悟飯とハートボーグ五十七号の戦いが始まった。双方が睨み合い、まず五十七号の方から仕掛けてきた。五十七号は正面から飛び掛かって右の拳を振り下ろし、悟飯は拳による攻撃をまともに喰らってしまった。初手から攻撃を受けた悟飯だが、決して油断していたのではない。五十七号のスピードが、悟飯が反応するよりも速かったためである。
悟飯は体勢を立て直し、すぐに反撃を試みた。まず回し蹴りを繰り出したが、五十七号は半歩下がって蹴りを避けた。続けて悟飯は右の拳を出したが、拳は五十七号の左手で受け止められてしまった。五十七号は左手で悟飯の右の拳を握ったまま、空いている右手で素早く悟飯の襟首を掴み、悟飯の体ごと放り投げた。悟飯は岩山に叩き付けられ、岩山は音を立てて崩壊した。
悟飯は崩壊した岩山の中から飛び出し、五十七号に迫った。悟飯は残像拳を使って五十七号の前方に自分の残像を残し、本人は五十七号の背後に回り込んだ。しかし、五十七号は残像には目も呉れず、後ろを見ないまま、背後にいた悟飯の胸板に肘鉄を喰らわせた。悟飯が体勢を崩すと、五十七号はまたしても後ろを振り返らずに、悟飯の顔面を蹴り上げた。蹴られた悟飯は、後方に吹っ飛ばされた。
「お前の実力は、この程度か?さっさと超サイヤ人に変身したらどうだ?まさか変身出来ない訳ではあるまい」
五十七号は、顔を手で押さえて倒れている悟飯に向かって叫んだ。悟飯は、ふらつきながらも立ち上がった。
「お、俺は超サイヤ人になれない訳じゃないが、この状態で戦うのがベストなんだ」
「・・・そうか。では、俺の方がもう少し手加減するか。俺が一方的に勝ってしまうと、お前の力量が一体どれほどあるか測れないからな」
悟飯にとっては屈辱的な五十七号の台詞だったが、悟飯は何も言い返さずに耐え忍んだ。
悟飯が苦戦する様子は、離れた場所に居た悟空達も認識していた。気は感じないが、悟飯ほどの実力者を圧倒する、謎の敵の正体が気になった悟空達は、それぞれの作業を中断して、続々と集結した。そして、悟空は戦場の側で戦いを観戦していたピッコロに尋ねた。
「何者だ、あいつ?すげえ強えな。あれもドクター・リブが造ったロボットなのか?」
「いや。奴は名前をハートボーグ五十七号といい、ドクター・ハートによって改造されたサイボーグだと言っていた。ドクター・ハートもジニア人だそうだ。俺達を倒すために、あいつと、もう一人のハートボーグを差し向けたのだろう」
悟飯は五十七号に、再び攻撃を仕掛けた。対する五十七号は、先程に比べてスピードを抑えていたが、それでも悟飯から繰り出される全ての攻撃を回避し、隙を見て攻撃を当てていった。
五十七号の強さは、実際に戦っている悟飯や、観戦している悟空達の想像を遥かに超えたものだった。先程までワインを飲んで酔っ払っていたレードも、五十七号の強さを間近で見て肝を潰し、すっかり酔いが覚めていた。そして、ベジータは、誰もが頭の中で思いつつも、口に出せない事を述べた。
「あのハートボーグ五十七号とやらのスピードが速過ぎて、よくは分からないが、とても素人の動きじゃない。相当の場数を踏んでいるぞ。先程まで戦っていたリブマシーンとは雲泥の差だ。奴は、ただ強いだけではない。あの避け方といい、攻撃の的確さといい、どれも超一級品だ。悟飯は負けるぞ」
そうこうしている内に、悟飯は攻撃を受け過ぎて、再び倒れた。そして、悟飯が倒れている間、五十七号は周囲に気を配り、悟空達が全員近くまで来た事に気付き、喜んだ。
「向こうから来てくれるとは、都合がいい。こちらから出向く手間が省けるからな」
五十七号が喜んでいる間に、悟飯が立ち上がった。五十七号は再び悟飯に意識を集中させた。
「俺に一撃も攻撃を当てる事が出来ず、さぞ悔しかろう。しかし、お前が弱いのではない。俺が特別なんだ。折角だから、少し俺達の事を話してやろう。俺達を改造したドクター・ハートは、考古学に造詣が深く、これまで数多くの古い文献を手にし、未解明だった歴史の真実を次々と明らかにしてきた。彼女は、それだけでは飽き足らず、過去の人間を現代に甦らせようと考えた。そして、古代の人間の墓を暴き、そこにあった髪の毛や遺骨を使って、クローン人間を作り出した」
五十七号の台詞を聞き、悟飯の表情が変わった。
「ま、まさか、お前達の正体は!?」
「そう。俺も五十六号も、歴史に名を馳せた伝説の戦士のクローンだ。しかも、ドクター・ハートに作られたクローンは、オリジナルの本来の強さや、体に染み付いた経験を踏襲する。だから俺は、生まれた時から戦いのスペシャリストだった。更にサイボーグに改造され、その強さが更に高まった」
悟飯ほどの達人になれば、対戦相手のパワーやスピードといった基本能力だけでなく、相手の戦術や技量も、戦っている最中に把握出来る。そして、目の前に居る五十七号は、能力も戦術も全てが優れていた。しかも五十七号は、これまで悟飯から一度も目を逸らしていなかった。つまり、五十七号は優位な立場にいながら、全く油断していなかった。悟飯が何か仕掛けようものなら、五十七号は即座に察知しして阻止するだろう。悟飯は勝つ手段を見出せず、八方塞となった。
焦る悟飯とは対照的に、余裕の表情を見せる五十七号は、更に話を続けた。
「大抵のジニア人は、ボーンという階級に就く。ドクター・リブもボーンに属する。しかし、ジニア人の中でも特に知能の高い者は、オーガンというボーンより上の階級に就く。ドクター・ハートは、そのオーガンの一人だ。つまり俺は、戦闘の達人であるばかりか、極めて優れた頭脳を持つ科学者の手でサイボーグに改造された。そんな俺に、お前は生身の体で、ここまで戦えた。大したものだ。サイヤ人が最強の種族というのも、あながち間違いではない」
優秀な戦士と科学者のコラボレーション。それがハートボーグの強さの秘密だった。悟飯は自信を失いかけていたが、話の中で五十七号は、サイヤ人について触れたので、ふと気になった事を問うてみた。
「もしかしてドクター・ハートは、昔のサイヤ人の墓を暴き、そこにあった遺骨から、お前のようなクローンを作りだしたのか?」
「いや。残念ながら、現時点ではサイヤ人のクローンは存在しない。ドクター・ハートが集めた文献には、サイヤ人の墓の場所は記されていなかった。ただ、その強さや変身能力が、記されていただけだった」
悟飯は少しだけ安心した。もし超サイヤ人のハートボーグが居るなら、到底勝ち目が無いと思ったからである。
「さてと。そろそろ終わらせるとするか。ドクター・ハートが、お待ちかねだからな」
「く、来るなら来い!そう簡単に、やられるものか!」
「ふん。お前はタフそうだから、直接攻撃では倒すのに時間が掛かるだろう。とっておきの技で、すぐに終わらせてやる」
悟飯のピンチに、ピッコロは居ても立ってもいられず、思わず飛び出してしまった。悟空達も後に続いた。ところがピッコロの前に、これまで静観していたハートボーグ五十六号が先回りして、立ちはだかった。
「五十七号の邪魔をさせない。大人しく観ていろ。痛い目に遭いたくなかったらな」
「どけー!」
ピッコロは五十六号の忠告を無視し、五十六号に蹴りかかった。しかし、五十六号は蹴りを避けると同時に、ピッコロの左頬に拳を見舞った。殴られたピッコロは地面に激突し、気を失ってしまった。
「だから大人しく観ていろと言ったのだ。お前達も痛い目に遭いたくなかったら、大人しくしていろ」
「は、速い。動きが見えなかった・・・」
五十六号のスピードとパワーに、悟空達は仰天して立ち竦んでしまった。
一方、悟飯と交戦中の五十七号は、悟飯を捕らえて上空高く放り投げると、両手に力を集めた。
「喰らえ!リバースメテオボンバー!」
五十七号は両手から、直径一メートル大のエネルギー球を、悟飯に向けて次々と放った。そして、上空では、エネルギー球が悟飯と衝突して爆発し、何度も爆音が響いた。五十七号の攻撃が止むと、悟飯は全身が傷だらけになって落ちてきた。五十七号は、悟飯を空中で捕捉した。
「星を簡単に破壊出来るエネルギー球を何度もぶつけられたのだ。無事では済むまい。しかし、思った通り、まだ生きてるな。殺さないよう手加減したからな」
悟飯は大ダメージを負っており、既に意識を失っていた。悟空達は五十七号の凄さや、悟飯が敗れた事に強いショックを受け、一同に言葉を失っていた。
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