、何より無駄なエネルギーを使いたくなかった。気功波は当たればダメージが大きいが、その分消費するエネルギーの量も多い。長期戦を見越し、避けられる可能性が高い気功波を使うよりは、堅実に肉弾戦で戦った方が良いと双方判断したのである。エネルギーの消費量にも気を配るほど、二人は激しくも慎重に戦いを進めていった。

戦いは終始一貫して一進一退の攻防を繰り広げていた。二人とも体力の大部分を消耗し、ダメージも相当蓄積されていた。しかし、二人の闘志は衰えるどころか、ますます燃え上がり、悟空はベジータを、ベジータは悟空しか見えておらず、見物している仲間達も脇目を振らずに目の前の戦いに没頭していた。

ところが、この世紀の戦いに水を差す「もの」が現れた。突如、何処からともなく得体の知れない八体のロボットが現れ、交戦中の悟空とベジータに襲い掛かった。ロボットは全て同じ型で、悟空達よりもサイズが大きく、人と同じ様に手足はあったが、装甲に包まれていた。傷ついた悟空達では、この予期せぬ来訪者の襲撃に対処出来ず、攻撃を受けて折角の対決を止められてしまった。

トランクス達は突然の出来事に不意を突かれて対応が遅れたが、すぐに気を取り直して悟空達の救出に向かった。しかし、このロボット達はトランクス達が思っていたよりも頑丈で力が強く、彼等の力をもってしても、容易には倒せなかった。ところが、異変に気付いた悟飯とピッコロが急いで応援に駆けつけ、ロボット達は全て破壊された。

どうにかロボット達の撃退に成功したが、悟空とベジータの怒りは収まらなかった。戦いを邪魔された彼等の怒りの矛先は、ロボット達を送りつけた人物に自然と向けられた。

「あのロボット達が、自らの意思でオラ達に襲い掛かってきたとは思えねえ。何処かにオラ達を攻撃するように、あのロボット達に命令した奴がいるはずだ!一体どいつの仕業だ!?」
「そんなの決まっている!レードだ!あの野郎、しばらく大人しくしていたと思ったら、また何か良からぬ事を企みやがったな!魔神龍との戦いの際は救援に来たから見逃してやったが、やはり倒しておくべきだった!奴に報いを受けさせてやる!」

その後、デンデに傷を回復してもらった悟空とべジータは、惑星レードへ向かった。トランクスやウーブを帯同したが、それ以外の戦士達は地球に残る事になった。仮にレードと戦う事になっても、悟空とべジータがいれば事は済むし、またロボットが攻めて来るかもしれないので、全員で行くのは危険だと判断したからである。

悟空達が惑星レードに到着した頃、レードは自分の子供達を惑星レードに呼び寄せ、アイスを除く全員に組み手をさせていた。そして、レードは組み手の様子を、空飛ぶ玉座に座りながら眺めていた。そのレードの隣には、アイスが立って同じく様子を見ていた。レードの子供達は、少しでも父親に良い所を見せようと懸命に励んでいたが、レードは子供達の余りの戦闘力の低さに憮然としていた。

「俺の血を受け継いでるのに、何故こいつ等は、こんなに弱いんだ?混血児は親より強い場合もあれば、弱い場合もある。しかし、こいつ等は俺の子供の時より明らかに弱い」
「本当に弱いわね。十分あれば、私でも全員片付けられる」
「この程度の戦闘力では、いざ孫悟空達と戦う時になっても、戦力として役に立たない。何処かに孫悟空達に匹敵する力を持った、強い部下はいないだろうか・・・」

レードは、いずれ訪れるであろう悟空達との決戦に備え、自分と共に戦ってくれる強い戦士を欲していた。しかし、彼の部下には、これといって強い者はおらず、子供達のレベルは問題外。唯一の例外であるアイスも、悟空達を相手に戦ってくれるとは思えなかった。

レードが嘆いている時に、怒り心頭の悟空達が、レードの元に乗り込んできた。ベジータはレードの横顔を見るなり、大声で怒鳴り散らした。

「レード!ガラクタ人形に俺達を襲わせたな!返答次第では、今ここで決着を付けてやる!」
「ガラクタ人形だと?一体、何の話だ?」
「とぼけるな!あんなロボットを使って俺達を襲わせるのは、貴様ぐらいしかおらん!」
「何の事だか、さっぱりだ。下らん。世迷い事は他所でしろ。邪魔だ。それとも俺に消されたいか?」

レードは悟空達の方に体ごと振り向き、彼等と言い争いを始めた。しかし、この時、すぐ近くで事件が発生していた。謎のロボット達が突如として現れ、組み手をしていたレードの子供達に襲い掛かり、次々と殺していたのである。

「あ、あのロボットは!?間違いねえ!オラ達を襲ったロボット達と同じタイプだ!」
「くっ。お、おのれー!」

変事に気付いたレードは、言い争いを止め、ロボット達に飛び掛かった。悟空達やアイスも戦闘に加わり、ロボット達は一体残らず破壊された。ところが、時既に遅く、アイスを除くレードの子供達は全員死亡していた。

「レードが犯人じゃなかったのか・・・」

悟空達はロボット達を自分達の元に送りつけてきた人物がレードではなかった事を悟り、怒りの矛先を収めた。しかし、今度はレードが怒り出した。レードは額に血管を浮き上がらせ、目を充血させ、怒りに身を震えていた。

「何者の仕業か知らんが、俺の子供達を殺すとは許せん!必ず裏で糸を引いていた奴を見つけ出し、八つ裂きにしてやる!」
「あいつ等は、おめえの子供達だったのか・・・。どうりで似ていたわけだ・・・。おっと、そんな事よりも、今は真犯人を捜さないとな」

レードは悟空達と共に壊れたロボットの残骸を持って、惑星レードにある研究所へと向かった。そして、研究所に着くと、そこに勤めている科学者達にロボットの残骸を渡し、彼等にロボットの分析を命じた。それからレードは基地に連絡し、レードが支配する他の星にもロボットが現れていないか確認させた。そして、基地からの結果報告を受けたレードは、研究所の一室で待たされていた悟空達の元へと足を運んだ。

「俺が支配する他の星に、ロボットの目撃情報は無かった。おそらく犯人の狙いは、この宇宙の中で飛び抜けた力を持つ、俺やお前達の抹殺だろう」

悟空達がレードと話し合っていると、ロボットを分析していた科学者の一人が、一声掛けてから部屋の中に入ってきた。

「レード様。ロボットを調べて分かったのですが、あのロボットを造った者は、とんでもない天才です。構造が余りにも複雑過ぎるため、我々の知識では、あれと同じロボットは造れません。外見を似せるだけなら出来ますが」
「何だと!?確かにロボットにしては強かったが、お前達は南銀河中から集められた超一流の科学者達なんだぞ!そのお前達が同じロボットを造れないと言うのか!?とても信じられん・・・」

正体不明の謎の天才が製造した超ロボット。しかし、このロボット達との戦いは、この後に続く長く辛い戦いの、ほんの序章に過ぎなかった。

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