其の二十 魔人対魔王

ウーブとリマの戦いに先立ち、周囲に居る者達は、対決の邪魔にならないよう、その場から離れた。そして、いよいよ二人きりになると、魔王の座と天津飯の身柄を賭けた勝負が始まった。両者同時に飛び掛かり、いきなり激しい攻防戦を繰り広げた。ところが、ウーブは魔人化せず、リマも技を使用しなかった。お互い自分の得意な戦法を取らず、相手の出方を注意深く伺っていた。この戦いを観戦しているピッコロにとって、この展開は意外だった。

「むう。リマの奴、以前は初っ端から技を惜しみなく使い、すぐに息が切れていたが、今は力をセーブして慎重に戦っている。どうやら奴は、以前の失敗から学んだようだ。しかし、よもやウーブが負ける事は、あるまい」

ピッコロは、リマが魔神龍戦の時と全く同じ戦法で戦い、ウーブは序盤の猛攻さえ凌げば、後は余裕で勝つだろうと予想していた。その予想は外れたが、それでもピッコロは、ウーブの勝利を信じて疑わなかった。そして、ピッコロの側では、天津飯と餃子も同じく観戦していたが、天津飯の考えている事は、ピッコロとは違っていた。

「ウーブは、あの魔人ブウの生まれ変わりだけあって、若いのに信じられない強さだ。対するリマとかいう奴も、あの若さで魔王になるだけあって相当の実力の持ち主だ。あんなに強いリマが、どうして俺を部下に望んだんだ?同族だからか?まあいい。俺がどうなろうと大した事ではない。それよりも、あの二人が余りにも凄すぎて、力の底が見えない。一体どんな修行をすれば、あの若さで、あそこまで強くなれるんだ?俺が今までしてきた修行と何が違うんだ?」

既に人生の折り返し点を過ぎた天津飯は、ウーブとリマの強さと若さを妬んでいた。これまで天津飯は、彼なりに一所懸命に修行し、いつか悟空と戦って完全勝利する日を夢見ていた。しかし、悟空に追いつくどころか、その差は開く一方であり、後から出て来た者達にも次々と抜かれていった。人一倍プライドが高い彼は、若者が自分を追い抜いていくのを見るのが耐えられなくなり、自然と仲間達と距離を置くようになった。

天津飯が目の前の若い戦士達に嫉妬している間に、戦いの情勢は少しずつ変化してきた。ウーブとリマは、共にペースを上げていった。それでもしばらくは互角の展開だったが、地力で勝るウーブが、徐々に主導権を握るようになっていた。リマはウーブのスピードに付いていけなくなり、ウーブからの攻撃を受ける頻度が増えていった。

ウーブは優勢でも気を緩めず、打撃を次々と当てていた。リマは動きを読まれ、思うように回避出来なかった。ウーブはスピードを更に上げ、リマに付け入る隙を与えなかった。そして、リマが体勢を崩した所で、ウーブは腹部に連打を叩き込んで跪かせた。ウーブは攻撃の手を止めて、傷付いた対戦相手に助言した。

「そろそろ技を使ったらどうだ?このままでは、折角手に入れた魔王の座を失ってしまうぞ。何もしないで敗れたのでは、一生悔いが残るだろう。そうならないよう、持てる力を全て出して戦え」
「ふん。生意気を言いおって。そんなに俺の技が望みなら、今すぐ見せてやるわ!」

リマの体が金色に光った。三つ目人の技の変色拳である。変色拳を初めて見た天津飯と餃子は仰天し、リマが超サイヤ人になったと勘違いした。

「超サイヤ人だと!?リマはサイヤ人の血を引いていたのか・・・。どうりで強いわけだ」
「あれは超サイヤ人ではない。三つ目人の技だ。変色拳といって、肌の色に応じて強さのパラメーターを変えられる。ちなみに今の金色が最高に強くなるらしい」
「俺は、あんな技を使えない。俺が落ちこぼれなのか?それとも、リマが天才なのか?」
「リマは魔界で一番強い魔王だぞ。リマが特別に決まっているだろう」

天津飯の修行は自己流で、四妖拳や四身の拳といった三つ目人の技は、修行中に偶然出来るようになった。一方、リマは亡き親や兄から指導を受けていたので、偶然ではなく必然的に技を習得していた。

その天津飯は一先ず置いといて、既に変色拳を見た事があるウーブは、特に驚かなかった。

「使う技は、それだけか?他にも腕を生やしたり、人数が増える技もあったはずだ。何故それだけを・・・。そうか!一度に多くの技を使えば、それだけエネルギーの消耗が激しい。俺との戦いが長期戦になると見越し、なるべくエネルギーを使わないようにするためだな。良く考えてるじゃないか。一年前とは一味違うな」
「ごちゃごちゃと五月蠅い奴だ。すぐに黙らせてやる」

今度はリマの方から攻めて来た。流石に先程までのリマとは雲泥の差で、ウーブは早くも劣勢に追い込まれた。しかし、リマが有利な立場に立てたのは、ほんの一瞬だった。ウーブは、リマの渾身の一撃を避けると、その間隙を縫って魔人となった。天津飯と餃子が再度驚いたのは、言うまでもなかった。

「な、何だ!?ウーブの雰囲気が変わったぞ!あ、あれは一体・・・」
「魔人化だ。前世の力を利用してな。ウーブが魔人になると、大幅に戦闘力が上昇する」
「あいつ等、あれだけ強いのに、更に強くなれるのか!?あの二人に比べると、俺は何て非力なんだ。これまでの俺の人生とは、一体何だったんだ?」

天津飯が悲観している間に、戦いの方は再びウーブが優勢となった。ウーブは次々と攻撃を当て、側頭部への蹴りを決めると、リマは耐え切れずに倒れた。ウーブは倒れている相手に追撃せず、再度話し掛けた。

「最早、技を出し惜しみしている場合ではあるまい。そろそろ他の技も使ったらどうだ?」
「くっ、止むを得まい。これならどうだ!」

リマは四身の拳で四人になり、更に各リマは背中から四本の腕を生やした。そして、四人のリマは一斉に飛び掛かったが、ウーブに一蹴された。ここまでしても敵わないと悟ったリマは、早々に全ての技を解除した。ウーブとリマとの間に、ここまで実力差があるとは、ピッコロですら思っていなかったので、正に嬉しい誤算だった。

「ここまで強くなっているとは・・・。以前の貴様とは、まるで別人だ」
「俺が強くなったのは分かるが、逆にお前の強さは以前と余り変わっていないな。魔王になると、修行も満足に出来ないぐらい忙しくなるのか?」

ウーブは、魔王に就任しても、多忙により自分の時間を削られ、何時まで経っても魔神技を習えないばかりか、普段の修行さえ出来なくなる事を危惧した。

「魔王の職務は多忙だが、修行の時間が全く取れない訳ではない。ただし俺は、力ではなく魔力を磨いてきた。その理由が分かるか?それは大魔王になるためだ。大魔王になるためには、魔界王様達に実力を認められなければならない。それには力だけでは足りない。魔力も必要だ。だから俺は、魔力の修練に時間を費やしてきた。まだ大魔王に相応しい魔力があるとは思えないが、俺の魔力は飛躍的に上昇した。それでは魔力の素晴らしさを見せてやろう」

リマは悠々と立ち上がると、体が一瞬だけ光った。すると、リマの体の外傷が消えていった。

「魔力があると、見ての通り傷も治せる。魔力が尽きない限り、俺に敗北はない」
「・・・という事は、俺が攻撃のし過ぎで体力が尽きるのが先か、お前が回復のし過ぎで魔力が尽きるのが先かの、我慢勝負になりそうだな」
「ふっ。そんな退屈な勝負、俺は望まん。俺が魔力を使って本当にしたかった事は別にある。真の魔王の強さを、身をもって知るがいい!」

リマは気を溜め始めた。そして、「メタモルフォーゼ!」と叫んだ。すると、リマの体が変形し始めた。体の大きさが倍以上に膨れ上がり、頭部には二本の角が生えた。皮膚の色も肌色から紫に変わり、三つの目が黄色に光った。そして、先程までとは比較にならないほど大きな気が、リマの体から発せられた。今度ばかりは天津飯達ばかりでなく、ウーブやピッコロも驚愕した。

「メタモルフォーゼと言えば、ジュオウ親衛隊のサキョーが使ったもの。何故お前まで・・・」
「馬鹿め!メタモルフォーゼは、並外れた魔力と、強靭な肉体を持てば、どんな魔族でも出来るようになる。そこに行き着くまでが大変だがな。俺がメタモルフォーゼを使うと、形態変化により三つ目人の技は一切使えなくなるが、今の俺には必要ない」
「魔神技を教わるためとはいえ、こんな化物になるなら、魔王になるのも考え物だな」

ウーブは、リマが変貌を遂げる前に決着を付けておくべきだったと後悔した。先程まで余裕の表情で観戦していたピッコロは、まさかこんな展開になるとは夢にも思っておらず、軽率にウーブとリマを戦わせた事を悔やんだ。天津飯もリマの気に脅威を抱いたが、同時に別の事も考えていた。

「あんな化物になりたくないが、同じ三つ目人でも鍛え方次第で、あそこまで強くなれるのか・・・。もし俺が魔界で育っていたら、悟空とは一生出会えなかったかもしれない。しかし、会って戦っていたら、俺は勝てたかもしれない。リマよ。お前が心の底から羨ましい」

天津飯は、リマに興味を抱き始めていた。

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