ドクター・リブとの戦いを一先ず終え、レードの宇宙船に乗って惑星レードへ戻る途上の悟空達だが、惑星レードが近くなるにつれて憂鬱になった。惑星レードに着いたら、そこで待つチチやビーデルに、悟飯が遥か遠い星に連れ去られた事を報告しなければならない。彼女達は、さぞかし嘆き悲しむだろう。それを想像すると、悟空達は居ても立っても居られなかった。
そして、遂に悟空達を乗せた宇宙船は、惑星レードに到着した。宇宙船から降りた悟空達は、レードと別れ、仲間達が待つホテルに向かった。そして、ホテルで仲間達との対面を果たした。仲間達の中には、今回の戦いに参加しなかった悟天とアイスも居た。
「無事に戻ってくれて、ほっとしただ。あれ?悟飯の姿が見えねえけど、どうしただ?」
「どうせ言わなきゃいけない事だから言うが、悟飯は敵に捕まり、百億光年離れた惑星ジニアまで連れて行かれちまった。済まねえ。オラが一緒に居ながら、悟飯が攫われるのを止められなかった」
仲間達の間に、たちまち衝撃が走った。チチは一瞬で気を失い、ビーデルは泣き崩れてしまった。ここまでは事前の予想通りの反応だったが、次の瞬間、誰も予期していなかった、とんでもない事件が起こった。何と悟天が、悟空を殴り飛ばしたのである。余りにも信じ難い出来事なので、この場に居た誰もが、目の前で起こった事態を、すぐには理解出来なかった。
「出発前に父さんは、俺に対して何て言ったか覚えてるか?何が『オラに任せておけ』だよ!任せた結果が、これかよ!」
悟天は怒りに震えていた。悟天の堪りに堪った不満が、遂に爆発してしまったのである。悟天の怒声で、ようやく仲間達は、はっと我に返った。子が親を殴るだけでも充分異常だが、それも、あの日頃から仲の良かった孫家内で起こったのである。誰もが驚愕した。現に、当の殴られた悟空は、怒りよりも驚きで言葉を失っていた。その悟空に代わり、トランクスが怒った。トランクスは、悟天の襟首を掴んで怒鳴った。
「悟天!悟空さんに対して何て事をしたんだ!謝れ!早く悟空さんに手を突いて謝れ!」
「断る!悪いのは俺じゃない!父さんだ!俺が今回の戦いに参加していれば、兄ちゃんが連れ去られなかったはずだ!俺の力を信用せず、自分の力に慢心した父さんが悪いんだ!」
「悟空さんは慢心してない!それに、例えお前が参戦しても、悟飯さんは救えなかった!」
「いいや!俺は以前よりも強くなった!俺が居れば、絶対に兄ちゃんを助ける事が出来た!」
トランクスと悟天は、お互い一歩も退かず、激しく言い争った。この二人は、子供の頃から何時も一緒に居たので、時には喧嘩する事もあったが、ここまで激しく口論する事は、これが初めてだった。
悟天の振る舞いを見兼ねたアイスが、彼を窘めようとした。
「悟天。少し言い過ぎじゃ・・・」
「君は黙っていてくれ!これは俺達の問題なんだ!」
悟天はアイスの言葉にさえ、耳を傾けようとはしなかった。そして、とうとう悟空が口を開いた。
「悟天。悟飯が攫われたのは、確かにオラのせいかもしんねえ。それは悪かったと思っている。でも、悟飯を見捨てる気はねえ。どんなに離れていても、必ず惑星ジニアまで行って、悟飯を助け出すつもりだ。そのために、おめえの力を貸してくんねえか?」
普段は温厚な悟空でも、この度の悟天の仕打ちに、怒っていないはずがなかった。しかし、それを堪え、悟天を諭す事にした。
「兄ちゃんを助け出すだって!?馬鹿も休み休み言ってよ!百億光年も離れているのに、どうやって行くつもりだよ!瞬間移動を使っても、行けるはずがない!それでも助けようとするんだったら、好きにすればいいさ!ただし、俺は協力しない!地球にだって二度と帰るものか!この星で、アイスと二人で暮らすんだ!」
悟空の説得も不調に終わってしまった。それどころか、悟天は「もう地球に帰らない」とまで言い出す始末であり、もう悟空にも、どうする事も出来なかった。結局、悟天を惑星レードに残して、悟空達は地球に帰る事となった。
地球に帰る前に、悟空はレードの屋敷に立ち寄った。悟空は客室で、レードと面会した。
「オラ達は間もなく地球に帰る。地球に帰った後、ドクター・リブの基地の中で手に入れたジニア人の宇宙船の使い方を調べる。そして、その宇宙船で惑星ジニアに着けそうだったら、おめえにも知らせる。その時は、ジニア人を倒すために、また力を貸してくれ」
「ジニア人の宇宙船だと!?そんな物を手に入れていたのか。意外と抜け目無いな。その宇宙船とやらを、こちらが手に入れたかった・・・」
レードはジニア人と敵対しつつも、彼等の科学力には非常に興味を抱いていた。
「基地の中には六台の宇宙船があったから、一・二台でよければ・・・」
「よし。二台貰おう。その礼として、俺に仕える科学者の中でも、特に優秀な者を五人選んでやるから、そいつ等を地球に連れて行け。宇宙船を調べる際、大いに役に立つだろう」
レードは、科学者達を寄越して悟空達に協力する素振りを見せたが、真の目的は、科学者達を通じて悟空達の内情を逐次知る事だった。悟空は、レードの目的に薄々気付いていたが、気にしない事にした。
「それと、悟天が惑星レードに残る事になったから、宜しく頼むな」
「何?孫悟天もアイスを連れて地球に帰るとばかり思っていたが、どういう風の吹き回しだ?」
「えっと・・・悟天がアイスの慣れ親しんだ星で、共に生活したいんだとさ」
「分かった。手荒な真似はしない。孫悟天の件は引き受けた」
悟空は家庭内の内輪揉めまでレードに言うのは、流石に差し控えた。しかし、後にホテルに勤めていたレードの部下から、悟空と悟天の間に衝突があったと、レードに報告された。
そして、悟空は仲間達と共に、ブルマの宇宙船で地球に帰る事になったが、そこに悟天は居なかった。悟天は見送りにすら来なかった。悟空達は後ろ髪を引かれる思いで、惑星レードを後にした。
悟空達を乗せた宇宙船が惑星レードから飛び立った後、レードは彼の部下と話し合った。レードにしては珍しく上機嫌だった。
「上手い具合になった。いずれ孫悟天を孫悟空から引き離し、こちら側に取り込もうと思っていたが、幸運にも向こうから来てくれた。後は、どうやって奴を俺の部下にするかだ」
「孫悟天を部下にするですって!?今は喧嘩していても、奴は孫悟空の実の息子なんですよ。レード様に従うようになるとは、とても思えませんが・・・」
部下の指摘に、レードは笑った。
「どうして孫悟天は、これまで孫悟空と共に戦ってきたと思う?地球を守るためか?違うな。周りがそうだから、自分も合わせただけだ。もし孫悟空が昔のサイヤ人の様に宇宙中を暴れていたら、孫悟天も父親と共に暴れているだろう。これが孫悟飯だったら、話は違っていた。奴は正義感の塊の様な男だから、父親と抗ってでも宇宙を守ろうとするだろう。しかし、孫悟天には、そこまで正義感は無い。環境が変われば、考え方も変わる。いずれ孫悟天を俺の右腕にしてやる」
悟天がレードの部下になれば、父親と恋人が対立せずに共に歩む事になるので、アイスが悲しまなくて済む。更に、レード軍に強大な戦力が加わる事にもなる。戦力不足に悩んでいたレードにとって、才能のある悟天は、喉から手が出るほど欲しい逸材だった。それに、悟空の仲間が減れば、いずれ悟空達と戦う際に、それだけレード側が有利になる。正に一石二鳥ならぬ、一石三鳥となるレードの企みだった。
そんなレードの陰謀など露知らず、地球への帰路についていた悟空達の気持ちは鬱屈していた。悟飯を救えるかもしれないと淡い希望を抱いていたのに、悟天のせいで意気消沈し、すっかり塞ぎ込んでいた。
悟空は溜息ばかり吐いていた。昔だったら「ま、いいか」で軽く済ませていたが、今では簡単に気持ちを切り替えられなかった。悟飯の代わりに、自分がベジータとフュージョンしてハートボーグ五十七号と戦うべきだったと繰り返し考え、何度も後悔した。変事の時に気絶していたチチは、後に事の詳細を聞いたが、悟天に対して怒るどころか、嘆き悲しんで病に伏せってしまった。ビーデルは少し落ち着きを取り戻したが、口数は少なかった。そんな家族の有様を見て、パンは悲しかった。
孫家の惨状を気の毒に思ったブルマは、ベジータに相談した。
「孫君達、どうにかならないかしら?このままじゃ、余りにも可哀想だわ」
「放っておけ。これは、あいつ等自身の問題だ。自分達で立ち直るまで、俺達は黙って見守るべきだ。ちっ、ジニア人め。奴等が現れなかったら、カカロットとの決着を付けられたのに・・・。さっさと奴等を片付けて、カカロットとの勝負の続きをしなければ・・・。俺には、もう時間が無いんだ」
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