戦いに勝利したハートボーグ五十七号は、傷ついた悟飯を抱え、すぐ近くのハートボーグ五十六号が居る場所まで飛行した。
「それでは、五十六号。後は任せたぞ。俺は、こいつを連れて基地に戻るからな」
「ああ。お前は、早くドクター・ハートの元に行ってやれ。レディを待たせては悪いからな」
「レディか・・・。あの方は、見た目こそ若いが、歳は百を優に越えている。それでもレディと言えるのか?まあ良い。お前が敗れるとは思わないが、油断だけはするなよ。じゃあな」
五十七号は、悟飯を抱えたまま飛び去った。悟空達は、この場に残った五十六号の目の前に居たので、五十六号に尋ねた。
「あいつは、悟飯を何処に連れて行く気だ!?」
「ドクター・ハートは、お前達の中では最強と思われる、あの孫悟飯とかいう男を優先して研究したいそうだ。だから一足先に孫悟飯だけを惑星ジニアに連れて行く」
「な!?そ、そんな事させるものかー!」
悟空は五十七号の後を追って飛び立ったが、その瞬間、五十六号に左の足首を掴まれた。
「孫悟飯だけではなく、お前達全員が研究対象だ。お前達も惑星ジニアに連れて行く。ただし、お前達が惑星ジニアで暴れられると面倒だから、連れて行く前に、身動き出来ないよう半殺しにする」
「くっ!放せ!」
悟空は掴まれていない右足で、五十六号の顔を踏みつけようとした。しかし、それより速く、五十六号によって体ごと投げ飛ばされた。その間に、五十七号の姿は見えなくなっていた。
「俺達の実力を、まだ分かってないようだな。お前達の中では最も強い孫悟飯でさえ、五十七号には為す術なく敗れた。その五十七号に近い実力を持つ俺に、お前達が勝てるはずなかろう。無駄な抵抗は止めて大人しくしていろ。そうすれば、余り痛くしないで眠らせてやる」
「ふざけるな!貴様等ガラクタ人形の思い通りになってたまるか!」
悟空達が五十六号の忠告に従うはずもなかった。ベジータを筆頭に、悟空と気絶しているピッコロを除く全員が、一斉に身構えて臨戦態勢になったが、悟空に制止された。
「よせ!おめえ達が束になって戦っても勝てねえ!こいつを倒すには、フュージョンしかねえ!行くぞ、ベジータ!」
ベジータは直ちに呼応し、悟空とべジータはフュージョンポーズを始めた。ところが、そのポーズが終わる前に、五十六号から繰り出された衝撃波によって、二人とも吹っ飛ばされた。
「お前達が何をするつもりだったのかは知らないが、虫の知らせだ。お前達に、その変な踊りをさせるなとな」
五十六号は、五十七号同様、用心深かった。悟空とべジータが何かしているのを見て、それが自分にとって好ましくない事態を巻き起こすと判断し、すぐさま妨害に出た。
「強さや経験ばかりでなく、勘まで引き継いでいるのか!?貴様等クローンは、オリジナルの全てを継承してるというのか!?」
「生憎だが全てではない。例えば、オリジナルが持つ知識は、肝心の脳が無ければ、幾らドクター・ハートが優秀な科学者でも再現出来ない。つまり俺も五十七号も、オリジナルが持つ知識や人格は、持ち合わせていない。俺達が持つ知識は、ドクター・ハートから教わったものだけだ」
その頃、五十七号はドクター・リブの基地に到着し、そこで彼の到着を待ちわびていたドクター・ハートと再会した。
「ドクター・ハート。只今、戻りました」
「ご苦労様。それじゃあ、惑星ジニアに帰りましょう」
ようやく手に入れたサイヤ人を、惑星ジニアに連れて行って早く研究したいと、ドクター・ハートは気が急いていた。しかし、彼女は逸る気持ちを抑え、その場に居たドクター・リブに申し伝えた。
「間もなく五十六号が侵入者全員を連れ、惑星ジニアに帰還するわ。その後、あなたは予定通り、この銀河の侵略を進めなさい。この銀河の実力者達が根こそぎ居なくなるから、あなたでも征服が可能になるはずよ」
「・・・かしこまりました。お任せ下さい」
「それじゃあね。戦果を期待しているわよ」
こうしてドクター・ハートと五十七号は、その場を立ち去った。後に残ったドクター・リブは、頃合を見て呟いた。
「ちっ。いちいち癇に障る女だ。しかし、その頭脳は俺より遥かに優れている。あの女の造った五十六号が、奴等全員を連れて基地に戻ってくるのも時間の問題か・・・」
ドクター・リブは、悟空達が映っているモニターに視線を移した。その悟空達は、五十六号を相手に劣勢を強いられていた。何とか悟空達にフュージョンをしてもらおうと、トランクスは超サイヤ人3になって五十六号に立ち向かい、悟空達のための時間稼ぎをしようとした。ところが、トランクスは五十六号に一撃で倒された。元々レベルが違う上に、強化リブマシーンと戦った時のダメージが残っていたので、足止めするには無理な話だった。
次にウーブが魔人化し、五十六号の前に立ちはだかった。ウーブは初めから本気モードで戦おうとしたが、彼もまた五十六号によって、あっけなく倒された。幾らウーブが魔人と化しても、実力は悟飯に遠く及ばない。その悟飯を倒した五十七号に近い実力を持つ五十六号に、ウーブが勝てるはずがなかった。
パンは五十六号の余りの強さに恐怖し、その場に立ちすくんでいた。五十六号は、そんな彼女の目の前まで来た。
「そうそう。そうやって大人しくしていれば、余り痛い思いをしないで済むよ。お譲ちゃん」
五十六号は、パンの腹部を容赦なく殴った。それによってパンは、痛みを感じる間も無く、一瞬で気を失った。五十六号が余りにも早く仲間達を倒してしまうため、悟空とベジータは、まだフュージョンが出来なかった。
「レード頼む!オラ達がフュージョンを完成させるまで時間稼ぎをしてくれ!」
「ちっ。本来なら、お前の頼み事を聞くなんて死んでも御免だが、今はそうも言ってられない。お前達のフュージョン以外に、このピンチを凌ぐ術は無い。俺が奴を食い止めてる間に、さっさとフュージョンしてしまえ!」
レードは勝てないのを承知し、捨石になる覚悟で、五十六号の前に立った。レードは自分より遥かに強い敵を目前にしながら、どう対処すべきか、必死になって考えた。気円斬なり何か技を出そうとしても、技を出す前に妨害される可能性が高い。しかも技を出すまで無防備になるため、その時を狙われたら、気絶どころか死ぬ危険性すらあった。そこでレードが考えた作戦は、身を固めて、少しでも長く五十六号の攻撃に耐える事だった。
「お前は他の奴等より少しは出来るようだ。しかし、俺の敵ではない」
五十六号はレードに悠然と襲い掛かった。レードは作戦通り防御に専念し、フュージョンが完成するまで持ちこたえようとした。しかし、五十六号は防御を突き破って攻撃し、レードもまたあっさり倒されてしまった。悟空達は、まだフュージョンを完成させておらず、またしても衝撃波を受けて吹っ飛ばされた。
頼みとする仲間達が全て倒され、窮地に陥った悟空とべジータだが、まだフュージョンを諦めてはいなかった。悟空とべジータは、五十六号に聞こえないよう、小声で話し合った。
「カカロット。こうなったら、太陽拳で奴の目を眩ませろ。その隙にフュージョンするぞ」
「ああ。しかし、奴は用心深い。いきなり太陽拳を使っても、何かを察知して直前に目を閉じられるかもしんねえ。だから、二重作戦で行くぞ」
悟空とべジータは、多重残像拳をやりつつ、フュージョンポーズを試みた。対する五十六号は、無数の残像を見比べ、何処に本物が居るか見定めようとした。
「そこだ!」
五十六号は目を見開き、本物の悟空達を見極めた。その時、二人はフュージョンポーズを中断し、ベジータは目を閉じ、悟空は太陽拳を使った。太陽拳をまともに浴びた五十六号は、目が眩んでしまった。悟空とべジータは、その隙にフュージョンポーズを一気に完成させてゴジ-タとなり、更に超サイヤ人5に変身した。そして、ゴジ-タが変身すると同時に、五十六号の視力が回復した。五十六号は、ゴジ-タの姿を見て、何が起こったのかを一瞬で理解した。
「・・・そうか。先程から二人が企んでいたのは、合体して一人の戦士になる事だったのか。あの孫悟飯を遥かに上回る、凄まじい気だ。お前こそが最強のサイヤ人だったのか・・・」
「俺の事を、どう思おうと勝手だが、今は一刻も早く悟飯を助け出さないといけない。手加減はしない。一気に潰す!」
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