其の十三 手遅れ

ゴジ-タとハートボーグ五十六号の戦いは、依然として続いていた。五十六号がピンチの時に使うバリヤーは、どんな攻撃も通じそうにないので、ゴジ-タは五十六号にバリヤーを使わせないよう接近戦に切り替えた。ゴジ-タは五十六号に近付いて殴り掛かり、五十六号は直ちに応戦した。

ゴジ-タが攻守に渡って完璧な戦い方を見せるのに対し、苛立った五十六号は動きが単調になってきた。そのため、ゴジ-タが瞬く間に優勢となった。五十六号は、「冷静にならねば」と心の中で思いつつも、感情のコントロールが出来なかったため、形勢は益々不利になっていった。

しかし、優位な立場にいるゴジ-タも、決して楽観視してはいなかった。五十六号が余りにも打たれ強いので、ゴジ-タが何度殴っても、五十六号は必死に喰らいついてきたからである。合体時間を考えると、そろそろ五十六号を倒しておきたいが、とても倒せそうになかった。合体が解けると、形勢は一気に逆転されるのが目に見えていた。ところが、ゴジ-タには不思議と焦燥感は無かった。そして、ゴジ-タは交戦中に一計を案じた。

ゴジ-タは一転して五十六号から離れ、連続エネルギー波を放った。五十六号は条件反射でバリヤーを使った。ところが、エネルギー波は五十六号に直接向かわず、五十六号を取り囲んで周回し始めた。五十六号のバリヤーは強力な分、発生させているだけで、かなりのエネルギーを消耗する。そのため、五十六号はエネルギーの節約のためにバリヤーを解き、自分の周りを回転するエネルギー波の動きを注視した。

しばらくすると、エネルギー波は回転するのを止めて、中心部にいる五十六号に一斉に向かってきた。五十六号は即座にバリヤーを使い、エネルギー波の直撃を防いだ。しかし、五十六号は背後に気配を感じた。五十六号が後ろと振り向くと、何とゴジ-タがバリヤーの内側に居たのである。

「な!?お、お前、何時からそこに!」
「ふっ。貴様がエネルギー波に気を取られている間に、貴様の後ろに回っていた。そして、バリヤーを使われる直前に、貴様に素早く近付いたという訳さ」
「何て奴だ・・・。もし俺がバリヤーを使わなかったら、お前まで攻撃を喰らっていたぞ」
「舐めるなよ。その時は耐えるつもりだった。それ位の事で怖気つく俺じゃない。さあ行くぞ」

ゴジ-タは至近距離から、かめはめ波を放った。五十六号はバリヤーの中では自由に身動き出来なかったため、かめはめ波を背中に喰らった。五十六号はバリヤーを解き、目の前にいたゴジ-タを殴ったが、かめはめ波によるダメージのせいで力が入らず、ゴジ-タには効いていなかった。それどころか、ゴジ-タに反撃される羽目になり、五十六号は浮き足立った。

「そ、そんな馬鹿な!?この俺が、こんな奴に・・・」
「バリヤーを多用したのが裏目に出たな。俺に同じ手は何度も通用しない。フイニッシュだ!」

ゴジ-タは五十六号に攻めかかった。五十六号は目に見えてスピードが落ちており、攻撃を避けられなかった。顔面に強烈なパンチを喰らった五十六号は、倒れこそしなかったが、よろめいた。ゴジ-タは続けて殴打したが、五十六号にも意地があり、力を振り絞って反撃した。五十六号は必死に奮戦したが、勝負の行方は既に明らかだった。次第に五十六号は抗う力を失い、ゴジ-タの攻撃を受け続けた。そして、ゴジ-タは最後に止めの一撃を放ち、五十六号は倒れた。ここに勝敗は決した。

勝利したゴジ-タは、倒れている五十六号に問い詰めた。

「おい!悟飯は今、何処に居るんだ!?五十七号が悟飯を遠い星に連行するとしても、その前に、この星の何処かに連れて行ったはずだ!」
「む、無駄だ。既に手遅れだ。あ、後一回、女の子とデートがしたかった・・・」

五十六号は肝心な場所については何も応えず、下らない一言を言い残して息絶えた。そして、五十六号が死んだ直後に、フュージョンによる合体が解けた。悟空とベジータは、合体が解ける前に五十六号を倒せた事に安堵した。

「ふー。危なかったー。もう少し遅かったら、あいつを倒す前に合体が解けていたぞ」
「ああ。それよりも悟飯だが、今あいつの気を感じない。五十七号が飛んで行った方角に向かっても、肝心の悟飯が何処に居るのか分からないんじゃ、助けようがない」
「うーん。五十六号から聞き出せれば良かったんだけどな・・・」

悟空達が思い悩んでいる時、ベジータはレードの部下が物陰から、こちらを観ている事に気付いた。ベジータは部下に聞こえるよう、大声で話し掛けた。

「おい!そんな所で何をしている?俺達に何か用か?」
「い、いや。レード様に報告があって・・・」
「レードは今、話を聞ける状態じゃない。俺で良ければ話を聞いてやる。下らない話だったら、ぶっ飛ばすがな」

レードは気を失っていたままで、部下からの報告を聞けないのは明らかだった。まごつく部下だが、ベジータが凄むので、報告内容を伝えた。

「実は、ドクター・リブの基地にドクター・リブが居るという情報を得た。この方角に十キロ程離れた所にある円形の建物が、その基地らしい」

レードの部下が指差した方角。それは五十七号が悟飯を連れて飛び立った方角と同じだった。悟空達はドクター・リブの基地に、悟飯が連れて行かれたものと確信した。

「どうするカカロット?フュージョンが一度解けると、その後一時間はフュージョン出来ない。フュージョン抜きでは、悟飯の側に居る五十七号に勝てまい。それでも悟飯を助けに行くか?」
「当たり前だ!五十七号を倒す必要はねえ。悟飯を取り返したら、瞬間移動で逃げれば良い。行くぞ!ベジータ!」

悟空は飛び立とうとしたが、その前に見送ろうとしていたレードの部下に申し伝えた。

「悪いけど、あそこで倒れているオラの仲間達を、レードの宇宙船まで運んでくれ。すぐにオラ達も宇宙船に行くから。それじゃあ頼んだぞ」

必要事項を伝え終えると、悟空とベジータは飛び立った。そして、彼等は間もなくドクター・リブの基地と思われる、円形の大きな建物を発見した。

「あそこに悟飯が居るはずだ!待ってろよ悟飯!」

悟空達は天井を突き破り、建物の中に侵入した。ところが、悟空達が辺りを見回しても、人の姿が見えなかった。

「変だな?ここに悟飯が居ると思ったんだけど、ひょっとして別の建物か?」

悟空は自分達が突き破った天井の穴から出て行こうとした。しかし、ベジータは悟空に追従しようとせずに、建物の中を注視していた。すると、自分達が現在いる部屋の中には、食べかけの食事があった。まだ温かいスープがあったので、この部屋の中には、つい先程まで人が居た事をベジータは悟った。

「待てカカロット!ここに悟飯が連れ込まれたのは、ほぼ間違いなさそうだ。現に建物の下の方から、小さな気を感じる」

悟空が気を探ってみると、確かに下の階から小さな気を感じた。焦っていた悟空は見逃す所だった。彼等は床を一気に突き破り、最下層の部屋に到達した。その部屋は格納庫になっていて、小型飛行機に似たジニア人の宇宙船が六台あった。そして、その宇宙船の中の一台から、一つの小さな気を感じた。悟空達が宇宙船に近付いた時、船から音声が聞こえてきた。声の主は、他ならぬドクター・リブだった。ドクター・リブはマイクを使い、船外にいる悟空達に向けて語り出した。

「ハートボーグ五十六号を倒すとは恐れ入ったよ。流石サイヤ人だ。今回は俺の負けという事にしといてやろう。しかし、この屈辱は必ず晴らしてやる。それまで、さらばだ」
「ま、待て!悟飯は、どこに居るんだ!?」
「あいつは既にドクター・ハートが惑星ジニアに連れて行った。諦めるんだな」
「ちょっと待て!ドクター・リブ!」

悟空は宇宙船ごとドクター・リブを取り押さえようとしたが、その前に宇宙船が目の前で消えてしまった。結局、悟空達は悟飯を連れて行ったドクター・ハートは愚か、当初の目的だったドクター・リブすら取り逃してしまった。

今回のドクター・リブの行動は迅速だった。ゴジ-タの強さをモニター越しに観て、五十六号の敗北を予想した。そして、ゴジ-タが基地に来るかもしれないと考えた。そのため、先ずは基地の中で作業していた彼の協力者達に、別の銀河へ退避するよう指示した。次に、別の星で侵略行為を続けていた各協力者達にも、別の銀河に移動するよう指示した。その後、ドクター・リブは戦いを最後まで見届けた。そして、ゴジータが勝った時、ドクター・リブは重要な物だけを持って宇宙船に乗り込んだ。

「そ、そんな・・・。悟飯を助けられなかったのか・・・」

尚も諦めきれない悟空は、すぐ側にあるジニア人の宇宙船に飛び乗って、惑星ジニアに向かおうとした。しかし、悟空は惑星ジニアの詳しい場所を知らないばかりか、宇宙船の動かし方も分からなかった。途方に暮れた悟空は、大声で悟飯の名を叫んだが、その声は空しく響くばかりだった。

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