其の十四 惑星ジニア

地球から約百億光年も離れた距離にある電波銀河3C324。その銀河にある惑星ジニアは、全銀河の中で一番の頭脳を誇るジニア人の母星である。ところが、そこには科学の粋を凝らした建物よりも要塞の方が多数あった。また、至る所にロボットやサイボーグが、警備のために配置されていた。更には無数の監視用人工衛星が、上空に打ち上げられていた。それだけジニア人には敵が多く、かつ惑星ジニアが彼等にとって大切な星である事を物語っていた。

どうして惑星ジニアが大切なのかと言うと、ここには今までジニア人達が征服してきた銀河についてのデータや、彼等が開発した様々な発明品の設計図や現物が納められていたからである。つまり、これまでの彼等の成果を一括して保管する場所であった。もし惑星ジニアが他者によって攻め滅ぼされれば、これまでの彼等の努力が水泡に帰し、千年以内に全銀河を支配するという彼等の一大計画「ミレニアムプロジェクト」は頓挫する。だからこそ惑星ジニアは、彼等にとって大切だった。

それだけ大切な星だから、惑星ジニアへの立ち入りが許されるのは、ジニア人以外には、ごく一部の信用の置ける協力者に限られていた。協力者と言えども裏切る可能性があるので、大多数は立ち入りを許されなかった。そして、ドクター・ハートは、この星の留守居役を勤めていた。彼女は遠征している他のジニア人達と連絡を取り合い、彼等の進捗状況を絶えずチェックしていた。そして、各ジニア人が次に征服する銀河を割り当てていた。

強敵が居る銀河には、ジニア人のエリートであるオーガンが担当し、大した敵が居ない銀河には、エリートではないボーンが担当するよう手配していた。本来なら悟空達が住む銀河系は、オーガンの誰かが担当すべきだったのだが、銀河系が惑星ジニアからは遠過ぎたために、そこに住む人々の情報を充分に入手出来なかった。ボーンであるドクター・リブが銀河系を担当された事に対し、ドクター・ハートに不満を述べていたのは、このためだった。

この他にもドクター・ハートは、若いジニア人の教育係も担当していた。どのように銀河を征服していくかを教え、彼等が一人前のジニア人として巣立っていけるよう指導していた。更には、彼等が歳を取らないための手術等も手掛けていた。

一見すると多忙そうに見えるドクター・ハートだが、優秀な彼女は仕事を手際良く終わらせ、外に用事があると、勝手に星を抜け出していた。今回もまた、ドクター・リブからサイヤ人発見の報が入ると、彼女はサイヤ人を捕らえて研究しようと画策し、即座に現地入りした。そして、最強のサイヤ人と思われる悟飯を捕らえると、迅速に惑星ジニアへ引き上げていた。遠征中のジニア人からの緊急連絡が、何時入るか分からないため、長い時間を留守に出来なかった。

惑星ジニアに戻ったドクター・ハートは、まず本部に行き、緊急連絡が入っていないか確認した。連絡が入っていないのを確認すると、自分の研究所に帰還した。研究所の一室に入ると、随行しているハートボーグ五十七号に命じて、彼が抱えている悟飯を寝台に寝かせた。そして、今だ意識を失っている悟飯に声を掛けた。

「いい加減に起きなさい。体は動かせなくても、話ぐらいは出来るでしょ?」

ドクター・ハートの声に反応し、悟飯は目を開いた。

「ど、何処だ、ここは?それに君は誰だ?」

悟飯は現在の自分が置かれている状況を、まだ理解していなかった。目の前には見知らぬ女性が立っていて、しかも自分は何処だか分からない部屋の中に、寝た状態になっていた。とりあえず悟飯は起き上がろうとしたが、体中が痛くて、身動きすらままならなかった。

「ここは惑星ジニア。そして、私はドクター・ハート。どちらも名前ぐらいは聞いた事があるでしょ?」
「君がドクター・ハートだって?それに俺が惑星ジニアに居るだと?俺は夢でも見ているのか?」

目が覚めたばかりの悟飯は、まだ頭が朦朧としていて、ドクター・ハートの話をすぐには信じられず、夢だと勘違いした。地球から限りなく遠いはずの惑星ジニアに、目が覚めたら居るなんて、すぐに信じろという方が無理だった。

「夢ではない。俺がここまで連れてきた。ドクター・ハートが、お前に興味を抱いたからだ」

悟飯は、聞き覚えのある声がした方角に首だけ動かすと、そこには先程まで戦っていた五十七号が立っていた。五十七号の姿を見て、ようやく悟飯は現実だと認識した。五十七号との戦いは途中までしか覚えていないが、終始劣勢だった事と、体の怪我の具合を見て、自分は敗れたのだと悟った。その後の事は知らないが、自分が気絶している間に、どんな場所にも一瞬で移動出来るというジニア人の宇宙船で、ここまで連れて来られたものと推測した。

ようやく自分の置かれた状況を知り、悟飯は大きなショックを受けた。しかし、こんな状況下でも、悟飯は地球に帰れる方法を考えた。この怪我では自力で帰るのは不可能に近い。そうなると後は仲間達からの救援を待つしかないが、こんな遠い星まで彼等が助けに来られるのかは甚だ疑問だった。しかし、悟飯の淡い期待は、ドクター・ハートの次の一言が打ち砕いた。

「寂しい思いをする必要は無いわ。だって、もうすぐあなたの仲間も、五十六号がここへ連れてくるんだから。あなたと同じ様に身動き出来ないよう痛めつけてからね。五十六号の実力は、あなたが戦った五十七号と大差無いわ。あなたより弱い仲間が、どう足掻いても五十六号に勝てるとは思えないわね」
「な、何だと!?くっ。貴様!」

ドクター・ハートは、悟空とベジータがフュージョンする前に引き上げていたので、戦いの行方がどうなったのかは、まだ知らなかった。それは悟飯も同様で、彼は仲間の身を案じ、ドクター・ハートに対して激しい憎悪を抱いた。悟飯が女性を憎むのは、これが初めてだった。

「俺達を捕まえて、どうする気だ?まさか協力者とやらにでもするつもりか?」
「ふっ。そのまさかよ。あなた達ほどの実力なら、協力者の中でも最高のAランクに該当するわ。ミレニアムプロジェクトを完成させるためには、一人でも多くの優秀な人間の協力が必要なの。あなた達を洗脳すれば、きっと良い協力者として働いてくれるわ。でも、差し当たっては、あなた達の強さの秘密を色々と調べるけどね」

悟飯は口惜しかった。捕虜になったからではない。悪を倒すために鍛えた力が、その悪に利用されそうだからである。しかし、悟飯は自分の力が悪に利用されるのを、どうしても避けたかった。自力での脱出は不可能で、仲間も助けに来られないなら、洗脳される前に自害し、自分の力を悪用されないようにするしかないと悟飯は考えた。悟飯は覚悟を決め、己の舌を噛み切ろうとした。ところが、五十七号が事前に気付き、悟飯の口に指を入れて、悟飯の自尽を未然に防いだ。

「ふふふ・・・。私達の思い通りになる位なら、いっそ自殺した方がましというわけね。清々しいほど潔いわね。一流の戦士はそうでなくちゃ。でも、あなたが死んだって無駄よ。例え蘇生不可能な状態で死んだとしても、体をサイボーグに改造して復活させる事が出来るわ。または、死体から細胞を摂取して、クローンとして再生させる事だって可能よ。それでも死にたいなら、勝手に死ねば?今度は止めないわよ」

自分の決死の覚悟を嘲笑され、悟飯は怒りに打ち震えた。

「憎い・・・。お前が憎い」
「ああそう。勝手にして頂戴。さてと。そろそろ本題に入るわ。まずは現在のサイヤ人について、詳しく訊かせてもらおうかしら」
「誰が話すか」
「別にあなたを拷問して、無理矢理に吐かせるつもりはないわ。私には、これがあるもの」

そう言ってドクター・ハートは、黄色い輪っかを取り出し、それを悟飯に見せびらかした。

「何だそれは?嘘発見器か?とてもそうは見えないが・・・」
「嘘発見器?随分と原始的な道具を言うのね。これは私と同じオーガンであるドクター・ラングが開発した『メモリースキャン』よ。これを使えば、あなたの脳にある全ての記憶を読み取れるのよ。そして、読み取った記憶は、私達が自由に閲覧出来るの。凄い機械だと思わない?あなたの住む星には、こんな便利なのは無いでしょ?」

説明を終えたドクター・ハートは、悟飯の頭にメモリースキャンを被せた。すると、メモリースキャンが光りだした。人体には何の影響も無かったが、記憶が盗み取られている気がして、悟飯は気分が悪かった。

「脳が記憶している情報量は、個人差もあるけど、大抵は大辞典なんて比較にならない多さなの。でも、そのほとんどは、役に立たない情報だけどね。情報の切り分けが面倒だから、読み取る対象をサイヤ人に関するものだけに限定する事も出来るけど、今回は全ての情報を読み取るわ。あなたの事を詳しく知りたいからね」

ドクター・ハートが話している間も、メモリースキャンは勢いよく作動し続けていた。読み取る量が多いだけに、記憶の読み取りは、すぐに終わりそうもなかった。

「ただ待ってるのも退屈ね。何か質問は無いかしら?暇潰しに答えてあげるわ」
「お前達は、何故全ての銀河を支配しようとするんだ?どうして罪もない人達を殺すんだ?」
「あら?サイヤ人は野蛮な種族だと思っていたけど、実際は随分と良心的ね。いいわ。これからあなたもミレニアムプロジェクトのために働いてもらうから、私達ジニア人について詳しく教えてあげるわ」

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