其の十八 悟飯を訪ねて百億光年

悟飯が遠い星に連れ去られ、悟天と仲違いするという悲しい事件はあったが、悟空達は無事に地球へ帰還した。しかし、大切な仲間二人と離別した事を悲観している場合ではなかった。悟飯を取り戻さねばならない。悟飯が帰ってくれば、悟天は機嫌を直して地球に帰ってくるだろう。そうなる事を信じて、悟空達は獲得したジニア人の宇宙船を調べているブルマからの連絡を、一日千秋の思いで待った。

帰りの宇宙船に同船し、惑星レードから地球に来た五人の科学者達は、しばらくブルマの家で暮らすため、一人一人に部屋をあてがわれた。そして、六人は協力してジニア人の宇宙船を調べていた。ドクター・リブの基地の中にあった宇宙船の解説書を読んだり、実際に動かしたりして、操作方法を確認した。確認が終わると、ブルマは悟空達を自宅に呼び出した。

「皆、待たせたわね。ようやく宇宙船の解析が終わったわ。凄い代物だというのは、調べる前から分かっていたけど、それでも実際に調べてみると、私の想像を遥かに超えていたわ。地球の技術じゃ、百年や二百年経っても、同等の宇宙船は造れないでしょうね。これなら百億光年離れた3C324まで行くのも夢じゃない。操作方法が稚児しいのが難点だけどね」

ブルマの「稚児しい」という発言に、話を聞いていた悟空達は、違和感を覚えた。行き先を指定し、発進ボタンを押し、それで終わりだと思っていたからである。

「ジニア人の宇宙船は、これまで私達が使っていたものとは違って、ワープ航法で移動するの。ワープというのは、空間を歪めて目的地に瞬時に移動する事で、分かりやすく言うと、わざわざ飛んで行かなくても、目的地の位置を設定して発進ボタンを押すだけで一瞬で着けるの。瞬間移動みたいなものね」

これまで悟空達が使っていた宇宙船は、それぞれ速度の違いはあれど、出発地から目的地まで航行していた。それに対し、ジニア人の宇宙船は、ワープによって航行しないで目的地に瞬時に到着する。正に地球の技術では到底造れない画期的な宇宙船であった。

「ここからが本題なんだけど、惑星ジニアが何処にあるのか分かっていれば即座に行けるけど、現時点では3C324という銀河内にある事しか分かってないでしょ?ワープするためには、目的地の位置情報を正確に入力しなくてはいけないの。例えば昔のナメック星は、SU83方位の9045YXにあったんだけど、こういう値を入力する必要があるわ。宇宙船には星の位置を記録するログファイルがあるけど、手元にある三台には、どの星の位置も記録されていなかった」

宇宙船を奪われ、惑星ジニアが敵に攻められるのをジニア人は非常に警戒していた。そのためにジニア人は、宇宙船に惑星ジニアの位置情報を記録しないようにしていた。

「宇宙船には天体望遠鏡が搭載されていて、望遠鏡に写った星の位置を自動で観測してくれるの。はっきり写らない遠い星の位置までは観測出来ないけどね。大体一万光年離れた星の位置を観測可能よ。つまり一回のワープで最大一万光年まで進めるの。3C324は地球から見て竜座の方角にあるから、その方角の途上にある星へのワープを繰り返せば、いずれ3C324に着けると思う。そこにある無数の星の中から、どれが惑星ジニアなのかを特定する課題が残ってるけどね」

天体望遠鏡に映った星の位置情報を観測するので、それを使用する事により、少しずつではあるが3C324に向かって進める。ここまで話を聞いていた悟空は、そこに疑問を抱いて質問した。

「望遠鏡で星を見るだけじゃなく、その星の位置が分かっちまうのは凄えな。でも、移動する度に、次に移動する星の位置を観測しねえといけねえのか?はっきり言って面倒臭えな。だったら今までの宇宙船を使った方が、自動で動いてくれる分、早く着くんじゃねえか?」

ワープで一万光年まで進めると聞いても、それがどれだけ凄い事なのかを悟空は分かっていなかった。そして、ワープを繰り返す事に手間を感じ、状来の宇宙船の方が手軽で良いと思った。

「いいえ。従来の宇宙船を使用したら、一日で一万光年なんて到底たどり着けないわ。でも、この宇宙船を使うと、観測からワープまで含めて一分程度よ。比較にもならないわ」

一万光年は、光の速さで進んでも一万年掛かる距離である。その距離を移動するのに、改良に改良を重ねた地球の最新鋭の宇宙船ですら日数が掛かる。その距離を一瞬で移動出来るジニア人の宇宙船を使わない選択肢は、ありえなかった。

「地球の位置情報は既に記録させたから、何時でも地球に戻れるわ。そこで、私と五人の科学者の計六人が、ローテーションを組んで操縦しようと思うの。まず私達六人の内の二人が宇宙船を操作し、疲れたら地球に戻って別の二人と交替する。次の二人はファイルを見て、前の二人が最後に進んだ星までワープし、そこから移動を再開するの」

宇宙船に搭乗する二人は、一人が望遠鏡の操作を担当し、もう一人が宇宙船の操縦を担当する。望遠鏡の操作を担当する者は、次に移動する星の位置を把握し、それをもう一人に伝える。伝えられた方は、宇宙船に位置情報を入力してワープする。この作業を延々と繰り返し、疲れてきたら地球に戻って別の二人と交代する。そして、地球で休息を取りつつ次の出番に備える。これが現時点の進行計画だった。

「地球と3C324の間にある星を、順にワープして進んで行くって事は分かった。でも、そんなに都合よく星があるか?もし一万光年先まで星が全く無かったら、どうするんだ?」
「あら?孫君にしては珍しく鋭い所を突いてくるわね。確かに、そういう場面もあると思うわ。その時は迂回したり、来た道を引き返して別の進路を探すしかないわね。目指す方角を誤らなければ、どの進路を取っても、3C324に着けるはずよ」

星が等間隔に並んでいる訳ではない。星が密集している地点があれば、逆に星が全く無い地点だってある。 そんな事を、ブルマは百も承知だった。

「そっか。3C324まで着いたら、後は悟飯の気を探せば、いずれ惑星ジニアを見つけられるだろう。そこに着くまで、オラ達の出番は無さそうだけど、おめえ達だけに任せる訳にはいかねえな。宇宙には、どんな危険が潜んでるか分からねえからな。オラ達も宇宙船に乗るぞ。そんでもって、おめえ達の安全を守ってやる。修行もあるから全員で乗るわけにはいかねえが、毎回一人か二人位だったら良いだろう」

悟空達が惑星ジニアを目指すのは、悟飯を助けるためである。それなのにブルマはともかく、無関係な五人の科学者達に任せて自分達は何もしないのは、筋が通らない。彼等のボディーガードとして共に搭乗する事で、悟空達なりに尽力しようとしていた。

「それは助かるわ。あなた達も一緒なら、何が起こっても安心だものね」

悟空とブルマの二人だけで、どんどん話は決まっていった。周りにいた者達は、特に異存も無く、黙って頷いていた。しかし、唯一人ベジータだけは違っていた。ベジータは何故か苛立ち、ブルマに対して怒声を浴びせた。

「ちょっと待て!一回のワープで一万光年進めるとしても、百億光年進むまで、どれ位ワープすると思ってるんだ?単純に計算しても百万回だろうが!実際は、もっと多いだろう!わざわざワープを繰り返さなくても、距離から位置を推測し、一気に3C324まで行けば良いだろうが!いきなり惑星ジニアまで行くのは無理としても、そのすぐ近くまでは行けるはずだ!そうすれば惑星ジニアにも、すぐに着くはずだ!何故、こんな事が分からんのだ!」

ベジータは焦っていた。それは一刻も早く悟飯を助けたいのではなく、別の理由があった。

「何をそんなに怒ってるの?あのねえ、ベジータ。3C324内にある星まで一気にワープしても、その星が太陽だったら、私達が焼け死んでしまうのよ。その他にも、ブラックホールに吸い込まれている最中だったり、隕石が降り注いでる星に着くかもしれない。だから時間は掛かるけど、一回一回星の安全性を確認してから、ワープした方が無難なの」

ブルマに反論され、ベジータは思わず唸った。そして、3C324に到着するまで、どれ位の期間が掛かるか尋ねた。

「三年は掛かるんじゃないかしら。三年経たないと、悟飯君を救えないのは残念だけど、こればっかりは仕方ないわ。ジニア人が悟飯君を攫った理由は、悟飯君の体を通して、サイヤ人の力の秘密を調べるためらしいから、すぐに悟飯君に危害を加えるとは思えないわね。私達は、三年後の悟飯君の無事を信じて、一日でも早く目的地に着けるように努力するしかないわ。そもそも、ベジータ。帰りの宇宙船の時から気になっていたけど、何でそんなに焦ってるの?」

ブルマの一言に、ベジータの表情は一変した。ベジータは深い溜息を吐き、半ば諦めムードで話し始めた。

「サイヤ人は若い期間が長いとはいえ、それにも限度がある。俺の年齢を考慮すれば、俺が若いままでいられるのは、残りわずかだろう。だからこそ俺は、カカロットとの勝負を急いだ。出来れば、今すぐ勝負の続きをしたいが、カカロットは悟飯が気になって、俺との勝負に集中出来まい。悟飯を無事に助けたら、カカロットは俺との勝負に集中出来るだろうが、三年後には俺の老化は既に進行している。つまり俺は、もうカカロットとの決着を付けられない」

ベジータの話を聞き、ウーブが慌てて口を挟んだ。

「ちょ、ちょっと待って下さい。ベジータさんが老いてしまうと、悟空さんとベジータさんは、フュージョンが出来なくなるんじゃないですか?フュージョンって、実力が近い者同士でないと出来ないから・・・」
「当然そうなるだろう。俺は老いても特訓を続けるが、若いままのカカロットとの実力差が開いてしまうのは避けられまい。そうなると、この先はフュージョン抜きで戦う事になる」

この先、フュージョンに頼れなくなる。ウーブは大きなショックを受けた。

「そ、そんな・・・。悟飯さんやフュージョン抜きで、果たしてジニア人に勝てるでしょうか?こんな凄い宇宙船を造る連中です。奴等が創造する化物の中には、悟飯さんを圧倒したハートボーグ五十七号を上回るのも、きっと居るでしょう。五十七号だって、まだ健在です。下手をすると、俺達は悟飯さんを助けられないばかりか、全滅する可能性だってあります。遠い銀河で死んだら、ドラゴンボールで生き返れそうにないですし・・・」

主力を欠いた状態で、より強い敵と戦う。ウーブは何時になく弱気になった。

「物事を悪い方にばかり考えるな!悟飯が不在で、俺は戦いの役に立たなくなるかもしれないが、その代わりに、お前やトランクスといった、次世代の若い戦士が居るだろうが!惑星ジニアまで三年掛かるなら、その間に俺や悟飯を超えてみせろ!」

ウーブやトランクスは、自分達に圧し掛かった責任の重さを痛感していた。悟飯が不在で、フュージョンにも頼れないなら、自分達の力が、これまで以上に重要となってくるだろう。悟空一人に全てを任せる訳にはいかない。若い二人の戦士は、より強くなるために、これまで以上の厳しい修行を、己に課す覚悟を固めた。

話し合いが済んだ所で、いよいよ3C324に向けて出発した。宇宙船には、ブルマを筆頭とする操縦士二人と、悟空を筆頭とするボディーガードが一人か二人、常時乗る事になった。直径十五万光年しかない銀河系は初日で抜けたが、悟飯が居る惑星ジニアは遥か彼方だった。

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