其の十六 悟飯を救え

話は少し遡るが、ハートボーグ五十六号によって気絶させられたレードは、悟空達にドクター・リブの基地の存在を知らせた部下の呼び掛けで目を覚ました。レードが目を開いて辺りを見回すと、五十六号の死体が視界に入った。また、他の部下も続々とレードの元に集まってきた。レードは、二人の部下に抱えられて起き上がった。

「五十六号は、フュージョンした孫悟空達に倒されたようだ。しかし、孫悟飯の気を感じない。やはり惑星ジニアに連れて行かれたのだろうか?孫悟飯は消えてくれた方が、個人的には有り難いが、今後のジニア人との戦いを考慮すると、大事な戦力を失った。一先ず傷を治さねばならない。おい。俺を宇宙船まで連れて行き、メディカルマシーンの中に入れろ」
「畏まりました。ところで、孫悟空の仲間達は、如何致しますか?今の内に始末しますか?」

レードが振り返ると、ピッコロ・トランクス・ウーブ・パンが、倒れたままの状態になっていた。今の彼等なら殺すなど造作も無いが、レードは目先の利益に捉われる男ではなかった。

「いや。こいつ等も宇宙船に連れて行き、回復させてやれ。船には何台もメディカルマシーンがあるから、まとめて治療出来る。下手に殺して孫悟空との関係が悪化するのは、戦略上不利だ。今は孫悟空達と協力して、ジニア人を倒さねばならない。それに、孫悟空達にはドラゴンボールがある。例え殺しても、ドラゴンボールで生き返られてしまったら意味が無い。さあ。俺の言う事が分かったら、こいつ等も宇宙船まで運べ」

レードに命令されて、部下達はピッコロ達を宇宙船まで運んだ。そして、最新型のメディカルマシーンにより、五人は瞬く間に回復した。治療が済むと、ピッコロ達はレードに礼を述べた後、悟空達の気が感じられるドクター・リブの基地まで飛んで行った。

ドクター・リブの基地の中では、悟空とベジータが放心状態になっていた。悟飯が自分達の手が届かない遥か遠くの星まで連れ去られてしまったので、彼等は気落ちしていた。何もする気が起きず、二人で呆然としていると、ピッコロ達が駆けつけて来た。悟空の姿を見たパンは、開口一番に悟飯の事を尋ねた。

「お爺ちゃん!パパは、パパは何処に居るの?」
「・・・済まねえ。悟飯を助ける事が出来なかった。悟飯は惑星ジニアまで連れて行かれちまった・・・」
「そ、そんな・・・。う、嘘でしょ?パパは、その辺に隠れているんでしょ?ねえ!そうだと言ってよ!お爺ちゃん!」

悟飯が遠い星まで連れ去られた事を絶対に信じたくなかったパンは、泣きじゃくりながら悟空の両腕を掴み、全身を大きく揺さぶった。見るに見兼ねたトランクスは、パンを悟空から引き離して制止した。

「パンちゃん!止めるんだ。悟空さんを苦しめてはいけない。悟飯さんは、もう・・・」
「嫌よ!そんなの嫌よ!うああああ・・・!」

パンはトランクスに抱き付き、大声で泣いた。トランクスだけでなく、この場に居る誰もが、パンに慰めの言葉を掛けてやる事が出来なかった。

悟空は、おそらくパンと同等か、それ以上に悲しんでいると思われるピッコロの方に向き直った。

「済まねえ。オラ達が最初からフュージョンを使っていれば、悟飯は連れて行かれなかったかもしれねえのに・・・」
「これ以上、自分を責めるな。過ぎた事を悔やんでも、どうにもならない。今は、どうやって悟飯を助け出すかを考えねばならない」

ピッコロは冷静を装っていたが、内心は平静ではなかった。本心では、パンの様に泣き叫びたかった。そして、悟空の過失を一方的に責めたかった。しかし、そうした感情を堪え、悟飯の救出法を考える事にした。ピッコロに続いて、他の戦士達も腕を組んで考えに耽り、やがてウーブが何かを閃いて、大声で叫んだ。

「そうだ!本当は反則ですけど、ドラゴンボールを使うのは、どうでしょうか?神龍に『悟飯さんを、ここに呼び寄せて下さい』と頼めば、悟飯さんを助け出せるんじゃないですか?悟飯さんは、これからのジニア人との戦いに欠かせない存在です。ドラゴンボールを使う事を、界王神様や魔界王様だって、きっと許してくれますよ」

ウーブは、我ながら良い提案をしたと誇らしげだったが、ピッコロは首を横に振った。

「おそらく地球やナメック星のドラゴンボールを使っても、悟飯の救出は無理だろう。神龍の力が及ぶ範囲は、せいぜい銀河系のみ。別の銀河までは、とても及ばないだろう。今、話に出てきた界王神様の瞬間移動も同様だ。界王神様の瞬間移動は、遠くの星に行くには、より多くのエネルギーが必要だ。この銀河内の星への移動なら、界王神界から近いので、余りエネルギーを消耗しないだろう。しかし、百億光年も離れていれば、とても界王神様のエネルギーだけでは無理だ」

ウーブの案は、素気無く却下された。次にベジータが提案した。

「悟飯は、ジニア人の宇宙船で連れ去られた。だったら、こっちも奴等の宇宙船を使えば、惑星ジニアまで行って、悟飯を救出する事が可能だろう。多分な。ただし、宇宙船の操作方法が、俺達だけで分かるはずもないから、惑星レードに居るブルマに調べさせる必要がある」

未知の宇宙船を、すぐに自由自在に操作出来るはずがない。下手に操作して全く違う星に行き、戻ってこれない可能性だってある。まずは専門家に調べてもらい、操作方法を確認する必要があった。

「なるほどな。必ずしも上手くいく確信は持てないが、現状は、それしか方法が無いだろう。ならば、あの飛行機みたいな宇宙船を、惑星レードまで運ばねばならない。レードの宇宙船内に、あの船を収納するスペースがあるだろうか?」

ジニア人の宇宙船は、小型飛行機並みの大きさがあった。この星の何処か別の場所へなら、悟空達が抱えて運び出せるが、別の星にまで運ぶとなると、一旦は更に大きな宇宙船に収納する必要がある。

「ピッコロさん。収納スペースについては、問題無いと思います。この建物ごと小さくして、まるごと持ち運べるはずです。以前、悟空さんが捕まえた男が、建物を小さく出来ると言ってたじゃないですか。おそらくホイポイカプセルの様に、この建物の外壁に、小さくするスイッチがあると思います。一旦、外に出ましょう」

トランクスに促され、悟空達は外に出た。パンも泣き止んで、皆の後に続いた。そして、トランクスが基地の外壁を調べてみると、出入り口の付近に、お目当ての物らしきボタンを発見した。トランクスは、仲間全員が外に出ているのを確認してから、そのボタンを押した。すると案の定、基地は小さくなり、小さなカプセルになった。

「やっぱり思った通りだ。次に、再び元の建物に戻せるか実験してみよう。このカプセルの先端にあるスイッチを押して、放り投げると・・・。よし!上手くいった」

トランクスの読み通り、カプセルになったドクター・リブの基地は、スイッチ一つで元の建物に戻った。ドクター・リブの基地は、ホイポイカプセルと全く同じ構造だった。トランクスは、再び基地をカプセル状にし、それを自分の上着のポケットの中に入れた。

「よし。一旦、惑星レードに戻るとするか。ところで、レードの奴は、部下と一緒になって、何してるんだ?」
「奴等が居る場所は、リブマシーンを製造していた工場だ。奴等が何をしているのか気になるな。行ってみるか」

悟空達は、レード達が居る方角に向けて飛行した。工場では、レードが部下に命じて、中で作業していた人達を外に引きずり出していた。工場で働いていた人達は、リブマシーンを製造するためにドクター・リブに洗脳された者達であり、まだ洗脳は解けていなかった。彼等は、ドクター・リブに置き去りにされた連中であった。リブマシーンを一心に造るよう洗脳されたために、それ以外の命令を、彼等が認識出来なかったからである。

「これで全員だな。見た所、正常ではないようだが、複雑な構造であるリブマシーンを造る連中だ。優秀な頭脳の持ち主である事には違いあるまい。こいつ等を惑星レードまで連れて行け」

レードの部下が、作業員達を連れて行こうとした時、悟空達が飛んで来た。

「待て、レード!彼等を、どうする気だ?」
「惑星レードまで連れて行く。優れた人材は、一人でも多く欲しいからな。それに、こいつ等の故郷は、既に滅ぼされただろう。帰る場所が無いなら、俺の星に連れて行っても、問題あるまい」
「女達は、どうするんだ?ここには、ドクター・リブ達に連れて来られた女達も居るんだぞ!」

悟空が言う女達とは、ドクター・リブや、その協力者達に奉仕するために、強制的に連れて来られたメイド達の事である。彼女達の故郷もまた、ドクター・リブ達に滅ぼされていた。

「惑星レードには、様々な働き口がある。惑星レードで働く意思がある者は、連れていく。そうでない者は、この星に残していく」

惑星レードには、様々な異星人が共存していた。レードのために尽くす者や、惑星レードの発展に貢献する者なら、どんな種族でも住む事を許された。

悟空達はメイド達を一堂に集め、今後どうしたいか尋ねた。帰る場所が無い彼女達は、迷わず惑星レードへの移住を望んだ。こうして彼女達も宇宙船に乗り、悟空達は惑星レードに向かった。

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