其の十二 一進一退の攻防戦

「一気に潰すだと!?面白い。やれるものなら、やって・・・」

ゴジータを目の前にしても余裕の態度を取る五十六号だが、ゴジ-タは五十六号が話し終える前に戦いを仕掛けた。目にも止まらぬスピードで前方に足を踏み出し、五十六号の顔面を殴った。更に二発三発とパンチをお見舞いした。最後に腹部を蹴飛ばし、五十六号は後方にあった無人の家屋に激突した。家屋は崩れ落ち、瓦礫の中から五十六号が姿を現した。

「強い。これが最強のサイヤ人か・・・。だが、負ける訳にはいかない。ミレニアムプロジェクトを完遂させるために俺がやる事は、たくさんあるからな」
「貴様のやる事と言えば、どうせ人殺しだろ?だったら貴様を倒せば、この先、貴様に殺されるはずだった多くの人の命が助かるな」
「この俺を殺すだと?俺を舐めるのも、いい加減にしろ!」

今度は五十六号の方から攻めた。しかし、五十六号の攻撃をゴジ-タはカウンターで返すと、それを決起に、何度も打撃を浴びせた。ところが、五十六号は倒れもせず、ゴジ-タの猛攻を耐え抜いた。

「流石にしぶといな。しかし、ここでぼやぼやしてたら、悟飯は俺達の手が届かない所まで連れ去られてしまう。これ以上、貴様に構っている時間は無い。次の攻撃で終わらせてやる」

ゴジ-タは五十六号を上空高く投げ飛ばし、必殺のファイナルかめはめ波を放った。しかし、五十六号は球形のバリヤーを自分の体の周囲に張り巡らし、ゴジ-タの技を防いだ。

「ちっ。さすがに、そう簡単には倒せないか・・・」
「危ない危ない。もう少しで秒殺される所だった。まさか最強のサイヤ人の力が、これ程とは・・・。まともに戦ったのでは、俺の勝ち目は薄い。さて、どうするか・・・」

五十六号がバリヤーを解くと、早速ゴジ-タは飛び上がり、五十六号に攻めかかった。ところが、ゴジ-タの攻撃は避けられてしまった。ゴジ-タは怯む事なく連打を繰り出したが、五十六号は回避に専念して、ゴジ-タの連続攻撃を全てではなかったが避け続けた。

ゴジ-タの方が五十六号よりもスピードが上であり、しかも様々な角度からパンチやキックをしていた。それでもゴジ-タの攻撃が余り当たらないのは、五十六号の天性の勘による所が大きかった。五十六号はゴジータの動きを見て、ゴジ-タが次に攻撃する箇所を事前に予想して避けていた。只でさえ攻撃が当たらないので面白くないのに、悟飯を助ける事しか頭にないゴジ-タは、勝負を焦る余り、段々と苛立ってきた。

「お前の存在を五十七号が知れば、ここに舞い戻ってくるだろう。そうなると、お前は俺と五十七号を同時に相手にしなければならない。俺達二人を同時に敵に回しては、勝ち目はあるまい」
「うるさい!だったら、五十七号が来る前に貴様を倒してやる!」
「仮に俺を倒せたとしても、孫悟飯を助けるためには、結局は五十七号とも戦わねばならない。力を温存しとかないと、後がきついんじゃないか?」

五十六号の話術に翻弄され、ゴジ-タは激昂した。熱くなり過ぎて、普段の冷静さを失っていた。そのため、ゴジ-タの攻撃が単調になり、五十六号は勘に頼らなくても、攻撃を避ける事が容易になった。ここで五十六号は、戦いを有利に進めるための一計を思いついた。

「あ!五十七号!」
「何!?」

五十六号が遠くの空を見て叫び、ゴジ-タは思わず後ろを振り向いてしまった。実際には五十七号は居なかったが、ゴジ-タは反射的に反応してしまった。これを好機と見た五十六号は、猛反撃に出た。ここぞとばかりに五十六号は、高速で連打を浴びせ、ゴジ-タに息つく暇すら与えなかった。そのため、ゴジ-タは体勢を立て直す事も出来ず、攻撃を受け続けた。そして、五十六号が頃合を見て攻撃を止めると、ゴジ-タは全身が傷だらけになっていた。

「ここまでだな。死ねー!」

五十六号は、悟空達を生きた状態で連れ帰るという本来の目的を忘れて、止めの一撃を放った。ところが、ゴジ-タは五十六号の右の手首を左手で掴み、五十六号からの一撃を防いだ。五十六号は右の手首を引き抜こうとしたが、ゴジ-タの力が強過ぎて、微塵も動かなかった。

「くっ。まだ、そんな力が残っていたのか・・・」
「へっ。俺のタフさを甘く見るなよ。だが、お陰で目が覚めた。冷静さを欠いて戦っては、勝てる相手にも勝てない。こんな基本的な事を、さっきまで忘れていた。ここからが本領発揮だ!」

ゴジ-タは全身が傷だらけだったが、戦闘の続行が不可能な状態ではなかった。それどころか、五十六号を油断させるため、わざと弱った振りをしていた。そして、落ち着きを取り戻したゴジ-タは、五十六号の右手首を掴んだまま反撃に出た。まず右手で五十六号の左の二の腕を持ち、両腕を振り上げて五十六号の体を持ち上げると、空中から地面まで一気に叩きつけた。

ゴジータは五十六号を掴んでいる両手を放さず、再び両腕を振り上げて五十六号を無理矢理に立ち上がらせた。今度は右手を離し、左手を自分の方に引き寄せ、五十六号を回避不可能な距離まで近付けると、何度も右の拳で殴った。

しかし、やられっ放しでいる五十六号ではなかった。五十六号は右腕を伸ばし、それから腰を落としてゴジ-タの猛攻を避けると、左手でゴジ-タの足を掬って転ばせた。そして、ゴジ-タが五十六号を掴んでいた手を離してしまうと、五十六号は急いで後方に退いた。転ばされたゴジ-タは立ち上がり、両者は少し距離を空けて睨み合った。

「くっ、よくも俺を、こんな目に・・・。俺は、オーガンのドクター・ハートによって改造された最強のサイボーグの一人なんだ!俺は常勝が義務付けられているんだ!こんな所で負けられるか!次の技で仕留めてやる!」

五十六号は両腕を前面に出して交差させた。これからどういう技が飛び出すのか、ゴジ-タには分かるはずもなかったが、警戒だけは怠らないようにした。

「喰らえ!グローイングクロスカッター!」

五十六号が両腕を勢いよく振り下ろすと、十字の形をした気功波が発射された。ゴジ-タは飛び上がって避けたが、十字気功波は進路を変えて、ゴジ-タに再度襲ってきた。ゴジ-タは今度は身を翻して避けたが、またもや十字気功波は途中で引き返してきた。

「しぶとい技だ・・・。あれ?何かさっきよりも大きくなってないか?それに速くなっている」

ゴジ-タは、十字気功波が段々と大きくなっている事に気付いた。それと同時に、加速している事にも気付いた。このままゴジ-タが避け続けていれば、十字気功波は更に強力になり、いずれ手に負えなくなる。意を決したゴジ-タは、十字気功波に向けて、かめはめ波を放った。ところが、かめはめ波は十字気功波に当たった途端に切り裂かれてしまった。唖然とするゴジ-タに、十字気功波の魔の手が迫って来た。

「危ねえ!」

ゴジ-タは間一髪で直撃を避けたが、避けきれなかった右腕に、軽度の切り傷を負った。グローイングクロスカッターと名付けられた十字気功波は、鋭利な刃物に似ており、触れた対象が物質だろうが、気だろうが、何でも切り裂く技だった。

十字気功波は、再びゴジ-タに襲い掛かってきた。しかし、ゴジ-タは逃げ回るのを止めた。地面に仁王立ちし、両手を前に出し、それから十字気功波の接近を待った。そして、十字気功波が自分の体に触れる直前に、ゴジ-タは真剣白刃取りで受け止め、余裕の表情を浮かべて突っ立っていた五十六号に向けて投げつけた。

五十六号は、十字気功波を避けるために飛び上がった。しかし、ゴジ-タが事前に五十六号の頭上に先回りし、上昇してきた五十六号を、肘で地面に突き落とした。五十六号が地面に墜落した時、十字気功波は五十六号の目前に迫っていた。五十六号は慌ててバリヤーを出し、十字気功波はバリヤーに当たって消滅した。

五十六号に十字気功波が当たれば、戦いが終わると踏んでいたゴジ-タだったが、当てが外れてしまった。しかし、決して悲観せず、地面に降り立って五十六号と対峙した。

「便利なバリヤーだな。かめはめ波すら切り裂いた今の技も、防げるんだからな」
「何て鬱陶しい奴だ。五十七号を先に帰らせたのは、明らかに失敗だった。くそっ!」

強敵との戦いを楽しむゴジ-タとは対照的に、思わぬ苦戦に苛立つ五十六号。戦いは今の所、ゴジ-タの方が一歩上手だが、それ以上に戦いにおける二人の覚悟の差が、ここに来て表面化してきた。

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