悟飯を助け出すために3C324に向けて宇宙船を出発させてから一年の月日が流れた。この日はトランクスとパンが宇宙船に乗り、残りの戦士達は地球に残って合同で修行していた。その修行の最中、ピッコロがウーブに話し掛けた。
「俺達は、この一年で更に強くなったが、まだまだ不十分だ。今でも悟空達は、フュージョンを使えると思うが、それ抜きでは、ハートボーグ五十七号に全員で挑んでも勝てまい。いずれフュージョンが使えなくなる事を考慮すると、今の内に新たな技を習得しておく必要があると思う。そこで、お前には魔界王様から魔神技を教わってもらいたい」
魔神龍との戦いで魔神技を見たピッコロは、それを自分達の中の誰かが扱えれば、今後の戦いに有利になると考えていた。
「魔神技ですか・・・。あの技は、大魔王になる者に伝授されるのでは・・・」
「そうだ。だから、お前には、まず魔王になってもらう。長老達が立会いの下、現在の魔王であるリマと戦って勝てば、お前が新しい魔王になる」
ピッコロの言い分は分かるが、ウーブは乗り気ではなかった。魔王になる野望など、ウーブは微塵も持ち合わせていなかったからである。
「それでしたら悟空さんが大魔王になり、魔神技を覚えた方が良いんじゃないですか?」
「魔神技は魔族のための技だから、多少なりとも魔力が必要なはずだ。しかし、魔力を持たない悟空では、魔神技を使いこなせまい。だが、魔人は別だ。お前が魔人になれば、お前の体に魔力が宿る。だから、お前が適任なんだ。大魔王になると言っても、それは魔神技を会得するまでだ。魔神技を得た後は、その座を放棄すれば良い。今は魔神技を会得する事だけ考えろ」
ウーブは当惑した。魔界で暮らす魔族にとって大事な位である魔王を、正攻法とはいえ、こちらの都合で奪取して良いものか甚だ疑問だった。しかも魔神技を覚えた後は、その座を放棄すれば良いとは、無責任にも程がある。そんなウーブの心情を見越してか、ピッコロはウーブの心を擽る言葉を唱えた。
「お前が魔神技を使えるようになれば、お前は間違いなく俺達の主力となる。皆、お前を頼りとするだろう。それに今のお前なら、リマに簡単に勝てる。付き添いとして、俺も魔界に行ってやる」
「そこまで言うのでしたら・・・分かりました。俺、魔王になります。ただし、魔王としての職務は最後まで遂行します」
ピッコロに言い包められ、ウーブは応じてしまった。職務を途中で放棄するのではなく、最後まで遂行するというのは、せめてもの抵抗だった。もう後には引けなくなったウーブは、側でベジータを相手に組み手をしていた、悟空に話し掛けた。
「悟空さん。俺、今から魔神技を習うために、魔界に行って来ます」
「そっか。どうせなら天津飯も連れて行ってやってくんねえか。あいつは自分が魔界出身である事を知らねえから、連れて行ってやったら喜ぶぞ」
「天津飯さんですか?連れて行くのは別に構いませんが、あの方は何処に居るんですか?」
「何処にって・・・えっと・・・それは・・・」
悟空が返答に窮していると、ピッコロが助け舟を出した。
「心配ない。奴の居場所だったら俺が分かる。天界から下界の様子を一望出来るからな。それでは行こうか」
ピッコロとウーブは飛び立った。そして、彼等は天津飯に会って事情を説明し、共に来るか尋ねた。自分が魔界出身である事を初めて知った天津飯は、魔界に大いに興味を持ち、「是非連れて行ってくれ」と頼んだ。また、天津飯と一緒に居た餃子も、「僕も一緒に行く」と言い出し、餃子を含めた計四人は、魔界の門を潜って魔界へと旅立った。
魔界に着いたピッコロ達は、まず魔界の長老達に会いに行った。長老達はナツメグ人であり、ナメック人とは遠い親戚に当たる。ピッコロは彼等に会って内心では感激しながらも、努めて平静を装い、「ウーブが魔王となるために、リマに挑戦させたい」と伝えた。ピッコロの申し出に、長老達は仰天した。
「魔界の住人ですらない者が、魔王になるつもりだと!?うーむ。確かに魔王となる者は、魔界の住人でなければならないという決まりはないが・・・。しかし、こんな事は前代未聞だ」
「お願いします!俺、どうしても魔王にならないといけないんです!」
「・・・まあ、ナツメグ人でなければ、誰でも魔王になれる資格はあると公言してるからな。良いだろう。とりあえず使いの者を遣り、リマを呼び出そう」
長老はリマを呼び寄せるため、若いナツメグ人の若者を使いに出した。そして、リマが来るまで待っている間、別の長老が話し掛けてきた。
「先程から気になっていたが、あなたの後ろに立っている男は、もしかして三つ目人じゃないのか?それに、小人族も居るようだが・・・」
その長老は、ピッコロの後ろで控えていた天津飯と餃子に興味を抱いていた。そして、その一言を皮切りに、周りの長老達が興味津々で二人の間に続々と集まってきた。人に群がられる事に慣れていない天津飯は、多少戸惑いながらも、嫌な顔せずに応答した。
「そのようだな。ただし、俺は魔界に住んでいた頃の記憶が無い。それに小人族とは?」
「小人族は魔族の一種で、肌が白く、背が低いが、様々な術を使え、三つ目人とは昔から仲が良かった。この二つの種族は、お互い助け合い、共に暮らしていた。しかし、五十年程前、三つ目人の力を恐れた当時の魔王ダーブラが、三つ目人を滅ぼそうと軍を差し向けた。小人族は三つ目人と共に戦い、共に滅ぼされた。まさか小人族の生き残りが居たとは、夢にも思わなかった」
餃子は大人にしては背が低く、肌の色が真っ白である。それに、何故か超能力が使える。自分と同様、餃子も普通の人間とは違うと天津飯は以前から思っていたが、まさか二人揃って魔族であるとは、想像すらしていなかった。
「僕も魔族だったんだ・・・。それじゃあ天さんと同じだね」
餃子は、自分が地球人でない事にショックを受けるよりも、天津飯と同じ魔族であった事に喜んでいた。
「まさか俺達が魔族だったとは・・・。ならば、どうして魔界ではなく、地球に居たんだ?」
「魔界では、何処に居ても危険だったからだろう。三つ目人を疎ましく思っていたダーブラが、もしあなたの存在を知れば、間違いなく殺していた。そのために周りに居た大人が、まだ幼少時のあなた方を向こうの世界に連れて行ったのだろう」
魔界のルールさえ破らなければ、魔王は基本的に何をしても許される。魔王が気に入らないという理由だけで一種族を滅ぼしても、その件を長老達は咎めたりしない。
「なるほどな。俺には鶴仙人の元で修行する以前の記憶が無い。俺達を地球に連れてきたのは、もしかすると親だったのかもしれない」
天津飯が感慨に耽っていると、遠くから大きな気が近付いて来た。先程、使いに出したナツメグ人の若者が、リマを連れて戻って来たのである。一年以上も魔王の任を果たしてきたリマは、以前と違って貫禄が出てきた。しかし、悟空嫌いは相変わらずで、憮然とした表情で地面に降り立つと、悟空の仲間であるピッコロ達に、不快感を露に話し掛けてきた。
「魔界の住人ですらない者が魔王になろうとは、何て図々しい奴だ。その思い上がった性根に、引導を渡してくれるわ!それで、どいつが俺に挑戦するんだ?」
「俺だ。俺が魔王の座を賭けて、お前と戦う」
「ふん。出来れば孫悟空と戦いたかったが・・・むっ!お前は!?」
天津飯の存在に気付いたリマは、ウーブを押し退けて、天津飯の眼前に立った。
「お前は何者だ?見た所、俺と同じ三つ目人のようだが・・・」
「俺は地球育ちの三つ目人、天津飯だ。魔王がどんな恐ろしい姿をしているのか、あれこれ想像していたが、まさか俺と同じ三つ目人とは思わなかった」
リマは内心、かなり動揺していた。自分と同じ三つ目人の生き残りが居たからではない。多少老けているが、亡き兄と瓜二つの顔立ちだったからである。リマは天津飯の顔を見たまま、しばらく呆然としていた。
「おい!一体どうしたんだ?さっきから天津飯さんの顔ばかり見つめて。早く俺と戦え!」
ウーブの声で我に返ったリマは、ある事を思いついて笑みを浮かべた。
「戦っても良いが、一つ条件がある。俺が勝ったら、この男を俺に寄越せ。俺の部下にする」
「な、何だと!?そんなの駄目に決まっているだろう!」
「何故だ?お前が俺と戦って敗れても、お前には何も失う物が無い。それに引き換え、俺が負けたら、俺は魔王の座を追われるんだ。これは、どう考えても不公平だ。そうは思わないか?」
「そ、その通りだが・・・しかし・・・」
リマの予想外の提案に、ウーブは言葉に詰まって返答に窮していると、天津飯が代わりに応えた。
「良いだろう。ウーブが負けたら、お前の部下になってやる」
「て、天津飯さん!何を・・・」
「良いんだ。お前は俺に気兼ねせず、いつも通り戦え。結果がどうなろうと、お前を恨みはしない」
天津飯は、ウーブが勝つ確信がある訳ではなかった。自分がリマの部下になっても、悪事には一切加担せず、命令不服従で殺されるだけだと考えていた。しかし、リマは天津飯の返答に、満面の笑みを浮かべた。
「これで決まりだな。それでは戦おうか」
「くっ。天津飯さんを、こんな奴の部下にさせる訳にはいかない!この戦い、絶対に負けられない!」
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