悟空達はロボットを使って自分達を襲わせた犯人を探すため、同じくロボットに子供達を殺されたレードと一時的に協力する事となった。そして、悟空達が犯人に関して何か重要な手がかりを掴めば、すぐにレードにそれを伝え、レードもまた何か分かれば、それを悟空達に知らせる事で合意した。話し合いの後、悟空達は地球に戻った。彼等が惑星レードを去った後、アイスがレードの元に来た。
「パパ、兄弟達の埋葬が終わったわ。ところで、皆を殺したロボットの出所は分かった?」
「いや、まだだ。それよりアイス、お前が現場に一人残った際、怪しい奴を見なかったか?」
「怪しい奴?一応、辺りを調べてみたけど、何処にも怪しい人は居なかったわ」
「やはりそうか。一体あのロボット達は、どうやって惑星レードに来た?宇宙船を使うにしろ、自ら飛んで来たにしろ、惑星レードの上空に浮かぶ人工衛星で、事前に分かるはずだ」
惑星レードに接近してくる宇宙船は、惑星レードの上空に浮かぶ無数の人工衛星によって監視され、惑星レード側に知れ渡る。しかし、ロボット達は、全ての人工衛星の監視の網を潜り抜け、誰にも気付かれずに惑星レードに侵入していた。こんな事は前代未聞であり、レードの苛立ちを更に募らせていた。
「これほどのロボットを造れる知識を持つ奴は、宇宙中を探しても、そうは居ないはずだ。だから、宇宙中の科学者達が加盟している宇宙科学連盟の本部に行けば、ロボットを造った奴を割り出せるかもしれない。これから本部がある星に向かう」
「へー、そんなのがあるんだ。私も行く。私だって兄弟達を殺した犯人の正体を知りたいから」
「好きにしろ」
レードはロボットの中身を撮影した写真を封筒の中に入れ、その封筒を携えて、アイスと共に宇宙船に乗り込んだ。そして、宇宙科学連盟の本部がある惑星サイエンスへと向かった。目的の星に到着した彼等の目に飛び込んできた光景は、惑星レードを上回る科学の発展を遂げた、異様な世界だった。
「な、何あれ!?建物が動いてる!」
まずアイスの目を引いたのは、複数の巨大建造物が宙に浮かんで移動するシーンだった。しかも建物同士が衝突しないよう、お互い小回りを効かせていた。
「一体どういう仕組みなの!?地震からの被害を防ぐために建物自体が宙に浮く、反重力装置は知ってるけど、建物があんな風に動く装置なんて知らないわ」
「あれは建物に自動操縦機能が備わっていて、目的地を指定すると、障害物を避けながら、指定した場所まで最短距離で移動する事が出来る仕組みになっている。まだ惑星レードの建物には、取り付けられていない機能だ」
アイスが驚いたのは建物だけではなかった。辺りを見回しても、外を歩いている人は一人もおらず、その代わり、移動する建物の遥か上空で、人がエアカーに乗って移動していた。しかも、どのエアカーも驚異的なスピードで動いていた。
「あんなに速く移動して危なくないのかしら?ぶつかったら大事故は免れない」
「その心配はいらん。あれにも障害物を事前に検知して、避ける機能が備わっている」
「・・・惑星サイエンス。侮れないわね」
惑星レードこそが宇宙最先端の星だと信じて疑わなかったアイスは、軽いカルチャーショックを受けた。
「ここは宇宙中の科学者達の総本山とも言うべき星だ。惑星レードより進んでいて当たり前だ。そして、連盟を敵に回せば、宇宙中の科学者達を敵に回す事になる。だから我が軍とて、そう易々と手を出せない。これから連盟のお偉方と会う」
「でも、もし連盟そのものが、ロボットを送りつけていたら、どうするの?」
「その場合は、連盟でも容赦しない。全員殺すまでだ」
レード親子は、惑星サイエンスの中でも一際大きな、円形の建物の目の前まで飛行した。そして、その建物の中に、彼等は正面から入った。入り口では接待用の小型ロボットが彼等を出迎え、奥へと誘った。建物の中は科学の粋を尽くした作りとなっており、アイスには見る物全てが新鮮だった。彼等は最上階の一室に案内され、その部屋には十人の高齢な科学者達がおり、その中の一人である小太りの男が、親しげに話し掛けてきた。
「やあ、レードはん。お久しぶりですなあ。レードはん自ら来るという連絡を受けた時は、流石に驚きましたわい」
小太りの男は、レードと握手しようと手を差し出したが、レードは握手の代わりに、手に持っていた封筒を渡した。
「得体の知れないロボットが惑星レードを襲撃し、ここにいるアイスを除く俺の子供が全員殺された。今、ロボットを送りつけた犯人を探している。この封筒の中には、そのロボットの中身を撮影した写真が入っている。それを見て、何か知っていたら教えろ。隠し立ては許さん」
「ほう。それは難儀でしたなあ。どれどれ・・・」
小太りの男は封筒から写真を取り出し、それを他の科学者達と手分けして凝視した。その間、レードは腕を組んで大人しく待っていたが、背後にいたアイスが小声で話し掛けてきた。
「この人達、宇宙の帝王と恐れられるパパに対して随分馴れ馴れしいけど、どういう関係なの?」
「ビジネスパートナーだ。こいつ等は戦闘力こそ低いが、プライドが高く、俺には絶対に服従しない。そこで俺は従属ではなく、提携という形で関係を結んでいる。しかし、何を考えているのか、よく分からない連中だ。表面上は友好的でも、裏では俺を滅ぼそうと密かに企んでいるかもしれない。くれぐれも油断するなよ」
やがて科学者達の表情が険しくなってきた。そして、先ほどの小太りの男が口を開いた。
「こんな精巧なロボットは、今まで見た事がない。連盟に加入している科学者に、これほどのロボットを造れる者は居ないでしょうなあ。うち等こそが宇宙一の頭脳の持ち主だと自負してましたが、いやはや世間は広い。このロボットを造った人には、是非とも連盟に加入してもらいたいですなあ」
「冗談ではない!見つけ次第始末しないと、腹の虫が収まらん!このロボットを造った奴が連盟に加入していない者とすると、一体どこのどいつの仕業だ!?何か思い当たる節はないか?」
レードに詰め寄られ、小太りの男は言葉に詰まった。代わりに後ろの方に居た痩せた男が発言した。
「レードはんの力は、宇宙中に広く知れ渡っています。未開の星に住む者ならともかく、文明の発達した星に住む者が、レードはんを敵に回す事はないと思います。また、魔界とかいう世界に住む野蛮な人種の仕業でもないでしょう。彼等がロボットを造れるとは思えませんからな。そうなると考えられるのは、銀河の外。宇宙には、うち等が住む銀河系の他にも、たくさんの銀河の存在が確認されています。おそらく別の銀河から来た者が、ロボットを送りつけたのではないでしょうか?」
宇宙科学連盟は、銀河系に住む科学者達で構成された組織。そこに所属する科学者以外で、彼等より優れたロボットを造れる知識を持った者は、銀河系の外から来た可能性があると瘦せた男は考えた。
「別の銀河だと!?馬鹿な!別の銀河が、どれだけ離れていると思っているんだ!余りにも遠過ぎるから、野心家だった父でさえ、別の銀河には一切手を出さなかった。支配どころか、そこまで移動するだけで、一生を終えてしまうからな」
銀河系から一番近いアンドロメダ銀河でさえ、地球から約二百五十万光年も離れている。そこに着くまでには、当時のフリーザ軍が持つ最速の宇宙船でさえ、相当な時間を要した。野心家のフリーザが別の銀河の支配を断念するには充分過ぎる理由だった。
「あの頃とは時代が違います。宇宙船の技術が以前に比べて格段に進歩しているのは、既にご存知でっしゃろ?これほどのロボットを造る人です。うち等のより遥かに高性能な宇宙船を持ってるのと違いますか?」
科学は日々進化する。以前は不可能だった事も、現在では可能になった事も少なくない。レードは己が常識に捉われていた事を恥じた。
「・・・なるほどな。もう一つ訊く。もしこのロボットを送りつけてきたのが、本当に別の銀河に住む者だとし、そいつに俺が孫悟空達と手を組んで戦ったら、俺達は勝てると思うか?お前達は以前に開催された武道会を観戦し、俺や孫悟空達の実力を、ある程度は分かっているはずだ」
宇宙一武道会は、レードが自身の強さを広く知らしめるため、出場選手とは別に多くの観戦者を招待した。その中には宇宙科学連盟の科学者も居た。
「うーん、どうでっしゃろ。飽く迄空想の域を出ないのですが、レードはん達の勝ち目は無いと思います。おそらく先方は、うち等の想像を遥かに越えた頭脳の持ち主。このロボット以上の手駒も、居てはるでしょうなあ。いざ犯人を見つけたとしても、充分に用心して挑む事を勧めます」
レードは背中に冷たいものを感じた。そして、無言のまま立ち去った。アイスは、その後を追い駆けていき、帰りの宇宙船の中でレードに話し掛けた。
「どうだった?少しは犯人の目星が付いた?やっぱり他の銀河から来た者の仕業かしら?」
「それは分からない。あの科学者ども、最後の最後まで心の内を読ませなかった。全く忌々しい連中だ。あいつ等の内の誰かが犯人かもしれないし、あいつ等の言う通り、他の銀河から来た者の仕業かもしれない。いずれにせよ手強い敵である事は間違いなさそうだ」
当初は犯人を見つけて八つ裂きにしてやると息巻いていたレードだが、冷静になって改めて考えると、悟空達と組んだぐらいで、その犯人に本当に勝てるのかどうか不安になってきた。
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