其の二十一 惜敗

ウーブとリマは、共に最も力を発揮出来る姿となって戦闘を再開した。まずウーブが上空高く飛び上がり、地上のリマに向けて膨大な数の気光弾を放った。対するリマは気功弾の雨を物ともせず、飛び上がってウーブに迫ると、右の拳で殴ってきた。ウーブは拳を避けつつ、胸に蹴りを見舞った。しかし、リマは蹴りを喰らっても怯まず、再び殴ってきた。またも回避したウーブは、鳩尾に体当たりした。ところが、リマの護謨の様な腹のせいで、ウーブは弾き飛ばされてしまった。

腹部への攻撃は効果ないと悟ったウーブは、次に頭部への攻撃に切り替えた。ウーブは、リマの角を掴んで自分の方に引き寄せると、鼻に膝蹴りした。続けてリマの背後に回りこみ、後頭部を殴った。リマが一連の攻撃を喰らい、ようやく怯んだ隙に、今度は頭頂部を肘打ちした。

先程までの落ち着いた戦い方から一転し、今のウーブの攻撃は苛烈だった。ウーブは完全に本気で、勝つ事に専念していた。表現を変えれば、戦い方に拘る程の余裕は失せていた。

リマはメタモルフォーゼにより急激にパワーアップしたが、それを会得したのは最近で、まだ十分に慣れていなかった。それに加えて、ウーブの方が体が小さいせいもあって、スピードはウーブの方が勝っていた。しかしながら、気の大きさはリマの方が上だった。以上を踏まえたウーブは、リマが体に馴染む前に、短期決戦で一気に勝負を決めようと考えていた。

ウーブの手荒い攻撃にも、リマは余りダメージを受けておらず、すぐに反撃を開始した。ところが、肉弾戦では不利と見たリマは、何と魔法を使ってきた。何やら呪文を唱えながら両腕を高く掲げると、突然周囲に竜巻が発生し、ウーブは竜巻に巻き込まれてしまった。ウーブは竜巻から脱出したものの、体中に傷を負ってしまった。

魔法には魔法でお返しとばかりに、ウーブはお菓子光線を放った。光線はリマの体に命中したが、リマの体は変化しなかった。それを見て愕然とするウーブに対し、リマは余裕の笑みを浮かべた。

「お前も少しは魔法を嗜むようだが、お前の魔力と俺の魔力とでは大きな開きがある。魔力を俺の域にまで高めない限り、お前の魔法は俺に通じない。残念だったな」

ようやく優勢になったリマは、新たな魔法を使ってきた。右手に直径一メートル以上ある大きな銀色の球を作ると、その球をウーブに投げつけてきた。ウーブは拳で球を粉々に打ち砕いたが、球は小さな破片となって、尚もウーブに迫って来た。ウーブは気功波を放ち、ほとんどの破片を消し去ったが、わずかに残った破片がウーブに襲い掛かってきた。破片の一つ一つが凶器となってウーブの体に減り込み、ウーブは痛さの余り地上に墜落した。

地上に激突したウーブは、全身傷だらけだったが、すぐに立ち上がった。受けたダメージは大きかったが、これ位で参るウーブではなかった。ウーブは気を取り直して、すぐに飛び上がったが、リマは大きく息を吸い込むと、迫り来るウーブに向けて冷気を吐いた。全く予想だにしない攻撃だったため、まともに冷気を浴びてしまったウーブは、重度の凍傷を負ってしまった。ウーブは体を自由に動かせず、ただ空中に浮いてるだけの状態となった。

「勝負ありだな。その体では、もう戦えまい」
「お、俺は、まだ戦える。そのための方法を、お前が教えてくれたんだ」

ウーブの体が光ると、みるみる傷が回復した。先程のリマ同様、ウーブも魔法で自分の体の傷を治した。

「生意気な奴め。しかし、この後どうするつもりだ?魔力が続く限り、傷を治し続けるのか?言っておくが、同じ事は俺にも出来る。そして、魔力に差があるから、お前の方が先に魔力が尽きるのは自明の理だ。つまり持久戦では、お前に勝ち目は無い」

気を良くしたリマは、直接攻撃を仕掛けてきた。少しずつ自分の体に慣れてきたようで、リマの動きが段々と良くなってきた。一方、どうすればリマに勝てるのか思い悩むウーブは、避け方が散漫になり、リマに動きを読まれて、遂に攻撃を喰らってしまった。続けて二度三度と攻撃を喰らったウーブは、リマの猛攻から逃れようと、必死に距離を置いた。リマの力は余りにも強く、ウーブは少し攻撃を受けただけで、多大なダメージを負ってしまった。

「くっ。傷の回復をしているだけじゃ奴には勝てない。それに、俺の魔法では体力まで回復しない。この戦いに勝つためには、残った力を全て使って、一気に倒すしかない」

ウーブは再び傷を治すと、かめはめ波の体勢になった。しかし、手の平には気だけでなく、魔力も集めていた。そして、ウーブは気の大半と全魔力を結集した、前代未聞のかめはめ波を放った。

「喰らえ!降魔かめはめ波!」

ウーブの手の平から黒いかめはめ波が発射された。降魔かめはめ波は、猛烈なスピードでリマに迫った。そして、大爆発を起こし、周囲一帯は煙に包まれた。ウーブの攻撃が、リマに当たったのかどうかを、ピッコロ達は確認出来なかったが、彼等は何よりもウーブの安否を気遣った。

煙は徐々に晴れ、やがてウーブの姿が肉眼で確認出来るようになった。ウーブは全魔力を使い果たし、元の人間の姿に戻っていた。ウーブは気もほとんど使っていたので、飛んでいるのも億劫になり、地上に降り立っていた。

「ハアハア・・・。手応えはあった。これで倒せなければ、もう俺に打つ手は無い」

ウーブは空中を見つめ、煙が更に晴れるのを待った。やがて煙が完全に晴れると、そこには右腕が無いリマが居た。最後の手段でもリマを倒せなかったので、ウーブは意気消沈してしまった。

「まともに喰らっていれば、間違いなくお陀仏だった。やはり孫悟空の仲間は侮れない。しかし、奴に戦う力は、もう残っていないはずだ」

ウーブの降魔かめはめ波が高速で迫ってきた時、リマは必死に身を反らし、体への直撃を避けていた。その結果、リマは右腕を消失してしまったが、すぐに魔力で右腕を再生した。一安心したリマは、ウーブが居る地上に降り立った。

「今のは、お前の最後の抵抗だったはず。しかし、俺は生きている。どうする?まだ続ける気か?」
「・・・降魔かめはめ波を躱された以上、もう俺に勝ち目は無い。この勝負は、お前の勝ちだ」
「ふははは・・・!真の魔王の力を思い知ったか!これに懲りたら、二度と魔王になろうなどと大それた野望を抱かぬ事だな」

ウーブには、もう魔人になる力も残っていなかった。勝機が残されていない以上、無理して戦い、無駄に死ぬ訳にはいかなかった。ウーブは苦渋の決断で降参し、遂に戦闘に終止符が打たれた。この瞬間、リマの魔王の座の防衛と、天津飯が部下として、リマに仕える事が決まった。

戦いに敗れたウーブは、謝罪のために天津飯の元に向かった。

「済みません。全力で戦ったんですが、俺が未熟なせいで勝てませんでした」
「お前は良く戦った。気に病む事はない」

一方、ピッコロはリマの側まで来ていた。リマはメタモルフォーゼを解いて、元の人間の姿に戻っていた。

「お前、天津飯を一体どうするつもりだ?言っておくが、奴は悪事に加担する男ではないぞ」
「悪事とは何の事だ?俺は魔王だ。俺が魔界で何をしようが、全て正当化される。すなわち、俺の行動は悪事にはならない。部下となる以上、俺の命令は絶対だ。天津飯に俺の命令を拒む権利はない」

リマは上機嫌で、天津飯の元に歩み寄った。

「行くぞ、天津飯。お前は、もう俺の部下だ」
「それは分かっている。俺は逃げも隠れもしない。お前が来いと言うなら、俺は黙って従うだけだ」

天津飯は、部下の身分になっても不遜な態度は相変わらずだった。リマを敬う素振りは、天津飯に微塵も無かった。しかし、その事をリマは咎めようとはせず、天津飯を伴って飛び立とうとしたが、餃子が彼等を呼び止めた。

「待って!僕も行く。天さんが部下になるなら、僕も部下になる」
「馬鹿な事を言うな、餃子!お前は地球に帰れ!」
「天さんを置いて、僕だけ地球に帰れないよ。僕達は、いつも一緒だよ」

リマは餃子を気にも留めていなかったが、この時になって初めて、彼が小人族である事に気づいた。

「小人族か・・・。既に滅んだと思っていたが、まだ生き残りが居たとはな・・・。良かろう。三つ目族と小人族は、昔から仲が良いんだ。お前も来い」

リマは餃子の同伴を許し、三人はナツメグ星から飛び去った。ウーブは飛び去る彼等を、口惜しそうに眺めていた。

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